500ドルの低侵襲手術用医療機器が米国で話題に、国内の利用事例も



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 米国では、さまざまな手術で低侵襲手術用医療機器が用いられています。「ダ・ヴィンチ」のような高額機器とは別に、500ドル(約5万3000円)と格安の低侵襲手術用医療機器が開発され、話題になっています。日本国内でも利用事例が出始めています。

※写真はイメージです
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「世界中に低侵襲手術を普及」と開発者

 米国のテクノロジー誌「MIT Technology Review」の記事「For Hospitals That Can’t Afford a Surgical Robot, This $500 Device Could Fit the Bill」によると、新しい低侵襲手術用の機器は、ミシガン大学のJim Geiger教授(小児外科医)と機械技師Shorya Awtar氏が開発したもの。外科医が片腕に取り付け、先端に付いた手術用の針を操作して縫合することができます。

 従来の腹腔鏡下手術用の機器では、縫合する際の針の角度を自由に変えることができません。新しい機器では、先端部分が多関節になっているため、角度を自由に変え、理想に近い角度で縫合することが可能です。可動域も広く、ロボット支援下内視鏡手術のような低侵襲手術を実施できるといいます。

 この機器は、FlexDex Surgical社により500ドルで販売されています。開発者のGeiger教授とAwtar氏は、「病院が導入した『ダ・ヴィンチ』を新製品に切り替えることは想定していないが、世界中に低侵襲手術を普及させることができるのでは」と指摘。記事では、新しい低侵襲手術用の機器を使いたいとする医師のコメントも紹介されています。

日本で米国外の初手術、10病院が利用

 FlexDex Surgical社の製品は、「FlexDex ニードルドライバ」の名称で、メスなどの一般用医療機器(医療機器分類クラス1=不具合が生じた場合でも人体へのリスクが極めて低いと考えられるもので、規制は届出のみ)として届出がされています(届出文書はこちら、国内ではセンチュリーメディカル社が販売)。医療材料の評価区分A1に該当し、当該機器の費用を別途請求することはできません(通常の手術点数などに包括評価されていると判断される)。

 FlexDex Surgical社のウェブサイト(詳細はこちら)によると、この製品を用いた外科手術が2017年12月、米国外では初めて、横浜新緑総合病院(横浜市緑区)で実施されています(腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術)。手術を担当した同院消化器センター長兼外科・消化器科部長の齊藤修治氏は、次のように感想を述べています。

国内で初めて「FlexDex ニードルドライバ」を用いて手術をした齊藤修治氏
国内で初めて「FlexDex ニードルドライバ」を用いて手術をした齊藤修治氏

 「ドライラボ(手術用練習機器)で毎日練習し、1週間程度で使いこなせるようになった。通常の医療機器であれば縫合しづらい角度でも、多関節を利用して縫合のクオリティを上げたり、タッカーを使わざるを得ない部分を縫合できることがメリット。実際、そのことを最初の手術で確認することができた。現状、直腸脱に対する直腸固定術にも使用し、月1回程度の頻度で利用している。次は直腸がんの手術で使用する計画がある」

 縫合の角度が難しい手術症例においては、手術の質を上げられると指摘する齊藤氏。販売元のセンチュリーメディカル社によると、現在、北海道大学病院など10病院で利用されているとしています。

用途拡大、低価格化が普及のカギ

 課題については、3点あると齊藤氏は指摘しています。

 「最大の課題は、使いこなすことが難しいこと。かなりの練習が必要で、いきなり使えるようなものではない。また、現時点では先端部分が持針器しかないので、用途が限られる。もう一つの課題はコスト(※編集部注:米国では500ドルとありますが、国内の販売価格は定価13万円)。コストが手技料に含まれるため、ヘルニアのような診療報酬点数が低く設定されている手術では機器のコストをペイできない。ただ、現行品は第一世代のため、次の世代で鉗子や電気メスの先端部分が出たり、第一世代のリユースが可能となり、価格が半額程度で流通するようになれば、利用範囲はさらに広まる。当院での利用は、そのことを見越した準備期間という位置付け」

 普及に向けたカギは、先端部分の多様化による用途拡大と、低価格化といえそうです。また、一人ひとりの医師の技量による機器であるため、使いこなせる医師の育成も重要な要素の一つです。

 グローバルヘルスコンサルティング米国会長で『日米がん格差』の著者であるアキよしかわは、格安で新しい低侵襲手術用機器について、「非常に興味深いニュース」と言及。いわゆる「価格破壊」が今後の医療にどのような影響をもたらすかはまだ分かりませんが、新技術が低侵襲手術のさらなる普及を促し、その結果として手術件数を押し上げ、質の向上に結びつく可能性も考えられます。またアキは、「使いこなすことが難しいのであれば、症例数の確保がより重要かもしれない」(関連記事『ロボット手術、年間50件未満の病院でアウトカムにバラつき、GHC調査ロボット手術、年間50件未満の病院でアウトカムにバラつき、GHC調査』)と分析しています。

記事を書いたコンサルタント アキ よしかわ

aki 米国グローバルヘルス財団理事長、米国グローバルヘルスコンサルティング会長。がんサバイバーの国際医療経済学者、データサイエンティスト。
10代で単身渡米し、医療経済学を学んだ後、カリフォルニア大学バークレー校とスタンフォード大学で教鞭を執り、スタンフォード大学で医療政策部を設立する。米国議会技術評価局(U.S. Office of Technology Assessment)などのアドバイザーを務め、欧米、アジア地域で数多くの病院の経営分析をした後、日本の医療界に「ベンチマーク分析」を広めたことで知られる。
著書に『日米がん格差』(講談社)、『日本人が知らない日本医療の真実』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『Health Economics of Japan』(共著、東京大学出版会)などがある。
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