薬剤負担引き上げ、慎重論が大勢占めるが「法改正」の主張も―社保審・医療保険部会(1)



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 医薬品の適正使用を促進する観点や、一般用医薬品と医療用医薬品との価格のバランスを踏まえて、薬剤に関する患者の自己負担を引き上げるべきか―。

 11月24日の社会保障審議会・医療保険部会では、こうした論点について話し合いました。薬剤自己負担に関しては、政府の財政再建に向けた計画(経済・財政再生計画)の改革工程表で、来年度(2018年度)末までに審議会などで検討して必要な措置を講じることになっています。この日の会合では、自己負担増に慎重な意見が大勢を占めた一方で、「法改正を伴う抜本的な見直しも検討すべき」だという主張も聞かれました。

11月24日に開催された、「第109回 社会保障審議会 医療保険部会」
11月24日に開催された、「第109回 社会保障審議会 医療保険部会」

薬剤の自己負担の議論は「もう尽きた」?

 現在の医療費の自己負担の割合は通常3割で、残りは公費や保険料で賄われています(「義務教育就学前(6歳未満)の小児」や「70-74歳の高齢者」は自己負担割合が2割(2014年3月までに70歳になった人は1割)で、「75歳以上の高齢者」なら1割。ただし、高齢者であっても所得が「現役並み」の人は3割負担)。

 一方、1か月当たりの自己負担額には年齢や所得に応じた上限額が設定されています(高額療養費制度)。こうした制度により、大手術を急に受けることになった場合や定期的な通院が必要な慢性疾患を複数抱えた場合にも、自己負担額が高くなり過ぎないような配慮がなされています。

 ところで、公的医療保険の財政状況は、少子高齢化や不況などの影響を受けて、厳しい状況が続いています。そこで国民皆保険制度を維持するために、所得が高い人の保険料率や自己負担額上限額の引き上げといった見直しが、昨今の医療保険制度改革で講じられています。

 その一環として医療用医薬品のうち、有効成分などがドラッグストアなどで買えるものと同じ薬(一般用医薬品類似医薬品、OTC類似医薬品)を保険制度の中でどう取り扱うべきかが、重要な検討テーマの1つとなっています。「単なる栄養補給目的でのビタミン剤の投与」や「治療目的ではない、うがい薬だけの処方」「1処方につき計70枚を超える外来患者への湿布薬の投薬」を保険給付の対象から除外する(全額自己負担とする)などの見直しが、2012年度以降の診療報酬改定で行われたことは記憶に新しいでしょう。

 この背景には、「ドラッグストアでOTC類似医薬品を買うよりも、医療用医薬品として処方してもらう方が、自己負担が3割以下なので安くなる」という患者側のモラルハザードがあります。来年度(2018年度)の次期診療報酬改定に向けても、保湿剤のヒルドイドソフト(ヘパリン類似物質)が一度に大量に処方されているケースの取り扱い(保険給付の対象から外すか否か)が焦点の1つとなっています

 こうした見直しも踏まえた上で、改革工程表では「薬剤自己負担の引き上げについて、市販品と医療用医薬品との間の価格のバランス、医薬品の適正使用の促進などの観点を踏まえつつ、対象範囲を含め幅広い観点から」検討するよう改めて指示しているのです。

 ただし、2002年に成立した改正健保法等(健康保険法等の一部を改正する法律)では、保険給付割合について「将来にわたり100分の70(7割)を維持する」ことを規定しています(保険給付が7割なら患者の自己負担は残り3割)。薬剤自己負担を引き上げれば、「7割給付を継続する」との規定に抵触する可能性があり、ここをどう考えるかが大きなポイントになるのです。

 11月24日の医療保険部会では、南部美智代委員(日本労働組合総連合会副事務局長)が、この附則(7割給付継続規定)に言及し、薬剤に関する自己負担を今より重くすべきではないと主張しました。また松原謙二委員(日本医師会副会長)や森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、医療保険部会が昨年度(2016年度)、OTC類似医薬品の取り扱いについて話し合った上で、自己負担の引き上げなどを見送ったことから、薬剤に関する自己負担の見直しをめぐる議論は「もう尽くした」との見解を示しました。

 これに対して白川修二委員(健康保険組合連合会副会長)は、「(議論が)終わったとは思わないでほしい。(保険財政が厳しいので)警鐘を鳴らさせてもらう」と反発。「3割負担の上限があるが、場合によっては法改正を含めて議論すべき」と訴えたほか、「症状が軽い人に使う薬は、保険から外してバランスを取らないといけないのではないか」などと提案しています。法改正にまで言及した白川委員の発言が、今後、どのように議論に影響するのか注目する必要があります。

金融資産の自己負担への反映、方法によっては「議論に意味ある」

 また11月24日の医療保険部会では、患者の金融資産の保有状況を踏まえた自己負担の在り方についても話し合いました。

 介護保険制度では、低所得者向けの給付(施設入所中の食費や居住費に相当する額の給付)の対象者を、利用者の預貯金などを踏まえて判定しています。一方、医療保険制度では、収入の状況だけを勘案して低所得者向けの配慮(負担の減免など)を講じています(預貯金は勘案していない)。

 この点、改革工程表では、2018年度末までに「金融資産などの医療保険制度における負担への反映方法を検討し、必要な措置を講じる」よう指示しています。しかし24日の会合では、金融資産などの制度への反映に前向きな意見が出ていません。介護保険制度の保険者が自治体のみで、預貯金の情報を銀行に照会しやすいのに対し、医療保険制度の保険者は自治体に限らないためです。

 ただし、白川委員は「加入者の資産を調べる権限を健保組合に与えても、実効性はほとんどない」と指摘する一方で、金融資産を制度に反映させることで保険財政が大幅に改善する「効果」が見込めるのであれば、「議論の意味がある」とも述べています。金融資産の情報をどう活用するかを含めて、引き続き検討することになりそうです。

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