「我が国の医療のあり方」を腰を据えて考えなければ、いずれ諸問題が大噴火―日病・相澤会長



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 医師の偏在対策などの議論が進んでいるが、根底にある「我が国の医療のあり方」についての青写真が明確にならないまま、目の前の議論を行っている感がぬぐえない。「立ち止まる」にとどまらず、「腰を据えて」我が国の医療のあり方について議論し、共通認識を持つ必要がある―。

 日本病院会の相澤孝夫会長(社会医療法人財団慈泉会相澤病院理事長)は、12月25日の定例記者会見でこのような考えを示しました。

 なお、医師の「需給」「偏在対策」に関連して、「診療所の自由開業」について一定の制限を検討すべきではないか、との意見が日病内部で徐々に大きくなってきていることも相澤会長は付言しています。

12月25日の定例記者会見に臨んだ、日本病院会の相澤孝夫会長(社会医療法人財団慈泉会相澤病院理事長)
12月25日の定例記者会見に臨んだ、日本病院会の相澤孝夫会長(社会医療法人財団慈泉会相澤病院理事長)
 

医師働き方改革、医師偏在対策を進める中で、「自由開業の制限」を求める声も

 現在、厚生労働省の「医師需給分科会」(「医療従事者の需給に関する検討会」の下部組織)において、「医師の偏在対策」の具体化に向けた議論が進んでいます。例えば、▼データ(新たな医師偏在指標)に基づいて医師少数地域・区域を設定し、比較的、医師が多数の地域からの医師派遣等を促す(短期的方策)▼大学医学部の地域枠・地元枠などを活用して、医師の地域定着を促す(長期的方策)▼医師少数地域等での1年以上勤務した医師を「認定」し、将来、地域医療支援病院の院長となるには、この「認定」を要件化する―などの具体化が議論されています(関連記事はこちらこちらこちらこちらこちらこちら)。

それぞれ一定の効果が現れることが期待されますが、例えば「医師多数地域から医師少数地域への医師派遣」について相澤会長は「派遣しようにも、医師を派遣するゆとりがない」と指摘します。「医師の働き方改革」によって勤務医の労働時間短縮が進められますが、従前と同程度の医療提供を行おうとすれば、「より多数の医師」を確保しなければなりません。このため、「医師多数地域」であっても、医師派遣のゆとりが、現在以上になくなっていくと相澤会長は見通します。

また、▼大学医学部は文部科学省が所管する▼医師国家試験や初期臨床研修は厚生労働省が所管する▼専門医研修は日本専門医機構と関係学会が所管する―という「縦割り」がある中で、効果的な「医師の地域定着」策が実行できるのか、という懸念もあるようです。

相澤会長は、こうした「非常に難しい問題」について1つ1つを解決策を検討していくことの重要性はいささかも否定しませんが、「より根本的に、我が国の医療をどうしていくのかというテーマについて青写真がないまま、細部の議論をしているのではないか。『立ち止まる』にとどまらず、『腰を据えて』我が国の医療のあり方を議論しなければ、積み重なった問題が近く大噴火してしまうのではないか」と危機感を募らせました。

例えば、一方に「我が国の医療は民間・公立・公的といった多様な主体で担ってきたが、設立主体を制限するような統制医療を目指しているのではないか」と考える医師がおり、他方に「医療提供をこれまでのように自由に行っていてはもたない。一定の統制が必要」と考える医師がいます。いずれの考えにも頷けるところがありますが、こうした論点を放置し、皆が疑心暗鬼の中で「医師の偏在対策」などを検討しても、効果的な「解」は見いだせない可能性があります。相澤会長は「根本的な問題を放置し、個別の諸問題を議論しても根本的な解決にならない。近く大噴火する恐れもある」と指摘しています。

こうした点を議論する場の1つといて、厚労省の「社会保障審議会・医療部会」があります。そこでの議論にも期待が集まります。

 
また、前述したように、働き方改革などによって「多くの病院では、これまで以上に医師が不足する」事態が生じると予測されます。そうした中で、日病内部では、これまで以上に「自由開業の制限」について検討する時期に来ているのではないか、という意見が大きくなっていることも相澤会長から紹介されました。例えば、地域医療構想の実現に向けて「公立・公的病院をはじめとした再編・統合」論議が盛んになっています。これは「医療提供のあり方を地域・社会で考える」方向へのシフトと言えますが、一方で「クリニック(診療所)の開業は事実上、自由に行える」仕組みに何らの手直しを行わない、という点に少なからぬ違和感を覚える人が増えてきているとも考えられます。

医師需給分科会でも、昨年(2017年)秋から冬にかけて「自由開業の制限」を求める声が大きくなりましたが、「まず、外来医療の見える化から始めてはどうか」というところで落ち着きました。まず「地域の外来医療提供体制を明らかにし、そのデータを踏まえて、開業の是非を医師自身に考えてもらう」ところから始めるべき、との考え方です。近く、医師需給分科会で「外来医療の見える化」が議論されますが、その効果等が十分でなければ(データを提示しても、開業動向に変化がなければ)、再び「開業制限」が議論の俎上にあがってくる可能性が十分にあります。自由開業制は、我が国の医療提供体制の特徴の1つですが、現在の我が国にマッチしているのか、考え直す時期に来ていると指摘する識者も少なくありません。

 
 

 

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