妊婦の他科受診、6割近くで「かかりつけ産婦人科医への情報提供」がない―妊産婦保健医療検討会



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 38.5%の妊婦では「妊婦健診以外」で産婦人科以外を受診しており、内科(風邪などの感染症等)、歯科・歯科口腔外科(歯の痛みなど)への受診が多い。また、他科受診の際、かかりつけの産婦人科医へ文書(診療情報提供書など)で情報提供がなされるケースは1割に満たない。他科受診では、「妊婦に配慮した診療を行っている」点に関する十分な説明や母子手帳の確認などの気配りがなされないと感じる妊婦が1割強いる―。

 こういった調査結果が、4月17日に開催された「妊産婦に対する保健・医療体制の在り方に関する検討会」(以下、検討会)に厚生労働省から報告されました(関連記事はこちらこちら)。

4月17日に開催された、「第3回 妊産婦に対する保健・医療体制の在り方に関する検討会」
4月17日に開催された、「第3回 妊産婦に対する保健・医療体制の在り方に関する検討会」
 

健診以外の産婦人科受診、半数は偶発合併症

 妊産婦の診療については、通常よりも慎重な対応や胎児・乳児への配慮が必要となることから、診療に積極的でない医療機関が存在することが指摘されています。例えば、妊婦が風邪等で内科診療所などを受診した場合、「当院では妊産婦の診療は難しい。産婦人科のクリニックや、産婦人科のある病院を受診してほしい」と要請されるケースもあるといいます。

 こうした事態を放置すれば、妊産婦が安心して医療を受けることが難しくなり、また減少を続ける産科医療機関の負担が過重となり、産科の医療提供体制の縮小にもつながりかねません。そこで妊産婦への適切な保健医療サービス提供を確保するために、検討会で、「妊婦」「産婦」も含めた保健・医療のあり方を幅広く議論し、2020年度の次期診療報酬改定論議に結びつけることになりました。

検討会の論議に資するために、厚労省は「妊産婦の医療や健康管理等に関する調査」も実施。産科医療機関(500の病院・診療所を選定)を通じて、妊婦・褥婦(出産後間もない産褥にある女性)を対象に、▼妊娠・出産歴や基礎疾患の有無などの基本属性▼妊娠中の医療機関の受診状況▼妊娠中・産後の診療で「十分配慮されている」と感じた経験▼逆に「配慮が不十分」と感じた経験▼妊娠中・産後の診療で「特に配慮が必要」と考える事項(要望)▼妊娠中・産後の健康管理で留意している事項▼妊娠中・産後の健康管理に関して受けている支援―などをアンケート形式で調べるものです(関連記事はこちら)。

今般、1916名の妊産婦(妊婦80.1%、褥婦19.9%)から回答が得られ、その分析結果が検討会に報告されました。2月中旬に調査内容を固めたばかりであり、この短期間で2000近い有効回答が得られた点に驚きを禁じえません。

まず、かかりつけ医の有無については、63.1%が「いない」と回答しています。かかりつけの医師が「いる」妊産婦は35.1%と少数派で、うち20.9%(全体の)が「妊娠中もかかりつけ医を受診」し、14.2%(同)が「妊娠中はかかりつけ医を受診していない」状況です。

また、妊婦全体の13.6%が、妊婦健診「以外」で「産婦人科を受診」しています(1人当たりの平均受診回数は3.38回)。その理由としては、▼妊娠に直接関わる症状(つわり、むくみ、性器出血、お腹の張りの増強、破水感など):53.1%▼熱、せき、たん、鼻つまりなどの感染症状:20.0%▼腹痛、下痢、便秘などの胃腸症状:13.5%▼発疹、かゆみなどの皮膚の症状:3.8%―などが多くなっています。健診以外で産婦人科を受診する妊婦の半数程度が、いわゆる偶発合併症(妊娠と直接関係のない合併症)のために受診していると考えられるでしょう(13.6%の半数、7%弱が偶発合併症で産婦人科を受診すると考えられる)。
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38.5%の妊婦が感染症や歯痛などで他科を受診

一方、妊婦全体の38.4%が、妊婦健診「以外」で「産婦人科『以外』を受診」しています(1人当たりの平均受診回数は3.32回)。その理由としては、▼熱、せき、たん、鼻つまりなどの感染症状:42.0%▼歯が痛い、歯ぐきのはれ、出血などの口の中の症状:24.0%▼妊娠前からの持病(ぜんそく、花粉症、甲状腺の病気など):20.9%▼発疹、かゆみなどの皮膚の症状:15.6%▼目の充血、かゆみなどの目の症状(コンタクトレンズの処方も含む)13.9%―などで、診療科は受診理由と同様に内科、歯科・歯科口腔外科、耳鼻咽喉科、皮膚科、眼科などが多くなっています。妊婦全体の3分の1強が偶発合併症で他診療科を受診していると言え、中井章人座長代理(日本産科婦人科学会代議員、日本医科大学多摩永山病院院長)は「学会の調査結果と合致している」とコメントしています。
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また「産婦人科以外の受診」の折に、15.1%の妊婦は「他の医療機関を受診する」よう勧められたといいます。このデータが前述した「当院では妊産婦の診療は難しい。産婦人科のクリニックなどを受診してほしい」との要請とダイレクトに結びつくものではありませんが、「妊婦は診察できないと言われた」「一方的に診察を断られた」との回答もあることから、「妊産婦の診療を敬遠する」医療機関があることは一定程度裏付けられたと言えるでしょう。

ただし、84.9%に妊婦は「他医療機関受診を勧められたことはない」と答えており、適切に妊婦診療を実施する医療機関が多いことには留意が必要です。

他科からかかりつけ産婦人科医への情報提供、文書によるものは9.8%にとどまる

 ところで、妊婦が産婦人科以外を受診した場合、当該医療機関からかかりつけの産婦人科に「診断名、治療内容、処方内容」などの情報提供がなされることが期待されます。妊婦には「胎児への影響はないのか」などといった不安があるためです。

しかし、今般の調査では、58.0%で「情報提供や指示はなかった」ことが分かりました。適切な情報提供がなければ、産婦人科医が「どういった治療を受けたのか、どういった薬を処方されたのか」などを把握することはできません。

また、26%では情報提供がなれていますが、その方法は次のようにさまざまです。

▽他科医→【文書(紹介状や診療情報提供書)での情報提供】→産婦人科 : 9.8%

▽他科医→【電話等での情報提供】→産婦人科 : 3.8%

▽他科医→【母子手帳への記載やメモでの情報提供】→産婦人科 : 2.9%

▽他科医→【患者への口頭の情報提供】 : 10.1%
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 このうち「口頭での情報提供」では、患者から産婦人科医へ適切に情報が伝わらない可能性が高く(大多数の患者は医療・医学の知識に乏しく、他科医の説明を十分に把握できず、また伝える際に誤る可能性もある)、「情報提供がなされたとは言えない」とも考えられます。

 【妊婦加算】の凍結を受けて、2020年度の次期診療報酬改定では「妊婦等への適切な医療提供を確保するための診療報酬上の手当て」が重要検討テーマの1つとなります。中央社会保険医療協議会で「妊婦の妊娠の継続や胎児に配慮した適切な診療」「産婦の不安解消なども踏まえた適切な診療」を評価する診療報酬(加算など)の創設が検討されますが、その要件(施設基準や算定要件)設定に当たっては「検討会の意見を踏まえる」ことになると予想されます。

 この調査結果から、妊婦に配慮した医療を評価する新点数では「かかりつけの産婦人科医への情報提供」が重要要素になるのではないか、と予想されます。この点、十分な情報提供を行うためには、やはり「診療情報提供書」などを活用することが求められ、メモでは「十分な情報提供」は困難でしょう。ただし「医師の負担」等を考慮すれば、メモでの情報提供も「重要」になってくるかもしれません。診療報酬で評価する場合には、例えば▼診療情報提供書を用いた情報提供では高い加算▼メモ等にとどまる情報提供では低い加算―などが考えられるかもしれません(あくまで編集部の想像にすぎません)。

妊婦の1割は、「妊婦に配慮した医療」に関する説明が不十分などと感じる

 また「産婦人科医以外を受診」した妊婦の一部(10.3%)は、「妊婦に対する気配りが不十分なのではないか」と感じたことがあったようです(87.9%はそういった不十分さは感じていない)。

 具体的に妊婦側は、▼妊娠に配慮した診察・薬の内容について、文書を手渡して説明を行う:80.7%▼「妊婦への診察に関し十分な経験のある医師」による診察:48.4%▼診察中の母子手帳確認:41.0%▼かかりつけの産婦人科医との情報のやりとり:30.6-といった「気配り」を求めており、これらが不十分と感じるケースがあるようです。
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 前述した【妊婦加算】凍結の背景には、妊婦側のこうした「不満」「納得のいかなさ」があると考えられます(関連記事はこちらこちら)。中医協では、こうした点も踏まえて、「妊婦の妊娠の継続や胎児に配慮した適切な診療」「産婦の不安解消なども踏まえた適切な診療」を評価する診療報酬を検討していくことになるでしょう。

 例えば、前述の「他科医から産婦人科医への情報提供」にとどまらず、▼妊婦への文書を用いた「妊娠に配慮した診療を行っている」点への説明(医療・医学に詳しくない大多数の患者は、説明がなければ配慮されているのか否かを認識できない)▼母子手帳の確認―などが、重要要素になってくる可能性があります(これも編集部の想像です)。

授乳期の医療機関受診、「授乳している」点への配慮が不十分と感じる産婦が1割強

 また「出産後1年以内」の医療機関受診状況を見ると、1060名(有効回答1916名の53.8%)が内科や歯科・歯科口腔外科、皮膚科、耳鼻咽喉科などを受診しており、その理由は▼熱、せき、たん、鼻つまりなどの感染症状:63.7%▼歯が痛い、歯ぐきのはれ、出血などの口の中の症状:32.0%▼目の充血、かゆみなどの目の症状(コンタクトレンズの処方も含む):22.6%▼発疹、かゆみなどの皮膚の症状:18.6%▼妊娠前からの持病(ぜんそく、花粉症、甲状腺の病気など):16.6%▼腹痛、下痢、便秘などの胃腸症状:11.7%―などで、前述した「妊娠中の偶発合併症による他科受診」と類似しています。
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 その際に、13.6%の患者が「産婦への気配りが不十分」と感じていることも分かりました。具体的には、▼出産後や授乳中であることに気を配った診察・薬の内容について、文書を手渡して説明を行う:78.5%▼授乳に気を配った診察:53.4%▼妊娠中の合併症の経過にも気を配った診察:39.2%▼「授乳中の診察に関して十分な経験のある医師」による診察:33.5%―といった点での「気配り」を産婦側は求めています。産婦ゆえ「授乳」(医薬品を服用した場合、それが母乳に影響を及ぼさないか、など)に関する不安を抱える患者が少なくないことが浮き彫りになっています。
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この点、例えば中医協で「産婦の特性に配慮した診療報酬」を議論することになった場合には、その要件として▼文書も用いた「産婦であることや、授乳中であることに配慮した医療を行っている」旨の説明▼授乳に関する配慮―などが重要な要素になるものと推測されます(こちらも編集部の推測です)。

歯科、調剤でも「妊婦に配慮した医療」を求める声が多数

 検討会では、今後、これまでの議論を踏まえて論点を整理し、5・6月に意見をとりとめることになります。

 その後、議論の一部を中医協に移し(ほか、医療提供体制や母子保健などに関して別の検討会等にも議論が移ると考えられる)、「妊婦の妊娠の継続や胎児に配慮した適切な診療」「産婦の不安解消なども踏まえた適切な診療」を評価する診療報酬の議論を行うことになります。

 現時点でどのような議論が行われるのかは見えてきませんが、調査結果やこれまでの検討会論議を踏まえると、「他診療科から、かかりつけの産婦人科への十分な情報提供」「妊婦への十分な説明」などの重要性が再確認されており、これらを評価する点数が議論される可能性が高そうです。

 なお、薬局での対応においても、▼妊娠や授乳に気を配った薬の説明▼妊娠中や授乳中であることの確認▼母子手帳の確認―といった「気配り」が不十分と考える妊産婦が一定程度おられる(全体の8.7%)こと、上述のように偶発合併症として「口の中の症状」を理由に歯科・歯科口腔外科を受診する妊産婦が2番目に多いことから、調剤報酬や歯科診療報酬でも、「妊婦の妊娠の継続や胎児に配慮した適切な診療」「産婦の不安解消なども踏まえた適切な診療」を評価する診療報酬創設が議論される可能性があります。今後の議論に要注目です。

 
 

 

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