医療等のデータ連結において、個人の紐づけは「個人単位の被保険者番号」を基軸に―医療情報連携基盤検討会



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 さまざまな保健・医療・介護データを個人単位で連結し、分析することで、効果的かつ効率で質の高いサービスの提供が可能になると期待されるが、データを連結する際には、新たにいわゆる「医療等ID」のような識別子を発行するのではなく、「個人単位の被保険者番号」を活用して、個人の紐づけを行うことを基本としてはどうか―

 7月26日に開催された「医療等分野情報連携基盤検討会」(以下、検討会)では、こういった方針が了承されました。ただし、個人の機微に関する情報が漏えいするリスクを考慮し、セキュリティ対策を万全にすることなどが求められます(関連記事はこちら)。

なお、NDB(National Data Base:医療レセプトと特定健診に関するデータベース)と介護DB(介護保険総合データベース:介護レセプトと要介護認定に関するデータベース)の連結に向けた検討が進んでいますが、ここで「何を用いて個人の紐づけを行うか」は別途、議論されることになります。

7月26日に開催された、「第2回 医療等分野情報連携基盤検討会」
7月26日に開催された、「第2回 医療等分野情報連携基盤検討会」
 

新たな医療等IDの付与、セキュリティ確保できるが、コストと時間がネックに

 医療や介護、健診などに関する情報は極めて機微性が高く、安易に共有・譲渡することなどは認められません。一方、数多ある医療・介護・健診等のデータを集積し、解析を進めることで、「医療の質を向上させる」ことができるのではないかと期待されています。例えば、「若い頃に●●の生活習慣を持ち、健診で■■と判定された人は、近く○○疾病に罹患する可能性が高い。その際には□□の治療法が有効である。また、こうした人は高齢になると▲▲により要介護状態になる可能性が高いが、その際には△△というケアが状態の維持・改善に有効である」といった知見が確立されれば、より効果的に効率的に保健・医療・福祉(介護含む)サービスを提供することが可能になるでしょう。

この一環として、後述する「全国保健医療情報ネットワーク」の構築・稼働(2020年度本格稼働予定)に向けた準備が進められています。

ところで、ある個人(Aさん)のデータはさまざまなデータベースに、また同じデータベース内にも、いわば「散らばって」格納されています。例えば、Aさんは22歳から会社勤めをし(a社、協会けんぽに加入)、30歳で大企業にヘッドハンティングされ転職(b社、B健康保険組合に加入)、40歳で独立して自営業を始めたとします。Aさんの医療保険の被保険者履歴は「協会けんぽ」→「健保組合」→「国民健康保険」と変遷し、それぞれの時代に受けた健康診査や診療データは、「協会けんぽの被保険者番号○○さん」「B健保組合の被保険者番号△△さん」「◆◆国保の被保険者番号□□さん」と異なる属性で保存されるイメージです。

全国保健医療情報ネットワークをうまく稼働させるには、こうした散らばったデータの紐づけ(名寄せ)が不可欠となります。この紐づけ手法として、検討会の下部組織「医療等分野情報連携基盤技術ワーキンググループ」(以下、ワーキング)では、次の2つの考え方についてメリット・デメリットを議論してきました。

(A案)医療等IDとして見えない番号を新たに発行する手法
(B案)被保険者番号等を活用する手法

 A案は、公的な機関から、国民1人1人に対し目的別・研究機関別に「医療等ID」(電磁的な見えない番号)を発行し、これにさまざまなデータを紐づけていく考えです。仮に情報が漏えいした場合に「現時点では最もリスクが軽減される」手法と考えられますが、膨大なコスト(システム開発や運用の経費)と時間がかかり、また医療機関等の負担増も招いてしまいます。

医療等IDを発行して個人等を紐づける手法(A案)
医療等IDを発行して個人等を紐づける手法(A案)
 
一方、B案は、現在準備が進められている「個人単位の被保険者番号」を活用して、「被保険者番号管理機関」がるため、同一人の被保険者番号履歴を回答する仕組みです。上記の例で言えば「『協会けんぽの被保険者番号○○さん』と『◆◆国保の被保険者番号□□さん』は同一人物である」と回答するイメージです。A案に比べて低廉なコストで済みます。また「回答先を限定する」ことでセキュリティが堅牢になると考えられます。
被保険者番号等を活用して個人を紐づける手法(B案)
被保険者番号等を活用して個人を紐づける手法(B案)
 
ワーキングでは両案について様々な角度から検討。その結果、コスト・時間等を考慮した際「B案が現実的」との結論に到達しました。もっとも、上述のように「セキュリティ確保」を十分に図ることが条件とされています。

7月26日の検討会でも、「B案が現実的」とするワーキングの結論が支持されましたが、「セキュリティ確保」を求める声が多くの構成員から出されています。石川広己構成員(日本医師会常任理事)は、「医療等の情報は極めて重要な個人情報である。被保険者番号を通じて、差別や人権侵害はもちろん、個人の特定につながることにないようセキュリティ確保対策を十分に講じる必要がある」と強調。

また大山永昭構成員(東京工業大学科学技術創生研究員社会情報流通基盤研究センター教授)は、「被保険者番号は、企業の社員番号として用いていることもあるが、原則として『民間の利用は認めない』とすることでセキュリティがより堅牢になる」旨を指摘しています。多くの国民は「被保険者番号から自分の医療情報等が漏えいするリスク」等について意識していません。そこで、例えば第三者の「被保険者番号を教えてほしい」との要望に、安易に答えてしまうケースも想定されます(被保険者証を身分証明書代わりとして用い、企業等にコピーを許可するケースなどはそう珍しくはない)。こうした場合、「慎重に判断すべき」と周知することの重要性も大山構成員は強調しています。

 
なお検討会では、やはり多くの構成員から「医療等の情報を連結することで得られるメリット」を国民に分かりやすく提供する必要があるとの意見も出されました(知野恵子構成員:読売新聞東京本社編集委員や、金子郁容座長代理:慶應義塾大学SFC研究所主席研究員ら)。医療等の情報を連結するために被保険者番号を活用することは、医療等IDを用いる場合にセキュリティがどうしても甘くなります(国民の意識の問題もある)。こうしたリスクを甘受して、なお得られる利益(医療の質の高まりなど)のほうが大きいことを国民に分かりやすく説く必要がある、と森田朗座長(津田塾大学総合政策学部教授)も厚生労働省に指示しています。

 
ところで「データベースの連結」については、NDBと介護DBの連結に向けた議論が「医療・介護データ等の解析基盤に関する有識者会議」を中心に進められています。ここでも「紐づけ」が重要課題とされていますが、先般の『議論の整理』(いわば中間まとめ)では、「匿名情報としての性質を維持した上で、識別・連結の精度の向上につながる方策(個人単位被保険者番号(医療保険)の活用等)についても、保険制度における対応や費用対効果、共通の識別子が備えるべき要件等に留意して、今後引き続き検討すべき」と述べるにとどめており、「被保険者番号を活用した紐づけ」も含めて、今後、検討されることになるでしょう(現時点で、被保険者番号の活用に決定したわけではない点に留意)(関連記事はこちらこちらこちら)。

全国保健医療情報ネットワークの2020年度稼働に向け、既に実証事業を開始

7月26日の検討会では、「全国保健医療情報ネットワーク」の本格稼働に向けた工程表も取りまとめられました。

個々人の▼健診▼診療▼処方―の情報を集積し、例えば「初診時に、過去の健診情報、他院での診療・処方情報を医療関係者が把握した上で、効果的かつ効率的な医療サービスを提供する」「救急搬送患者や災害時などに、医療関係者がネットワークから必要な情報を収集し、迅速に適切な医療提供を行う」ことなどを可能とするものです(関連記事はこちらこちらこちら)。
 
 工程表では、▼2018年度(今年度)▼2019年度▼2020年度以降―のそれぞれで、例えば次のような取り組みを行うことを明示しています。

【2018年度】
▽保健医療記録共有サービスの実証(2018年7月から既に開始している)
▽ネットワークや利用者認証などに関する調査

【2019年度】
▽基本機能のプロトタイプ検証
▽セキュリティ実証
▽ネットワーク接続に関するガイドライン等の整備

【2020年度以降】
▽全国的なクラウドサービス基盤、保険医療記録共有サービスの整備・稼働準備、テスト運用
▽順次、稼働
▽ガイドライン等の検証、更新

2020年度の全国保健医療情報ネットワーク稼働に向けたスケジュールのイメージ(その1、2018・19年度)
2020年度の全国保健医療情報ネットワーク稼働に向けたスケジュールのイメージ(その1、2018・19年度)
2020年度の全国保健医療情報ネットワーク稼働に向けたスケジュールのイメージ(その2、2020年度以降)
2020年度の全国保健医療情報ネットワーク稼働に向けたスケジュールのイメージ(その2、2020年度以降)

 
 我々国民(患者)は、このネットワークを活用して、まず「自身の情報を誰に開示するか」を設定するとともに、「誰が自分の情報にアクセスしたのか」をチェックすることができます(自身の記録の閲覧は、後に実装する予定)。

 また医療機関等は、地域のネットワークを超えて、全国のネットワークに接続し、有益な診療等の情報にアクセスすることが期待されます。例えば、遠方の被災地域から搬送された患者について、「過去にどういった傷病に罹患し、どういった治療を受けたのか」「現在どういった傷病に罹患し、どういう治療を受け、どの薬を服用しているか」などの情報をこのネットワークを活用して収集し、適切かつ効率的な治療方針を立てることが可能となるでしょう。救急搬送患者においても、同様の活用が考えられます。

保健医療記録として共有するデータのイメージ
保健医療記録として共有するデータのイメージ
 
 なおこの点に関連して三好昌武構成員(社会保険診療報酬支払基金専務理事)は、「レセプトの電子化が進んでいるが、24%はCDROMなどの電子媒体である。今般の平成30年7月豪雨(西日本豪雨)ではこのデータが流されてしまい、請求に問題が生じている。オンラインによる請求への切り替えを早急に進める必要がある」とコメントしています。

 検討会では、上述の「保健医療記録共有サービスの実証」事業の結果も踏まえながら、秋以降、残された課題(全国保健医療情報ネットワークのコスト・費用負担、運用ルールなど)について議論していきます。

現在、実施を開始している保健医療記録共有サービス実証事業の概要。各地域の医療連携ネットワークにおいて核となる部分を標準化し、共通のviewerでどこからも情報を閲覧可能とする仕組みが予定されている
現在、実施を開始している保健医療記録共有サービス実証事業の概要。各地域の医療連携ネットワークにおいて核となる部分を標準化し、共通のviewerでどこからも情報を閲覧可能とする仕組みが予定されている
 
 

 

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