最重要はトップの強い意志―鼎談 II群請負人(1)



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DPC医療機関群のII群病院。「大学病院本院であるI群病院に準ずる病院」として、全国の病院が毎年、厳しい実績要件を満たしてIII群から昇格、あるいはII群維持を果たしています(関連記事『2017年度のDPC機能評価係数II、I群トップは東海大病院、II群は帯広厚生病院、III群は日立総合病院―厚労省』)。

高度な急性期医療を提供する病院としての絶対的なブランドとも言える「II群」を手に入れるには何が必要なのか、その条件とは――。経営分析システム「病院ダッシュボードΧ」リリース直前の緊急企画として、数多くのII群病院の昇格・維持をコンサルティングしてきた「II群請負人」であるグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのシニアマネジャーの塚越篤子、マネジャーの冨吉則行と湯原淳平が、II群昇格・維持の本質を語り合う連載。初回は、II群病院におけるリーダー像を探ります。

維持と脱落、明暗分けた理由

冨吉:急性期病院の絶対的なブランドである「II群」を目指すため、あるいはII群を維持するためには何が必要なのか、その条件とは何か。いきなり核心から話をしていきましょう。一番重要なことは何だと思いますか。

湯原:トップの強い意志でしょうね。

冨吉:はい、私も一緒で、病院長や理事長、病院管理者などのトップが、強い意志を継続することが最も重要だと思います。しかも、その強い意志を1年、2年と持ち続けないといけない。

塚越:そうですね、何がなんでも実現するという強く、ぶれない意志が必要。

冨吉:ブレてしまったがゆえに、ほんの数点の差でII群維持を逃してしまったという病院は、1つや2つの事例ではありません。

湯原:明暗が分かれたこんな事例もあります。ある自治体の病院は想定以上にオペ症例が集まっていて、II群に昇格しました。ただ、院内では「運良くII群になれた」というくらいの認識で、その後、II群を維持するための対策もしていなかったし、そもそもトップが「維持」を院内に意識させるようなメッセージを一切、発してこなかった。ですから、私はその必要性と重要性を何度となく指摘したのですが響かず、すぐに脱落してしまいました。

一方、この病院が脱落したのと同じ時期に、余裕のII群維持を果たしたのが、ほぼ同じ規模の公立病院であるA病院(公立、400床台)です。全国に先駆け地域包括ケア病棟の開設に踏み切り、急性期病床と亜急性期(回復期)病床を切り分けることで、急性期病床の重症度対策と平均在院日数短縮、診療密度向上の3つの最重要対策を同時に、一気に進めました。

これを実現できたのは、当時(2016年)の院長の意志が大きく関係しています。地域包括ケア病棟を作ることについて、院内の抵抗がかなりあった。ただ、抵抗勢力はあったものの、自分たちが本当にやりたいことは何かということを、当時の院長は突き詰めて、逆に「これしかない」という意志で、何が何でもII群維持を目指しました。

「小手先」は通用しない

A病院は、周囲に急性期病床や亜急性期病床が少ない地域の病院で、急性期と亜急性期の2つの機能を保つ必要がある。こうした地域の病院としてのやるべき役割を、当時の院長は副院長時代からずっと温め続けて、ちょうど出てきた地域包括ケア病棟という制度を活用することに決めたわけです。ですから、決断したのは、まだ「地域包括ケア病棟」という名前が決まる前の、中央社会保険医療協議会でコンセプトが示され、大筋で合意された段階というスピード感でした。

塚越:あのスピード感はすごかったですね。

湯原:院長の強い意志で、やるべきことが決まっていたからできたことです。ですから、当時の院長が院長に就任するやいなや、院長の考えていることを定期的に院内にしっかりと伝えるための院長講話をスタートさせ、徹底した現場主義で院内の声に耳を傾け続け、改革の素地を徐々に作っていった。だからこそ、院内に改革の風土を醸成し、思い切った改革を実行することができたし、余裕のII群維持につながったわけです。

冨吉:小手先で何かしようということではない、ということですよね。大前提としてあるのは、やはり「医療の価値(質/コスト)」の向上。医療従事者たちを束ねる経営のトップである以上、大前提は患者側にしっかりと向いて医療の質を向上させなければならない。一方で、医療の質が向上するといって、コストを考えずに何でもやっていいというわけでもない。ですから、病院経営のトップは、しっかりと医療と経営のデータを検証し、熟考に熟考を重ねて、医療の質を担保した、最適コストの医療を目指さなければならない。

湯原:副院長時代からずっと温め続けてきたことは、すべて何冊ものノートに書き留めてあったそうです。経営のトップとして、医療と経営の質を向上させるために、やるべきことを全部。

有名な話としては、中曽根康弘元総理大臣が同じことをしていましたよね。総理になる前から、自分が総理になったら何をやるべきか、すべてノートに綴っていたという。一国を背負う総理の話を持ち出すのは大袈裟に聞こえるかもしれませんが、病院経営のトップに立つということは、それくらいの覚悟が必要だということです。

病院経営は、本当に難しいです。単に経営を良くするのではなく、医療の質を担保し、医療の価値を向上し続けなければならないからです。そうした難しい病院経営を担うトップとして、大方針を打ち出し、それを絶対に曲げない強い意志というのは、さらに難しいことかもしれませんが、それこそが、II群病院であるための最重要項目であると思います。

連載◆鼎談 II群請負人
(1)最重要はトップの強い意志
(2)院内を一つにする最強ツール
(3)強みが不明確な病院に患者はこない
(4)迷ったら針路は「医療の価値」向上
(5)入院医療の外来化、制度の遅れにどう対処
(6)診療密度の「境界線病院」の未来
(7)やりたい医療から、求められる医療へ
(8)急性期医療の本質が、そこにある

解説を担当したコンサルタント 塚越 篤子(つかごし・あつこ)

tsukagoshi 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門シニアマネジャー。
テンプル大学教養学部経済学科卒業。経営学修士(MBA)。看護師・助産師として10年以上の臨床経験、医療連携室責任者を経て、入社。医療の標準化効率化支援、看護部活性化、病床管理、医療連携、退院調整などを得意とする。済生会福岡総合病院(事例紹介はこちら)、砂川市立病院など多数の医療機関のコンサルティングを行う。新聞の取材対応や雑誌への寄稿など多数(「隔月刊 地域連携 入退院支援」の掲載報告はこちら)。
解説を担当したコンサルタント 冨吉 則行(とみよし・のりゆき)

tomiyoshi 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門マネジャー。
早稲田大学社会科学部卒業。日系製薬会社を経て、入社。DPC分析、人財育成トレーニング、病床戦略支援、コスト削減、看護部改善支援などを得意とする。金沢赤十字病院(事例紹介はこちら)、愛媛県立中央病院など多数の医療機関のコンサルティングを行う(関連記事「病院が変化の先頭に立つために今できるたった3つのこと」)。
解説を担当したコンサルタント 湯原 淳平(ゆはら・じゅんぺい)

yuhara 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門マネジャー。看護師、保健師。
神戸市看護大学卒業。聖路加国際病院看護師、衆議院議員秘書を経て、入社。社会保障制度全般解説、看護必要度分析、病床戦略支援、地域包括ケア病棟・回リハ病棟運用支援などを得意とする。長崎原爆病院(事例紹介はこちら)、新潟県立新発田病院(事例紹介はこちら)など多数の医療機関のコンサルティングを行う。「週刊ダイヤモンド」(掲載報告はこちらこちら)、「日本経済新聞」(掲載報告はこちら)などへのコメント、取材協力多数。



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