患者を在宅医療に経済誘導? 「砂糖税」だけじゃない「保健医療2035」―ライター・三竦の霞ヶ関ウォッチ(9)



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 「砂糖への課税」というごく一部分にのみスポットを当てる形で広められた「保健医療2035」だが、よく読むと厚生労働省が描く医療制度改革のアイデアが散りばめられていて、面白い。

 この報告書の構成を見ると、2035年の保健医療の在るべき姿を最初に提示し、これに向けて、(1)保健医療の価値を高めるリーン・ヘルスケア(2)主体的選択を社会で支えるライフ・デザイン(3)日本が世界の保健医療を牽引するグローバル・ヘルス・ケア―という3つのビジョンが示されている。その上で、これらビジョンを実現するための具体的なアクションと、それを支える基盤としての改革案を提示している。

 報告書の取りまとめに当たっては、省内の関係部局の間で事前に調整されたというが、「若手の学者や行政官が思い切った提言を出せるように」という塩崎恭久厚生労働相の意向が働き、目立った修正はなかったという。報告書案の方向性は、財務省とも事前に摺り合せが行われたらしい。さらに、大所高所から助言した4人のアドバイザーが、日本医師会長など医療をリードする人たちであることも注目される。

 つまり、この「保健医療2035」は、これから保健医療行政を担う行政官や学者が自らの考えを表明し、厚労省が今後、取り得る改革の方向性を示したものと言えるだろう。

 具体的な記述の中にも注目すべき内容が含まれている。例えば、「後発医薬品でなくブランド薬を使用した場合の追加的な負担」とあるが、これは医療保険改革法に盛り込まれた「紹介状なしでの大病院受診」と同じように、ブランド薬をあえて望むのなら、保険外併用療養費として一定額の負担を義務付けるといったことを考えているのではないか。

 また、「在宅でサービスを受ける場合と入院・入所によりサービスを受ける場合とで、異なる自己負担を導入」という表現は、患者負担の割合に在宅と入院とで差を付けることで、患者が在宅医療を選択するよう経済的な誘導を働かせるといったアイデアではないかと思わせる。

 さらに、「必要かつ適切な医療サービスをカバーしつつ重大な疾病のリスクを支え合うという公的医療保険の役割を損なわないことを堅持した上で、不必要に定額負担となっている場合の自己負担の見直し」という書きぶりは、透析医療などの自己負担額の見直しを念頭に置いているのかもしれない。

 1つ1つの項目に対してはさまざまな抵抗が予想されるものの、健康長寿の願いを実現するのに最も近い位置にある日本の取り組みが期待される内容である。

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