高齢化踏まえ、介護離職ゼロを目指し、既存資源も活用した介護サービスの整備を―社保審・介護保険部会



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 地域ごとに異なる高齢化の進展状況を踏まえ、また介護離職ゼロに向けて、必要な介護サービスを整備していく必要がある。そこでは「既存資源」の有効活用が極めて重要で、その一環として「介護療養や医療療養から介護医療院への円滑な転換」などがあげられる。さらに、サービス整備で重要となるのは「介護人材」の確保である―。

 5月23日に開催された社会保障審議会・介護保険部会で、こういった議論が行われました(関連記事はこちらこちら)。

5月23日に開催された、「第77回 社会保障審議会 介護保険部会」
5月23日に開催された、「第77回 社会保障審議会 介護保険部会」
 

75歳以上・85歳以上では介護ニーズが急騰するが、地域で高齢化の状況は異なる

 介護保険制度は3年を1期とした介護保険事業計画(市町村が作成)・介護保険事業支援計画(都道府県が作成)に基づき運営されます。現在、2018-20年度を対象とする第7期介護保険事業(支援)計画が動いており、2021年度から第8期計画がスタートします。この第8期計画を睨み、介護保険部会で「介護保険制度改正」論議が進められています。

 第8期計画は、2020年度に各都道府県で作成することになるため、介護保険部会では「2019年中に意見(制度改正内容)を取りまとめ、2020年の通常国会に介護保険法等改正案を提出し、成立を待つ」というスケジュール感で議論を進めています。

 まず夏までに、制度全般に関連する【横断的検討事項】として、(1)介護予防・健康づくりの推進(健康寿命の延伸)(2)保険者機能の強化(地域保険としての地域の繋がり機能・マネジメント機能の強化)(3)地域包括ケアシステムの推進(多様なニーズに対応した介護の提供・整備)(4)認知症「共生」・「予防」の推進(5)持続可能な制度の再構築・介護現場の革新―という5項目を議論し、秋以降の【具体的な制度改正論議】につなげます(関連記事はこちらこちら)。

 
 5月23日の会合では、(3)の「地域包括ケアシステムの推進(多様なニーズに対応した介護の提供・整備)」を検討テーマとしました。

 介護サービス提供体制を整備するにあたっては、地域の介護ニーズ等を把握し、それにマッチした量のサービスを確保することが必要です。その際に重要となる視点として、厚労省は▼高齢化の進展と地域差▼既存資源の活用▼介護離職ゼロ▼医療介護連携―などを強調しています。

まず1つめの「高齢化」にしては、「75歳以上の後期高齢者で介護ニーズが高い」「中でも85歳を過ぎると介護ニーズが急激に増加する」点に鑑みて、「75-84歳の状況」「85歳以上の状況」を勘案する必要があります。

例えば要介護認定率は、▼65-74歳:4.3%(要介護3以上では1.4%)▼75-84歳:19.5%(同5.7%)▼85歳以上:60.1%(同24.3%)―となっています。65-74歳に比べて、75-84歳では4.5倍(同4.1倍)、85歳以上では18倍(同17.1倍)に跳ね上がります。
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またサービス利用状況を見ると、65-74歳では「在宅サービス利用者が2.4%程度、施設や居住系サービス利用はごくわずか」にとどまりますが、75-84歳になると「1割程度の人が在宅サービスを利用し、施設や居住系サービス利用者が増加」してきます。さらに85歳以上になると「約半数の人が介護サービスを利用する」状況に至ります。
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こうした点を見誤れば、「介護サービス量が不足し、地域住民に十分なサービス提供が行えない」、あるいは「介護サービス量が過剰となり、保険料が過分に高くなる」といった事態に陥ってしまいます。

 
一方、人口動態を見ると、今後、2025年度までにすべての都道府県で「75-84歳」「85歳以上」の高齢者数は増加しますが、「地域によって進行スピード等が大きく異なる」ことを厚労省は指摘します。

例えば、ほとんどの都道府県(岩手県・秋田県・沖縄県を除く)では、「75-84歳」の増加数が「85歳以上」の増加数を上回ることが分かります。
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とくに東京圏・愛知圏・沖縄県では、他地域に比べて「85歳以上」の割合が顕著に低く、また、各地方ブロックの中心地域(北海道や宮城など)や政令市、中核市や人口規模の大きい市町村でも「85歳以上」の割合が低い傾向にあります。
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ただし、「85歳以上」の割合こそ低い東京圏・愛知圏・大阪圏ですが、「75-84歳」「85歳以上」の実数は大きく伸び、2025年にかけて「75-84歳」は約12-17万人、「85歳以上」は約7-15万人増加することも分かっています。
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高齢者数が増加するが施設整備が難しい都市部では、「既存資源」の活用が重要テーマ

このように都市部では85歳以上高齢者数が増加し、介護ニーズも増加していきますが、▼賃料が高い▼そもそも土地の確保が極めて困難―なため、特別養護老人ホームなどの建設が困難です。

こうした課題に対応するために、2つめの視点である「既存資源の活用」が重要になってきます。例えば、▼教育機関の空きスペース(少子化により学校に空き教室が生じていたり、廃校になったりするケースもある)や医療機関等の既存施設を活用する▼高層ビルの一部に介護施設を併設する―などの取り組みが進められています。
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また3つめの視点である「介護離職ゼロ」は、安倍晋三内閣の進めるアベノミクスの新たな「三本の矢」の1つで、▼介護休業制度の拡充▼2020年代初頭までに約50万人分の受け皿(介護保険3施設、認知症対応グループホーム、ケアハウス、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護)を整備する―ことになっています。

 
さらに、高齢化が進展する中で「介護ニーズだけでなく、医療ニーズの高い要介護者が増加する」ことを踏まえれば、4つめの視点「医療介護連携」が極めて重要であることは自明です。例えば昨今の介護報酬改定・診療報酬改定では▼居宅介護支援事業所における入院時連携▼特養ホームにおける「看取り」の評価充実▼医療保険リハビリと介護保険リハビリとの連続性・連携の強化▼医療・介護・住まいの3機能を併せ持つ「介護医療院」の創設―などに取り組んでおり、また2014年度から「在宅医療・介護連携推進事業」が市町村の地域支援事業(のうち包括的支援事業)に位置付けられています。さらに、2018年度からは「介護保険事業(支援)計画と医療計画との連携強化」(自治体部局間の協議の場設置や、計画期間の整合性確保など)も行われています。
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「介護サービス提供では介護人材確保が最重要」と委員間の共通認識

こうした点を踏まえた介護サービス整備を、次期制度改正・第8期介護保険事業(支援)計画でも推進していく方針に異論は出ていませんが、介護保険部会委員からはさまざまな注文がついています。

注文の中で最も注目できるのは「介護人材の確保」です。要介護者の増加に備え、また介護離職ゼロに向けて、いくら介護施設などを整備しても、そこに従事する「介護人材」を確保しなければ、実際のサービス提供が行えません。このため多くの委員から「人材確保」施策の推進が要望されました。この点、厚労省老健局総務課の黒田秀郎課長は「(5)の持続可能性に関する検討の中で、データ等を示し、議論してもらう」との考えを示しました。介護人材の確保には、当然、「人件費」がかかることから、コストとセットで議論することになります。

なお、今般の介護保険制度改正論議では、「2021年度からの第8期介護保険事業(支援)計画」や「団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となる2025年度」を主な射程としていますが、江澤和彦委員(日本医師会常任理事)や佐藤主光委員(一橋大学国際・公共政策大学院、大学院経済学研究科教授)は、「2040年度をも視野に入れた検討を行うべき」と提案しています。

前述のように東京圏などの都市部では、2025年度以降に高齢化のピークが来ると予想されており、また2025年度から2040年度にかけては「高齢者を支える現役世代の人口が急速に減少していく」ことが分かっています。このため「より遠い将来を見据えた対応」を今から検討する必要があると江澤委員、佐藤委員は訴えています。

介護離職ゼロ、「施設整備」以外の視点も重要との指摘

さらに、サービス提供基盤の整備においては、「施設整備」よりも「在宅サービスの充実」を考えるべきとの指摘が、伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長)らからなされています。前述のとおり、高齢になるほど重度の要介護者が増え、施設入所の必要性が高まってきます。これを受け、「介護離職ゼロ」においても介護保険3施設等を中心としたサービス整備が打ち出されています。ただし伊藤委員は「地域包括ケアシステムの構築は、いわゆる在宅限界を高める方向を目指しており、その点を再確認すべき」と強調。

また関連して江澤委員は、「介護離職の理由についての調査研究によれば、『施設入所できなかったため』は8%程度、『在宅サービスが利用できないため』が5%程度にとどまっており、6割程度の離職者は『仕事と介護の両立が困難』を理由にあげている。『自分で老親等を介護したい』との思いもあるのではないか。箱もの(施設)の整備では、介護離職問題は解決できない」と指摘し、より広範な視点に立った対策の必要性を強調しています。

この点に関連して東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は「既存施設の機能を強化することで、箱もの(施設)を新たに整備しなくとも、対応力(キャパシティ)を高めることができるのではないか」との考えを示しています。例えば、介護老人保健施設では、すべてが「機能強化型」などになり在宅復帰率を高めていけば、「空床」に入所待ちの要介護者を受け入れることができ、理論的には「ベッド数を増やさずに、入所者を増やす」ことが可能になります。これは「既存資源の活用」にもつながる、重要な視点と言えるでしょう。

介護医療院への円滑な転換に向けて、制度面でどのような対応が行えるか

また、2つめの視点「既存資源の活用」と4つめの視点「医療介護連携」の双方に関連の深い事項として「介護医療院の整備」があげられます。介護療養病床や25対1医療療養病床などの既存資源を介護医療院に転換することで、建設コスト等を抑えることができ、また、もともと医療機関であることから、医療介護の一体的提供が可能になります。

ただし、介護医療院の整備は、今年(2019年)3月末時点で1万床程度にとどまっており(関連記事はこちら)、今後、介護保険部会で「円滑な転換に向けて、どのような対応が考えられるのか」を議論していきます。黒田総務課長は「具体的な対応策はこれから議論してもらうが、第8期介護保険事業(支援)計画スタート(2021年度から)までには、まだ時間があることから、自治体においても『介護医療院への円滑な転換』に向けた準備が可能であろう」との考えを示しています。
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この点、「介護報酬での対応」(例えば【移行定着支援加算】の在り方など)に関しては2021年度の次期介護報酬改定に向けて、社会保障審議会・介護給付費分科会で議論していくことになります。

なお「医療介護連携」に関して、安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)らは「現在の取り組みは不十分なのではないか」と指摘しています。上述のように▼報酬での対応▼計画の整合性―などが行われていますが、プラスアルファの対応が必要と考える委員も少なくありません。2021年度からの第8期介護保険事業(支援)計画スタートに合わせて、医療計画の中間見直しも行われます。介護保険部会で、どのような「プラスアルファの連携策」が打ち出されるのか注目する必要があるでしょう。

 
このほか、鈴木隆雄委員(桜美林大学大学院自然科学系老年学研究科教授)からは「85歳以上の高齢者の特性に着目した介護予防の研究」を、山際淳委員(民間介護事業推進委員会代表委員)からは「複雑になりすぎた制度の見直し」を求める声も出ています。

「介護事業所・施設から自治体への届け出書類負担」の軽減を目指す

なお、5月23日の介護保険部会では、介護現場の負担軽減の一環として「介護分野の文書に係る負担軽減に関するワーキング・グループ(仮称)」を下部組織として設置することを決めました。介護保険事業所や施設は、市町村(保険者)などに各種の書類を届け出ることが必要ですが、「様式が自治体ごとに異なり、極論すれば全市町村分の書類を準備しなければならず、大きな負担になっている」との指摘があります。ワーキング・グループでは、「関係者の合意を得て、各種様式の標準化」などを検討し、年内(2019年内)に一定の意見を取りまとめることになります。

黒田総務課長は「制度の中で必ずしも明確でない部分があり、それがために自治体側が『念のためにこの点も報告してもらおう』と考えている部分もあると聞く。そうした点を明確化し、ステップを踏みながら標準化に向けた合意を得ていきたい」との考えを述べています。

 
 

 

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