科学的介護に向けた新データベース「CHASE」、当面は項目を最低限に絞り、将来の拡充を睨みモデル事業を並行実施―厚労省・科学的介護検討会



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 2020年度から稼働させる新たな介護サービスのデータベース「CHASE」について、現場の負担などを考慮して、初期仕様では項目を絞り込む必要がある。一方、データ収集が望ましい項目については、CHASE稼働と並行して「モデル事業」を実施し、データ収集の可能性やデータの質の担保などを研究していく―。

 6月21日に開催された「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」(検討会)で、こういった議論が行われました(関連記事はこちら)。

 議論を踏まえて絞り込みを行い、近く「データベースに格納するデータ項目」が確定となります。

6月21日に開催された、「第8回 科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」
6月21日に開催された、「第8回 科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」
 

「興味関心」について、詳細に調べるのではなく、「興味関心事の有無」を調べよ

 介護分野・領域においても、エビデンスに基づいた介護サービスを確立していくこと重視されています。「●●状態の要介護高齢者に、〇〇ケアを提供すれば、◎◎という効果が得られた」という根拠に基づく介護サービスが確立されれば、▼自立支援に資するサービス提供▼介護現場の負担軽減(効率化)―が実現できると期待されます。

 厚労省は、介護のエビデンス構築に向けて、すでに▼介護保険総合データベース(通称、介護DB:要介護認定情報、介護保険レセプト情報を格納する、2018年度より全保険者からデータを収集)▼通所・訪問リハビリテーションの質の評価データ収集等事業(通称、VISIT:monitoring & evaluation for rehabilitation service for long term care:通所・訪問リハビリ事業所からのリハビリ計画書などの情報を格納、現在500か所程度の事業所から収集し、拡大予定)―という2つのデータベースを稼働させています。

さらに検討会では「介入(どのようなケアを提供したか)」「利用者の状態」に関する新たなデータベース【CHASE】(Care, Health Status & Events)設置を決定。昨年(2018年)3月の検討会中間まとめでは、第3のデータベース【CHASE】に次のような265項目のデータを格納する方針を固めました(関連記事はこちら)。

▽栄養マネジメントに関する情報:
 例えば、「血清アルブミン値」「食事摂取量」「食事の留意事項の有無」「食事時の摂食・嚥下状況」「水分摂取量」「握力」など

▽経口移行・維持に関する情報:
 例えば、「経口摂取の状況」「『食事を楽しみにしていない』などの気づいた点」「経口移行・維持に関する指導内容」など

▽口腔機能向上に関する情報:
 例えば、「『口のかわき』や『食べこぼし』などの課題」「30秒間の反復唾液嚥下回数(RSST)」「口腔機能向上に関する指導内容」など

▽個別機能訓練に関する情報:
 例えば、「自分でトイレに行く」「歯磨きをする」「友達とおしゃべりをする」「読書をする」「歌を歌う、カラオケをする」「体操・運動をする」ことなどをしているか、あるいは興味をもっているか、「食事や排泄などに課題はあるか」など

▽アセスメント等に関する情報:
 例えば、「排泄」「寝返り」「食事」などに課題はあるか、「自分の名前はわかるか」「長期記憶が保たれているか」「介護に対する抵抗はあるか」「過去3か月に入院をしたか」など

▽各アセスメント様式等に関する情報:
 例えば、「入浴」「排泄」「更衣」「寝返り」などに関する各アセスメント様式の評価結果

▽日常生活動作に関する情報:
 「BI(Barthel Index)」「FIM」の得点

▽認知症に関する情報:
 例えば「改定長谷川式認知症スケール」などに基づく評価結果、など

▽訪問介護におけるサービス内容に関する情報:
 例えば、「健康チェック」「おむつ交換」「食事介助」「洗髪」「掃除」「洗濯」「衣類の整理」など、どういった身体介護・生活援助を実施しているか

 
 ところで、データベース構築に当たっては、データの「量」と「質」が重要です。不正確なデータが数多く集まっても、また正確であってもごく僅かしかデータが集まらなければ、そのデータベースに価値はありません。

このため検討会では、「同じ場面であれば、だれが評価しても、何度でも同じデータを収集できる」こと、「介護現場のデータ収集負担を可能な限り軽くする」ことが必要と考え、データの「さらなる絞り込み」を行うことを決定。6月21日の会合で、各分野の専門家から、例えば次のような「絞り込み案」が提示されました。またCHASEは2020年度にまず初期仕様として最低限の項目からなるデータベースを構築・稼働させ、並行して「将来のデータ項目拡充」などを睨み、モデル事業を実施していくという2段構えとなるため、モデル事業内容に関する提案も行われています。

【総論】(松田晋哉構成員:産業医科大学公衆衛生学教室教授)
▽主要な既往歴(骨折、誤嚥性肺炎等感染症、認知症、褥瘡(ステージ)、脳卒中、虚血性心疾患等)の取得は必須と考えられる
▽ADLの評価について、ADL維持等加算・通所リハビリマネジメント加算IV・DPC様式などで採用されているBarthel Index(BI)を共通指標とする
▽興味関心について、詳細を列挙することは難しく、「興味のあるアクティビティ(趣味・娯楽)の有無」「行っているアクティビティ(趣味・娯楽)の有無」を把握する

【認知症】(鳥羽研二座長:国立長寿医療研究センター理事長)
▽復唱と遅延再生について「長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」(対象者に桜・猫・電車を覚えてもらい、いくつかの会話の後にその3つを言えるかどうかを確認する)を用いる
▽「挨拶」ができるかどうかを判断する

【口腔】(海老原覚構成員:東邦大学医療センター大森病院リハビリ科教授)
▽「食事の形態」「誤嚥性肺炎の既往」について、できるだけ多くの事業所から収集する
▽「かかりつけ歯科医の有無」「入れ歯の有無」「嚥下機能検査による評価結果」「多職種会議への参加者」を加算取得事業所から収集する
▽「主食、副食、水分の摂取形態」について、収集可能性などをモデル事業でさぐる

【栄養】(利光久美子構成員:愛媛大学医学部附属病院栄養部部長)
▽「身長」「体重」「提供エネルギー量」「提供たんぱく質量」「摂取主食割合」「摂取副食割合」「栄養補給法」「食事の留意事項(内容、食形態等)」「血清アルブミン値」について、できるだけ多くの事業所から収集する
▽「経口移行加算」「経口維持加算」の算定状況を加算取得事業所から収集する
▽「指輪っかテスト(指で輪をつくり、ふくらはぎを囲みフレイル状態をチェックする)結果」「握力(右、左)」「食事相談の実施の有無」について、収集可能性などをモデル事業でさぐる

正確かつ広範なデータを「現場負担を考慮」して収集しなければならない

 こうした提案に基づき構成員間で意見交換を行いましたが、「より多くのデータを収集、分析し、介護サービスの質向上につなげたい」との考えと、「介護現場の負担などを考え、当初はデータ収集項目を可能な限り絞るべき」との考えが交錯しました。

 例えば、真田弘美構成員(東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻老年看護学/創傷看護学分野教授)は、「介護・看護では、症状を和らげることが非常に重要だ。例えば、痛みや痒みなどの症状を詳しく情報収集し、それを介護・看護技術につなげていくべきではないか」と指摘。極めて重要な視点ですが、痛みや痒みの程度を「簡易」に評価するスケール(どのスタッフであっても簡便に、正確に評価できるスケール)が課題となり、鳥羽座長は「まずは、痛みがあるか、痒みがあるか、などの情報を収集するところから始めてはどうか」とコメントしています。

 さらに真田構成員は「水分の摂取量」も重要なデータであると指摘しましたが、栄養分野の専門家である利光構成員すら「介護現場での水分摂取量把握は極めて困難」と説明。モデル事業での実施可能性も含めて、さらに検討することで落ち着いています。

 
また学識者として検討会に参画する田宮菜奈子教授(筑波大学ヘルスサービス開発研究センターセンター長、医学医療系ヘルスサービスリサーチ分野教授)は、「家族の状況」を詳しく調べるべきと指摘。この点、松田構成員は「介護保険では、制度設計当初から『家族は不問』とされたが、家族介護の有無が予後に大きく影響することが明らかとなっている。家族介護力について情報収集すべき」とコメントしています。もっとも、重要なのは「日常的に介護等を行える家族」であり、遠方に居住する子弟の状況などの重要性は低いと言えます。

田宮教授はさらに「身長・体重」を経時的に把握すべきとし、例えば、車いす用体重計を導入し、歩行困難な介護施設入所者の体重も頻繁に計測することを提案しました。この提案の趣旨に多くの構成員は理解こそ示したものの、折茂賢一郎オブザーバー(全国老人保健施設協会副会長)らは「重要なデータだが、介護現場の負担にも考慮しなければならない」と指摘しています。施設入所者であれば、基本的に入所時などに身長・体重の計測が行われると思われます。そうした中で「身長・体重の計測が難しい」利用者(例えば、在宅で寝たきりの利用者など)について、どのように計測を行うのか(簡便かつ正確に)を今後、検討していくことになりそうです。

 
また海老原構成員は、「用語の統一」が重要との考えを示しました。例えば食事形態の1つである「刻み食」など1つをとっても、介護現場によってさまざまなようです。これでは「正確なデータ収集」が困難です。モデル事業などで「用語の統一」に向けた研究も進むことが期待されます。

関連して松田構成員は、「介護施設からの在宅復帰後に誤嚥性肺炎で入院した人と、そうでなかった人とを比較すると、入院した人では『介護施設での口腔ケアに関する情報』が在宅介護スタッフに伝わっていなかった、ことが明らかになった」ことも紹介。データベース構築・稼働と合わせ、データの活用(情報共有など)も視野に入れることの重要性を指摘しています。

 
なお、利用者・入所者の傷病の状況は「主治医意見書」に一定程度記載されています。現在、主治医意見書については、要介護判定に必要な項目については「介護DB」に格納されています。その他の特記事項をどのようにデータベース化していくか、介護DBとCHASEとの連結をどう進めるか、将来の重要課題の1つとなりそうです。この点、江澤和彦オブザーバー(日本医師会常任理事)も「日本医師会として積極的に検討し、協力する」考えを明らかにしています。

2020年度からCHASE稼働、21年度介護報酬改定で「インセンティブ」議論の可能性も

こうした議論を踏まえて、近く厚労省で「CHASEのデータ収集項目」の最終版を作成。近く(2019年夏目途)、検討会に示される見込みです。

前述のとおり、2020年度からデータベースを稼働(実際のデータ収集開始)させるとともに、並行して「CHASE」拡充に向けたモデル事業も行われます。

 
さらに、2021年度の介護報酬改定に向けて、「データ登録へのインセンティブ付与」(つまり加算)に関する検討も行われる可能性があります。既に稼働しているVISITについては、データ登録を行う訪問リハビリ・通所リハビリ事業所「リハビリテーションマネジメント加算」の中で評価されており、こうした点も参考した介護報酬改定論議が行われることが期待されます。

 

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