地域医療構想の実現、国立病院・労災病院・JCHO病院の機能改革から進めよ―日医総研



Pocket

公立病院・公的病院等の機能改革・転換を検証・検討することになっているが、「民間医療機関では担えない機能を担っている病院」(地域で唯一の病院や僻地医療を担う病院、重症心身障害児医療を担う病院など)は、その機能を維持する必要がある。一方、リハビリテーション医療を提供する公立病院・公的病院等では「公的資金が投入されている」点も踏まえて機能を検証・検討するべきである。また、税金や保険料で設置されてきた▼国立病院▼労災病院▼JCHO病院―の改革を他に先んじて進めることも必要である―。

 日本医師会のシンクタンクである日本医師会総合政策研究機構(日医総研)は7月18日にワーキングペーパー「公立・公的医療機関等の現状と課題」を公表し、このような提言を行いました(日医総研のサイトはこちら)。

地域医療構想の実現に向け、まず公立病院・公的病院等の機能改革を検証・検討

 2025年には、いわゆる団塊の世代がすべて後期高齢者となることから、今後、医療・介護ニーズが急速に増加していきます。現在の医療提供体制ではこうしたニーズに効果的かつ効率的に対応することができないため、医療提供体制の再構築が求められます。

 その一環として「地域医療構想の実現」があげられます。各都道府県において、地域(2次医療圏をベースとした地域医療構想区域)ごとに、人口動態や受療率等を勘案して▼高度急性期▼急性期▼回復期▼慢性期等―の「病床の必要量」を推計し、地域の医療機関に自主的に機能分化・連携の強化を促すものです。

 地域医療構想の実現に向けて、各地域医療構想調整会議(以下、調整会議)では、まず「地域の公立病院・公的病院等の機能改革等」(公立病院・公的病院等でなければ担えない機能への特化)に関する合意を得ることになっています。すでに2018年度末までにベッド数ベースで、▼公立病院は95%(2018年12月末から47ポイント向上)▼公的病院等は98%(同38ポイント向上)―と、ほぼすべての公立病院・公的病院等で「機能改革」に関する合意ができたように見えますが、「数合わせに終わっている」との指摘もあります。

 そこで厚生労働省の「地域医療構想に関するワーキンググループ」(以下、ワーキング)では、地域の各病院における診療実績データを示し、「地域の実情に応じて、公立病院・公的病院等でなければ担えない機能への特化が進んでいるか」を再検証し、必要な対応をとる方針を固めつつあります(関連記事はこちらこちらこちらこちらこちら)。

公立病院、リハビリテーション医療への公金投入も

 ところで、公立病院・公的病院等で「先んじて」改革を進める理由としては、「公立病院・公的病院等の多くは急性期病院として、地域の基幹的役割を担っている」ことに加え、「税制上の優遇や、補助金の投入等がなされている」という点にあります。ワーキングでは、中川俊男構成員(日本医師会副会長)らを中心に「公立病院・公的病院等は、民間病院と同じ土俵で闘っていない」とし、早急な改革を強く求めています。今般、日医総研では、こうした指摘も踏まえて公立病院・公的病院等の経営概況を分析しています。

 まず日医総研は税制・補助金等の有無に着目して医療機関を次のように分類。税制優遇や公金投入がなされている病院では、「民間病院では担えない機能」に特化すべきとの主張に沿った分類です。

▽税金が投入され、税金を納めていない医療機関
▼公立(都道府県、市町村、地方独立行政法人):一般会計から繰入金が投入され、非課税
▼国および独立行政法人:政府出資で設置されており、非課税。現在では少なくなっているが運営費交付金も投入されてきた

▽税金を一部納めていない医療機関
▼公立以外の公的医療機関:収益事業のみ課税され、医療保健業は収益事業から除外。公立病院の繰入金に準じて地元自治体から補助金を受けているケースもある
▼医療法人以外の地域医療支援病院(上記以外で医療法人以外):収益事業課税のケースがある

▽税金を納めていない医療機関
▼医療法人:全所得課税である。

▽その他
▼特定機能病院:医療法において高度の医療提供、高度医療技術の開発、高度医療に関する研修等を求められており、特に大学病院本院には、他の病院にはない「教育」という目的がある
日医総研WP1 190718
 
このうち「公立病院」(独立行政法人を除く)の医業収支率を見てみると、▼2008年度:マイナス17.5%▼9年度:マイナス15.9%▼10年度:マイナス12.0%▼11年度:マイナス12.0%▼12年度:マイナス11.6%▼13年度:マイナス12.5%▼14年度:マイナス14.9%▼15年度:マイナス15.4%▼16年度:マイナス17.0%▼17年度:マイナス17.0%―と厳しい状況が伺えます。
日医総研WP2 190718
 
この背景について日医総研では、▼民間医療機関に比べて給与費率が高い(給与費率60%超の病院はほとんど赤字である)▼病床利用率が低い病院もある(利用率70%未満の病院もほとんど赤字)―ことがあげられると指摘。とくに、いわゆる「不採算地区」の病院では、医師・看護職員等の確保のために給与費水準を引き上げざるを得ない、医師確保が困難なために患者を受け入れられ利用率が低迷している―と分析しています。

こうした赤字を放置すれば病院経営が立ち行かなくなるため、公立病院には自治体からの「繰入金」が投入されています。全公立病院の繰入金総額について日医総研は、▼2013 年度:8067億円(うち収益的収入に対する繰入金は5985億円)▼14年度:8187億円(同6192億円)▼15年度:8032億円(同5973億円)▼16年度:7924億円(同5979億円)▼17年度:8083億円(同6082億円)―に上ると推計。

また、1病院当たりの収益的収入に対する繰入金額は▼2013 年度:6億6000万円▼14年度:6億9000万円▼15年度:6億7000万円▼16年度:6億8000万円▼17年度:7億円―と試算しています。
日医総研WP3 190718
 
さらに2017年度の繰入金8023億円の内訳については、▼建設改良:2421億円(同30.0%)▼救急医療:1155億円(全体の14.3%)▼高度医療:1120億円(同13.9%)▼共済・年金:548億円(同6.8ぱーせんと)▼精神医療:462億円(同5.7%)▼不採算地区:389億円(同4.8%)病院▼リハビリテーション医療:185億円(同2.3%)―などとなっています。

「救急医療」に関する繰入金は635病院に対して投入され、そのほとんどは救急告示病院です。1病院当たりの平均では1億5500万円ですが、個別病院について見てみると、▼10億円超:7病院(635病院中の1.1%)▼8-10億円:5病院(同0.8%)▼6-8億円:6病院(同0.9%)▼4-6億円:27病院(同4.3%)▼2-4億円:108病院(同17.0%)▼1-2億円:139病院(同21.9%)▼8000万-1億円:30病院(同4.7%)▼6000-8000万円:51病院(同8.0%)▼4000-6000万円:98病院(同15.4%)▼2000-4000万円:140病院(同22.0%)▼2000万円以下:24病院(同3.8%)―とバラつきがあります。
日医総研WP4 190718
 
「リハビリテーション医療」に関する繰入金は348病院に投入されています。1病院当たりの平均では4200万円ですが、個別病院について見てみると、▼5億円超:3病院(348病院中の0.9%)▼3-4億円:3病院(同0.9%)▼2-3億円:6病院(同1.7%)▼1-2億円:12病院(同3.4%)▼8000万-1億円:10病院(同2.9%)▼6000-8000万円:17病院(同4.9%)▼4000-6000万円:33病院(同9.5%)▼2000-4000万円:81病院(同23.3%)▼2000万円以下:183病院(同52.6%)―と、やはりバラつきがあります
日医総研WP5 190718
 

公立病院・公的病院等の中には、経営が厳しいが「建て替え」を計画しているところも

また他の公立病院・公的病院等についても、以下のように厳しい状況があり、税制上の優遇等が行われています。

国立病院の医業収支は、▼2008年度:プラス1.8%▼9年度:プラス1.8%▼10年度:プラス4.0%▼11年度:プラス3.1%▼12年度:プラス3.8%▼13年度:プラス2.4%▼14年度:プラス0.9%▼15年度:マイナス0.3%▼16年度:マイナス1.3%▼17年度:マイナス0.7%―となっており、2015年度以降は赤字となっています。日医総研では給与費・材料費・委託費等の伸びが背景にあると見ています。
日医総研WP6 190718
 
もっとも、同じ国立病院であってもその機能によって収支の状況は異なっており、2015-17年度の平均では、▼障害者施設等入院基本料のみを算定する病院:プラス1.5%▼その他一般病院:マイナス1.3%▼障害者施設等入院基本料主体の病院:マイナス1.5%▼精神科病院:マイナス8.3%―という状況です。日医総研では「その他一般病院は、民間病院と急性期機能で競合していると推察されるが、赤字である」とコメント。

なお、その他一般病院の中には、舞鶴医療センターや指宿医療センターのように、極めて医業収支率の低い、つまり経営的に非常に厳しい病院が存在します。こうした病院については「病院再編」(地域の他医療機関との統合・合併など)も視野に入れた検討が進みます。例えば舞鶴市では、舞鶴医療センターのほかにも、舞鶴赤十字病院・舞鶴市民病院・舞鶴K共済病院などの急性期病院が競合し、従前より「病床過剰」が指摘されており、それぞれ機能転換等が進められています。
日医総研WP7 190718
 
 
 また労災病院の医業収支は、▼2008年度:マイナス6.9%▼9年度:マイナス7.1%▼10年度:マイナス4.4%▼11年度:マイナス4.4%▼12年度:マイナス3.9%▼13年度:マイナス4.9%▼14年度:マイナス7.0%▼15年度:マイナス7.5%▼16年度:マイナス3.7%▼17年度:マイナス7.6%―となっており、やはり厳しいことが確認できます。ただし、日医総研では、経営が厳しい労災病院について、「再編・統合計画が持ち上がったが従前のまま存続しているところもある」「建て替え計画が報道されているところもある」と指摘しています。
日医総研WP8 190718
 

税金等で設置された国立病院・労災病院・JCOH病院の機能改革をまず検討せよ

 
 このように厳しい経営状況にある公立病院・公的病院等について、上述のように「機能分化・転換の必要性があるのか」を診療データに基づいて地域医療構想調整会議で検証・検討していくことになります。

この点について日医総研は、「民間医療機関では担えない機能を担っている病院は、今後も引き続きその機能を維持することが期待される」と指摘。具体的には、▼地域で唯一無二の公立病院・公的病院等▼僻地医療や不採算地区の医療を担っている公立病院▼重症心身障害児の医療を担っている国立病院―などです。

しかし一方で、「リハビリテーション医療」のように民間医療機関が担う回復期機能等と競合する可能性の高い分野については、少なくない金額の繰入金(上述のように、公立病院全体では185億円)が投入されていることをふまえた「確認」を求めています。

さらに、こうした状況を分かりやすく公表することも、公立病院を所管する総務省や、自治体に強く要望しています。

あわせて「赤字にもかかわらず、新築移転を予定している病院もある」とし、必要な場合には税金や保険料で設置されてきた▼国立病院▼労災病院▼JCHO病院―の改革を他に先んじて進めることも必要と強く訴えています。

 
 

 

MW_GHC_logo

 

【関連記事】

公立・公的等病院の「再編・統合」、地域医療提供体制の在り方全体をまず議論せよ―地域医療構想ワーキング
公立・公的病院等の再編・統合、国が「直接支援」する重点地域を2019年夏に策定―厚労省・医療政策研修会
公立・公的病院等の機能改革、「医師働き方改革」「医師偏在対策」と整合する形で進めよ―地域医療構想ワーキング(1)
公立病院等、診療実績踏まえ「再編統合」「一部機能の他病院への移管」を2019年夏から再検証―地域医療構想ワーキング
公立病院等の機能、▼代表的手術の実績▼患者の重症度▼地理的状況―の3点で検討・検証せよ―地域医療構想ワーキング
CT・MRIなどの高額機器、地域の配置状況を可視化し、共同利用を推進―地域医療構想ワーキング(2)
主要手術の公民比率など見て、構想区域ごとに公立・公的等病院の機能を検証―地域医療構想ワーキング(1)
公立・公的病院の機能分化、調整会議での合意内容の適切性・妥当性を検証―地域医療構想ワーキング
地域医療構想調整会議、多数決等での機能決定は不適切―地域医療構想ワーキング
大阪府、急性期度の低い病棟を「地域急性期」(便宜的に回復期)とし、地域医療構想調整会議の議論を活性化—厚労省・医療政策研修会
地域医療構想調整会議、本音で語り合うことは難しい、まずはアドバイザーに期待―地域医療構想ワーキング(2)
公立・公的病院と民間病院が競合する地域、公立等でなければ担えない機能を明確に―地域医療構想ワーキング(1)
全身管理や救急医療など実施しない病棟、2018年度以降「急性期等」との報告不可―地域医療構想ワーキング(2)
都道府県ごとに「急性期や回復期の目安」定め、調整会議の議論活性化を―地域医療構想ワーキング(1)

都道府県担当者は「県立病院改革」から逃げてはいけない―厚労省・医療政策研修会

Pocket