勤務医の時間外労働960時間以下に抑えるには1.2倍の医師が必要だが、医師不足は深刻―全自病



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 公立病院に勤務する医師の一定割合が年間960時間を超える時間外労働を行っており、その背景には「医師不足」がある。いわゆるA水準・960時間以下を実現するためには、現在から1.2倍の医師が必要となる。現状でも医師が不足している中では「救急医療体制の縮小を検討しなければならない」と考えている病院も一部にある―。

 全国自治体病院協議会が6月21日に公表した「医師の働き方改革に関するアンケート調査結果」から、こういった状況が明らかになりました(全自病のサイトはこちら(全自病のトップページ、「協議会情報一覧」からアンケート調査結果をダウンロード可能)。

500床以上病院の6割超で労基の立ち入り調査、36協定未整備などを指摘

 厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」(以下、検討会)が3月末(2019年3月末)に報告書をとりまとめ、次のような方針を明確にしました(関連記事はこちら)。

▽2024年4月から「医師の時間外労働上限」を適用し、原則として年間960時間以下とする(すべての医療機関で960時間以下を目指す、いわゆるA水準)

▽ただし、「3次救急病院」や「年間に救急車1000台以上を受け入れる2次救急病院」など地域医療確保に欠かせない機能を持つ医療機関で、労働時間短縮等に限界がある場合には、期限付きで医師の時間外労働を年間1860時間以下までとする(いわゆるB推進)

▽また研修医など短期間で集中的に症例経験を積む必要がある場合には、時間外労働を年間1860時間以下までとする(いわゆるC水準)

▽2024年4月までの間、全医療機関で「労務管理の徹底」(いわゆる36協定の適切な締結など)、「労働時間の短縮」(タスク・シフティングなど)を進める
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 そうした中で全自病では、公立病院における「医師の働き方の現状」を明らかにするため、アンケート調査を実施したものです。調査は今年(2019年)2月末から3月中旬にかけて行われ、270病院から有効回答が得られました。

まず2017年8月から昨年(2018年)2月にかけて労働基準監督署による立ち入り調査を受けたかどうかを見ると、全体の26.3%の病院に立ち入り調査が入っています。病床規模別にみると、▼99床以下:4.8%▼100床台:14.7%▼200床台:35.0%▼300床台:14.6▼400床台:41.9%▼500床台:61.0%―で、大規模病院で立ち入り調査が多く行われています。

立ち入り調査で労基から指摘された事項としては、▼36協定の定めなく、または定めを超えた時間外労働:59.2%▼適切な労働時間管理(把握)がなされていない:45.1%▼割増賃金の不払い:35.2%▼衛生委員会や産業医の選定等に係る不備:22.5%▼賃金台帳の記入漏れ:8.5▼有給休暇付与が適正に行われていなかった:4.2%―など(複数回答)で、「36協定」や「労務管理」に問題のある病院が多いことが浮き彫りとなりました。

上述のとおり、今後、すべての病院で「まず労務管理を徹底する」(まず36協定の締結と労働時間管理の徹底)必要がありますが、自治体病院では大ナタを振るう必要がありそうです。

研修医の9.5%、非管理職医師の7.8%が960時間超の時間外労働

 次に医師は実際にどの程度の時間外労働をしているのか、具体的には2018年度に960時間(A水準)を超える時間外労働を行っていた医師の割合を見てみましょう。

職位別に見ると、▼初期・後期臨床研修医:9.5%(前年度に比べて0.9ポイント減)▼非管理職医師:7.8%(同1.3ポイント減)▼管理職医師:2.2%(同0.5ポイント減)―。
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病床規模別に見ると、▼99床以下:2.6%(同0.5ポイント減)▼100床台:4.0%(同0.6ポイント増)▼200床台:3.8%(同0.1ポイント減)▼300床台:5.6(同1.0ポイント増)▼400床台:7.0%(同2.6ポイント減)▼500床台:8.6%(同1.9ポイント減)―。
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医療機関種類別に見ると、▼3次救急:8.5%(同2.6ポイント減)▼2次救急:5.6%(同0.9ポイント減)▼その他:5.1%(同0.9ポイント減)―。
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3次救急を中心とする大規模病院で、超長時間労働医師が減少している状況が伺えます。なお、時間外労働が長くなる理由を職種別に見ると、初期・後期臨床研修医では「緊急手術、オンコール」「医師不足」「カンファレンス・術後管理・急患対応等」「救急部門のシフト」「時間外勤務と研鑽の区別が不明確」などが、非管理職医師では「専門分野により、特定の医師に業務が集中する」「医師不足」「集中治療科である」「ICUなどで宿直業務を時間外勤務として行っている業務がある」などがあがっています。

病院の種類や規模、医師の役職などにより「労働時間短縮」の手法が異なってくることが再確認できます。

960時間以下達成には、全体で1.2倍の医師が必要

 医師の役職にかかわらず、時間外労働が長くなる理由として挙げられている項目として「医師不足」があります。

 この点、どの程度の医師がいれば、時間外労働をA水準(960時間)に抑えられかを見ると、▼99床以下:1.5倍▼100床台:1.3倍▼200床台:1.2倍▼300床台:1.2倍▼400床台:1.2倍▼500床台:1.2倍―と考えていることが分かりました(全体では1.2倍)。小規模病院ほど、医師1人当たりの負担が相対的に大きなため、必要な医師数も多くなります。
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 ところで検討会では、取りまとめの1年前(2018年3月)に、まず、病院において▼医師が医療機関にいる時間(在院時間)の客観的把握▼36協定の確認▼医師の業務負担軽減のためのタスク・シフティング▼多様で柔軟な働き方の推進―など「緊急的な取り組み」を実施するよう求めていました。この点について全自病の調査では、▼勤務間インターバル▼連続勤務時間制限▼複数主治医制の導入▼シフト制(交代制)の導入―などが難しく、その背景には「医師不足」があることも分かりました。
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 つまり、現時点でも「医師不足」(厳密には偏在による医師不足の面が大きいと考えられる)があり、このために労働時間短縮等に向けた取り組みが難しいのです。そこに、さらに厳しい時間外労働上限規制がかかり、さらなる労働時間短縮に取り組めと求めるのは、なかなか厳しそうです。

医師不足を緩和するためには、病床規模の拡大(これにより1人当たり負担が相対的に小さくなる)が避けられず、「再編・統合」も視野に入れることが必要となってきそうです。

救急診療体制の縮小を検討せざるを得ない公立病院も

 また、救急医療体制を確保するための医師の勤務体制を見ると、▼99床以下:宿日直60.0%、オンコール18.0%など▼100床台:宿日直55.8%、オンコール30.2%など▼200床台:宿日直49.2%、オンコール36.5%など▼300床台:宿日直49.3%、オンコール35.8%など▼400床台:宿日直42.3%、オンコール26.9%など▼500床台:宿日直38.9%、オンコール34.7%など―となっており、小規模病院ほど「宿日直」での対応が多くなっています。

 今後は、「当面は、時間外勤務+夜勤勤務に振り替える」「 交代制勤務の導入を検討する」「宿日直からオンコールへ切り替える」ことなどで、救急医療体制を維持する病院がある一方で、「救急医療体制の縮小について検討せざるを得ない」と考えている病院もあることが分かりました。地域全体で考えるべき課題と言えます。

 
 
 なお、医師働き方改革に向けた意見・要望としては、「医師不足、地域・診療科偏在の解消」を求める声が圧倒的です。医師偏在の解消に向けて、都道府県が新たに「医師確保計画」を作成し、医師多数の地域から医師少数の地域への「派遣」促進などに2020年度から取り組むこととなります。

 また、医療機関や機能の散在が医師の長時間労働を誘発している面もあり、地域医療提供体制の再構築、つまり「地域医療構想の実現」も急務となっています。

 このように、「地域医療構想の実現」「医師偏在対策」「医師の働き方改革」が相互に連関していることに疑いはありません。しかし、地域医療構想の実現に向けて、実質的に「手一杯」となっている地域医療構想調整会議で「偏在対策」「働き方改革」も同時に検討せよと求めることは難しいかもしれません。国や学識者(地域医療構想アドバイザー)による一層の支援も待たれます。

 

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