高齢者の保健事業と介護予防の一体化、「無関心層」へのアプローチが重要課題―保健事業・介護予防一体的実施有識者会議



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 高齢者の保健事業と介護予防事業の一体的実施に向けては、いわゆる「無関心層」にどうアプローチしていくかが重要な鍵となる―。

 厚生労働省が9月20日に開催した「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施に関する有識者会議」(以下、有識者会議)では、先進自治体の取り組みについてヒアリングを実施。その中では、このような課題が再確認されました(関連記事はこちら)。

9月20日に開催された、「第2回 高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施に関する有識者会議」
9月20日に開催された、「第2回 高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施に関する有識者会議」
 

三重県津市、神奈川県大和市、滋賀県東近江市の先進事例

 2025年には、いわゆる団塊の世代がすべて後期高齢者となるため、今後、医療・介護ニーズが急速に増加していきます。その後、2040年にかけて高齢者人口の増加は続くものの、伸び率は鈍化し、併せて生産年齢人口が急激に減少していきます。このように公的医療保険制度の存立基盤が極めて脆くなる中では、「医療費の伸びをいかに、我々国民で負担できる水準に抑えるか」(医療費適正化)が重要となり、加藤勝信厚生労働大臣は「健康寿命の延伸」に力を入れていく考えを強調しています。

この点、健康保険(健保組合や協会けんぽ)・国民健康保険では「生活習慣病対策」として、特定健診(いわゆるメタボ健診)・特定保健指導を40歳以上の加入者を対象に実施。また75歳以上の後期高齢者が加入する後期高齢者医療制度では「フレイル対策」(虚弱対策)を推進。一方、介護保険制度では、保険者である市町村が「介護予防」に取り組むこととされています。

厚労省は、「高齢者の保健事業と介護予防を一体的に実施する」仕組みを構築する方針を打ち出し、有識者会議で法制度面・実務面の検討を行うこととなったのです。例えば、「主に市町村が運営する介護予防事業における『通いの場』(現在は集団指導が中心)に、地域の高齢者が積極的に参加し、そこで個別高齢者に対するフレイル(虚弱)や低栄養などのチェックを行い、個別的な栄養指導や医療機関の受診勧奨などにつなげる」仕組みなどが考えられそうです。9月20日の有識者会議では、すでに一体的な取り組みを独自に進めている▼三重県津市▼神奈川県大和市▼滋賀県東近江市―からヒアリングを行いました。

高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施・推進イメージ
高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施・推進イメージ
 
三重県津市では、介護サービスを利用していない高齢者を対象に、2015-17年にかけて保健センターの保健師や管理栄養士が巡回栄養相談を実施。本人の健康状態を踏まえて、▼個別栄養支援(住民の「将来の希望」を聴取し、専門職が寄り添って栄養改善計画を作成し、フォローする)▼地域栄養ケア支援(地域全体の栄養状態改善に向けて、研修会の実施や、高齢男性の向けの料理教室などを開催)—を行いました。栄養状態の改善は、まだ数値にこそ現れませんでしたが、「個別高齢者の栄養面の課題(タンパク質摂取不足や脱水など)」「地域における栄養改善に向けた課題(高齢男性の出かける場が少ない、一人暮らし高齢者は食生活が乱れがち、など)」の抽出が可能になり、高リスク者の早期発見と、自立生活に向けた早期介入につながったとともに、「住民団体、地域の社会福祉協議会、地域包括支援センター、地域医師会、歯科医師会との連携が不可欠である」ことなどの再確認ができたといいます。

 
神奈川県大和市でも、栄養面のリスク保有者に対し、地域の医師会や医療機関、歯科医師会、薬剤師会と連携した上での「管理栄養士による訪問」を実施しました。対象者は、75歳到達者に、健康チェックリストを送付し、その返信結果を基に抽出しています。この取り組みにより▼低栄養状態の改善(8-9割の対象者で栄養状態が維持・改善)▼要介護・要支援状態への移行防止(介入群では4分の1に抑えられた)▼介護費の適正化(年間6760万円と推計される)▼医療費の適正化(年間500万円)▼糖尿病性腎症の重症化予防(介入群では透析導入がゼロで、6-9割の人でHbA1c値、eGFR値が維持・改善)—という効果が得られています。

 
一方、滋賀県東近江市では、▼国民健康保険▼後期高齢者医療制度▼介護保険―のデータを個人単位で連結し、そのデータも活用した「後期高齢者ウェルカム事業」「市の各課連携によるフレイル対策」を実施しています。前者の「後期高齢者ウェルカム事業」では、市内の後期高齢者に「健康に関する目標」を定めてもらい、それに向けた取り組みを「ポイント」化し(健康貯金)、▼健康グッズ▼商品券▼市の特産品▼ボランティア基金への寄付―などに交換するなどの取り組みが行われています。市民にインセンティブを付与することで、健康への取り組みを活性化する狙いがあり、3511名の対象者のうち、569名が健康貯金に参加しているといいます。

先進事例からも、「人材確保」「無関心層へのアプローチ」などの課題が浮上

こうした独自の取り組みを有識者会議の構成員は絶賛。ただし、こうした先進事例を横展開していくに当たっての課題も浮上してきました。

例えば、三重県津市長でもある前葉泰之構成員は、「フレイル対策は後期高齢者広域連合から市町村に委託される形なので、厳密には対象者は『75歳以上』(後期高齢者のみ)である。しかし、市町村の『通いの場』(保健事業)に広く65歳以上の高齢者も来てほしいとなると、『この方は74歳なので、こちらの事業』『この方は77歳なので、こちらの事業』と分けなければいかなくなったりする。75歳以上の後期高齢者という切り口で考えるとこういう問題が生じてしまう」と指摘。さらに、こうした問題には地域の独自性(住民、専門職の人材など)もあるため、例えば「市町村の『高齢者保健事業』等に、資金(補助)を拠出し、市町村が独自の考えで取り組める」仕組みを構築してはどうかと提案しています。

 
また前葉構成員も指摘した「専門職人材の確保」は、多くの自治体で高いハードルとなることでしょう。この点、神奈川県大和市は、上記のように「実績」が数字で現れているために、「専門職確保のための予算」が取得できるようです。この点については、例えば、地域の専門職の団体(医師会、歯科医師会、看護協会、管理栄養士会など)との連携を強化するほか、「管理栄養士や保健師などの専門職でなければできない業務と、非専門職(例えば住民ボランティアなど)でも可能な業務との切り分け・整理が必要になる」と津下一代構成員(あいち健康の森健康科学総合センターセンター長)は指摘しています。

 
 さらに、前回の有識者会議でも指摘された「無関心層へのアプローチ」が最大の課題であることも改めて浮き彫りとなりました。先行自治体の発表からは「アウトリーチ」(いわば訪問)に一定の効果があることが示唆されましたが、すべての市町村で、無関心層すべてに訪問を行うことは現実的とは言えません。また訪問を行っても、留守の場合もあるでしょう。

ただし、有識者会議では、「無関心層」と言っても、高齢者の場合には「健康増進に必ずしも無関心なわけではなく、諦めてしまっている人が多い」との指摘もあります(若い世代の無関心との違い)。このため、何らかの工夫によって、参加率を高めることも可能と考えられ、今後、「参加したくなる通いの場」の在り方などについて有識者会議でも議論が深められることになるでしょう。そこでは滋賀県東近江市で取り組まれているような「インセンティブ付与」も重要な選択肢の1つとなりそうです。

 
 

 

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