遺伝子パネル検査で「適応外の抗がん剤治療」の可能性ある場合、迅速に治療開始できる準備進める―患者申出療養評価会議



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 現在、▼国立がん研究センター中央病院東京大学医学部附属病院大阪大学医学部附属病院―において、先進医療Bとして遺伝子パネル検査が実施されている。その検査によって「適応外の抗がん剤治療」の可能性が見つかった場合、先進医療や治験で当該「適応外の抗がん剤」治療を行うことになるが、患者要件などを満たさず「患者申出療養」を選択するケースも想定される。そうしたケースについて、予め「治療計画・研究計画」(プロトコル)を準備しておくことで、「患者申出療養」申請までの期間を短縮し、できるだけ早期に患者が当該「適応外の抗がん剤」にアクセスできる環境を整備しておく―。

11月22日に開催された「患者申出療養評価会議」(以下、評価会議)において、こういった仕組みの創設が了承されました。

がんゲノム医療の推進に向けて、重要な仕組みがまた一つ準備されたことになります。

11月22日に開催された、「第12回 患者申出療養評価会議」
11月22日に開催された、「第12回 患者申出療養評価会議」
 

「遺伝子パネル検査」結果に基づく治療、一刻も早くがん患者に届けられる環境を整備

ゲノム(遺伝情報)解析技術が進み、「Aという遺伝子に変異の生じたがん患者にはαという抗がん剤を、Bという遺伝子変異のある患者にはβとγという抗がん剤を併用投与することが効果的である」などといった知見が徐々に明らかになってきています。こうしたゲノム情報に基づいた最適な治療法の選択ができるようになれば、個々のがん患者に対して「効果の低い治療法を避け、効果の高い、最適な治療法を優先的に実施する」ことが可能となり、▼治療成績の向上▼患者負担の軽減(身体的、経済的)▼医療費の軽減―などにつながります。

米国では、すでに「多数の遺伝子の変異の有無を一括して検出する検査」(遺伝子パネル検査)が臨床現場で使われ、その結果に基づいた治療法選択が行われています。現在、我が国では、保険収載を目指し先進医療B(保険診療と保険外診療(先進医療)との併用が可能)として▼国立がん研究センター中央病院(NCCオンコパネル)東京大学医学部附属病院(Todai Onco Panel)大阪大学医学部附属病院―の3か所で、遺伝子パネル検査が実施されています。

ただし、遺伝子パネル検査も万能ではありません、米国の研究では(1)「既承認の抗がん剤が効く」ケースが9%程度(2)「既承認の抗がん剤を適応外使用(例えば「肺がん」治療に効果が認められている抗がん剤を、効果が未確認の「胃がん」治療に用いるなど)することが考えられる」ケースが9%程度(2)「未承認の抗がん剤が候補となるであろう」ケースが18%程度―で、残りの64%には「まだ有効な治療法が見つからない」状況で、我が国でも同様であると考えられます。もっとも逆に考えれば、36%の患者では「一定の有効な治療法」が判明すると言えます。

遺伝子パネル検査で治療法が見つかるケースは36%程度にとどまり、うち9%では「抗がん剤の適応外使用」が必要となる。我が国では、適応外使用を行うには、先進医療や治験、患者申出療養などの枠組みを活用することになる(さもなくば全額自己負担)
遺伝子パネル検査で治療法が見つかるケースは36%程度にとどまり、うち9%では「抗がん剤の適応外使用」が必要となる。我が国では、適応外使用を行うには、先進医療や治験、患者申出療養などの枠組みを活用することになる(さもなくば全額自己負担)
 
そうした中で、(2)の「適応外」使用((3)の未承認薬も同じく)については、原則として保険診療は認められません(入院費用や他の診療費なども含めて全額自己負担となる)となります。この点、「先進医療」や「治験」などが行われていれば、患者の自己負担を軽減できますが、対象要件(年齢や合併症など)に合致しないこともあります。

こうした「先進医療」などの対象から漏れてしまった患者を救済する意味も込めて、新たな保険外併用療養として「患者申出療養」が誕生しました。ただし、「患者申出療養」として申請するためには、▼かかりつけ医との相談▼臨床研究中核病院への相談▼臨床研究中核病院における診療計画(プロトコル)作成―などが必要で、これらの手続きに少なくとも数か月が必要となります。

しかし、がんと闘う患者にとっては、一刻も早く、安全性が一定程度確保され、効果の可能性の高い治療法にアクセスできる環境が整えられている必要があります。そこで厚生労働省では、「健康局がん・疾病対策課」と「保険局医療課」が部局の垣根を超えて、次のような仕組みの創設を検討しました。上記の「手続き」をできるだけ早期に進めるための仕組みです。ただし、安全性が確認されていない(3)の「未承認薬」については、この仕組みの対象となりません(既承認薬の「適応外使用」は、他疾患で安全性・有効性が確認されている)。

▽がん遺伝子パネル検査の結果、既承認薬(固形がん約10種類の遺伝子異常と、それに対応する約20種類の分子標的薬)の「適応外使用」を希望して患者申出療養を申請する患者を想定し、臨床研究中核病院との協議の上で、▼複数のがん腫や遺伝子異常に対応できる「研究計画書」(プロトコル)を予め作成し、臨床研究審査委員会等の審査を経ておく▼臨床研究中核病院で研究計画書を共有する▼患者の同意を得た上で「症例データを一括保存」し、活用をする―

 例えば、抗がん剤「Z」について、X遺伝子変異のある「肺がん」患者に効果があると判明していたとします。作用機序などから「同じX遺伝子に変異のある『大腸がん』にも効果があるのではないか」と強く推測される場合に、「Zを使用したい、と希望するX遺伝子変異のある大腸がん患者」が現れると考えられ、その希望に迅速に応えるために、臨床研究中核病院で下準備をしておく、というイメージです。厚労省では、国立がん研究センター中央病院に「研究計画書(プロトコル)の作成を依頼する」考えを示しています。

「適応外の抗がん剤」治療で効果があると判明した患者が、一刻も早く患者申出療養を申請できるよう、臨床研究中核病院で「下準備」を進めておく
「適応外の抗がん剤」治療で効果があると判明した患者が、一刻も早く患者申出療養を申請できるよう、臨床研究中核病院で「下準備」を進めておく
 
 事前に「研究計画書」を作成しておくことで、実際に患者が「適応外の医薬品を患者申出療養として使用したい」との相談をした際、迅速に「患者申出療養」として申請することが可能になります(結果、治療も早く受けられる)。また、データが集積されることで、当該医薬品の「適応拡大」(保険診療で使用できる傷病の対象拡大)も早期に進む可能性が高くなります。がんゲノム医療の大きな第一歩になると同時に、障壁(遺伝子パネル検査をしたが、治療法にたどり着けないという障壁)を乗り越える重要な仕組みでもあり、評価会議の構成員から大きな賛同を持って迎えられました。

もっとも石川広己構成員(日本医師会常任理事)は、「先進医療Bの対象とならないがん患者の中にも『自費でもよいので遺伝子パネル検査を受けたい』と申し出るケースが想定される。そうした患者への対応も検討しておく必要があるのではないか」と注文を付けています。また、今後、遺伝子パネル検査の効果が認められ、保険収載された場合にも、同様の患者が出現するため、その際にも「患者申出療養を迅速に申請できる環境」が検討されることになるでしょう。

「企業都合で治験を中断された患者」救済のため、6種類目の患者申出療養を承認

 また11月22日の評価会議では、新たな患者申出療養(6種類目)として「線維芽細胞増殖因子受容体に変化が認められる進行固形がんを有する日本人患者を対象としたインフィグラチニブ経口投与の長期安全性試験」が承認されました(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。

 インフィグラチニブは治験中の化合物ですが、製薬メーカーによる開発権利の移譲により、我が国での治験が中断してしまいます。治験の対象となっていた1名の患者について、インフィグラチニブでの治療を継続するために、患者申出療養として申請が行われるという、異例のケースとなっています。権利を譲り受けた製薬メーカーは、改めて治験を実施する予定ですが、当該1名の患者がその対象となるかは不明であり、また治験開始時期も不明なため、「患者申出療養での救済」を求めているのです。

評価会議では、「当該患者の救済」という点を重視して、「海外での治験の最新情報等を確認しながら治療を継続する」ことを条件に、患者申出療養として保険診療との併用を行うことを認めました。

 
しかし、「制度そのものに照らすと、本件の患者申出療養への組み入れには問題もある」との指摘もあります。

患者申出療養は、疾病と闘う患者の申し出を起点として、保険外診療(未承認薬や適応外薬など)と保険診療との併用を可能とする仕組みですが、当該保険外診療の「将来的な保険収載」を目指し、▼臨床研究の一環として実施する▼一定の有効性・安全性が確認された治療法を対象とする―などの枠組みが設けられています。まったく安全性や有効性が確認されていない医薬品を、「患者が望むから」といって闇雲に使用することは倫理的にも許されないからです。

患者申出療養を初めて実施する場合、患者は国に対して申し出を行う(臨床研究中核病院が協力、支援)
患者申出療養を初めて実施する場合、患者は国に対して申し出を行う(臨床研究中核病院が協力、支援)
前例のある患者申出療養を実施する場合、患者は臨床研究中核病院に対して「実施を希望する医療機関」で当該医療を行いたいと申し出る
前例のある患者申出療養を実施する場合、患者は臨床研究中核病院に対して「実施を希望する医療機関」で当該医療を行いたいと申し出る
 
翻って本件では、治験中に「当該患者について、一定の安全性・有効性がある」ことが確認されたものの、「他の患者も含めて(集団として)、一定の安全性・有効性があるのか」は不明なのです。このため、「本件の患者申出療養への組み入れを持って、他にも『集団としての一定の安全性・有効性が確認されていない治療法』を、患者申出療養として認めなければならないことになってしまうのではないか」と危惧する声が出ているのです。確かに「患者の救済」という点は非常に重要ですが、「あらゆる治療法を患者申出療養として認める」ような事態は決してあってはなりません(安全性の確保、保険財源の適正な活用など、さまざまな面で問題がある)。

委員からは「患者申出療養の性質上、ケースバイケースで『一定の安全性・有効性』を決めざるを得ないが、一定程度、考え方をまとめておく必要がある」との提案もなされており、今後、検討の俎上にあがる可能性もあります。

また、本件は、いわば「製薬メーカーの都合によって、治験が中断された」事例と言えます。これを患者申出療養で救済すべきなのか、「治験制度のアフターフォローなど、別の枠組み」として救済すべきなのではないか、というそもそもの問題もあります。患者代表の立場で参画している天野慎介構成員(全国がん患者団体連合会理事長)や、本件の事前審査にも携わった手良向聡構成員(京都府立医科大学生物統計学教室教授)、松井健志構成員(国立循環器病研究センター医学倫理研究部倫理研究室室長)らは、後者の枠組みの検討を強く求めています。

 
なお、11月22日の評価会議では、1例目の患者申出療養である「腹膜播種・進行性胃がん患者への『パクリタキセル腹腔内投与及び静脈内投与並びにS-1内服併用療法』」について、臨床研究中核病院である東京大学医学部附属病院に対し、中間評価報告を求めることを決めました。本技術に先行して、先進医療Bで行われた「腹膜播種を伴う初発胃がん患者への『パクリタキセル腹腔内投与及び静脈内投与並びにS-1内服併用療法』」と比べ、「治療効果が明らかに劣っている」などの事態が生じていないかなどを確認するものです。

 
 

 

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