遺伝子パネル検査に基づく抗がん剤の適応外使用想定した事前準備、国がんで進む―患者申出評価会議



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 遺伝子パネル検査の結果、既存の抗がん剤の「適応外使用」が有効と考えられる患者について、迅速に抗がん剤投与を可能とすべく、「患者申出療養として実施する」ための計画書(プロトコル)案を予め設定しておく。国立がん研究センターでプロトコル案の作成が進んでおり、概ね適当であるが、実施医療機関を「がんゲノム医療中核拠点」に限定すると、当該病院の負担が大きく、患者にも不便を強いることにもなる。他病院での実施についても今後、検討していく必要があるのではないか―。

 7月10日に開催された患者申出療養評価会議で、こういった検討が行われました(関連記事はこちら)。

 さらにプロトコル案について詰めを行い、患者からの実際の申し出に迅速に対応できる体制を整備しておくことになります。

7月10日に開催された、「第16回 患者申出療養評価会議」
7月10日に開催された、「第16回 患者申出療養評価会議」
 

遺伝子パネル検査の結果、既存抗がん剤の「適応外使用」が必要となるケースも

 ゲノム(遺伝情報)解析技術が進み、「Aという遺伝子に変異の生じたがん患者にはαという抗がん剤を、Bという遺伝子変異のある患者にはβとγという抗がん剤を併用投与することが効果的である」などといった知見が徐々に明らかになってきています。こうしたゲノム情報に基づいた最適な治療法の選択ができるようになれば、個々のがん患者に対して「効果の低い治療法を避け、効果の高い、最適な治療法を優先的に実施する」ことが可能となり、▼治療成績の向上▼患者負担の軽減(身体的、経済的)▼医療費の軽減―などにつながります。

我が国でも、産学官が一体的に「がんゲノム医療」を推進すべく「がんゲノム医療推進コンソーシアム」(共同体)を構築。がんゲノム医療は、(1)患者の同意を得た上で、患者の遺伝子情報・臨床情報を、「がんゲノム情報管理センター」(C-CAT、国立がん研究センターに設置)に送付する → (2)C-CATで、送付されたデータを「がんゲノム情報のデータベース」(がんゲノム情報レポジトリー・がん知識データベース)に照らし、当該患者のがん治療に有効と考えられる抗がん剤候補や臨床試験・治験などの情報を整理する → (3)がんゲノム医療中核拠点病院・がんゲノム医療拠点病院の専門家会議(エキスパートパネル)において、C-CATからの情報を踏まえて当該患者に最適な治療法を選択し、これに基づいた医療を提供する―という大きな流れで進められます。
がんゲノム医療拠点病院等指定要件ワーキンググループ1 190527

がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議2 190308
 
このうち(1)の遺伝子情報について、次の2つの「多数の遺伝子変異の有無を一括して検出する検査(遺伝子パネル検査)」が、この6月1日(2019年6月1日)から保険収載され、また先進医療として保険収載に向けた準備が進められている別の検査手法もあります(関連記事はこちらこちらこちら)。

▼FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル

▼OncoGuide NCC オンコパネル システム

 
 ただし、遺伝子パネル検査も万能ではなく、有効な抗がん剤が見つかる可能性は現時点では1-2割にとどまると推定されています(米国の研究では(1)「既承認の抗がん剤が効く」ケースが9%程度(2)「既承認の抗がん剤を適応外使用(例えば「肺がん」治療に効果が認められている抗がん剤を、効果が未確認の「胃がん」治療に用いるなど)することが考えられる」ケースが9%程度(3)「未承認の抗がん剤が候補となるであろう」ケースが18%程度―と推計されている)(関連記事はこちら)。

このうち(1)の「既承認の抗がん剤」使用は、通常の保険診療の中で実施可能ですが、(2)や(3)は、治験や先進医療の枠組みを活用することになりますが、そこでは「患者の適格性」(年齢や合併症など)が厳しく設定され、「治験や先進医療の対象にならない」患者も出てきます。

遺伝子パネル検査は、ピーク時にはそれぞれ年間1万3000人程度の患者に実施されると見込まれており、現在の2検査手法で2万6000人が検査を受けたとして、既存抗がん剤の適応外使用が必要となる患者が、年間2000人超になると単純計算で導かれます(ピーク時)。

こうした患者を救済するために、国は「患者申出療養」制度を設けています。ただし、「患者申出療養」として申請するためには、▼かかりつけ医との相談▼臨床研究中核病院への相談▼臨床研究中核病院における診療計画(プロトコル)作成―などが必要で、これらの手続きに、少なくとも「数か月」かかるのが実際です。

前例のない医療技術については原則6週間で保険外併用の可否を判断し、前例のある医療技術については原則2週間で「身近な医療機関での実施」の可否を判断する
前例のない医療技術については原則6週間で保険外併用の可否を判断し、前例のある医療技術については原則2週間で「身近な医療機関での実施」の可否を判断する
 
この点、遺伝子パネル検査の対象は「標準治療を終えた患者」であり、こうした数か月の手続き期間に容体が急変してしまう可能性もあります。そこで厚生労働省では、「健康局がん・疾病対策課」と「保険局医療課」が部局の垣根を超えて、「上記の『手続き』を事前に済ませておき、患者の『適応外の抗がん剤を使用したい』との申請に迅速に対応できる仕組み」を準備しました。なお、安全性が確認されていない(3)の「未承認薬」については、この仕組みの対象となりません(既承認薬の「適応外使用」は、他疾患で安全性・有効性が確認されている)(関連記事はこちら)。

 具体的には、既承認の抗がん剤の「適応外使用」を希望する患者を予め想定し、国立がん研究センターが臨床研究中核病院との協議の上で、▼複数のがん腫や遺伝子異常に対応できる「研究実施計画書」(プロトコル)案を作成し、臨床研究審査委員会等の審査を経ておく▼臨床研究中核病院でプロトコル案を共有する▼患者の同意を得た上で「症例データを一括保存」し、活用をする―というものです。

プロトコル案に記載された抗がん剤のみ、患者申出療養評価として適応外使用が可能に

 今般の患者申出療養評価会議には、国立がん研究センターが作成中の「プロトコル案」について、言わば中間評価が行われました。

保険適用された、あるいは評価療養(先進医療など)で実施された遺伝子パネル検査で「actionableな遺伝子異常を有する」と判明し、標準治療を終了した(あるいは標準治療の存在しない)固形腫瘍患者(16歳以上)が、今般の対象となります。遺伝子パネル検査を行い、実施医療機関(がんゲノム医療中核拠点病院)のエキスパートパネル(専門家会議)で「●●遺伝子に変異がある。この患者には(今般の)プロトコルで▲▼抗がん剤の適応外使用の有効性が期待できる」と判断された場合、プロトコルに記載されている抗がん剤(後述)の適応外使用を、保険診療と合わせて実施(患者申出療養)することが認められるのです。
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抗がん剤の適応外使用は通常は全額患者負担となりますが、患者申出療養として実施することで、保険診療との併用が可能となり、患者負担は相当程度軽減される見込みです(患者申出療養部分の費用は概ね30万円と推計されているが、実際の申し出を踏まえて積算することになる)。

 
患者申出療養は「保険適用に向けた臨床試験」の一環として行われ、▼各医薬品の奏効割合(治療開始後16週までの最良総合効果)▼全生存期間▼無増悪生存期間▼病勢制御割合▼有害事象発現割合―などのデータを収集し、「有効性が認められた」場合には、当該医薬品の適応外使用に係る研究は治験に移行し、さらなるデータの集積を行い、保険適用を目指します。逆に「有効性が認められなかった」場合には、そこで当該研究は打ち切りとなります。それぞれの医薬品について「50症例」のデータを集積する予定ですが、「15症例」の段階で、安全性等について中間評価を行います。
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当該治療(患者申出療養としての抗がん剤の適応外使用)が行えるのは、現時点では「がんゲノム医療中核拠点病院」(▼北海道大学病院▼東北大学病院▼国立がんセンター東病院▼国立がんセンター中央病院▼慶應義塾大学病院▼東京大学医学部附属病院▼名古屋大学医学部附属病院▼京都大学医学部附属病院▼大阪大学医学部附属病院▼岡山大学病院▼九州大学病院―の11か所)に限られます。この点について、プロトコルの事前評価を行った山口俊晴構成員(がん研究会有明病院名誉院長)は「がんゲノム医療中核拠点病院に実施希望が集中し、負担が過重になること、地域的な偏りで患者に不便が生じることを踏まえ、実施医療機関の拡大も検討すべき」と指摘しています。今後、新たな「がんゲノム医療拠点病院」が指定されることになっており、その状況も踏まえて実施医療機関が拡大される可能性がありそうです(拡大に当たってはプロトコルの変更について患者申出療養評価会議の承認が必要となる)(関連記事はこちら)。
がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議4 190308
 

なお、この患者申出療養の枠組の中で適応外使用が可能な医薬品は、現時点では、ノバルティスファーマ社の以下の抗がん剤にとどまっています(患者申出療養として実施する場合に、薬剤を無償提供する」ことをノバルティスファーマ社が約束)が、今後、他メーカーからも薬剤提供が行われることになるでしょう。

▼ジカディアカプセル(ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんへの適応が認められている)

▼グリベック錠(慢性骨髄性白血病、KIT(CD117)陽性消化管間質腫瘍、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病、FIP1L1-PDGFRα陽性の好酸球増多症候群・慢性好酸球性白血病への適応が認められている)

▼アフィニトール錠(根治切除不能または転移性の腎細胞がん、神経内分泌腫瘍、手術不能または再発乳がん、結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫、結節性硬化症に伴う上衣下巨細胞性星細胞腫への適応が認められている)

▼アフィニトール分散錠(結節性硬化症に伴う上衣下巨細胞性星細胞腫への適応が認められている)

▼タフィンラーカプセル(BRAF遺伝子変異を有する悪性黒色腫、BRAF遺伝子変異を有する切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんへの適応が認められている)

▼メキニスト錠(BRAF遺伝子変異を有する悪性黒色腫、BRAF遺伝子変異を有する切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんへの適応が認められている)

▼ヴォトリエント錠(悪性軟部腫瘍、根治切除不能または転移性の腎細胞がんへの適応が認められている)

▼タシグナカプセル(慢性期または移行期の慢性骨髄性白血病への適応が認められている)

▼ジャカビ錠(骨髄線維症、真性多血症(既存治療が効果不十分または不適当な場合に限る)への適応が認められている)

 
 このプロトコル案に対しては「概ね適」との評価がなされていますが、上述のように山口構成員から「実施医療機関の拡大も今後検討すべき」との指摘がなされているほか、「患者への同意説明文書がやや分かりにくく、分かりやすく工夫すべき」(田島優子構成員:さわやか法律事務所弁護士)、「医薬品投与前に患者が亡くなった場合などの費用等を明確に示すべき」(天野慎介構成員:全国がん患者団体連合会理事長)などの意見も出ています。厚労省および患者申出療養評価会議は、こうした点について、プロトコル案の作成者である国立がん研究センターと詰め、実際の患者申出に向けてプロトコル案の整備を近く完了させる構えです。

 プロトコル案の整備が完了していれば、実際に、標準治療を終えたがん患者が遺伝子パネル検査を受けた際に、がんゲノム医療中核拠点病院のエキスパートパネル(専門家会議)では、「治療の選択肢の1つとして、▲▼抗がん剤を患者申出療養として適応外使用する方法がある」と患者に迅速に提示することができます。また、患者が当該治療を希望した場合には、このプロトコル案をもって国に「患者申出療養を受けたい」と患者が申請すれば済みます。さらに患者申出療養評価会議で事前にプロトコル案の審査をしているため、通常の審査よりも短期間で「対象患者に合致しているか」などを審査することができ、実施の可否を迅速に判断できます(持ち回りの審査すら可能になるかもしれない)。

 仮に、このプロトコル案が整備されなければ、▼エキスパートパネルでは「▲▼抗がん剤の有効性が考えられるが、保険診療は使えない」という選択肢提示しかできない(患者申出療養については、エキスパートパネル後に別途、患者が検討しなければならない)▼プロトコルを患者1人1人について1から作成しなければならない(少なくとも数か月が必要)▼患者申出療養評価会議で、個別のプロトコルを評価しなければならない(6週間以内との期限があるが、プロトコル実施計画書を1から審査しなければならない)―ことになり、プロトコル案整備に非常に大きなメリットがあることが分かります。がんと闘う患者にとって、重要な「支え」の1つとなることでしょう。

 この点、プロトコル案に記載されていない医薬品を適応外使用する場合には、通常どおりの患者申出療養の流れに乗らなければならず、患者には大きな負担がかかります(1からのプロル作成など)。このため製薬メーカーには、可能な限り「自社の抗がん剤をプロトコルに記載する」こと、さらに可能であれば「薬剤を無償提供する」ことが期待されます。

 
 
 ところで、7月10日の患者申出療養評価会議では、次の2つの技術について報告を受け、「患者申出療養として継続実施する」ことを了承しています。

▽腹膜播種・進行性胃がん患者への「パクリタキセル腹腔内投与及び静脈内投与ならびにS-1内服併用療法」について、現在、全111症例中18例について治療が継続されており、腫瘍増悪などは認められていない

▽早期乳がん患者への「ラジオ波熱焼灼療法」について、これまでに2例に実施されており、経過中、特に問題は認められていない

 
 

 

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