NPPV/TPPVの停止は、自発呼吸患者でも致命的状況に陥ると十分に認識せよ―医療安全調査機構の提言(7)



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 人工呼吸器に関連した死亡事故が2015年10月以降、8例報告されており、うち7例では、患者に「自発呼吸」があった。自発呼吸がある患者においても「NPPV/TPPVによる呼吸補助が一定期間停止すると、生体のガス交換が十分に行われず、致命的状況に陥る」などのリスクを十分に認識しなければならない―。

 日本で唯一の医療事故調査・支援センター(以下、センター)である日本医療安全調査機構は2月5日、7回目の「医療事故の再発防止に向けた提言」として『一般・療養病棟における非侵襲的陽圧換気(NPPV)及び気管切開下陽圧換気(TPPV)に係る死亡事例の分析』を公表し、このような注意喚起を行いました(機構のサイトはこちら)。

2015年10月以降、人工呼吸器に関連する死亡事例が8例報告

 2015年10月から、医療機関の管理者に「予期しなかった『医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産』」のすべてをセンターに報告することが義務付けられました(医療事故調査制度)。この制度は「医療事故の再発防止」を目的としたもので、事故事例を集積する中で「具体的な再発防止策などを構築」していくことがセンターに課せられた重要な役割の1つです(関連記事はこちら)。

センターは、今般、「一般・療養病棟における非侵襲的陽圧換気(NPPV)および気管切開下陽圧換気(TPPV)」に係る死亡事例を分析し、7回目の医療事故再発防止策として提言を行いました。

◆過去の提言に関するする記事
(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―
(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析
(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析
(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析
(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析
(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析

NPPV/TPPVに関連する死亡事例は、すべて一般・療養病棟で発生

 呼吸器疾患、循環器疾患、外傷、手術後などで呼吸不全に陥った場合には、まず酸素療法が適応され、必要に応じてマスクによる非侵襲的人工呼吸管理(非侵襲的陽圧換気:NPPV)、さらには気管挿管による侵襲的人工呼吸管理(気管切開下陽圧換気:TPPV)を行うことになりますが、人工呼吸管理には大きなリスクも伴うことが明らかになってきています。医療事故調査制度がスタートした2015年10月以降、人工呼吸管理に関連した死亡事例が8例(NPPV使用中5例、TPPV使用中3例)報告されており、いずれも一般病棟や療養病棟で発生しています。センターでは、8例について詳しく分析し、再発防止に向けて次の5つの提言を行っています。
医療安全調査機構提言(7)の2 190205
 
 とくに前者のNPPVによる人工呼吸管理では、自発呼吸があることから「致命的な状況に陥るリスクに対する認識が甘くなる」傾向があるとセンターは警鐘を鳴らしています。

(1)意識があり自発呼吸のある呼吸不全患者にNPPV/TPPV療法を選択することは、マスクと回路の接続外れなどにより致命的な状況に陥るリスクが伴い、一般・療養病棟で管理する場合にはそのリスクがさらに高まることを認識する【リスクの認識】

(2)人工呼吸器装着中の患者の観察においては、人工呼吸器の作動確認に併せて呼吸状態の観察(胸郭の動き、呼吸音、SpO2など)、さらに、異常を早期に察知するため、パルスオキシメータなどによるモニタリングをし、アラーム機能を活用した観察を行う【観察】

(3)緊急時は直ちに用手換気に切り替え、NPPV/TPPV使用中の患者のベッドサイドには、バッグバルブマスクと酸素流量計を常備する【緊急対応】

(4)NPPV/TPPVに関するマニュアルの整備と周知による基本的な技術の習得に加え、リスクの予測や緊急時の対応など、実践力の維持・向上に向けた教育体制を整備する【教育】

(5)人工呼吸管理を安全に行うための多職種連携を推進し、可能であればチームを設置し、人工呼吸器の使用状況を定期的に確認する。さらに、問題点を共有し迅速に対応する【安全管理体制と機器管理】

自発呼吸が合っても、NPPV停止は致命的状況に陥る

 まず(1)では、死亡8事例中、7例において「自発呼吸があった」ことを強調。自発呼吸がある場合、人工呼吸器が「生体の生命維持に必要不可欠な機器とは捉えられていない」可能性があります。例えば、▼NPPVを人工呼吸療法というよりも「酸素療法の延長」と捉えていた▼ケアの際にアラームが鳴ることを避けるために、電源を切り、その後作動させることなくマスクや気管切開チューブを装着していた―という事例があります。

しかし、自発呼吸がある患者においても「NPPV/TPPVによる呼吸補助が一定期間停止すると、生体のガス交換が十分に行われず、致命的状況に陥る」ことを十分に認識しなければならないとセンターは強く警鐘を鳴らしています。

 ▼鎮静をせずに導入できる▼患者の覚醒度を保てる―ため、NPPVは気管挿管の前段階として急速に普及し、また神経筋疾患の慢性呼吸不全に対しては、NPPV導入で著明な治療・延命効果を得られるため、第一選択となっています。ただし、ある程度の体動が保たれることにより「マスクや回路の接続部が外れる」可能性、高齢者ではせん妄、認知症などでマスク装着への協力が得られない場合もあることに最大限留意する必要があるます。

 とくに、夜間の看護師負担が増す一般・療養病棟では、「人工呼吸器が作動し適切に換気が行われているか」を生体情報モニタによるモニタリングが必須とセンターは指摘しています。

機器と患者の双方を観察し、呼吸状態の確認を

 また(2)では具体的なモニタリングについて解説しています。「人工呼吸器」「患者」を個々に確認するのではなく、▼人工呼吸器の送気を確認し、併せて胸郭の動きや呼吸音、補助呼吸筋の動きや呼吸回数、SpO2 などを観察する▼人工呼吸器で患者からの呼気を測定する実測値(換気量あるいは気道内圧)を測定できる機器では、実測値も併せて確認する―など、機器・患者の双方で呼吸状態を確認することで、早期の異常発見が可能になると指摘。

 さらに、上述したように「生体情報モニタによるモニタリング」も必須であり、具体的には、▼人工呼吸管理中は原則として、パルスオキシメータや心電図モニタなどの生体情報モニタを併用してモニタリングする▼人工呼吸器の回路の接続部が外れることや、NPPV装着中の患者が自らマスクを外すことは珍しくないため、人工呼吸器・生体情報モニタのアラーム管理を確実に行う―よう、センターは求めています。
医療安全調査機構提言(7)の3 190205
 

病態急変時等は、速やかに用手喚起を実施せよ

一方、(3)は「緊急時の対応」についての提言です。

 人工呼吸器・生体情報モニタのアラームの原因が不明な場合、病態が急変した場合は、▼スタッフコールをして人員を集める▼速やかに人工呼吸器回路を外し、マスクまたは気管チューブ・気管切開チューブより毎分10L以上の高流量酸素を流したバッグバルブマスクで用手換気を行う―ことが必要です。この際、▼人工呼吸器の作動点検▼バイタルサインのチェックと、担当医師への状況報告▼担当医師による患者診察と、必要な処置▼身体所見やモニタ所見などから心肺停止が疑われる場合は、院内の救急システム(コード・ブルーなど)を起動し、直ちの心肺蘇生―も当然、必要となります。

このように、急変時は「必ず人工呼吸器を外して用手換気とする」ことが求められ、ベッドサイドに、▼酸素供給なしでも使用できるバッグバルブマスクを▼酸素流量計▼バッグバルブマスクのリザーバーと酸素チューブ▼気管切開チューブ抜去時に使用するマスク―と、また気管切開チューブの事故抜去・再挿管(再挿入)に備えて、救急カートの中に「挿管用具(喉頭鏡、予備チューブ)」を、直ちに使用できる状態で常備しておくことをセンターは要望しています。

さらに、慢性呼吸不全や自発呼吸が十分でない患者を受け入れたときには、患者の状態をチェックし、▼酸素投与下でSpO2が90%未満▼呼吸数が毎分30回以上▼循環維持のためにカテコラミンが必要である▼意識レベル低下▼自発呼吸が無いか、極めて弱い―場合には「重症の呼吸不全」と判定し、NPPV/TPPVを実施するときは、蘇生処置を希望しない場合でもナースステーションに近い重症病床またはそれに準じた場所で呼吸管理を開始し、生体情報モニタを併用したモニタリングを実施することも求められます。

実際の病棟で実際の機器を用いて、危険予知トレーニング等の実施を

事故防止のためには、院内において「人工呼吸器操作およびケアマニュアル(手順書)や人工呼吸器点検表」の作成と周知を行うとともに、人工呼吸器の一般的な知識にとどまらず、「緊急時直ちに対応できる能力や、リスクを予測し行動する実践力を向上する」の研修・教育が必要です。

ただし、マニュアル提示や講義形式の教育・研修体制では限界がある(事故発生医療機関でも実施されていた)ことから、例えば、▼講義・研修などで知識を習得する▼過去のインシデント・アクシデント例をシナリオ化し、「実際の病棟」で「実際の機器」を用いて、危険予知トレーニングを行うといった、スタッフ参加型の教育をチームで行う―ことなどを(5)で提案。さらに、センターでは、関係学会や国に対し、「施設内認証(施設内ライセンス制度)などを各施設の状況に合わせ構築する」ことを検討するよう求めています。
医療安全調査機構提言(7)の4 190205
 

呼吸療法経験の豊富な医師、臨床工学技士、看護師などのチームで安全管理を

 また(6)では、呼吸療法経験の豊富な医師、臨床工学技士、看護師などで構成される多職種チームで、▼定期的に病棟を巡視し、人工呼吸管理上の問題点を病棟スタッフと共有し、呼吸管理に対する助言を行う▼人工呼吸管理マニュアルを作成・周知とマニュアル内容の実践を確認し、指導を行う▼医療機器安全管理責任者などと共催した人工呼吸管理に関する講習会や、人工呼吸器・人工呼吸器回路の説明会を開催する▼夜間・休日体制時を含めて異常や事故発生時の連絡体制を構築し、スタッフへの教育訓練を実施するとともに、人工呼吸管理に関する事故やインシデントを検証し、フィードバックを図る―こと、医療機関管理者が人工呼吸器の適切な保守点検を実施すること、院内で人工呼吸器運用時の問題点を共有し連携することなども求めています。院内で、こうした安全確保に関する風土が醸成されることで、重畳的な安全管理が可能となります。

 
なおセンターでは、医学会や医療関連企業に対し、▼意図しない機器停止を避けるための操作系、表示系、駆動電源系の改良▼NPPV回路の誤接続防止・回路外れ防止への工夫―を行うことも要望しています。

 
 

 

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