患者を車椅子へ移乗させる際、フットレストで外傷を負う事故が頻発―医療機能評価機構



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 患者をベッド等から車椅子へ移乗させる際、誤ってフットレストに下肢をぶつけるなどし、外傷を負わせてしまった―。

 こうした事例が、2014年1月から昨年(2018年)末までに18件も報告されていることが、日本医療機能評価機構が2月15日に公表した「医療安全情報 No.147」から明らかになりました(機構のサイトはこちら)。
医療安全情報147 190215の図表
 

移乗介助は2名以上で行い、フットレスト取り外し可能な車椅子の導入やカバー装着を

 日本医療機能評価機構は、全国の医療機関(国立病院や特定機能病院等については義務づけ)から医療事故やヒヤリ・ハット事例(事故に至る前に防いだが、ヒヤリとした、ハッとした事例)の報告を受け付け、その内容や背景を詳しく分析したうえで、事故等の再発防止に向けた提言等を行っています(医療事故情報収集等事業、医療事故情報収集等事業、関連記事はこちらこちらこちら)。

さらに事故事例などの中から、とくに留意すべき事例などを毎月ピックアップ。それを簡潔に整理して「医療安全情報」として公表し、医療現場に特段の注意を行うよう要請しています(最近の情報はこちらこちらこちら)。2月15日に公表された「No.147」では「車椅子のフットレストによる外傷」がテーマとなりました。

 ある病院では、「副腎皮質ホルモン剤であるプレドニンの内服と全身浮腫のため、皮膚が脆弱な状態な患者」を、看護師が支えて車椅子からベッドへ移乗する際に、患者のズボンの裾が持ち上がり、下肢に車椅子のフットレストが直接当たってしまいました。移乗後に患者が下肢の痛みを訴えたため確認すると、皮膚が裂け約8×5cmにわたり筋膜が露出しており、医師が診察し18針縫合しています。

 
 また別の病院では、患者をベッドから車椅子へ移乗させる際、理学療法士が患者を前方から支え、看護師2名が介助していました。ただし、患者が立位になり、車椅子に座るように身体の向きを変える時には患者の下肢を確認していませんでした。その際、患者が痛みを訴えたことから確認すると、車医師のフットレストに下肢が当たり、出血していました。外科医師が7針縫合しています。

 
 車椅子のフットレストは、硬く、突起物や角があるため、皮膚との接触で外傷を負う可能性がある一方で、車椅子の下方(足元)にあるため、患者・介助者の双方にとって「視界に入りにくく」なっています。

 機構では、各医療現場等において、「車椅子への移乗時には事故発生のリスクがある」ことを十分に認識した上で、▼患者の状態を把握し、介助方法や介助する人数を検討する▼車椅子のフットレストにカバーをつける▼皮膚が脆弱な状態となっている患者の移乗時には、ズボン・靴下などを着用して下肢を保護する―などの対策を検討するよう注意喚起しています。

 
なお、機構が昨年(2018年)10月2日に公表した「医療事故情報収集等事業 第54回報告書」でも、「車椅子のフットレストによる外傷」を対象とした詳細な分析が行われています(関連記事はこちら)。

同様の事故は、2012年1月から昨年(2018年)6月までに35件も報告されており、うち7割超は70歳以上の高齢患者で発生しています(70歳代:10名、80歳代:7名、90歳代:8名)。高齢化の進展に伴い、慢性期病院はもちろん、急性期病院においても高齢患者が増加しており、特段の注意をすべきテーマと言えそうです。

さらに、事故の状況を見ると、75%弱が「患者を支えて移乗した際」に、25%強が「移乗の折に、車椅子を患者へ寄せたり、患者から引いたりした際」に発生しています。また46%では「介助者が1名」でした。機構では、こうした点を踏まえ、次のような改善方策も例示しており、参考になります。

【介助に関する改善策】
▽介助方法の検討・見直し(移乗介助が必要な患者の観察点やリスク予見の必要性に関するカンファレンスと情報共有、「フットレスト等を取り外した」移乗の実践など)
▽介助者の確保(必ず2名以上で移乗介助を行うなど)と役割分担の明確化
▽車椅子の設置位置の確認(ベッドサイドに車椅子設置スペースを確保し、障害のない側に車椅子を設置し移乗介助する)
▽フットレストと下肢の位置確認

【患者に関する改善策】
▽患者の状態の把握(とくにせん妄や認知機能低下がある患者は、危険や痛みなどに気がつかないことを考慮)
▽患者情報の共有

【環境等に関する改善策】
▽車椅子の整備・選択(フットレスト等の取り外しが可能な車椅子の導入や、フットレストへのカバー装着)
▽環境整備(安全な移乗のため、洗髪台周囲に物品を置かないなど)
▽学習・教育(安全な移乗技術の習得)

 
 

 

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