利用者の状態、介入方法と効果の情報を収集し、データベースを構築—科学的介護検討会



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 介護領域において、「どういった状態の利用者に、どのサービスをどの程度提供することが、自立支援に向けて効果的なのか」といったエビデンスを構築するため、▼栄養▼リハビリ▼アセスメント▼ケアプラン▼認知症介護—などの領域において、「血圧やADL」など利用者の状態、「指導や介助」などの介入方法、「転倒や肺炎、退所」などの効果(良いもの、悪いものを含めて)を測定していく—。

10月26日に開催された、厚生労働省の「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」(以下、検討会)でこういった方向が概ね了承されました。測定データをもとにCHASE(Care, Health Status & Events)というデータベースを構築し、既存の要介護認定やリハビリの効果などに関するデータと組み合わせ、科学的に「効果あり」と裏付けられた介護サービスの確立を目指します。

10月26日に開催された、「第2回 科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」
10月26日に開催された、「第2回 科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」

既存データベースと、新たに収集するデータを組み合わせ、エビデンス構築目指す

介護分野・領域においても、エビデンスに基づいた介護サービスを確立し、効率的かつ効果的なサービス提供体制を構築していくことが求められています。厚労省はこの視点に立って検討会を立ち上げ、「どういう状態の方に、どういったサービスを、どの程度提供することが自立支援に資するのか」という標準化を進めることとしています(関連記事はこちらこちらこちら)。

厚労省の鈴木康裕医務技監は、▼介護労働は厳しく負担軽減が求められているが、効率的に介護サービスを提供するには科学的にサービス内容を分解していく必要がある▼介護保険料を考えれば、このまま介護費用をどんどん増やしていける状態ではなく、効率化が求められる▼ある地域での好事例を、他の多くの地域で再現するためには科学的分析が必要となる—と述べ、エビデンス構築の重要性を強調しています。

検討会ではまず、標準化に当たって必要なデータベースを構築することを当面の課題に位置づけました。データベースから「◇◇状態の利用者に、◆◆サービスを提供すると状態が改善するのではないか」という仮説を立て、実地検証を経て、エビデンスの策定に結びつける考えです。

このデータベースは次の3層構造となる予定です。

【1層】介護保険総合データベース:要介護認定情報、介護保険レセプト情報が格納されている(稼働中、2018年度より全保険者から収集)
【2層】VISIT(monitoring & evaluation for rehabilitation service for long term care):通所・訪問リハビリ事業所から、リハビリ計画書などの情報収集(稼働中、現在100か所弱の事業所から収集し、今後拡大予定)
【3層】CHASE(新たに構築し、2020年度から本格運用予定)

既存のデータベース(介護保険総合データベース、VISIT)に加えて、新たにCHASEというデータベースを構築し、これらからエビデンス策定につなげる
既存のデータベース(介護保険総合データベース、VISIT)に加えて、新たにCHASEというデータベースを構築し、これらからエビデンス策定につなげる

介護サービスの「効果」を重視したデータ収集へ

検討会では、【3層】に当たるCHASEの中で、どのようなデータを収集していくべきかを集中的に議論していきます。【1層】の介護保険総合データベースでは、「利用者の状態」は要介護度情報から詳細に分かりますが、「どのような介入を行ったのか」(レセプトからは具体的なケアの状態か必ずしも明らかにならない)、「どのような効果があったのか」(推測するしかない)という課題があります。また【2層】のVISITでは、「利用者の状態」(心身機能やどのような目的でのリハビリを希望するかなど)、「どのような介入を行ったか」(実施しているリハビリなど)は明確に把握できますが、「どのような効果があったのか」は、やはり推測するしかありません。

既存の介護保険データベースは、効果(イベント)に関するデータが不足している
既存の介護保険データベースは、効果(イベント)に関するデータが不足している
 
【3層】CHASEでは、この課題を補えるようなデータ収集が目指されます。具体的には、▼▼栄養▼リハビリ▼アセスメント▼ケアプラン▼認知症介護—などの領域において、「血圧やADL」など利用者の状態、「指導や介助」などの介入方法、「転倒や肺炎、退所」などの効果(良いもの、悪いものを含めて)を測定していくことになります。
領域別に、利用者の状態、介入、効果(イベント)に関する情報を収集していく、具体的な測定項目はこれから詰める
領域別に、利用者の状態、介入、効果(イベント)に関する情報を収集していく、具体的な測定項目はこれから詰める
 
ただし、測定に当たって介護現場の負担が増すことは避けなければいけません。そこで、厚労省は▼すでに大部分の事業所で電子的に取得されている▼一定程度の事業所ですでに電子的に取得されており、他の事業所にも容易に導入・実施できる—項目を対象にする考えを明確にしています。この点、栄養分野では「筋肉量などを測定してはどうか」との提案(素案)がなされましたが、「測定者に一定の技術が必要となる」「体組成計という機器を用いれば簡易に測定できるが、導入には相当のコストがかかる」といった課題があり、厚労省の考えにはマッチしていないようです。

これは、どのように「積極的な測定を促す」かというテーマにも関連します。例えば、上記の筋肉量測定について「介護老人保健施設で実施する」ことになったと仮定しましょう。「測定にコストがかかり、現場の負担も増加する」のであれば、老健施設サイドは「コストや負担について経済的な評価を行ってほしい」と強く感じることでしょう。そこで【データ提出加算】の新設などを検討することになりますが、昨今の介護保険制度を取り巻く状況に鑑みれば、加算の新設などには、かなり高いハードルがあることが分かります。介護報酬ではなく、補助金などを用いる場合でも同様のハードルがあります。

そこで、「現場に大きな負担・投資を求めずに、データを収集する方法」が考えられ、「すでに大部分の事業所で電子的に取得されている」ようなデータに、まず白羽の矢が立てられるのです。もちろん、今後「加算を設けても収集しなければならないデータ項目」が浮上する可能性もあり、議論の行方に要注目です。

 
なお、近年の科学技術の進展を考慮すれば、「現在は測定困難だが、近い将来に測定が容易になる」と考えられるような項目については、「将来への参考項目」として取り上げられる可能性があります。例えば、活動時の心拍数などは、かつては測定が困難でしたが、ウェアラブル端末の発展によって、現在では極めて容易に、かつ比較的低コストで測定することが可能となっており、厚労省はこうした「近未来の可能性」にも目を向ける考えです。

こうした方向に特段の異論は出ておらず、今後、検討会で領域ごとに具体的な測定項目を詰めていくことになります。なお、「主治医意見書からは、脳血管障害のある利用者において、治療によってどこまでの、その後のリハビリでどこまでの機能維持・改善が見込めるのかなどが明らかになり、既に電子化されている。さらに日常生活圏域調査のデータも活用の可能性が高い」(松田晋也構成員:産業医科大学公衆衛生学教室教授)、「例えばデイケアでリハビリをどの程度行ったらADLが改善した、というのでは大雑把すぎる。どういう人員構成で、どういったリハビリをどの程度実施したのかなども併せて見る必要がある。また医療機関からの退院直後に、どの程度の介入を行うとADL・QOLが改善する、といった点が把握しやすいのではないか」(藤井賢一郎構成員:上智大学准教授)といったアドバイスも出ており、具体的な測定項目案に期待が集まります。

 
なお、検討会では「患者の状態を表現する、いわば『物差し』をどう考えるか」といった点も改めて議論になりました。サービス領域や職種ごとにばらばらの物差しが用いられたのでは、標準化は困難です。一方、『物差し』を1つに決めることも現実的ではありません。これをどう整理していくかは、データ測定にも大きく関連する重要テーマで、どのように整理していくのかは今後の議論を待つ必要があります。この点については「介護分野では利用者の個別性を重んじる。データに現れない部分(例えば、利用者がどれだけ生活に満足感を覚えているのかなど)をどう把握するのか」といった点が1つの争点になりますが、松田構成員は「主観的健康観を重視すべき」とコメントしており、キーワードの1つになりそうです。

 

 

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