掛け算のチーム医療が必要、最大の経営課題は職員の当事者意識―NTT関東病院・亀山院長



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 東京都品川区の急性期病院、NTT東日本関東病院(627床)。2014年7月に院長に就任した亀山周二氏は、さらなる医療の質向上を目指す一方で、病院における組織の活性化に向けた人材育成や広報活動にも注力している。「足し算ではなく、掛け算のチーム医療でなければ意味がない。そのためには、職員一人ひとりの当事者意識が欠かせない」と語る亀山院長に話を聞きました。

都心部は「地域完結型」ではなく「地域一体型」の医療を

――貴院の経営について、少し遡って教えてください。院長就任前まではどのような活動をされてきたのでしょうか。

 就任前までの病院経営との関わりという意味ではまず、地域との医療連携を担当し、地域医師会、特に品川区医師会との連携を深めてきました。同年代の医師たちとはこの地域における同士のような関係で、若い医師たちとも良好な関係を築けてきたと自負しています。そのおかげか、地域のさまざまな医療機関と強固な関係性を築けているのではないでしょうか。また、この医療圏が抱える問題をその時々で共有でき、病院外で起こっていることにも無関心ではなく社会に広く目を向ける姿勢が培われたと思います。

亀山周二(かめやま・しゅうじ)氏:1981年東京大学医学部卒業、東大泌尿器科入局。病棟医長、外来医長を経て、1999年NTT東日本関東病院泌尿器科部長。2013年4月同院副院長、2014年7月より現職
亀山周二(かめやま・しゅうじ)氏:1981年東京大学医学部卒業、東大泌尿器科入局。病棟医長、外来医長を経て、1999年NTT東日本関東病院泌尿器科部長。2013年4月同院副院長、2014年7月より現職

 郊外の医療圏では、「ゆりかごから墓場」までを想定して「地域完結型医療」という言葉が成立します。ただ、都心は地価が高いため、単価が低い慢性期病床などを主とする医療機関や介護施設の経営は厳しく、都心では地域完結型医療が成立しづらいのが実情です。それを補う在宅医の数もまだまだ少ない。そうなると、都心の医療圏においては、地域完結型医療を目指すよりも、個別の医療機能を有する医療機関同士が助け合い、協力し合う「地域一体型医療」を目指す方が現実的です。「地域一体型医療」における医療機関は地域の同じ課題を共有する運命共同体のような関係で、当院はこの方向性を目指してきました。

 一方、2004年から始まった新医師臨床研修制度の開始にあたっては、自身が研修医部会長として基幹型臨床研修病院としてのプログラムを立案しました(詳細はこちら)。地域医療研修を目的としてNTT東日本伊豆病院、小児科研修では大森赤十字病院にお願いする体制を整えたりするなど、さまざまなことを経験させていただきました。

職員が満足できない組織に発展はない

――院長就任後はいかがでしょうか。院長になってから取り組んできた経営課題を一つ挙げるとしたら何でしょうか。

 経営指標の数値については、合理的な根拠を持って挑めば、ある程度の成果目標は達成できます。それよりも院長として気にしなければならないのは、「職員が本当に満足して職務を全うしているか否か」というような、必ずしも数値で表せない部分の方が重要だと思っています。

 医療従事者であれば誰でも、「患者さんを救いたい」という気持ちが根底にあり、日々の業務にあたっているはずです。しかし、病院という大きな組織の中では、組織の隅々にまで目を向けると、患者さんを救うため誇りを持ち、満足して日々の業務にあたっているかどうかというと、必ずしもそうではない人が一部に出てきます

 例えば、「病院は何もしてくれない」「病院は何を考えているのか分からない」など、批判やネガティブな意見を持つ人は、どの病院にもいることでしょう。ただ、こうした個々人の不平不満を放置しておくと、その人個人だけではなく、チーム、さらには組織全体のモチベーションを下げることにつながります。そういう状態のままでは、組織の発展もありません。病院というさまざまな職種や価値観が混在する組織の中では非常に難しいことではありますが、「自らがこの病院をもっとよくしていくためにはどうすればいいのか」という当事者意識を個々人がしっかりと持って、個人が自発的に動けるような組織にしていかなければならないと思うのです。

 院長になってからはKPIの指標が少し上がったところで、あまり嬉しくはありません。働いている職員が納得しない中で、鞭打ってKPIを上げても仕様がない。病院という組織の末端まで含めて、働いていることに生きがいや喜びを感じ、個人のモチベーションや能力を最大限まで高められる組織にするにはどうすればいいのか――。そのことをずっと考えています。

真のチーム医療を実現するために

――具体的にはどのような取り組みをしているのでしょうか。

 直近では、名古屋第二赤十字病院の石川清院長の講演に感銘を受け、コーチングに力を入れています(関連記事『診療材料費の適正化で年間8000万円超のコスト削減―名古屋第二赤十字・石川院長がGHCプレミアム新春セミナーで講演』)。2015年に私自身がコーチングの研修を受け、まずは副院長、看護部長、医療安全の主任、企画課長など数名をステークホルダーとして約半年かけてコーチングをおこないました。今では3期目の研修に入っていて、50人くらいの職員がコーチング研修を受けています。

 まだ評価までには至っていませんが、コーチングを受けた職員たちの当事者意識は非常に高まっていると感じています。というのは、コーチングを通じて、コーチをする側も受ける側も、「結局、自分たちは何をしたいのか」という問いに常に向き合っていかなければなりません。そのやりたいことに対して、どのような計画を立てて行っているのか、どこまで計画が進んでいるのか、進んでいないとしたら何が課題となっているのか――。こうしたことを明確にし、真剣に向き合っていかなければならなくなります。

 コーチングの最も重要なメリットは、職員同士で1対1の対話の時間ができることだと思います。これがないと、同じ職場で働いていても、業務上の報告だけで終わってしまいがちで、自分が本当にすべきことは何なのか、部下は何をしたいのか、上司は何を目指しているのか、それぞれの行動の指針となる核の部分が分からないまま、日々を送ることになってしまう。そういう環境が、個々人の当事者意識を徐々に剥いでいき、気がつくと病院職員にもかかわらず評論家のような態度を生み出す温床になるのではないでしょうか。

 最近は「チーム医療」の必要性が声高に指摘されていますよね。ただ、いくらチームを組成しても、個々に仕事をする人たちの集まり、つまり足し算では意味がないのです。足し算ではなく、掛け算にならないと、真のチーム医療とは言えないと思っています。コーチングは掛け算のチーム医療を実践するための一つの手段でもあるのです。

――コーチング以外の組織強化の取り組みがあれば教えてください。

 昨年から「チームステップス(Team STEPPS:Team Strategies and Tools to Enhance Performance and Patient Safety)」にも力を入れています。これは、米国国防総省と米国医療品質研究調査機構が共同で開発した医療安全のためのトレーニングプログラムです。現在では世界標準の患者安全推進ツールとなっているチームワークやコミュニケーション改善手法となります。そのため、医療安全の観点で導入している病院も多いですが、当院では多職種が参加するグループワークなどを通じて、「いかにチーム力を強化するか」という観点からも実施しています。

 組織の活性化、自己実現、チーム力向上――。これらの総体が、組織文化、つまりは「病院の色」を作っていく。それを大切に育て、例えば誰か一人がいなくなっても、「病院の色」はそう簡単には変わらない組織文化を作っていきたいと考えています。

「急性期」のブランディング手法

――貴院の広報活動について教えてください。貴院が発信する情報以外にも、医師のインタビュー記事など多くのメディアに取り上げられています。

 当院が強みとする診療科の「顔」となる医師、具体的には内視鏡部部長でESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)のパイオニアの大圃(おおはた)研医師、泌尿器科部長で手術支援ロボット「da Vinci」資格認定医でもある志賀淑之医師、ラジオ波焼灼術の症例では国内1、2位を争うラジオ波センター長の寺谷卓馬医師、年間300件以上の症例数があるガンマナイフセンター長の赤羽敦也医師、昭和51年に診療科として独立した長い歴史を持つペインクリニック科部長の安部洋一郎医師――などが挙げられます。これらの部署を当院の急性期病院としての強みと位置付け、積極的に当院の広報・マーケティングの展開を進めています。

左から大圃氏、志賀氏、寺谷氏、赤羽氏、安部氏(関東病院ホームページより)
左から大圃氏、志賀氏、寺谷氏、赤羽氏、安部氏(関東病院ホームページより)

 また、クリニカル・インディケーター(臨床指標)などの診療実績も公表し、そのほかの活動情報も積極的に公表すべく、そのための情報集計を引き続き進めているところです(詳細はこちら)。この3月には、がん医療に関するマスコミ向けの勉強会を開催し、がん診療連携拠点病院としての役割も積極的に発信していく計画です。

――最後に今後の課題を教えてください。

 当院は2014年にDPCを導入したばかりです。DPCII群病院ではありますが、係数対策やベンチマーク分析に基づく経営改善という側面ではまだまだ課題も多い状況です。そのため、院長直轄のDPC評価チームを発足させました。また、「病院ダッシュボードχ(カイ)」を導入しデータに基づく経営改善を今まで以上に行っていきます。直近では総合入院体制加算や退院支援加算の算定、さらには直接的に診療科への介入を行い巻き返しを始めています。

院内で自作した経営感覚を底上げするためのツールの一つ「DPC制度とは」
院内で自作した経営感覚を底上げするためのツールの一つ「DPC制度とは」

 また、例えば地下の職員食堂のデジタルサイネージに、病院のミッションや主要経営指標を流すなど、職員一人ひとりの経営感覚を底上げする仕組みも積極的に取り入れ始めています。先ほども申し上げましたが、働いている職員が納得しない状況でKPIを追求するのではなく、職員が職場で生きがいや喜びを感じ、モチベーションや能力を最大限まで引き上げた上でのKPIの達成にこそ意味があると信じています。

亀山院長とDPC担当の菅原浩寿氏
亀山院長とDPC担当の菅原浩寿氏

――本日はありがとうございました。

解説を担当したコンサルタント 八木 保(やぎ・たもつ)

yagi 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門アソシエイトマネジャー。理学療法士、中小企業診断士。
名古屋大学医学部保健学科理学療法学専攻卒業。大手商社にてヘルスケア業界におけるマーケティング商品開発、中小企業のコンサルティングを経て、入社。リハビリの質と生産性向上、コスト削減、財務分析、DPC分析などを得意とする。多数の医療機関のコンサルティングを行うとともに、社内のCS向上チームや社外のCQI(Cancer Quality Initiative)研究会のサポートなどでも精力的に活動する(諏訪中央病院の事例紹介はこちら、津島市民病院の事例紹介はこちら)。

 

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