災害拠点病院の医療機能維持に必要な燃料・水確保のため、指定要件見直し―救急・災害医療提供体制検討会(1)



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 災害拠点病院について、災害時にも必要な医療提供を行える機能を維持するため、「送電がストップした場合に備えた十分な燃料の備蓄」や「3日分以上の受水槽や井戸の整備・確保」などを指定要件に加え、2021年4月から義務化する―。

 5月23日に開催された「救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった点が了承されました。これを受け、厚生労働省は災害拠点病院の指定要件(医政局長通知)見直し作業に入ります。

検討会では、災害拠点病院の指定要件を大きく見直すべきとの指摘も出ており、将来に向けた検討が引き続き行われます。

5月23日に開催された、「第14回 救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会」
5月23日に開催された、「第14回 救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会」
 

地域全体で電力がストップした経験など踏まえ、燃料・水確保の重要性を再認識

 昨年(2018年)には「北海道胆振地震」や「西日本豪雨」など大規模な自然災害が相次ぎ、災害拠点病院等の体制整備の重要性が再確認されました。とくに、2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震では、北海道全域が停電する事態が生じ、「電源」「水」の確保の重要性が改めて認識されています。

 しかし、内閣官房の調査によれば、自家発電設備等(144病院:災害拠点病院114、救命救急センター1、周産期母子医療センター29)、受水槽の水確保(207病院:災害拠点病院177、救命救急センター1、周産期母子医療センター26)などに問題のある災害拠点病院等も一部あることが分かりました(関連記事はこちら)。
救急・災害医療提供体制検討会3 181220
 
 こうした状況を改善するために、検討会では、▼各都道府県において、災害拠点病院が指定要件に合致しているかを再確認し、要件を満たさない場合には、対応方針を聴取する▼病院の診療機能を3日程度維持できる量の水確保などを災害拠点病院の指定要件に盛り込む―などの方針を昨年末に固めました(関連記事はこちら)。

今般、この方針に沿って厚生労働省は、次のような具体的な「災害拠点病院の指定要件見直し」案を提示し、概ね了承されました。

(1)燃料の確保
【現在の指定要件】
▽「通常時の6割程度の発電容量のある自家発電機等を保有し、3日分程度の燃料を確保しておくこと」など(厚労省のサイトはこちら(指定要件に関する医政局長通知)

【見直し内容】
▽容量要件は、現状の「通常時の6割程度の発電容量のある自家発電機等」を維持する
外部のインフラの損壊等により電力供給が継続できなくなること(電力会社からの送電ストップなど)を踏まえ、「燃料の備蓄」を明示する。都市ガスの場合は、他の電力系統(都市ガスを除く)への切り替えなども勘案した備蓄について規定する

 
(2)水の確保
【現在の指定要件】
▽「適切な容量の受水槽保有、停電時にも使用可能な井戸設備の整備、優先的な給水協定の締結等」により、災害時の診療に必要な水を確保する(厚労省のサイトはこちら(指定要件に関する医政局長通知)

【見直し内容】
▽「少なくとも3日分の病院機能を維持できる水の確保が望ましい」旨を明記する
▽ただし、病院内外のインフラ整備状況に鑑み、その確保は、▼受水槽の確保▼停電時にも利用可能な地下水利用―の「いずれでも良い」とし、「必要に応じて優先的な給水協定の締結等を行う」こととする

 
(3)経過措置
▽「燃料の確保」「水の確保」について、2021年3月までに整備
することを前提に、災害拠点病院の指定継続を可能とする(つまり2021年4月から完全義務付けとする)

 
 今後、厚労省内で指定要件の見直し(厚労省医政局長通知の改正)作業を進めることになります(改正時期は未定)。

将来に向けて「災害拠点病院の指定要件の在り方」そのものの検討も

 
このように災害拠点病院の指定要件見直し内容が固められましたが、検討会では「さらなる指定要件の見直しを考えていく必要がある」との指摘も出ています。

森村尚登構成員(東京大学大学院医学系研究科救急科学教授)は、「例えば燃料確保について『通常の6割程度』では、とても災害拠点病院に求められる機能を維持することはできない。今後、災害時に拠点病院においては『どの程度の機能確保が必要なのか』を研究し、根拠に基づいた明確な基準を検討していく必要がある。電力確保は病院にとって必要不可欠であり、曖昧な基準は好ましくない」と強調。

 関連して大友康裕構成員(東京医科歯科大学大学院救急災害医学分野教授)は、「災害時には、通常よりも徹底した節水などを行う。『3日分の水確保』についても具体的にどの程度の量が必要となるのか研究を進める必要がある」と指摘しました。

ただし、「発電機の購入やメンテナンスには相当なコストがかかる。病院の負担も考慮しなければならない」(加納繁照構成員:日本医療法人協会会長)といった指摘もあり、今後、さまざまな側面(基準を厳しくした場合には補助を行うなど)からの検討が必要となるでしょう。

さらに大友構成員は、災害拠点病院の指定要件における「災害時には患者が多数発生し、入院では『通常時の2倍』程度、外来では『通常時の5倍』程度に対応可能な設備・スペースの確保が望ましい」とされている点(厚労省のサイトはこちら(指定要件に関する医政局長通知))について、「『望ましい要件』であり、これを満たせている災害拠点病院はないのではないか。現実的な基準を検討する必要がある」とも指摘しています。

こうした指摘を踏まえ、遠藤久夫座長(国立社会保障・人口問題研究所所長)は、「将来に向けて、『災害拠点病院の指定要件の在り方』の検討を続けていく」考えを示しています。

2018年10月時点では、災害拠点病院の3割でBCPが未策定

 ところで、災害拠点病院にはBCP(事業継続計画、業務継続計画:Business continuity planning)の策定が今年(2019年)4月1日から義務付けられています(2018年度から指定要件化(義務付け)され、ただし2019年3月31日までに策定することを前提に指定継続が可能とされている、厚労省のサイトはこちら(指定要件に関する医政局長通知)))(関連記事はこちら)。
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 この点、厚労省が昨年(2018年)10月1日時点における病院のBCP策定状況を調査したところ、▼病院全体:25.0%▼災害拠点病院:71.2%▼救命救急センター(災害拠点病院以外):66.7%▼周産期母子医療センター(同):30.9%▼災害拠点病院等以外の病院:20.1%―であることが分かりました。
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 2013年度に内閣府が行った「特定分野における事業継続に関する実態調査」によれば、医療施設におけるBCP策定状況は「17.4%」(策定済み:7.1%、策定中:10.3%)であったことから、母数等は異なるものの「BCP策定は病院全体で7.6ポイント向上している」と考えることもできます。厚労省は、災害拠点病院等の担当者を対象とした「BCP策定研修事業」などが「一定の効果を上げている」と分析しています。
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 しかし、BCP策定が必要な災害拠点病院でも3割近くが「未策定であった」という状況には、前述したとおり2019年3月までは必ずしも策定していなくとも良かったとはいえ、「(想定よりも少なく)驚きである」(大友構成員)との声も出ています。厚労省は、完全義務付けとなった「2019年4月1日以降」の状況を近く再調査する考えを明確にしており、そこで「100%策定」という結果が出るか注目が集まります。すでに現在では、BCPが未策定である場合には「指定要件を満たしていない」こととなり、都道府県の指定が解除される可能性も否定できません(その場合、診療報酬上ではDPCの機能評価係数IIなどで不利になる)。

 
 なお、大友構成員は「策定済みの病院であっても、本当に使えるBCPとなっているか確認する必要があるのではないか」と指摘。厚労省に対し「策定しているか否か、とは別に、BCPの内容に関する調査も行ってほしい」と要望しています。

 この点に関連して森村構成員は、「部門別のBCPでは不十分で、患者を中心に医療提供を継続できるようなBCPが策定に向けた研修や情報提供も進めてほしい」と要望しています。

 自然災害や感染症が蔓延したような場合には、多くの病院において「限られたスタッフ」(出勤できないスタッフが数多く発生する)で「多数の患者」(傷病者が増加する)に医療を提供することが求められることから、災害拠点病院以外の病院でも、可能な限りBCPを策定し、備えをしておくことが望まれます。南海トラフ地震などに備えて、今から、少なくとも情報収集等をしておくことが重要でしょう。

【更新履歴】遠藤座長のお名前を誤って記載しておりました。大変失礼いたしました。お詫びして訂正いたします。記事は訂正済。

 
 

 

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