医療・福祉の生産性向上に向け、特定行為研修修了看護師の増員、民間病院の再編・統合など進める―厚労省



Pocket

 少子高齢化(特に現役世代の減少)がますます進む2040年に向けて、医療・福祉サービスの生産性向上を進める必要がある。例えば、医師からの業務移管先となる特定行為研修を修了した看護師を2023年度までに1万人養成し、またデータヘルス改革やロボット・AI・ICTの活用を推進し、さらに民間の医療機関についても大規模化・協働化などを進め、2040年までに医師の生産性を7%、その他スタッフの生産性を5%向上させる―。

 厚生労働省の「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」は5月29日、こうした考えをとりまとめました(厚労省のサイトはこちら(第2回「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」資料))。

 民間の医療機関についても「大規模化」が打ち出されており、地域の医療提供体制の再編が加速度的に進む可能性もあります。

2040年に向けて現役世代が激減、医療・福祉分野の生産性向上が必須課題

 2025年度には、いわゆる団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となることから、今後、医療・介護ニーズが急速に増加していきます。その後、2040年にかけて、高齢化のスピードこそ鈍化するものの、社会保障の支え手となる現役世代人口が急速に減少していくことが分かっています。減少する若人(現役世代)で、増加する高齢者を支えなければならず、社会保障制度の基盤は極めて脆くなっていきます。

 また、費用面だけでなく、医療・介護サービスを提供する人材(マンパワー)確保も困難となるため、質の高いサービスを、いかに効率的に提供していくかも重要論点の1つとなります。厚労省の推計では、2040年度に医療・福祉等人材は現状ベースで1065万人必要となりますが、労働力需要・労働力供給を勘案した「医療・福祉」の就業者数は2040年度に974万人にとどまる見込みで、ICTやロボットの活用、いわゆる「元気高齢者」の活用などによって生産性を向上していくことが求められています。
 
 こうした状況を踏まえ、厚労省は▼多様な就労・社会参加▼健康寿命の延伸▼医療・福祉サービス改革▼給付と負担の見直し等による社会保障の持続可能性の確保―を柱とする社会保障制度改革に向けた検討を、根本匠厚生労働大臣を本部長とする「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」で進め、今般の取りまとめに至ったものです。取りまとめ内容は、(1)多様な就労・社会参加(70歳までの就業機会の確保や、いわゆる氷河期世代の支援など)(2)健康寿命の延伸(生活習慣病対策、疾病の重症化防止、介護予防など)(3)医療・福祉サービス改革―の3項目です。「持続可能性の確保」(給付と負担の見直し)は、引き続き検討が進められます。
2040年度社会保障改革案1 190529

2040年度社会保障改革案2 190529

2040年度社会保障改革案3 190529

ここでは、(3)の医療・福祉サービス改革に焦点を合わせてみましょう。

 前述のように、高齢化が進展し、一方で現役世代が減少する中では、医療・福祉サービスを効果的かつ効率的に提供する(つまり生産性を向上させる)ことが不可欠となります。厚労省は、次の4施策を進めることで生産性向上を狙う考えです。働き方改革にも直結する内容で、2040年度時点で「医療・福祉分野の単位時間サービス提供量を5%(医師については7%)以上改善する」ことを目指しています(関連記事はこちら)。
(I)ロボット・AI・ICT等の実用化推進、データヘルス改革
(II)組織マネジメント改革
(III)タスク・シフティング、シニア人材の活用推進
(IV)経営の大規模化・協働化

2040年度社会保障改革案4 190529
 

データヘルス改革を強力に推進し、効果的・効率的な医療・介護サービスを提供

 まず(I)では経済産業省、文部科学省等とも連携して「ロボット」「AI・ICT」などの実用化を推進するとともに、「データヘルス改革」を行います。具体的には、▼がんゲノム医療(個々のがん患者の遺伝子変異を解析し、データベースに照らし最適な抗がん剤等を選択する)▼PHR(個人の健診結果や服薬履歴等の情報を、電子記録として本人や家族が正確に把握するための仕組み、personal health record)▼医療・介護現場の情報連携(保健医療情報を全国の医療機関等で確認できる仕組み)▼ナショナル・データベース(NDB、医療レセプトと特定健診データを格納)と介護保険総合データベース(介護DB、介護レセプトと要介護認定データを格納)等の連結解析、行政・研究者・民間企業等による公益的な利活用―を推進していきます。エビデンスに基づいて、効果的で、かつ効率的な医療・介護・福祉を提供することで、スタッフの生産性が向上するとともに、患者・利用者の負担軽減も実現できます。

また、介護業務について業務仕分け(専門資格保有者でなければできない業務と、そうでない業務など)を進めて、いわゆる元気高齢者に助力を求めたり、ロボット等の活用を図ることで、「介護専門職種が、専門的業務に集中できる」環境を整えていきます(関連記事はこちら)。

さらに、規制改革推進会議などで強く求められている「オンライン服薬指導」の実施に向けた検討が進められます。例えば、在宅療養患者に対し、薬局薬剤師が患者宅を必ずしも訪問することなく、効率的に服薬指導できる環境整備を検討することになり、必要に応じて「オンライン診療の適切な実施に関する指針」などの見直しも行うことになるでしょう。

2023年度までに「特定行為研修を修了した看護師」を1万人養成

また(II)のタスク・シフティングに関しては、医師からの業務移管を受ける人材の育成に努めることになります。例えば、外科等の領域で活躍する「特定行為研修を修了した看護師」を2023年度までに「1万人」育成するほか、入門的研修を通じて介護施設等とマッチングしたシニア層(いわゆる元気高齢者に介護助手として活躍してもらう)の数を2018年度から2021年度にかけて15%増加することを目指します。

これらは、まさに「医師の働き方改革」等で求められている点で、医療・介護現場からの期待に応えられるよう、積極的な推進が求められます。

2020年度診療報酬改定に向け「入院料の報酬体系改革」の効果を検証

さらに(III)の組織マネジメント改革では、▼意識改革、業務効率化等による医療機関における労働時間短縮(病院長向けのトップマネジメント研修の実施や優良事例の全国展開など)▼福祉分野の生産性向上ガイドラインの作成・普及・改善(介護事業所における作成文書の見直し、ICT化、職員配置の見直し、業務プロセスの構築、介護ロボット活用などのガイドライン作成と普及)▼現場の効率化に向けた工夫を促す報酬制度への見直し(実績評価の拡充など)▼文書量削減(2020年代初頭までに介護の文書量半減)、報酬改定対応コストの削減―などに取り組みます。

このうち「報酬」に関しては2020年度の次期診療報酬、2021年度の次期介護報酬改定に向けて、例えば▼入院料の報酬体系見直し(2018年度改定)の効果検証▼ADL維持等加算(介護報酬におけるアウトカム評価)の効果検証―など具体的な報酬項目にも言及しています。

入院料(とくに急性期一般病棟入院基本料)については、看護配置などに応じた「基本部分」と重症患者受け入れ状況などに応じた「実績評価部分」を組み合わせる形となり、これにより「個々の患者の状態に応じて適切に医療資源が投入され、効果的・効率的に質の高い入院医療が提供できる環境が整った」と分析。効果を検証したうえで、さらなる見直しに向けた検討を中央社会保険医療協議会で進めることになるでしょう(関連記事はこちら)。
2018年度改定(急性期一般入院基本料)1 180305
 
またADL維持等加算は、「利用者(特に重度者)のADLが維持・改善されるようなサービス提供を行っている」通所介護事業所を評価するもので、本格的な「アウトカム評価」と言えます。介護報酬は、要介護度が高くなるにつれ単位数も高くなることから、ともすれば「事業所側、利用者・家族側は要介護度の改善に消極的ですらある」との指摘もあります。ADL維持等加算の成果如何によっては、各事業所がこれまで以上に「要介護度の改善に向けたサービス」を積極的に行い、結果として介護費の適正化や利用者のADL・QOL改善につながると期待されます。こちらは社会保障審議会の介護給付費分科会で検討が進められます(関連記事はこちら)。

新設されたADL維持等加算の概要
新設されたADL維持等加算の概要

民間の医療機関にも「大規模化・協働化」を促す、医療の質向上にも必要不可欠

一方(IV)の経営の大規模化・協働化は、共通コスト(例えばアドミニレーションコスト)の削減や、スタッフのタスク・シェアリングに向けて非常に重要な視点です。例えば、救急医療機関が、地域に多数ある場合、それぞれの医療機関で少なからぬ人数のスタッフが「待機」をし、必要な機器の整備などを行う必要があります。これを集約化(大規模化につながる)・協働化(連携など)することで、待機スタッフ・機器コストの削減を図ることが可能となります。また地域の人口減少が進む中では、集約化を進めなければ「患者・利用者獲得競争の激化に伴う共倒れ」が生じかねません。さらに、症例数の集約は、医療の質向上にとって欠かせないことが、米国メイヨ―クリニックとグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンとの共同研究で明らかになっており、大規模化・協働化は「国民のためになる」と言えます(もちろん、アクセス確保への配慮は必要)。

膝関節置換術において、症例数と合併症発生率との間には逆相関がある
膝関節置換術において、症例数と合併症発生率との間には逆相関がある
 
この点について厚労省は、▼医療法人・社会福祉法人それぞれの合併等好事例の普及(2019年度に好事例を収集・分析し、2020年度に全国展開)▼医療法人の経営統合等に向けたインセンティブの付与(2019年度に優遇融資制度を創設し、2020年度から実施)▼社会福祉法人の事業の協働化等の促進方策等の検討会の設置(2019年度に検討会を設置し、結果を取りまとめる)―考えを打ち出しました。

現在、地域医療構想の実現に向けて「公立病院」「公的病院等」の再編・統合を、地域の実情や個別医療機関の診療実績を踏まえて進める方向で動いていますが、今後、民間医療機関についても再編・統合に向けた検討が進むことになるでしょう。そこでは、法人の統合までいかずとも、地域の連携を強化する「地域医療連携推進法人」なども重要な選択肢の1つとなってきます(関連記事はこちらこちらこちら)。

 
 

 

MW_GHC_logo

 

【関連記事】

2040年に向けた社会保障改革、19年夏には厚労省が健康寿命延伸や医療・福祉サービス改革プラン策定―社保審

 
医師働き方の改革内容まとまる、ただちに全医療機関で労務管理・労働時間短縮進めよ―医師働き方改革検討会
医師の時間外労働上限、医療現場が「遵守できる」と感じる基準でなければ実効性なし―医師働き方改革検討会
研修医等の労働上限特例(C水準)、根拠に基づき見直すが、A水準(960時間)目指すわけではない―医師働き方改革検討会(2)
「特定医師の長時間労働が常態化」している過疎地の救急病院など、優先的に医師派遣―医師働き方改革検討会(1)

研修医や専攻医、高度技能の取得希望医師、最長1860時間までの時間外労働を認めてはどうか―医師働き方改革検討会(2)
救急病院などの時間外労働上限、厚労省が「年間1860時間以内」の新提案―医師働き方改革検討会(1)
勤務員の健康確保に向け、勤務間インターバルや代償休息、産業医等による面接指導など実施―医師働き方改革検討会(2)
全医療機関で36協定・労働時間短縮を、例外的に救急病院等で別途の上限設定可能―医師働き方改革検討会(1)
勤務医の時間外労働上限「2000時間」案、基礎データを精査し「より短時間の再提案」可能性も―医師働き方改革検討会
地域医療構想・医師偏在対策・医師働き方改革は相互に「連環」している―厚労省・吉田医政局長
勤務医の年間時間外労働上限、一般病院では960時間、救急病院等では2000時間としてはどうか―医師働き方改革検討会
医師働き方改革論議が骨子案に向けて白熱、近く時間外労働上限の具体案も提示―医師働き方改革検討会
勤務医の働き方、連続28時間以内、インターバル9時間以上は現実的か―医師働き方改革検討会
勤務医の時間外労働の上限、健康確保策を講じた上で「一般則の特例」を設けてはどうか―医師働き方改革検討会
勤務医の時間外行為、「研鑽か、労働か」切り分け、外形的に判断できるようにしてはどうか―医師働き方改革検討会
医師の健康確保、「労働時間」よりも「6時間以上の睡眠時間」が重要―医師働き方改革検討会
「医師の自己研鑽が労働に該当するか」の基準案をどう作成し、運用するかが重要課題―医師働き方改革検討会(2)
医師は応召義務を厳しく捉え過ぎている、場面に応じた応召義務の在り方を整理―医師働き方改革検討会(1)
「時間外労働の上限」の超過は、応召義務を免れる「正当な理由」になるのか―医師働き方改革検討会(2)
勤務医の宿日直・自己研鑽の在り方、タスクシフトなども併せて検討を―医師働き方改革検討会(1)
民間生保の診断書様式、統一化・簡素化に向けて厚労省と金融庁が協議―医師働き方改革検討会(2)
医師の労働時間上限、過労死ライン等参考に「一般労働者と異なる特別条項」等設けよ―医師働き方改革検討会(1)

 
医師偏在対策を了承、各都道府県で2019年度に医師確保計画を策定し、20年度から実行―医療従事者の需給検討会
医師偏在対策まとまる、2019年度に各都道府県で「医師確保計画」定め、2020年度から稼働―医師需給分科会(2)
産科医が最少の医療圏は北海道の北空知(深川市等)と留萌、小児科では埼玉県の児玉(本庄市等)―医師需給分科会(1)
2036年の医療ニーズ充足には、毎年、内科2946名、外科1217名等の医師養成が必要―医師需給分科会(3)
2036年には、各都道府県・2次医療圏でどの程度の医師不足となるのか、厚労省が試算―医師需給分科会(2)
最も医師少数の2次医療圏は「北秋田」、最多数は「東京都区中央部」で格差は10.9倍―医師需給分科会(1)

 
公立・公的病院等の機能改革、「医師働き方改革」「医師偏在対策」と整合する形で進めよ―地域医療構想ワーキング(1)
公立病院等、診療実績踏まえ「再編統合」「一部機能の他病院への移管」を2019年夏から再検証―地域医療構想ワーキング
公立病院等の機能、▼代表的手術の実績▼患者の重症度▼地理的状況―の3点で検討・検証せよ―地域医療構想ワーキング
CT・MRIなどの高額機器、地域の配置状況を可視化し、共同利用を推進―地域医療構想ワーキング(2)
主要手術の公民比率など見て、構想区域ごとに公立・公的等病院の機能を検証―地域医療構想ワーキング(1)
公立・公的病院の機能分化、調整会議での合意内容の適切性・妥当性を検証―地域医療構想ワーキング
地域医療構想調整会議、多数決等での機能決定は不適切―地域医療構想ワーキング
大阪府、急性期度の低い病棟を「地域急性期」(便宜的に回復期)とし、地域医療構想調整会議の議論を活性化—厚労省・医療政策研修会
地域医療構想調整会議、本音で語り合うことは難しい、まずはアドバイザーに期待―地域医療構想ワーキング(2)
公立・公的病院と民間病院が競合する地域、公立等でなければ担えない機能を明確に―地域医療構想ワーキング(1)
全身管理や救急医療など実施しない病棟、2018年度以降「急性期等」との報告不可―地域医療構想ワーキング(2)
都道府県ごとに「急性期や回復期の目安」定め、調整会議の議論活性化を―地域医療構想ワーキング(1)

都道府県担当者は「県立病院改革」から逃げてはいけない―厚労省・医療政策研修会

 
医師の働き方改革、入院基本料や加算の引き上げなどで対応すべきか―中医協総会(2)
がんゲノム医療の推進に向け、遺伝子パネル検査を6月から保険収載―中医協総会(1)
外来医療の機能分化に向け、「紹介状なし患者の定額負担」「かかりつけ医機能の評価」など議論―中医協総会(2)
画期的な白血病治療薬「キムリア」を保険収載、薬価は3349万円―中医協総会(1)
高齢者へのフレイル・認知症・ポリファーマシ―対策、診療報酬でどうサポートすべきか―中医協総会(3)
診療報酬で生活習慣病の重症化予防、治療と仕事の両立をどう進めていくか―中医協総会(2)
遺伝子パネル検査の保険収載に向けた検討進む、C-CATへのデータ提出等を検査料の算定要件に―中医協総会(1)
「院内助産」「外来での妊産婦対応」を診療報酬でどう支援していくべきか―中医協総会(2)
2020年度改定論議スタート、小児疾患の特性踏まえた診療報酬体系になっているか―中医協総会(1)
2020年度診療報酬改定に向け、「医師働き方改革」等のテーマ別や患者の年代別に課題を議論―中医協総会
東日本大震災を受けた診療報酬の被災地特例、福島では継続するが、宮城・岩手は最長2021年3月で終了―中医協総会(2)
要介護高齢者への維持期「疾患別リハ料」は2019年3月末で終了、介護保険への移行完了―中医協総会(1)

 
保険診療上の【オンライン診療料】、実施指針よりも厳格に運用―疑義解釈1【2018年度診療報酬改定】(3)
医療安全のピアレビュー、抗菌薬の適正使用推進を評価する加算を新設―疑義解釈1【2018年度診療報酬改定】(2)
看護必要度IIの詳細、入院時支援加算における専従・専任看護師の規定など解説―疑義解釈1【2018年度診療報酬改定】(1)

外来から入院、退院後の在宅医療までをマネジメントするPFM、さまざまなメリットが!
鈴木医務技監・迫井医療課長がGHC改定セミナーに登壇!「重症患者受け入れ」に軸足を置いた入院報酬に!

200床以上で看護必要度II要件を満たさない場合、急性期一般入院料2・3は届出可能か―厚労省
DPCのEF統合ファイル用いる看護必要度II、選択可能な病院の条件を提示―厚労省

2018年度診療報酬改定、答申内容を一部訂正―厚労省
【2018年度診療報酬改定答申・速報6】がん治療と仕事の両立目指し、治療医と産業医の連携を診療報酬で評価
【2018年度診療報酬改定答申・速報5】在総管と施設総管、通院困難患者への医学管理を上乗せ評価
【2018年度診療報酬改定答申・速報4】医療従事者の負担軽減に向け、医師事務作業補助体制加算を50点引き上げ
【2018年度診療報酬改定答申・速報3】かかりつけ機能持つ医療機関、初診時に80点を加算
【2018年度診療報酬改定答申・速報2】入院サポートセンター等による支援、200点の【入院時支援加算】で評価
【2018年度診療報酬改定答申・速報1】7対1と10対1の中間の入院料、1561点と1491点に設定

Pocket