心不全患者、増悪・緩解を繰り返し徐々に機能低下していく等の特性踏まえた緩和ケア提供を―厚労省



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 心不全患者へ緩和ケアを提供するに当たっては、「増悪・緩解を繰り返し徐々に機能低下していく」といった心不全の特性を踏まえる必要がある。また身体的・精神心理的・社会的な苦痛に総合的に対応するために、「既存の緩和ケアチーム」と「心不全多職種チーム」が連携した「心不全多職種緩和ケアチーム」によって緩和ケアを提供することが重要である―。

 厚生労働省は5月28日に通知「循環器疾患の患者に対する緩和ケア提供体制のあり方について」を発出し、こういった点に留意するよう求めています。

心不全は、がんと異なり、増悪・緩解を繰り返し、徐々に機能が低下していく

 2018年度の診療報酬改定では、A226-2【緩和ケア診療加算】の対象に「末期心不全」患者が追加されるなど、「循環器疾患の患者に対する緩和ケアの提供」が重視されてきています(関連記事はこちらこちら)。

 厚労省では、昨年(2017年)9月に「循環器疾患の患者に対する緩和ケア提供体制のあり方に関するワーキンググループ」を設置し、がん患者とは異なる循環器疾患患者に緩和ケアを提供するに当たっての留意点などを検討。今年(2018年)4月に報告書が取りまとめられたため、医療機関等への周知を図っています(厚労省のサイトはこちら)。

 報告書では、主な対象患者として「心不全」を想定。心不全患者では、がん患者と同様に▼身体的・精神心理的な苦痛▼社会生活上の不安—を抱えていますが、機能低下等の過程が異なります(がんでは末期に急激に低下するが、心不全では徐々に低下する)。

心不全の臨床経過と緩和ケアの必要性
心不全の臨床経過と緩和ケアの必要性
 
こうした点を踏まえ、報告書では「患者の苦痛を全人的な苦痛(▼身体的▼精神心理的▼社会的側面—など)をとして捉え、患者やその家族の社会的・文化的・時代的背景や死生観も含めた価値観等の観点も踏まえた、全人的なケアが必要」と訴えます。

まず「身体的苦痛」については、心不全患者において▼呼吸困難▼全身倦怠感▼疼痛▼体液貯留▼心拍出量の低下—などがあり、こうした苦痛に対して、がん患者において用いられる「医療用麻薬」「非麻薬性鎮痛薬」などの薬物療法にとどまらず、▼利尿薬▼血管拡張薬▼強心薬—などの薬物療法、非侵襲的陽圧換気療法などの非薬物療法を用いることが推奨されています。

さらに、「心不全そのものが身体的苦痛の原因となり得るため、心不全治療を継続しつつ、緩和ケアを提供する必要がある」「重症度、併存症の状態、患者の価値観、提供するケアに必要とされる医療資源、利用可能な制度なども踏まえる必要がある」ことに言及した上で、国や関係学会等に対し、▼医療用麻薬の適切な投与量▼非ステロイド性消炎鎮痛薬やステロイドに伴う副作用の心不全への悪影響—などに関する「科学的な知見」を集積するよう要望しています。

 
また「精神心理的苦痛」については、▼うつ▼せん妄▼認知症▼睡眠障害▼コミュニケーションの問題▼植込み型除細動器(Implantable Cardioverter Defibrillator、ICD)や補助人工心臓(Ventricular Assist Device、VAD)等に関連した不安—などがありますが、身体管理と連携した精神心理的ケアの提供体制や、医療従事者等を教育・支援する体制は十分ではありません。

報告書では、精神心理的苦痛に対し「疾患の初期の段階から取り組む」ことが重要であるとし(この点、2018年度改定では「末期の心不全」患者が【緩和ケア診療加算】の対象となっており、今後の対象患者拡大が望まれます)、▼日常診療の中で、精神心理的苦痛の評価や対応が可能となるような知識や技術を確立し、教育、普及啓発を行う▼身体管理と連携した精神心理的ケアの提供のために、「緩和ケアチーム」「心不全多職種チーム」「循環器疾患・緩和ケア・老人看護等にかかわる認定・専門看護師」等が、精神心理面に関する知識を得た上で、連携して取り組む▼精神科医や精神・心理にかかわる認定・専門看護師、心理職、精神科リエゾンチームが心不全にかかわる医療従事者等を教育・支援する体制を構築する―ことが重要と訴えています。

 
さらに「社会的苦痛」に関しては、▼専門職等へ相談できる場所が少ない▼高齢患者等が多く情報を得る手段が少ない▼長期にわたる療養が必要であり、療養場所の選定に苦労する▼在宅療養を支える訪問看護等が必ずしも有効に活用されていない―といった課題がある点を指摘。

これらの解消に向けて、▼医療機関等の相談窓口だけでなく、地域包括支援センターや訪問看護等の専門職を活用して、身近な場所で相談できる体制の確保▼患者・家族等の当事者同士のコミュニケーションの場の確保(がん診療連携拠点病院における患者サロンなどを参考に)▼地域において、患者・家族を医療・介護・福祉で支えるネットワークの構築—などを考慮してはどうかと提案しています。

心不全の特性、それに応じた緩和ケアのあり方など、医療従事者が熟知することが必要

こうした苦痛・心不全患者の特徴などを踏まえた緩和ケア提供体制を構築する必要があり、報告書は、まず次のような環境整備を行うことを提案しています。

▽「増悪と寛解を繰り返しながら徐々に悪化していく心不全の臨床経過の特徴」「心不全において必要とされる緩和ケアの内容やその提供方法」などを、患者、家族、医療従事者等の関係者間で十分に共有する

→患者・家族が、緩和ケア・心不全を正確に理解するために、医療従事者等からの正確な情報提供を行うとともに、患者サロンなど「同じような立場の人との情報共有やコミュニケーションの場」について検討する

→医療従事者等が、緩和ケア・心不全を正確に理解し共通認識を持つために、▼緩和ケアにおける医療用麻薬の適正使用▼心不全の臨床経過と適切な管理 体制等—などに関する研修・教育の実施、専門的な相談が可能な連携体制の構築を行う

▽心不全の疾患特性を踏まえ、心不全の管理全体の流れの中で▼心不全の管理▼緩和ケア▼併存症を含めた全身管理—をバランスよく行っていくことを検討する

▽高齢心不全患者等では、とくに個別性が高く、「患者の意向を反映した対応」を行うために、医療従事者、患者、家族が▼疾患の特性や状態▼患者の意向や価値観—などを十分に共有し理解する

▽国や学会で「高齢心不全患者等に対する、状態に応じた適切な治療の範囲」についての検討を行う

▽専門的な医療から総合的な医療まで含めた、患者にかかわる様々な多職種が連携しながら、医療従事者同士が互いに相談できるチーム体制を構築するために、▼学会等による人材の育成▼基幹病院とかかりつけ医との連携強化▼心不全や緩和ケアに関する教育▼在宅医療における特定行為研修修了者(看護師)の活用▼専門的な判断が必要な際に相談できるコンサルト体制の構築▼地域包括ケアシステムの構築—などを進める

既存の緩和ケアチームと、心不全多職種チームが連携して緩和提供を

こうした環境を整備した上で、各医療機関においては多職種で構成される緩和ケアチームを組織し、実際の緩和ケアを提供していくことになります。

まず緩和ケアチームについては、循環器疾患の再発予防・再入院予防に向けた疾病管理を行う必要があり、生活一般・食事・服薬指導等の患者教育、運動療法、危険因子の管理など多岐にわたる業務を行うために、▼医師▼看護師▼薬剤師▼理学療法士▼栄養士▼医療ソーシャルワーカー▼保健師—などが参画することが望ましいでしょう。

ただし人材確保には、費用も時間もかかることから、報告書では、「既存の緩和ケアチーム」と「心不全多職種チーム」(医師・看護師・薬剤師等を中心とする)が連携し、「心不全多職種緩和ケアチーム」を構成してはどうかと提案。チームには、日常管理を行うかかりつけ医療機関をサポートすることも重要な役割の1つとなります。

もっとも医療機関の規模や機能により「同一医療機関内に両チームがある場合」と「ない場合」、さらにチームの構成にもバラつきがあることが想定されるため、「地域の実情や患者の意向等に応じて、柔軟に設定する」ことになるでしょう。

【同一医療機関内に両チームがあるケース】両チームが院内連携するとともに、地域の医療機関と連携して、心不全患者と家族に緩和ケアを提供する
心不全への緩和ケア提供報告書2 180528
 
【同一医療機関内には両チームがないケース】地域の既存の緩和ケアチームと心不全多職種チームが「病院間の連携」という形で連携し、それに地域の医療機関がさらに連携し緩和ケアを提供する
心不全への緩和ケア提供報告書3 180528
 
 この点、国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)や兵庫県立姫路循環器病研究センター(兵庫県姫路市)、久留米大学病院(福岡県久留米市)などでは、すでに「心不全多職種緩和ケアチーム」が稼働しており、各医療機関の参考になるでしょう。もっともいずれも大規模病院であり、今後は後者の「同一医療機関内には両チームがないケース」の好事例に期待が集まります。

 
なお報告書では、心不全患者への緩和ケア提供は、「他の非がん疾患患者」への緩和提供においても参考になると指摘。「がん」と「非がん」との共通点(全人的ケアが必要となるなど)と相違点(疾病経過の違いや、薬物・非薬物療法の使用方法など)を踏まえて、適切な緩和ケア体制を構築することが、今後の「他疾患における緩和ケア提供体制」につながると期待されます。

がんと心不全における、疾患の経過と緩和ケアの在り方の共通点と相違点
がんと心不全における、疾患の経過と緩和ケアの在り方の共通点と相違点
がんでは「末期に急激に身体機能等が低下する」が、心不全では「増悪・寛解を繰り返し、徐々に機能低下していく」など、臨種経過は大きく異なる
がんでは「末期に急激に身体機能等が低下する」が、心不全では「増悪・寛解を繰り返し、徐々に機能低下していく」など、臨種経過は大きく異なる

 
 

 

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