やりたい医療から、求められる医療へ―鼎談 II群請負人(7)



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 高度な急性期医療を提供する病院としての絶対的なブランドとも言える「II群」を手に入れるには何が必要なのか、その条件とは――。

 経営分析システム「病院ダッシュボードΧ」リリース直前の緊急企画として、数多くのII群病院の昇格・維持をコンサルティングしてきた「II群請負人」であるグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのシニアマネジャーの塚越篤子、マネジャーの冨吉則行と湯原淳平が、II群昇格・維持の本質を語り合う連載。7回目は、やりたい医療から求められる医療への転換について解説します。

情熱を見える化するためのデータ

冨吉:これまでII群であることの条件について語り合ってきました。ところで、II群になったことによる端的な経営メリットは、表現しづらいですよね。

 例えば、表面的なことを言うと、収益はおおよそ1パーセントぐらい増えると思います。単純に年間200~300億円の売り上げの病院であれば、2~3億円の増収効果になるというわけです。しかし、本当にそれが経営メリットなのか、ということです。

塚越:正直、増収効果という意味においては、それほど大きなメリットはないと思っています。病院ごとの事情によっては、単純に必ずしも1%の増収効果、という見方ができるとは限りませんし。

 それよりも重要なことは、やはり職員のモチベーション維持につながるということだと思います。それは単にII群という称号だけで得られるわけではなく、その称号の価値を、どう伝えるかというところにかかっているのではないでしょうか。

 II群を獲得することが、どれだけ大変なことで、さらにそれを維持することがどれほど難しいことか。こうした困難なことを、やり遂げているのは自分たちであるということ。それをやり遂げることで、自分たちが患者、近隣の医療機関など地域にどれだけ貢献できているのか――。こうした価値あることを、自分たちが実現しているということを伝える誰かが必要です。それは、一人ひとりの医療スタッフの胸の内に秘められるものでも良くて、上長の励ましの言葉でも、後輩からの尊敬の眼差しでも、院長などの経営幹部からの激励の言葉でもいい。

 ただ、院内の反応だけでは足りない。院内だけでは、どうしても伝えきれないのです。日本の医療は水道のように提供できて当たり前、質が高くて当たり前という国民の意識があるかもしれません。ですから、どんなに頑張っても、それは院内のスタッフたちも「当たり前」という意識の中に消えていってしまうのです。頑張っている病院ほど、「何でこんなに在院日数を短くして頑張っているのだろう」などと愚痴を言ったりするかもしれませんが、そういう頑張っているスタッフたちにこそ、毎日、自分たちが当たり前のようにしていることが、どれだけ尊く、素晴らしいことであり、そして何より本当の急性期病院として地域にどれだけ貢献しているのかを、しっかりと示すことが必要です。

 そのためには、データが必要なのです。ベンチマーク分析が必要なのです。自分たちの頑張りを客観的なデータで示し、他病院と比較してどれだけの位置にいるのかということを。医療スタッフたちの情熱を見える化するためのデータが。

患者側を向いた日々の積み重ね

冨吉:院内全体の行動変容を見える化し、院内全体で確認することは、特にII群病院のような地域の雄のような病院にとっては重要でしょうね。おそらく今までは、自分たちが信じて疑わなかった医療を根本から見つめ直し、II群というツールを通じて、患者にとって本当に必要な医療は何かを見つめ直すパラダイムシフトになり得るということは、これ以上ない価値と言えます。

塚越:そう、II群というツールは、日本の急性期医療における最大の課題ともいえる、やりたい医療から求められる医療への転換のきっかけになりえる、ということです。

 例えばC病院(公的病院、300床台)。この病院は入院患者の8割が紹介で、救急搬送が2割というような病院です。この病院の医療を評価するのは、患者やその家族だけではなく、紹介元のクリニック医師や、救急搬送する消防隊員たちなのです。ですから、それぞれ関わる人たちすべてに対して、C病院がどのような対応をしているのかということが、常に問われており、その評価がC病院の関係者すべての身にかかってきているのです。

 同院は超激戦区にあるので、患者家族から消防隊員に「C病院へ連れていって」って言ってもらえないと、C病院まで連れていってもらえない。そこに辿り着くまでに、いくつも急性期病院があり降ろされてしまうわけです。そう言ってもらうためには、やはり気持ちの良い接遇であったり、患者が満足できる医療であったりするわけです。それらはすべての日々の積み重ねであるわけですから、求められる医療の重要性をC病院では繰り返し確認しています。

連載◆鼎談 II群請負人
(1)最重要はトップの強い意志
(2)院内を一つにする最強ツール
(3)強みが不明確な病院に患者はこない
(4)迷ったら針路は「医療の価値」向上
(5)入院医療の外来化、制度の遅れにどう対処
(6)診療密度の「境界線病院」の未来
(7)やりたい医療から、求められる医療へ
(8)急性期医療の本質が、そこにある

解説を担当したコンサルタント 塚越 篤子(つかごし・あつこ)

tsukagoshi 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門シニアマネジャー。
テンプル大学教養学部経済学科卒業。経営学修士(MBA)。看護師・助産師として10年以上の臨床経験、医療連携室責任者を経て、入社。医療の標準化効率化支援、看護部活性化、病床管理、医療連携、退院調整などを得意とする。済生会福岡総合病院(事例紹介はこちら)、砂川市立病院など多数の医療機関のコンサルティングを行う。新聞の取材対応や雑誌への寄稿など多数(「隔月刊 地域連携 入退院支援」の掲載報告はこちら)。
解説を担当したコンサルタント 冨吉 則行(とみよし・のりゆき)

tomiyoshi 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門マネジャー。
早稲田大学社会科学部卒業。日系製薬会社を経て、入社。DPC分析、人財育成トレーニング、病床戦略支援、コスト削減、看護部改善支援などを得意とする。金沢赤十字病院(事例紹介はこちら)、愛媛県立中央病院など多数の医療機関のコンサルティングを行う(関連記事「病院が変化の先頭に立つために今できるたった3つのこと」)。
解説を担当したコンサルタント 湯原 淳平(ゆはら・じゅんぺい)

yuhara 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門マネジャー。看護師、保健師。
神戸市看護大学卒業。聖路加国際病院看護師、衆議院議員秘書を経て、入社。社会保障制度全般解説、看護必要度分析、病床戦略支援、地域包括ケア病棟・回リハ病棟運用支援などを得意とする。長崎原爆病院(事例紹介はこちら)、新潟県立新発田病院(事例紹介はこちら)など多数の医療機関のコンサルティングを行う。「週刊ダイヤモンド」(掲載報告はこちらこちら)、「日本経済新聞」(掲載報告はこちら)などへのコメント、取材協力多数。



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