新たな介護職員処遇改善加算、介護福祉士に重点化するとともに、多職種への適用も―介護給付費分科会



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 来年(2019年)10月には消費税率が、現在の8%から10%に引き上げられる予定です。これに伴い、介護事業所・施設の消費税負担を補填するための、特別の介護報酬プラス改定(以下、消費税対応改定)が行われる見込みです。あわせて、安倍晋三内閣では「介護従事者の大幅な処遇改善を行う」方針を示しており、【介護職員処遇改善加算】の見直しも予定されています。

 9月5日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会では、こうした点について具体的な議論を開始しました。2019年度の予算編成等を睨み、12月までに詳細を固め、審議報告を行います。

9月5日に開催された、「第161回 中央社会保険医療協議会 介護給付費分科会」
9月5日に開催された、「第161回 中央社会保険医療協議会 介護給付費分科会」
 

2019年10月に消費増税、介護報酬での対応を検討

 介護保険サービスについても、保険医療と同じく消費税は非課税となっています。介護事業所・施設(以下、事業所等)が物品等を購入した場合、納入業者等に支払った消費税を利用者や保険者に転嫁することはできず、事業所等が最終的に負担します。この負担を補填するために消費税対応改定が行われています。

 来年(2019年)10月にも消費増税が予定されており、介護給付費分科会では、消費税対応改定の中身を検討するために、事業者等の団体から▼2014年度の消費税対応改定の評価(消費税率5%→8%)▼2019年度の消費税対応改定に向けた意見―を聴取する方針を決定しました。

処遇改善加算、「重点化」と「柔軟な運用」のバランスをどうとるかが重要論点に

高齢化と少子化が同時に進む中では、「介護従事者の確保」が極めて重要な課題となります。2018年度からスタートしている第7期介護保険事業計画(2018-21年度)では、▼2020年度に約216万人▼2025年度に約245万人―の介護需要が生じ、これに対応するために、現在の介護人材190万人に加え、新たに▼2020年度時点で約26万人▼2025年度時点で約55万人―の介護人材を確保する必要があることが分かります。年間「約6万人」の介護人材を確保しなければならない計算です(関連記事はこちら)。
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しかし、介護業務は「その厳しさに対し賃金が安い」ことなどを背景に、人材確保には大きなハードルがあります。厚生労働省老健局老人保健課の眞鍋馨課長は、▼介護職員の賃金水準は、全産業平均に比べて低い▼介護職員の平均勤続年数は、産業計に比べて「35歳以上で下回る」傾向にある―というデータを示しました。後者のデータからは、とくに「職場定着が難しい実態がある」ことが伺えます。
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さらに、アベノミクスの効果によって景気が回復基調にある中では、「賃金の低い介護業界」から「賃金の高い他産業」への人材流出が進んでしまい、さらに介護人材の不足が進行。その結果、1人当たりの業務負担が増え、さらに他産業への人材流出が進むという負のスパイラルも生じてしまいます。介護分野の有効求人倍率が、他産業よりも高い水準で上昇し続けていることが、これを裏付けています。
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安倍内閣では、こうした点を重くみて新しい政策パッケージ(2017年12月閣議決定)の中で、「消費税対応改定において、介護職員の更なる処遇改善を行う」方針を打ち出しました。勤続年数10年以上の介護福祉士(およそ20万人)の賃金水準を全産業平均程度にまで引き上げる(月額8万円程度の引き上げ)ことを算定根拠に、1000億円(20万人×月額8万円→2000億円、うち公費負担が2分の1となる)の財源を確保。【介護職員処遇改善加算】(以下、処遇改善加算)の見直しに向けた検討を、介護給付費分科会で進めることになったのです(関連記事はこちら)。
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この処遇改善加算の見直しに向けて、眞鍋老人保健課長は、▼重点化▼柔軟な運用―のバランスをどう図っていくかという論点を提示しています。

前者の重点化とは、「経験・技能のある職員」にターゲットを絞り、その処遇について思い切った改善を行うことを意味します。「長く勤め、資格を取得すれば、収入が高まる」との絵を描くことで、若手の介護職員のモチベーションが高まり、職場定着・キャリアアップが進む、という好循環を目指すものです。

他方、現在の処遇改善加算には「介護従事者の処遇改善に限定されており、看護職やリハビリ専門職などの他職種の賃金水準とのバランスを考えてしまい、処遇改善取得に向けたハードルとなっている」(他職種の賃金を上げるには事業所等の自助努力が必要となるが、そこまでの体力はない)との課題も指摘されています。このため、今般の処遇改善加算においては、後者の「柔軟な運用」、つまり他職種の処遇改善にも、処遇改善加算による収入を充てられるようにすることが重要論点として掲げられているのです。

 
両者のバランスをどう考えるかは、今後、介護給付費分科会で探っていくことになります。9月5日の介護給付費分科会では、「底上げのために『柔軟な運用』は否定しないが、技能・経験のある介護福祉士が処遇改善の実感を持てるようにすべき」(石本淳也委員:日本介護福祉士会会長)、「多くの職種で処遇改善の必要がある。柔軟な運用に期待する」(小原秀和委員:日本介護支援専門員協会副会長)、「事業所等に一定の『裁量』を認めてほしい」(江澤和彦委員:日本医師会常任理事)など、さまざまな意見が出ています。

なお、この点に関連し瀬戸正嗣委員(全国老人福祉施設協議会理事・統括幹事)は、「勤続10年以上の介護福祉士は月額8万円、賃金が上がる」という点が独り歩きしていることを危惧しています。「勤続10年」「月額8万円」は、上述のように、あくまで財源の算定根拠となった数字であり、「加算の対象」「賃金の引き上げ内容」などは、今後、具体的に議論され、かつ「事業所等における処遇改善の内容には相当程度の幅がある」という点に留意が必要です。

単なる賃金アップではなく、「職場環境の改善」などを進めよ

ところで、9月5日の介護給付費分科会では、多くの委員から「賃金水準アップだけで、介護人材の定着等が図られるのか」という声が出されました。介護労働安定センターの調査によれば、介護関係職種の離職理由としては、「収入が少ない」(15.0%)だけでなく、「人間関係」(20.0%)、「法人や事業所等の理念や運営の在り方への不満」(17.8%)なども大きいことが分かりました。また社会福祉振興・試験センターの調査によれば、介護福祉士の離職理由として、「収入が少ない」(23.0%)のほか、「業務に関連する心身の不調」(27.1%)、「法人や事業所等の理念や運営の在り方への不満」(25.7%)なども大きくなっています。

石田路子委員(高齢社会をよくする女性の会理事)や齋藤訓子委員(日本看護協会副会長)、東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)らは、「こうした職場環境等の改善がなければ、どれだけ賃金を上げても、介護人材は職場に定着しない」と強く指摘。齋藤委員は、「処遇改善加算の要件に、積極的に職場環境の改善など実施していること、などを盛り込む必要がある」と提案しています。

 
なお、9月5日の介護給付費分科会では、介護職員の処遇改善を「介護報酬の中で行う」ことについての疑問(保険料負担も伴うため)が出されたほか、武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)や江澤委員からは「病院などに勤務する介護従事者の処遇改善について、どこかの機会で一度議論すべきではないか」との提案がなされました。
 
 

 

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