過去に安全に使用できた薬剤でもアナフィラキシーショックが発症する—医療安全調査機構の提言(3)



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 「注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例」がこれまでに12例報告されている。医療従事者は「あらゆる薬剤で発症する可能性がある」「過去に安全に使用できた薬剤でも発症し得る」ことを認識した上で、薬剤投与から少なくとも5分間は患者の容態を十分に観察し、アナフィラキシーショックが疑われた場合には第1選択薬であるアドレナリン製剤をためらわずに筋肉内投与することが重要である―。

 日本で唯一の医療事故調査・支援センター(以下、センター)である日本医療安全調査機構は1月18日、3回目の「医療事故の再発防止に向けた提言」として「注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析」を公表し、このような注意喚起を行いました(機構のサイトはこちら)。

2015年10月以降、注射剤によるアナフィラキシーによる死亡事例が12例報告

 予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産」のすべてをセンターに報告することを医療機関管理者に義務付けた「医療事故調査制度」が2015年10月にスタートしました。この制度は「医療事故の再発防止」を目的としたもので、事故事例を集積していく中で「具体的な再発防止策などを練る」ことがセンターの重要な役割の1つとなっています(関連記事はこちらこちらこちら)。センターは、今般、注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例を分析し、3回目の医療事故再発防止策(1回目は中心静脈穿刺合併症2回目は急性肺血栓塞栓症)として提言を行ったものです。

 厚生労働省の人口動態統計によれば、アナフィラキシーショックによる死亡は年間50-80人弱発生し、うち医薬品が原因となったものが最多で年間20-40人ほどを占めています。また、「注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例」は、医療事故調査制度においてこれまでに12例報告されています。
▼肺がんで化学療法中の70歳代男性、原因薬剤は造影剤のイオパミロン(過去に同薬剤を3回使用したがアレルギー症状なし)
▼肺がんで化学療法中の50歳代男性、原因薬剤は造影剤のイオパミロン(過去に同薬剤を2回使用したがアレルギー症状なし)
▼膵臓がん疑いの50歳代女性、原因薬剤は造影剤のイオパミロン(過去に同薬剤を5回使用したがアレルギー症状なし)
▼大腸がん切除術後の70歳代女性、原因薬剤は造影剤のオムニパーク(過去に同薬剤を5回使用したがアレルギー症状なし)
▼総胆管結石に伴う急性胆嚢炎を繰り返す80歳代女性、原因薬剤は抗菌薬のバクフォーゼ(過去にセフォン、バクフォーゼを使用しアレルギー症状あり)
▼腹腔鏡下胆嚢摘出術後、胆管炎を繰り返す70 歳代女性、原因薬剤は抗菌薬のワイスタール(過去に同薬剤によるアレルギー症状あり)
▼肺がん切除術後の70歳代男性、原因薬剤は抗菌薬のスルバシリン(過去にペニシリン系抗菌薬によるアレルギー症状あり)
▼総胆管結石治療中の80歳代女性、原因薬剤は抗菌薬のワイスタール、ナファタット(過去に同薬剤を使用し、嘔吐・意識消失あり)
▼虫垂切除術の50歳代男性、原因薬剤は筋弛緩薬のエスラックス(過去に市販解熱鎮痛薬によりアレルギー症状あり)
▼悪性腫瘍切除術の80歳代男性、原因薬剤は筋弛緩薬のエスラックス(過去に薬剤によるアレルギー症状なし)
▼維持透析中の70歳代男性、原因薬剤はタンパク分解酵素阻害薬のフサン(過去に同薬剤の特異IgE・I・II抗体陰性を確認、4回使用したがアレルギー症状なし)
▼齲歯治療中の60歳代男性、原因薬剤は歯科用局所麻酔薬のネオザロカインパスタ、オーラ注が否定できない(過去に同薬剤を4回使用したがアレルギー症状なし)

各事例(上から順に1、2、、)における症状と出現時間、実施した処置
各事例(上から順に1、2、、)における症状と出現時間、実施した処置

アナフィラキシーショックは予測困難、アドレナリン製剤の準備と速やかな投与を

センターでは、これら12事例を詳細に分析し、再発防止に向けて次の6つの提言を行っています。

(1)アナフィラキシーはあらゆる薬剤で発症の可能性があり、複数回、安全に使用できた薬剤でも発症し得ることを認識する【アナフィラキシーの認識】

(2)▼造影剤▼抗菌薬▼筋弛緩薬—などアナフィラキシー発症の危険性が高い薬剤を静脈内注射で使用する際は、少なくとも薬剤投与開始時から5分間は、注意深く患者を観察する【薬剤使用時の観察】

(3)薬剤投与後に皮膚症状に限らず患者の容態が変化した場合は、確定診断を待たずにアナフィラキシーを疑い、直ちに薬剤投与を中止し、成人であればアドレナリン0.3mgを準備する【症状の把握とアドレナリンの準備】

(4)アナフィラキシーを疑った場合、ためらわずにアドレナリン標準量0.3mg(成人)を大腿前外側部に筋肉内注射する【アドレナリンの筋肉内注射】

(5) アナフィラキシー発症の危険性が高い薬剤(▼造影剤▼抗菌薬▼筋弛緩薬—など)を使用する場所には、アドレナリンを配備し、速やかに筋肉内注射できるように指示・連絡体制を整備する【アドレナリンの配備、指示・連絡体制】

(6)薬剤アレルギー情報を把握し、その情報を多職種間で共有できるようなシステムの構築・運用に努める【アレルギー情報の把握・共有】

 
 上記事例を見ればわかるように、「過去に同じ薬剤を何度使用してもアレルギー症状がでなかった」患者でも、アナフィラキシーショックが発生しています。センターでは(1)において「アナフィラキシーはあらゆる薬剤で発症の可能性があり、とくに▼造影剤▼抗菌薬▼筋弛緩薬—などで発症例が多い」「アナフィラキシーショックの発症予測は困難であり、これまで複数回、安全に使用でき、薬剤の特異抗体が陰性であった薬剤でも発症し得うる」ことの認識が重要と強調。また上記12例のうち10例では、薬剤投与から症状発現までに5分と経っておらず、「特に医薬品、静脈内注射によるアナフィラキシーは、発症から急変までの時間が短く、投与に際してはアナフィラキシー発症の可能性を常に意識することが重要」とも訴えています。

また(2)では「一般的なアナフィラキシーの症状として皮疹が有名だが、必ずしも発現するわけでなく、アナフィラキシーの診断に皮膚症状は必須ではない」点に留意し、薬剤投与開始から5分以内に▼ふらつき▼喉の痒み▼しびれ▼嘔気▼息苦しさ▼くしゃみ▼体熱感—の自覚症状があった場合や、静脈内注射後に▼血管の走行に沿った発赤▼両手背から前腕や顔から首にかけての紅潮▼眼球上転▼痙攣—などが観察されるなど、様々な症状が発現した場合には「アナフィラキシーを疑う」よう呼びかけています。

アナフィラキシーショックの診断基準
アナフィラキシーショックの診断基準
 
さらに(3)から(5)では、アナフィラキシー治療の第1選択薬である「アドレナリン筋肉内注射」0.3mg(成人)を準備し、速やかに投与することの重要性を強調。センターでは、▼アドレナリンの投与量が0.5mg以下であれば、生命に危険が及ぶ合併症を来さないと考えられる▼アドレナリンを静脈内注射すると血中濃度が急激に上昇し、重篤な心筋虚血、不整脈、肺水腫などを引き起こす可能性があることに付言し、「アナフィラキシーは致死的な緊急事態であり、【ためらわずに筋肉内注射を実施する】必要がある」と訴えています。
アナフィラキシーショックへの初期対応の手順
アナフィラキシーショックへの初期対応の手順
 
また(6)では、医療従事者に対して「注射剤投与前に患者から丁寧に何度もアレルギー情報を聴取し、取得したアレルギー情報をカルテに記載し、【多職種間で共有する】ことが極めて重要」と指摘しています。さらに、後発医薬品が多く用いられている昨今、「同一成分」と認識されないケースがある点にも言及し、注意を呼び掛けています。

 
なおセンターでは、医学会や医療関連企業に対し、▼薬剤性アナフィラキシーに関する正しい知識の普及▼アドレナリン0.3 mg筋肉内注射用プレフィルドシリンジ製剤の開発▼電子カルテの薬剤登録・警告システムの改良—を行うことも要望しています。

 

 

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