新専門医制度は「地域で必要とされる優れた臨床医の養成」に主眼を置くべき―日病・相澤会長



Pocket

 従前の専門医制度では、例えば「個々の医師が専門領域を持ちながらも、内科や外科といった領域を超えて、カバーしあいながら地域医療を支える」形となっていた。しかし、現在の新専門医制度ではこうした形をとれない方向に進み、むしろ医師偏在を助長することになるのではないか。新専門医制度は、「地域で必要とされる優れた臨床医の養成」に主眼を置き、偏在対策は別の仕組みの中で行うべきである。こうした点について、日本病院会としての意見を表明していってはどうか―。

 日本病院会の常任理事会ではこうした懸念等が示され、今後、新専門医制度の在り方について意見を表明していく方針が固められたことが、10月30日に記者会見を行った相澤孝夫会長(社会医療法人財団慈泉会相澤病院理事長)から発表されました。

10月30日の定例記者会見に臨んだ、日本病院会の相澤孝夫会長(社会医療法人財団慈泉会相澤病院理事長)
10月30日の定例記者会見に臨んだ、日本病院会の相澤孝夫会長(社会医療法人財団慈泉会相澤病院理事長)
 

新専門医制度で、「質の担保」と「地域偏在の是正」を両立させることには無理がある

従前の専門医制度に対し、「学会が乱立し、各々で専門医資格を授与しているため、専門医の質が担保されているのかが不明確で、また国民にとって分かりにくいものとなっているのではないか」という課題があり、これを解決するために新専門医制度が構築されたのです。そのポイントは、▼「18領域+総合診療専門医の基本領域」を1階部分とし、その上に基本領域と関係の深いサブスペシャリティ領域(2階部分)を設け、専門医の認定は、日本専門医機構と学会が共同で行うことで「国民への分かりやすさ」を担保する▼専門研修プログラムを、日本専門医機構の策定した整備指針に則って、各学会が責任をもって作成することで「専門医の質」を担保する―などと整理でるでしょう。

 新専門医制度は、今年度(2018年度)から全面スタートし、現在、来年度の専攻医(新たな専門医の資格取得を目指す後期研修医)の登録が始まっています。

しかし日本病院会の会員病院からは、新専門医制度の施行状況を踏まえて次のような問題点が指摘されているようです。

▽従前の専門医制度に比べて、一般病院(日病の会員病院など)での研修医(専攻医)が減っている

▽内科や外科でも研修医が減少しているが、とくにそれ以外の診療科では、専門研修プログラムの基幹病院からはずれた一般病院では、自ら専攻医(研修医)を募集することができず、ゼロ人となっているところも少なくない

 
 新専門医制度には、上記のような「研修医の質を担保し、かつ国民に分かりやすいものとする」といった要請のほかに、「地域の医師偏在を助長させない」といった要請も加わりました。

 しかし、上述のように地域の一般病院では研修医(専攻医)が減り、地域偏在が助長されている面があるようです。相澤会長は、さらに「若手医師は、指導医の下で学ぶとともに、失敗を指導医にカバーしてもらいながら経験を積んでいく。しかし、新専門医制度のベースとなるプログラム制(年次ごとに定められた研修プログラムに則って、定められた施設で研修を行う仕組み)の下では、『優秀な指導医の下で研修(指導)を受ける』ことが難しくなっているのではないか」(例えば、研修プログラムの下で、必ずしも優秀でない指導医の下で研修せざるを得ないケースが出ていく可能性も否定できない)との考えも示しました。後者は「質の確保」を揺るがすものとも言えます。

 これでは、両方の要請に対して「どっちつかず」の結果に終わることも懸念されます。この背景には、新専門医制度に課せられた「2つの要請」(▼質の担保▼地域の医師偏在の是正―)を同時に達成しなければならないことがあると相澤会長は指摘した上で、後者の「地域の医師偏在の是正」は別の仕組みで対応し、新専門医制度は前者の「質の担保」、つまり「良い臨床医の育成」に主眼を置くべきではないか、と訴えました。

 この点、日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会で構成される「四病院団体協議会」が、新専門医制度に対する意見を表明していますが(関連記事はこちら)、「日本病院会としての意見」(日病で養成を始めている『病院総合医』と、新専門医制度における『総合診療専門医』との関係、地域で求められる専門医像と、必要とされる能力など)を別途、取りまとめ、表明していくことになりそうです。今後、日病内部でさらに議論を詰めていくことになります(病院総合医の関連記事はこちらこちら)。

 
さらに相澤会長は、地域医療においては「総合的な診療能力を持つ医師」の存在が非常に重要であるとも強調。新専門制度では、19番目の基本領域として「総合診療専門医」を位置付け、養成を開始していますが、早くとも2021年度以降にならなければ総合診療専門医は誕生しません。その間にも、地域において総合的な診療能力を持つ医師が不可欠なことは述べるまでもありません。

この点、相澤会長は「従前の専門医制度の下では、専門医は、特定の専門領域を持ったうえで、内科医も軽度の腰椎圧迫骨折などの外科領域をカバーし、外科医も肺炎などの内科領域をカバーするという形で、総合的な診療能力を持ち、地域医療を支えてきた。しかし、新専門医制度の下ではそういう形での地域医療の支え方ができなくなっていくように見える」と懸念しています。今後の動向に要注目です。

 
 

 

MW_GHC_logo

 

【関連記事】

消費税問題、税率が20%、30%に上がることも踏まえ「抜本的な対応」も検討すべき―日病・相澤会長
急性期入院医療の評価指標は「看護必要度」でよいのか、再検討が必要―日病・相澤会長
医師確保対策は進めるべきだが、支援病院要件の見直しは拙速を危惧―日病・相澤会長
急性期入院基本料の再編、診療実績に応じた評価は賛成だが、看護必要度には疑問も—日病・相澤会長
10月10日から【病院総合医】育成プログラム申請を受け付け—日病・相澤会長、末永副会長
「病棟の機能」にとどまらず、「病院の機能」も踏まえた診療報酬が必要—日病・相澤会長
卒後6年以上の医師を対象に、2018年度から「病院総合医」養成開始—日病
働き方改革に向け、1年かけて独自に「勤務医の働き方」などのデータ収集—日病・相澤会長
「原点回帰し、新しい未来を創造」、新執行部披露会で相澤日病会長
変えるべきは変え、守るべきは守り、未来へと進む―日病、新会長に相澤孝夫氏を選出

専門研修修了医(certified doctor)と臨床経験を十分に積んだ専門医(specialist)は区別すべき―四病協

新専門医制度、2019年4月から研修始める「専攻医」募集を正式スタート―日本専門医機構
新専門医制度、「シーリングの遵守」「迅速な情報提供」「カリキュラム制の整備」など徹底せよ―医師専門研修部会
新専門医制度、2019年度の専攻医登録を控えて「医師専門研修部会」議論開始
東京都における2019年度の専攻医定員、外科など除き5%削減を決定―日本専門医機構
2019年度新専門医研修、「東京のみ」「東京・神奈川のみ」で完結する研修プログラムの定員を削減―日本専門医機構
2019年度、東京都の専攻医定員数は2018年度から5%削減―日本専門医機構
日本専門医機構、新理事長に帝京大の寺本民生・臨床研究センター長が就任
がん薬物療法専門医、サブスペシャリティ領域として認める―日本専門医機構
2019年度の専攻医登録に向け、大阪や神奈川県の状況、診療科別の状況などを詳細分析―日本専門医機構
東京の専攻医、1年目に207名、2年目に394名、4年目に483名が地方勤務―日本専門医機構
新専門医制度、東京で専攻医多いが、近隣県を広くカバーする見込み―日本専門医機構

新専門医制度によって医師の都市部集中が「増悪」しているのか―医師養成と地域医療検討会
新専門医制度、偏在対策の効果検証せよ―医師養成と地域医療検討会
医学生が指導医の下で行える医行為、医学の進歩など踏まえて2017年度に再整理―医師養成と地域医療検討会

新専門医制度、専門研修中の医師の勤務地を把握できる仕組みに―日本専門医機構
地域医療構想調整会議での議論「加速化」させよ―厚労省・武田医政局長
新専門医制度で医師偏在が助長されている可能性、3県では外科専攻医が1名のみ—全自病
新専門医制度の専攻医採用、大都市部の上限値などの情報公開を―四病協

新専門医制度、東京で専攻医多いが、近隣県を広くカバーする見込み―日本専門医機構
新専門医制度、現時点で医師偏在は助長されていない―日本専門医機構
新専門医制度、専門研修中の医師の勤務地を把握できる仕組みに―日本専門医機構

新専門医制度のサブスペシャリティ領域、国民目線に立ち「抑制的」に認証すべき―四病協

新専門医制度、専攻医の1次登録は10月10から11月15日まで—日本専門医機構
新専門医制度、都道府県協議会・厚労省・検討会で地域医療への影響を監視—医師養成と地域医療検討会
新専門医制度、地域医療への影響を厚労省が確認し、問題あれば対応—塩崎厚労相
2018年度からの新専門医制度に備え、10月から専攻医の仮登録—日本専門医機構
新専門医研修プログラム、都道府県協議会で地域医療を確保する内容となっているか確認―厚労省
専門医機構、地域医療への配慮について「必ず」都道府県協議会の求めに応じよ—厚労省検討会
新整備指針の見直し、総合診療専門医の研修プログラム整備基準を決定—日本専門医機構
専門医整備指針、女性医師に配慮した柔軟な対応などを6月2日の理事会で明記—厚労省検討会
地域医療へ配慮し、国民に分かりやすい専門医制度を目指す—日本専門医機構がQ&A
専門医取得が義務でないことやカリキュラム制の設置、新整備指針の中で対応—日本専門医機構
新専門医制度、整備指針を再度見直し「専門医取得は義務でない」ことなど明記へ―厚労省検討会

新専門医制度、見直しで何が変わったのか、地域医療にどう配慮するのかを分かりやすく示す―日本専門医機構
必要な標準治療を集中的に学ぶため、初の基本領域での研修は「プログラム制」が原則―日本専門医機構
新専門医制度、東京・神奈川・愛知・大阪・福岡では、専攻医上限を過去3年平均に制限―日本専門医機構
専門医制度新整備指針、基本理念に「地域医療への十分な配慮」盛り込む―日本専門医機構
地域医療に配慮した、専門医制度の「新整備指針」案を大筋で了承―日本専門医機構
消化器内科や呼吸器外科など、基本領域とサブスペ領域が連動した研修プログラムに―日本専門医機構
総合診療専門医、2017年度は「日本専門医機構のプログラム」での募集は行わず
新専門医制度、18基本領域について地域医療への配慮状況を9月上旬までにチェック―日本専門医機構
【速報】専門医、来年はできるだけ既存プログラムで運用、新プログラムは2018年目途に一斉スタート―日本専門医機構
新専門医制度、学会が責任もって養成プログラムを作成、機構が各学会をサポート―日本専門医機構
【速報】新専門医制度、7月20日に「検討の場」、25日の総会で一定の方向示す見込み―日本専門医機構
新専門医制度、各学会がそろって同じ土俵に立ってスタートすることが望ましい―日本専門医機構・吉村新理事長
【速報】新専門医制度、日本専門医機構の吉村新理事長「7月中に方向性示す」考え

新専門医制度で地域の医師偏在が進まないよう、専門医機構・都道府県・国の3層構造で調整・是正―専門医の在り方専門委員会
新専門医制度、懸念払しょくに向けて十分な議論が必要―社保審・医療部会

2016年末、人口10万人当たり医師数は240.1人、総合内科専門医が大幅増―医師・歯科医師・薬剤師調査―2014年医師・歯科医師・薬剤師調査

Pocket