2021年3月からマイナンバーカードに「保険証機能」付与、既存保険証が使えなくなる訳ではない―社保審・医療保険部会



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 改正健康保険法等が成立し、そこでは「オンラインでの医療保険の資格確認」導入が盛り込まれた。政府は、いわゆるマイナンバーカード(個人番号カード)の普及促進に向けて▼2021年3月からマイナンバーカードの健康保険証利用の仕組みを本格運用する▼2022年度中に概ねすべての医療機関でマイナンバーカードによる資格確認を導入する―方針を固めた。ただし、現在の現在の健康保険証が利用できなくなるわけではない―。

 6月12日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、こういった点が確認されました(関連記事はこちら)。

なお、いわゆる骨太方針2019(経済財政運営と改革の基本方針2019)では「給付と負担の見直しについては、骨太方針2020で政策を取りまとめる」とされる見込みである点について、医療保険者代表委員を中心に「できるだけ早期に給付と負担の見直し論議を始めるべき」との意見が相次ぎました。

6月12日に開催された、「第118回 社会保障審議会 医療保険部会」
6月12日に開催された、「第118回 社会保障審議会 医療保険部会」
 

マイナンバーカードの普及促進を狙った「保険証機能」付与

▼健康寿命の延伸に向けた「高齢者の保健事業と介護予防事業との一体的実施」▼NDB・介護DBの連結解析▼オンライン資格確認の導入▼電子カルテの標準化等に向けた「医療情報化支援基金」の創設―などを盛り込んだ、改正健康保険法(医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等の一部を改正する法律)が5月15日に成立し、5月22日に公布されました(関連記事はこちら)。

このうち「オンライン資格確認」は、医療保険事務の円滑化・確実化を目指すものです。例えば「企業で働いていたサラリーマンが、退職後にも在職中の被保険者証(保険証)を返還せずに使用して診療を受ける」事例が少なからずあります(1か月当たり30万―40万件)。この場合、医療機関は保険者証を発行した保険者(健康保険組合や協会けんぽ)に7割分の請求を行いますが(社会保険診療報酬支払基金を通じて保険者に請求を行う)、その人は既に退職しているため、「医療機関への支払いが行われない」あるいは「保険者が退職者分(その人は保険料を支払っていない)の医療費を負担する」ことになってしまいます。

オンライン資格確認を導入することで、こうした「無資格者の受診」を事前に防止することが可能となるのです(関連記事はこちらこちら)。
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これに関連して、政府は「マイナンバーカードを保険者証として利用できる」仕組みを導入します。具体的には、▼2021年3月からマイナンバーカードの保険証として利用できる仕組みを本格運用する▼2022年度中に概ねすべての医療機関でマイナンバーカードによる資格確認を導入する―というスケジュールが描かれています。マイナンバーカードの利便性を上げ、マイナンバーカードの普及を促す狙いがあります。

ただし、ここで留意すべきは「マイナンバーカードに保険証の機能も持たせる」に過ぎないという点です。「既存の保険証が使えなくなる」「マイナンバーカードを医療機関に持参しなければ保険診療を受けられなくなる」訳ではありません。松原謙治委員(日本医師会副会長)は「『紛失の恐れもあり、大事なものは持って歩きたくない』という人も少なくない。医療機関側の対応(カードリーダーの設置など)にも一定の時間がかかる」ことを指摘し、誤った情報(既存の保険証が使えなくなる、など)が広まらないように留意すべきとの考えを強調しています。

 
なお、松原委員の指摘にもあるようにオンライン資格確認を行うためには、医療機関や薬局の窓口に「カードリーダー」などを設置することが必要で、これは医療機関に「導入コスト」が生じることを意味します。

このため改正健保法では「医療情報化支援基金」を創設(2019年度予算では300億円を計上)。医療機関における初期の設備導入経費などを補助するとともに、「電子カルテの標準化」(例えば、異なるベンダーの電子カルテシステムのデータを連結するコンバータシステムの導入など)に向けた経費も補助することになります。今後、具体的な補助要件などが示されることになります(関連記事はこちらこちら)。
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レセプト審査における判断基準統一化に向け、厚労省・支払基金・国保連の連絡会

 改正健保法では、「審査支払機関の機能の強化」に向けて、▼社会保険診療報酬支払基金(以下、支払基金)の支部長権限を本部に集約する(2021年4月から)▼医療保険データの分析を支払基金および国民健康保険団体連合会(以下、国保連)業務に追加する(2020年10月から)―などが行われます。

 審査支払に関しては、「支払基金と国保連とで審査の内容に差がある」「支払基金の中でも支部によって審査内容に差がある」と指摘されています。こうした差異の解消に向けて、支払基金では▼支部独自チェックルールの見直し(2017年10月に約14万件あった支部ルールを2019年2月時点で約5万1千件に減少させた。さらに10月までに約2万件に減少させ、2021年9月の新システム稼働時までに既存支部点検条件の集約を完了させる)▼本部審査の拡大(2018年10月診療分のレセプトから本部の特別審査委員会での審査対象を「38万点以上のレセプト」(従前は40万点以上のもの)に拡大するなど)▼審査基準の統一化―などを、国保連・国民健康保険中央会では▼統一的なコンピュータチェックルールの設定▼審査基準の統一化(8割以上の国保連が採用するルールを全国保連共通の審査基準とするなど)―などを行っています。
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さらに、厚労省保険局医療課の森光敬子課長は、「審査支払機関における審査の判断基準の統一化を推進するための連絡会議」(仮称)を今夏(2019年夏)より設置・運営する考えを示しました。厚労省・支払基金・国保連の3者が集い(必要に応じて学識経験者に参加を要請する)、現行の診療報酬ルールの中で「審査の際に全国統一的な判断基準が必要と思われるものについて検討し、統一的な判断基準を提供する」ものです。当面はレセプトの多い「医科」を中心に、審査の判断基準統一化に向けた具体的・技術的な検討が行われる見込みです。

この点について松原委員は「個々人で傷病からの回復状況などは異なり、単純かつ一律な審査ルールは設けられないのではないか。これまで医療現場で『患者のために良かれ』と考えて行っていた対応が否定されてしまうのは困る」と述べ、医療現場にも配慮した統一的判断基準を設けるよう要請しています。

被扶養者に「国内居住」要件を導入、海外への留学生などの例外規定を整備

 なお改正健保法では、「外国人が我が国に一定期間居住する場合には、医療保険に加入する(被保険者となる)が、外国に住む家族を被扶養者として一時的に呼び寄せ、不適切に我が国の医療保険を利用させる」「不正な在留者が国民健康保険に加入し、医療保険を利用する」といった不適切事例を防止するために、医療保険の被扶養者について「原則として国内居住者とする」旨の限定が行われました。

 ただし、この原則を貫くと「海外に留学している家族(被扶養者)が、医療保険を利用できなくなる」こともあるため、「国内に居住していなくとも例外的に被扶養者と認定する」基準と「国内に居住していても例外的に被扶養者と認めない」基準を定める必要があります。この点、6月12日の医療保険部会では、次のような考え方を固めました。

【国内に居住していなくとも例外的に被扶養者と認定する】ケース
▼外国において留学をする学生
▼日本からの海外赴任に同行する家族
▼海外赴任中の身分関係の変更により新たな同行家族とみなすことができる者(海外赴任中に生まれた被保険者の子どもや、海外赴任中に結婚した被保険者の配偶者など)
▼観光・保養やボランティアなど就労以外の目的で一時的に日本から海外に渡航している者(ワーキングホリデー、青年海外協力隊など)
▼その他日本に生活の基礎があると認められる特別な事情があるとして保険者が判断する者

【国内に居住していても例外的に被扶養者と認めない】ケース(いずれも我が国の医療保険を利用せず、自費で医療を受けることを前提にビザが発行されている)
▼「医療滞在ビザ」で来日した者
▼「観光・保養を目的とするロングステイビザ」で来日した者(富裕層を対象とした最長1年のビザ)

 詳細(日本に生活の基礎があると認められる特別な事情など)について、医療保険者や企業の意見を踏まえて決定し、今後、具厚労省通知で規定することになります。医療保険者を代表する佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)や安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は「保険者が判断で困らないように基準を明確にし、疑義が生じた場合には速やかに回答する体制も整えてほしい」と要望しています。

 なお、この「国内居住要件」の導入により、「現在は被扶養者であっても、被扶養者でなくなる」人が出てきます。この場合、「今日からは全額自費で支払ってください」と求めることが酷なケースもあることから、「施行日(2020年4月1日)時点で医療機関に入院している被扶養者は、国内居住要件により被扶養者でなくなっても、当該入院期間中は継続して被扶養者と認める」との経過措置が設けられる見込みです。

医療保険者代表委員、「給付と負担の見直し」論議を早急に始めよと強調

現在、経済財政諮問会議において「骨太方針2019」(経済財政運営と改革の基本方針2019)の策定に向けた議論が進められています(原案が示され、2019年6月中に取りまとめの予定)。そこでは「給付と負担の見直しについては、骨太方針2020で政策を取りまとめる」とされる見込みとなっています。

少子高齢化が進展し、医療保険制度の持続可能性が揺らぐ中では、例えば▼75歳以上の後期高齢者において、現在、原則1割となっている窓口負担(一部負担)を2割にすべきか▼保険給付範囲の在り方をどう考えるべきか▼高額所得者により多くの負担をしてもらうべきなのか―など「給付と負担の見直し」は、喫緊かつ避けられない最重要課題です。しかし、今夏には参院選(3年ごとに半数を改選する)等が控えているため、「議論を先送り」した形となっています。

この点について6月12日の医療保険部会では、医療保険者を代表する佐野委員・安藤委員から「いわゆる団塊の世代が2022年度から75歳以上の後期高齢者となり始め、医療費(つまり給付)が急増していくと見込まれる。早期に給付と負担の見直し論議を始めるべきである」との強い要望が出されました。

とくに後期高齢者の窓口負担については、今年度(2019年度)より「75歳に新たに到達した人から2割負担とする」仕組みを導入できていれば、個々人での負担増とならずに、連続して切れ目なく「70歳以降は原則2割負担とする」ことが可能でした(2014年度から「新たに70歳に到達する人において2割負担とする」仕組みを導入しており、2018年度で「70-74歳の2割負担」が完了していた)。

70-74歳の前期高齢者の自己負担割合は、段階的に1割から2割に引き上げられているが、個人単位で「従前は1割であったものが2割にアップする」わけではない
70-74歳の前期高齢者の自己負担割合は、段階的に1割から2割に引き上げられているが、個人単位で「従前は1割であったものが2割にアップする」わけではない
 
こうした点も踏まえ佐野委員や安藤委員には「対応が遅すぎる」という忸怩たる思いがあると考えられます(関連記事はこちら)。

なお、健保連と全国健康保険協会では「軽症者の保険給付の在り方」見直しを検討すべきとの提言も行っており(関連記事はこちら)、今後の本格的な「給付と負担の見直し」論議に注目が集まります。

 
 

 

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