がん標準治療が浸透しているが、乳房切除後の乳がん患者への放射線照射は7割未満―国がん



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 がん診療連携拠点病院などにおいて、腎・肝機能障害などで標準治療を実施できなかったケースを除くと、「臨床ステージI-IIの非小細胞がん患者に対する外科治療・定位放射線治療」や「組織学的ステージII・IIIの進行胃がんに対するS-1またはCapeOXによる術後化学療法」などの標準治療実施率は約99%に達し、標準治療の浸透が伺える。一方、「再発のリスクが高く乳房切除を行った乳がん患者に対する術後の放射線治療」は、同じ標準治療であるが実施率は66.6%にとどまっている―。

 国立がん研究センター(国がん)が8月2日、こういった調査結果を発表しました(国がんのサイトはこちら)(前年(2013年)の標準治療実施状況に関する記事はこちら)。

がん医療「内容」の均てん化に向け、QIを設定し標準治療の実施状況を追跡

 我が国では、死因の第1位を「がん」が独走しています。がん対策として、▼予防としての生活習慣改善▼早期発見を目指す各種検診の充実と受診勧奨▼がん医療(手術療法、化学療法、放射線療法)の充実▼希少がん・難治性がんの研究推進▼世代におうじたがん対策(小児、AYA世代、高齢者)▼がんリハビリテーションの充実▼がんゲノム医療の推進▼仕事と治療の充実▼がんと診断された時からの緩和ケア実施―など、さまざまな取り組みが行われています。

このうち「がん医療の均てん化」に関しては、「がん診療連携拠点病院や地域がん診療病院の指定」を中心とした医療提供体制の均てん化が目立ちます。日本全国のどの地域に住んでいても、等しく優れたがん医療を受けられる体制を目指すものです。これに関連して、「がん医療の内容(治療内容)」に関する均てん化も重要なテーマの1つとなっています。我が国のがん対策の礎となる「第3期がん対策推進基本計画」でも、科学的根拠に基づいた「標準治療」を推進していく考えが、随所に散りばめられています(第3期がん対策推進基本計画に関する厚労省のサイトはこちら)(関連記事はこちら)。

そうした中で、国立がん研究センターでは、「標準治療」が全国でどの程度実施されているのかを従前より調査。今般、「2014年の標準治療実施状況」をまとめ、公表しました。調査対象は、がん診療連携拠点病院を中心とする424施設で、2014年にがんと診断された56万5503名(うち胃・大腸・肝・肺・乳房の5大がんと診断された患者は23万875名)で、次の9つの代表的な標準治療をQI(Quality Indicator)として、その実施状況を調べています。

がん標準治療の実施状況に関する調査の母集団は、前年調査に比べて10万人以上増加しており、より信頼性が高まっている
がん標準治療の実施状況に関する調査の母集団は、前年調査に比べて10万人以上増加しており、より信頼性が高まっている
 
(1)胃がん(根治手術を受け、組織学的ステージII・III(pT1、pT3N0除く)の進行がん)に対する【S-1またはCapeOXによる術後化学療法】の施行
(2)大腸がん(組織学的ステージIII)に対する【術後8週間以内の標準的補助化学療法】の施行
(3)肺がん(臨床ステージI-IIの非小細胞がん)に対する【外科治療、または定位放射線治療】の実施
(4)肺がん(術後ステージII、IIIAの非小細胞がん、完全切除)に対する【プラチナ製剤を含む術後化学療法】の実施が
(5)乳がん(乳房温存術、70歳以下)に対する【術後全乳房照射】の実施
(6)乳がん(乳房切除、再発ハイリスク(T3以上でN0を除く、または4個以上のリンパ節転転移)に対する【術後照射】の実施
(7)肝がん(初回の肝切除術を受けた肝細胞がん)に対する【ICG15分停滞率の治療開始前測定】の実施
(8)横断(すべてのがんで、催吐高リスクの抗がん剤の処方)に対する【予防的制吐剤(セロトニン阻害剤+デキサメタゾン+アプレピタント)】の同時使用
(9)横断(すべてのがんで、外来での麻薬開始)に対する【緩下剤】の同時あるいは、麻薬開始以前1か月以内の処方

 
 これら9つの標準治療実施率を見ると、例えば、(7)の「肝がん患者に対する【ICG15分停滞率の治療開始前測定】や(3)の「肺がん患者に対する【外科治療、または定位放射線治療】」などは約9割ですが、(6)の「乳房を切除した乳がん患者への【術後照射】」や(4)の「肺がん患者への【プラチナ製剤を含む術後化学療法】」は5割に達していません。

 もっとも、腎機能障害や肝機能障害などにより抗がん剤が使用できない場合や、患者が「手術は受けたくない。抗がん剤は使いたくない」と希望している場合など、標準治療の実施ができないケースも少なくありません。

こうしたケースを除外した「実質的な標準治療の実施率」を見ると、(1)「胃がん患者への【S-1・CapeOXによる術後化学療法】」、(2)「大腸がん患者への【術後8週間以内の標準的補助化学療法】」、(3)「肺がん患者への【外科治療、定位放射線治療】」、(4)「肺がん患者への【プラチナ製剤を含む術後化学療法】」、(5)「乳房温存乳がん患者への【術後全乳房照射】」、(6)「肝がん患者への【ICG15分停滞率の治療開始前測定】」の6項目は90%を超え((3)はほぼ100%実施と言える)、(8)「催吐高リスク抗がん剤使用時の【予防的制吐剤(セロトニン阻害剤+デキサメタゾン+アプレピタント)】の同時使用」と(9)「麻薬開始時の【緩下剤】使用」も約8割となっています。

 また前年(2013年)と比較すると、(1)「胃がん患者への【S-1・CapeOXによる術後化学療法】」(前年に比べて実施率が0.5ポイント増、(3)「肺がん患者への【外科治療、定位放射線治療】」(同0.4ポイント増)、(4)「肺がん患者への【プラチナ製剤を含む術後化学療法】」(同0.4ポイント増)、(8)「催吐高リスク抗がん剤使用時の【予防的制吐剤(セロトニン阻害剤+デキサメタゾン+アプレピタント)】の同時使用」(同1.5ポイント増)、(9)「麻薬開始時の【緩下剤】使用」(同1.8ポイント増)と9項目中5項目で標準治療の実施率が向上しています。

ただし、(6)「乳房切除乳がん患者への【術後照射】」については、実質的な標準治療の実施率(理由のある標準治療の未実施を除く)は66.6%にとどまり、また前年に比べて実施率が4.5ポイントも低下してしまいました。今後、標準的治療を実施できないかった理由などを詳細に調べていく必要がありそうです。
がん標準治療の実施状況2 180802
 
 
 なお、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)では、がん医療の質向上を目指す「CQI研究会」の事務局を務めています。ここでは、がん診療連携拠点病院を初めとする全国のがん診療病院が、自院のDPCデータを持ち寄り、病院の実名入りでベンチマークを実施。参加病院では、他院の状況を踏まえながら、自院の取り組み改善に向けた方策を探っています(CQI研究会に関するGHCサイトはこちら)。
 
 

 

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