医師の働き方改革論議、「地域医療をどう確保するか」などの議論なく遺憾―日病・相澤会長



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 医師の働き方改革に向けた議論が進められ、原則960時間以内(いわゆるA水準)、救急など地域医療確保に不可欠な場合には当面1860時間以内(いわゆるB水準)などの時間外労働上限案が提示されている。しかし、病院側では「想像を絶する努力」をしなければ、これをクリアすることはできない。またB水準医療機関として特定される要件として、「救急車受け入れ台数が年間1000件以上」などが示されているが、病院団体への事前のすり合わせもなく、非常に遺憾である。怒りすら覚える―。

日本病院会の相澤孝夫会長は、2月26日の定例記者会見でこのような見解を述べました。

2月26日の定例記者会見に臨んだ、日本病院会の相澤孝夫会長(社会医療法人財団慈泉会相澤病院理事長)
2月26日の定例記者会見に臨んだ、日本病院会の相澤孝夫会長(社会医療法人財団慈泉会相澤病院理事長)
 
 なお、同日の記者会見では、ほかに▼医療人材確保・育成費用に関する調査結果▼新専門医制度に関するアンケート調査結果―の報告も行われており、これらは別稿でお伝えします。

時間外上限クリアには、医師増員が必要だが、地域には医師がいない

厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」(以下、検討会)の議論が大詰めを迎えています。これまでに、勤務医の時間外労働上限(いわゆる36協定を結んでも超過できない基準)について、▼原則として年960時間以内・月100時間未満(いわゆるA水準)▼救急医療機関など地域医療確保のために必要な特例水準として年1860時間以内(いわゆるB水準)▼研修医など医療技能獲得のために必要な水準として年1860時間(いわゆるC1・C2水準)―という案が厚労省から示されています(関連記事はこちらこちら)。
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これら上限は2024年4月から適用されることとなり、すべての医療機関で「労働時間の管理」を徹底した上で、「労働時間の短縮」を可能な限り進め、A水準(年間960時間以内)クリアを目指すことになります。

ただし、救急医療機関などでは、労働時間短縮をしてもなおA水準をクリアすることが難しいと考えられるため、一定の要件を満たすことを条件に都道府県知事の特定を受けた上で、B水準(年間1860時間以内)クリアを目指すことになります(関連記事はこちらこちら)。
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2月23日の日病常任理事会では、「こうした上限をクリアするためには医師の増員が必要となるが、費用が嵩むことは当然として、そもそも地域に医師がいない。タスク・シフティング(業務移管)の必要性も言われるが、業務のシフトを受ける看護師等の教育も必要となり、そこでも費用が嵩むと同時に、やはり地域での看護師確保も難しい。想像を絶する努力をしなければ上限クリアはできない」との悲鳴が出ていることを相澤会長は紹介しました。

また、個別病院の努力には限界があるため、地域で、例えば「救急患者が各病院に分散されるような体制を組む」(1病院に救急患者が集中すれば、当該病院の医師負担が過重になってしまうため)などの、機能分化・連携の強化がどうしても必要となります。しかし、「病院の機能分化・連携の強化は20年以上も前から指摘されているが、十分には進んでない。これをあと5年間(2024年3月まで)で進められるのか」といった疑問の声も多数出ているといいます。

さらに、上限クリアにおいては、「宿日直」が労働と扱われるのか、労働ではないと扱われるのかが、非常に重要となります。例えば、週に1回、16時間の宿日直があったとして、これが「労働である」とされれば、それだけで時間外労働が768時間になってしまいます。この点について、検討会では「労働とみなされない宿日直許可の基準」を、現代の医療実態に沿ったものに改訂することが決まっていますが、その見直し内容は必ずしも明確になっておらず、医療現場での不安は非常に大きいようです(関連記事はこちらこちらこちら)。

こうしたことを考えれば、上限クリアをするために「診療時間の縮小」や「救急搬送患者の受け入れ制限」などをしなければならない病院の出てくる可能性も小さくありません。これでは、「地域医療を守る」ことはできず、また病院によっては「経営の維持」が困難になるところも出てきそうです。相澤会長は、「時間外労働の上限をはじめとする働き方改革の制度づくりの議論はなされているが、その上で、どう地域医療を守るのか、といった議論がまったくなされていない」と指摘。

さらに、B水準(1860時間以内)として特定されるための要件として、「2次・3次救急医療機関」で、かつ「年間の救急車受け入れ台数が1000件以上」などの要件案が示されていますが、「同じ救急車受け入れでも、夜間と日中、平日と休祭日では、まった意味合いが異なる。1000件の根拠はどこにあるのか」と疑問を呈した上で、「要件案を示す前に病院団体と、実現可能性などをすり合わせるべきだが、そうしたことが一切ない。極めて遺憾であり、怒りすら覚える」と強い調子で述べました。

検討会では、「医師の健康確保」と「地域医療の確保」とは、トレードオフの関係(一方を求めれば、他方を犠牲にしなければならない)にはない、ことが確認され、「両立」が不可欠とされています。しかし、「労働時間の短縮」論議は、その必要性も含めてさまざま指摘・提案がされますが、「どのように地域医療を確保していくのか、どういった体制を組んで救急患者に対応するのか」などの議論は活発とは言い難い状況です。検討会では、「働き方改革」に関する制度を固める(2019年3月までに結論を得なければならない)場であり、後に、別の場などで「地域医療確保」論議を行うことになると思われますが、この議論が不十分な点に医療現場の不安は大きくなっているようです。

   
 

 

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