2017年度創設の新介護職員処遇改善加算Iで、介護職員給与は1万3660円増加―介護給付費分科会(1)



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 2017年度の臨時介護報酬改定で創設された「新たな介護職員処遇改善加算I」を取得している介護保険事業所・施設は全体の64.9%で、2016年9月から17年9月にかけて平均1万3660円の給与増が行われている。IからVまでを含めたいずれからの介護職員処遇改善加算の取得率は91.2%にのぼる―。

 4月4日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会(以下、分科会)に、厚生労働省はこういった報告を行いました(厚労省のサイトはこちら)。

 新たな介護職員処遇改善加算Iでは「介護職員の給与を1万円程度引き上げる」ことで、人材の確保・開拓、職場定着を目指すものですが、これをはるかに上回る「1万3660円の給与増」が実現しています。今後は、加算の主目的である「人材の確保・開拓、職場定着」に向けた効果がどこまで現れているかなどを見ていくことも重要でしょう。

4月4日に開催された、「第159回 社会保障審議会 介護給付費分科会」
4月4日に開催された、「第159回 社会保障審議会 介護給付費分科会」
 

新処遇改善加算Iの要件(1万円程度増)を上回る、1万3660円の給与増

 いわゆるアベノミクスの新たな3本の矢の1つ「介護離職ゼロ」の実現に向けて、安倍晋三内閣が2016年6月に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」などで、「介護人材の処遇について、2017年度からキャリアアップの仕組みを構築し、月額平均1万円相当の改善を行う」方針を打ち出しました。これを受け、2017年度には臨時の介護報酬改定が行われ、新たな【介護職員処遇改善加算I】(以下、新処遇改善加算I)が創設され、従前の介護職員処遇改善加算は順次▼従前の加算I→新たな加算II(キャリアパス要件I・II・職場環境要件のいずれも満たす)▼従前の加算II→新たな加算III(キャリアパス要件IまたはII、および職場環境要件を満たす)▼従前の加算III→新たな加算IV(キャリアパス要件I・II・職場環境要件のいずれかを満たす)▼従前の加算IV→新たな加算V(いずれの要件も満たさない)—となりました(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。

 新処遇改善加算Iを取得するためには、次のような要件をすべて満たす必要があります。

(1)従前の処遇改善加算I(現行のII)と比較して、月額1万円相当の処遇改善を行う

(2)キャリアパス要件Iを満たす:▼介護職員の任用の際における職位・職責・職務内容などに応じた任用などの要件を定める▼職位・職責・職務内容などに応じた賃金体系を定める▼これらについて就業規則などの明確な根拠規定を書面で整備し、全介護職員に周知する―のすべてに適合する

(3)キャリアパス要件IIを満たす:▼資質向上の目標および、「資質向上計画に沿った研修・技術指導などを行い、介護職員の能力評価を行う」計画または、「資格取得支援」(研修受講のための勤務シフトの調整、休暇の付与、費用援助など)計画を策定し、これに係る研修の実施・研修機会の確保を行う▼これについて全介護職員に周知する―のすべてに適合する

(4)キャリアパス要件IIIを満たす:▼経験に応じて昇給する仕組み(勤続年数、経験年数など)▼資格などに応じて昇給する仕組み(介護福祉士、実務者研修修了者など)▼一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組み(実技試験、人事評価など)▼これについて全介護職員に周知する―のすべての適合する

(5)職場環境要件(既存)を満たす:2015年4月から届出月の前月までに実施した処遇改善(賃金改善を除く)内容を全介護職員に周知する

介護職員処遇改善加算の概要
介護職員処遇改善加算の概要
 
この新処遇改善加算Iなどの取得状況を明らかにするために、厚生労働省は7660の介護保険施設・事業所(以下、施設等)を対象に、「2016年9月」(新加算創設前)と「2017年9月」(新加算創設後)の状況を調査。今般、その結果を分科会に報告したものです。

まず新処遇改善加算Iの取得状況を見ると、2017年9月時点で64.9%。2016年9月時点の「旧処遇改善加算I」取得率は70.6%であったので、相当程度の施設等が新処遇改善加算I取得に向けて動いたことが分かります。

2017年度の臨時介護報酬改定で創設された新処遇改善加算I等の状況(概要)
2017年度の臨時介護報酬改定で創設された新処遇改善加算I等の状況(概要)
 
この新処遇改善加算Iを取得した施設等において、介護職員(月給、常勤の者)の平均給与額がどう動いたかを見ると、2016年9月には28万3790円でしたが、2017年9月には29万7450円となり、1万3660円の増加となっています。新処遇改善加算Iは、上述のように「旧処遇改善加算Iに比べて1万円相当の処遇改善」を行うものゆえ、厚労省老健局老人保健課の鈴木健彦課長は「施設等の自助努力が伺える」と見ています(加算を原資にした給与増+自助努力による給与増)。

もっとも、分科会や先んじて開催された分科会の下部組織「介護事業経営調査委員会」(以下、調査委員会)では「産業全体として給与水準が上がっており、新処遇改善加算の効果が相殺されてしまっているのではないか」との指摘もあります。この点、分科会の伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長)は「対人サービス全体との給与格差是正に向けてさらに取り組んでいく必要がある」と要望しています。

なお、給与増の状況を勤続年数別・保有資格別に見ると、「入職1年以上2年未満で特に手厚く(平均3万円増)、2年目以降は1万円から1万5000円増」「保有資格の有無・資格の内容に関わらず、1万3000円程度の給与増」となっていることが分かりました。この点について分科会の伊藤委員は「職場定着を促すために、勤続年数に応じた給与増の仕組みを考えるべきではないか」(勤続年数の浅い人への厚遇は、どちらかと言えば新人確保策に力を入れていると言える)と述べています。

勤続年数が極めて短い介護職員で処遇改善が手厚くなっており、「新人確保」に処遇改善加算を用いてることが伺える
勤続年数が極めて短い介護職員で処遇改善が手厚くなっており、「新人確保」に処遇改善加算を用いてることが伺える
保有資格の有無・資格の内容にかかわらず月額1万3000円程度の給与増が行われている
保有資格の有無・資格の内容にかかわらず月額1万3000円程度の給与増が行われている
 
また、平均給与増分1万3660円は、▼基本給の引き上げ:3260円▼手当:7760円▼賞与等:2630円―に分解することができます。処遇改善加算を取得する全施設等(新処遇改善加算Iに限らず)が、どのような形で給与増を行ったのかを見ても、▼給与表改定による賃金引上げ(予定含む):22.5%▼定期昇給(同):66.4%▼各種手当の引き上げ・新設(同):44.7%▼賞与等の引き上げ・新設(同):19.1%―となっており、「複数手法を組み合わせている施設等が多い」ことが分かります。

 さらに、新処遇改善加算Iに設けられた、新たなキャリアパス要件III(上記の(4))をどのように実践しているのかを見ると、▼経験に応じた昇給の仕組み:68.4%▼資格等に応じた昇給の仕組み:63.5%▼一定基準に応じた昇給の仕組み:52.1%―となっており、こちらも複数の仕組みを組み合わせていることが伺えます。

 一方、新処遇改善加算I取得に向けたハードルを見ると、▼昇給の仕組みをどう定めればよいか分からない:24.3%▼昇給の仕組み作成に向けた事務が煩雑:33.5%▼賃金管理が難しくなる:19.1%▼他職種とのバランスがとれなくなる:38.1%▼法人・施設等内での合意形成が難しい:9.7%―などとなっています。訪問・通所介護事業所などでは「事務の煩雑さ」をハードルと考えるところが比較的多く、介護保険施設では「他職種とのバランス」から二の足を踏んでいるところが比較的多いことが分かります(後述もご参照ください)。

病院では、看護職などとのバランスを考慮し、処遇改善加算を取得しないところも

 次に新処遇改善加算Iを含めた「処遇改善加算を取得している施設等」全体(以下、処遇改善加算全体)の状況を見てみましょう。

処遇改善加算全体の取得率は91.2%で、その内訳は▼I:取得施設等の71.2%(施設等全体の64.9%)▼II:同14.8%(13.5%)▼III:同11.7%(10.7%)▼IV:同1.2%(1.1%)▼V:同1.1%(1.0%)—となっています。また、8.8%の施設等は、いずれの加算も取得していません。なお加算IVと加算Vは「廃止する」方針が固まっています(廃止時期は今後検討、関連記事はこちらこちら)。

全体では91.2%がなんらかの処遇改善加算を取得しているが、病院(介護療養)では69.1%にとどまる
全体では91.2%がなんらかの処遇改善加算を取得しているが、病院(介護療養)では69.1%にとどまる
 
上述の加算要件にあるように、加算III以下は、「キャリアパス要件I・II・職場環境要件」のいずれかを満たしておらず、介護職員に対して十分な処遇が行われていない可能性があります。

今般の調査では、キャリアパス要件I・II・職場環境要件のすべてを満たすことが必要な加算IIを取得できない理由として、▼キャリアパス要件I(賃金体系整備)が困難:57.7%▼キャリアパス要件II(研修実施)が困難:44.7%▼職場環境要件(賃金引上げ以外の改善)が困難:6.7%―という状況であることが分かりました。

また加算Vは、「キャリアパス要件I・II・職場環境要件」のいずれも満たす必要がないにもかかわらず、▼事務作業が煩雑:51.3%▼利用者負担が発生してしまう:39.6%▼対象の製薬(他職種とのバランスなど):26.8%―という理由で加算を取得していない状況も再確認できました。このうち「事務作業が煩雑」という理由について、分科会の下部組織である調査委員会では、藤井賢一郎委員(上智大学准教授)らから「この程度の事務(加算取得事務)が煩雑という施設等では、通常の会計等がきちんとできているのか心配になる。実際を知らず、煩雑との思い込みがあるのではないか」といった旨の意見が出されています。

この点について鈴木老人保健課長は、「処遇改善加算の新規取得・上位区分取得に向けて、都道府県から社会保険労務士等を施設等に直接派遣してもらう補助事業を2018年度から開始する(補助率100%)」ことを説明。例えば、「事務が煩雑」という施設等には事務の手引きを行ったり、「賃金体系の構築が難しい」と困っている施設等には給与表の作成支援を行うなどが期待されます。

一方、「他職種とのバランス」については社労士等の専門家が助力しても、改善は困難です。とくに介護職員以外の看護職員等が多く在籍する病院(介護療養型医療施設)では、加算の取得率が69.1%にとどまっており、加算を取得していない施設の過半数(53.0%)が「職種間の給与バランス」を未取得の理由にあげています。いかに現実的かつ大きな問題であることが分かります。この点について、分科会の伊藤委員らは「加算の対象職の拡大」も重要な検討テーマであると強く指摘しています。ただし、同じく分科会の本多伸行委員(健康保険組合連合会理事)は「処遇改善加算は臨時的・経過的なものであり、加算による手当の是非についても改めて検討すべき」との考えを強調しています。

例えば、パート労働者などは一般に賃金水準が低く、介護労働者よりも引く給与であるケースも決して稀ではありません。この場合、介護職員への処遇改善加算が強化(増額等)されれば、それは40歳以上の介護保険料に跳ね返り、いわば「より低所得者人から、比較的所得の高い介護職員への所得の逆移転が生じる」ことを意味するのです。本多委員は、かねてよりこの問題を強く指摘しており、2019年度に予定される「勤務継続10年以上の介護福祉士の賃金を月額平均8万円程度アップする」ような介護報酬臨時改定(2017年に安倍晋三内閣が決定した「新しい経済政策パッケージ」を受けたもの)に向けて、この議論が再燃することになりそうです(関連記事はこちら)。

処遇改善加算を取得していない病院(介護療養)の過半数で、「対象の制約」、つまり看護職等とのバランスを考慮して、介護職員の処遇改善を行えない=加算を取得できないと答えている
処遇改善加算を取得していない病院(介護療養)の過半数で、「対象の制約」、つまり看護職等とのバランスを考慮して、介護職員の処遇改善を行えない=加算を取得できないと答えている

月額8万円程度の処遇改善に向け、2019年度の臨時改定もにらんだ検討

なお、「給与等の引き上げ」以外に、どのような処遇改善が行われているのかを見ると、例えば、▼働きながら介護福祉士取得を目指す人への実務者研修受講支援:67.4%▼ミーティング等による職場内コミュニケーションの円滑化などによる勤務環境・ケア内容の改善:81.5%▼事故・トラブルへのマニュアル作成:83.2%▼健康診断や職員休憩室設置など:80.5%—などが目立ちます。

給与改善以外にも、各施設・事業所で、職場環境改善に向けたさまざまな取り組みが行われている
給与改善以外にも、各施設・事業所で、職場環境改善に向けたさまざまな取り組みが行われている
 
この点について調査委員会(分科会の下部組織)では、堀田聰子委員(慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科教授)からは「給与等の引き上げ」状況と、「給与等以外の処遇改善」とをクロス分析してはどうか、との提案が行われています。例えば「仮に給与水準がそれほど高くなくとも、職場環境が充実していれば、人材は定着する」、逆に「仮に給与水準が相当高くとも、職場環境が劣悪であれば、人材は定着しない」との仮説が立てられ、この分析結果によって、今後検討すべき人材確保・定着促進策が変わってくる可能性もあります。上記仮設が正しければ、「処遇改善の要件について、給与増の比重を低め、環境改善をさらに重視していく」方向へのシフトなどが考えられるかもしれません。

今後は、「2019年度の臨時介護報酬改定」(月額8万円程度の処遇改善)、「処遇改善そのものの在り方」などが検討されることになるでしょう。

4月4日に開催された、「第25回 社会保障審議会 介護給付費分科会 介護事業経営調査委員会」
4月4日に開催された、「第25回 社会保障審議会 介護給付費分科会 介護事業経営調査委員会」

 

 

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