EDRGの日本への導入の可能性は? 医療費に占める割合の高いDPCが対象候補



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 15日のGHC創立10周年感謝祭で、米国メイヨークリニックの病院改革を主導したロバート・K・スモルト・名誉最高経営管理責任者が「EDRG(拡大版DRG)の日本への導入の可能性」を議論したことは17日、お伝えした通りです(関連記事『「EDRGを日本にも」米メイヨー・スモルト氏が提言―GHCの10周年感謝祭で来日講演』)。

 EDRGは、これまでの包括支払方式と異なり、「一つの疾患の“一連の治療”に対して包括報酬を支払う」というものです。したがって、一連の治療が一つの医療機関で完了せず、複数医療機関にまたがった場合であっても、「一つのバンドル(束)」として保険者から支払いが行われます(bundled payment)。複数医療機関で一連の医療が提供された場合、各医療機関の“配分”をどうするかは、各施設が協議して決めることになります。

 例えば人工膝置換術への診療報酬では、術前の検査や画像の費用、手術料、リハビリテーションの標準的な実施費用、入院料だけでなく、退院後の外来診療、転院先の診療所での治療費なども含めてすべて“一連の治療”として包括し、一括して支払われます。

 良質で低コストの医療を提供すれば医療機関の収益は増加しますが、過剰な検査を行うなど高コスト体質であればその分、収益は減殺されてしまいます。

 また、合併症の発生率が高いなど医療の質に問題がある医療機関では、保険者からの医療費支払いが一定割合減額されます。この減額は「quality withhold」と呼ばれ、メイヨーでは合併症発症割合が平均より高い病院に対して、平均を下回る病院への支払いの5% quality withholdを設定することを推奨しています。

 スウェーデンの人工膝・股関節置換術のEDRG導入3年後の成果を見ると、3.2% quality withholdを設けた結果、合併症発症率が20%、コストが17%低下するという成果が得られました。スウェーデンの場合、人工膝・股関節置換術の治療開始から2年以内に再手術が必要になった場合、5年以内に術後感染症を発症した場合には、追加の医療費は支払われません。質の高い医療を促進する仕組みが内在されていると言えます。スウェーデンでは3.2%のquality withholdが10%に引き上げられ、2015年には8つの疾患にEDRGが導入予定です。

 スモルト氏は、「EDRGによって、質の良い医療を効率的に提供しようという強力なインセンティブが働く」ことを強調しています。

 このように、EDRGでは、clinical integrationがベースとなっているため、医療の質が上がることをコンセプトにしています。EDRGは、医療連携ネットワークの中で低コストかつ高品質、つまり「価値(Value)の高い医療」を実現する、きわめて有力なツールと言えるでしょう。

価値(Value)=質(アウトカム、安全、サービス)/患者1人にかかる一連のコスト

 さらにスモルト氏は、「アメリカ、イギリスやオランダ、そして日本でも医療の質やコストに大きなバラつきがある。これを是正するために、EDRGが有益である」とも提言しました。

 ここで、メイヨークリニックとGHCの共同研究成果である「日本の病院におけるアウトカムと医療費(TKR)」について紹介しましょう。人工膝関節置換術(TKR)を対象に、アウトカムと医療費の関係を分析したものです。

 縦軸をアウトカム(合併症発生率)、横軸を医療費として各病院をプロットすると、下図のようにバラつきが大きなことがわかります。

 第一と第二象限は合併症の発生率が低い、質の高い医療を提供している病院群です。そして、第二象限(薄いブルーで囲んだ象限)が、「効率が高く、かつ効果の高い医療を提供している」病院群ということになります。

 この研究成果をもとにスモルト氏は、「すべての病院が『高い効率、高い効果』の象限に入ること目指すべきで、そのためにはEDRGの導入が有効である」と提言しているのです。

EDRG支払いモデル(TKR)

 仮に、EDRGのような定額支払方式の導入を検討する場合、「部分的な試行導入」の対象範囲は、「医療費へのインパクトが相当程度あること」や「患者へのメリットが大きいこと」などを考慮することが重要と考えられます。

 なぜなら、新制度の導入コストに見合った、成果(医療費の適正化や、医療の質の向上)が求められるからです。

 この点について、メイヨークリニックとGHCは、「医療費に占める割合の大きなDPC(診断群分類)でかつ手術」がEDRG導入の対象範囲として有力候補になるのではないかとの見解を示しています。さらに、2014年4月の退院症例データから表の10診断群分類をピックアップし(以下の表参照)、特に第7位の膝関節症までが地域連携パスを作りやすい観点からも可能性が高いとみています。

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 急性期疾患では医療の質を比較的測定しやすく(つまり患者へのメリットの有無を判断しやすく)、また包括支払方式が導入されている診断群分類では「医療費へのインパクト」を判断しやすくなります。

 スモルト氏の提言した「日本へのEDRG導入」の可能性は決して低くないと考えられます。今後の病院経営を考える上で、重要な提言かつデータが示されていると言えるでしょう。

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