11月にも「大学医学部入試に係る規範」制定、不合理な入試制度には改善求める―医学部長病院長会議



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 「国民に理解される医学部入試」制度とするため、1か月ほどかけて「各大学医学部の拠り所となる規範」を構築。その後、各大学医学部の選抜要綱などを精査し、必要があれば本年度(2018年度)中に改善を求める―。

 全国医学部長病院長会議は10月16日に緊急記者会見を開き、こうした方針を明確にしました(関連記事はこちら)。

10月16日に全国医学部長病院長会議が緊急記者会見を行い、「国民に理解される公正・公平な入試制度の実現」に向けた見解を発表した。向かって左から、唐澤久美子委員(東京女子医科大学医学部長)、山下英俊会長(山形大学医学部長)、嘉山孝正委員長(山形大学医学部参与)、羽生田正行副会長(愛知医科大学病院病院長)、黒岩敏彦委員(大阪医科大学医学部教授)
10月16日に全国医学部長病院長会議が緊急記者会見を行い、「国民に理解される公正・公平な入試制度の実現」に向けた見解を発表した。向かって左から、唐澤久美子委員(東京女子医科大学医学部長)、山下英俊会長(山形大学医学部長)、嘉山孝正委員長(山形大学医学部参与)、羽生田正行副会長(愛知医科大学病院病院長)、黒岩敏彦委員(大阪医科大学医学部教授)
 

規範に沿った入試制度を各大学で構築し、それを一定の範囲で公表することが必要

 一部の大学医学部において、学生の選考にあたり女学生や浪人生を不利に扱っていることが明らかになっています。そうした中で全国医学部長病院長会議では、「国民に理解される公正・公平な入試制度の実現」を目指し、(1)▼性別▼浪人年数▼内部進学▼地域枠—など「様々な入学枠に関する公平性」の考え方(2)募集要項など「受験生への事前の情報提供」の在り方—などの自律的な検討を開始しました(関連記事はこちら)。

10月16の緊急記者会見では、全国医学部長病院長会議「大学医学部入学試験制度検討小委員会」(以下、小委員会)の嘉山孝正委員長(山形大学医学部参与)が検討に向けた考えを詳細に説明しました。

大学医学部入学試験制度検討小委員会の嘉山孝正委員長(山形大学医学部参与)
大学医学部入学試験制度検討小委員会の嘉山孝正委員長(山形大学医学部参与)
 
嘉山委員長は、まず医学部における学生選抜の大原則が、「国民にとって良き医療人になりうる人材」を選ぶ点にあることを強調。臨床に携わる医師は、常に「患者という人間」を相手に業務を行うため、学力のみを備え(ペーパーテストの成績が良い)ていればよいというわけにはいきません。嘉山委員長は「疾患に罹患すれば心に痛み(pain)が生じる。これを取り除くのも医師の仕事である」と説明します。

こうした大前提に立って、各大学医学部では独自の「アドミッションポリシー(入学者受け入れ方針)」を固め、さまざまな入試制度を設けています。例えば北海道大学医学部では、通常の大学入試のほかに、▼AO入試(学力試験を課さず、高等学校における成績や小論文、面接などで人物を評価)▼学士編入試▼帰国子女入試―を実施しています。

現在、この各大学医学部独自の「アドミッションポリシー」について、「不適切なものがあるのではないか」「公平・公正な仕組みとなっていないのではないか」といった指摘が出ているのです。嘉山委員長は「小委員会で、どこまでアドミッションポリシーの独自性が認められるのかを早急に議論し、1か月ほどで『規範』を示す」考えを提示しました。例えば、一部大学では「現役・1浪には加点を行うが、2浪生には加点を行わない」、「男子学生に加点を行い、女子学生には加点を行わない」などの選抜ルールを設けているといいますが、これらが不合理なのか、合理的なのかを判断する基準となるイメージです。

非常に難しい議論となることが予想されます。例えば、東京女子医科大学では男子学生は入学できません。これは「性差別」に該当すると見ることもできますが、「女性医師の育成に特化する」という大学の考え方があり、さらに長年の歴史の中で国民から認容されているため「アドミッションポリシーとして認められる」と判断されそうです。しかし、新たに「女子医科大学を設置し、そこには男子学生は入学できない」というケースが生じた場合、アドミッションポリシーとして認められるかは極めて不透明です。

さらに「地域枠」についても、医師少数地域への対策として広く許容されていますが、人口減少が進み、仮に「医師不足が解消されてきた」暁には、「アドミッションポリシーとして認容できるか」という議論が生じる可能性もあります。

「どこまでがアドミッションポリシーとして許容され、どこからが『不公正・不公平』として許されないか」が規範の中で示されますが、どのような内容となるのか要注目です。

 
また、ある大学医学部が、例えば「多浪生よりも現役生の方が、将来、学力等が伸びるというエビデンスがある。これに基づき現役生を優先する」というアドミッションポリシーが合理的と判断され(そう判断されるかどうかは、現時点ではもちろん不明)、打ち立てたとして、それが受験生に公表されていることが求められます。多浪生は、そのアドミッションポリシーを見て、「やはり当該大学医学部に入学したい」と考えるか、「他大学医学部を目指そう」と考えるか、その検討の機会が与えられてしかるべきだからです。

ただし嘉山委員長は、▼「公表すれば、すべてが認められる」わけではない(当然、規範に合致しなければならない)▼あまりに細かい数字などを示すことが難しい場合もある―とし、公表の方針についても整理を行う考えを示しました。後者については、例えば「附属高等学校の成績優秀者について、別途の合格枠を設ける」というアドミッションポリシーが設定されたとして、「その人数までも公表すべきか」という問題です。

今後、各大学医学部では「規範」に則ったアドミッションポリシーを設定し、それを一定の範囲で公表することが求められるようになります。もっとも、来年度(2019年度)の入学生に関しては、各大学医学部ですでに入試要項等を固めているため、現時点で変更を求めるとなれば受験生も混乱しかねません。制度的には「2020年度の入学生に向けた入試」から規範が適用されることになります(もちろん、不合理な内容については、2019年度においても各大学において是正・改善することが求められる)。

 
さらに嘉山委員長は、規範に照らして「不合理」なアドミッションポリシーがあれば改善を求めていくことになるとも言及。現在、文部科学省で各大学医学部の入試要項等の詳細が調査されており、その結果を規範に照らし、必要があれば改善勧告などが出されることになるでしょう。
 
 
 

 

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