医師の働き方改革の前に、少なくとも同時に偏在解消が必要—全自病



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 働き方改革の一環として、医師にも罰則付きの時間外労働上限が適用されるが、厳格に適用すれば「診療縮小」か「医師の大幅増員」をしなければならなくなるが、現状では不可能である。働き方改革の前、少なくとも同時に「地域間・診療科間の偏在解消」を実行すべきである—。

 全国自治体病院協議会(全自病)が10月18日に記者会見を開き、邉見公雄会長(赤穂市民病院名誉院長)をはじめとする役員からこうした意見が相次いで発されました。

全自病の邉見公雄会長(赤穂市民病院名誉院長)
全自病の邉見公雄会長(赤穂市民病院名誉院長)

「診療縮小」と「医師増員」の選択肢しかないが、いずれも選択できない

 安倍晋三内閣総理大臣が議長を務める働き方改革実現会議は3月28日に「働き方改革実行計画」を決定。次のような「罰則付きの時間外労働の上限規制」を導入し(労働基準法改正)、医師も規制対象に含まれます(関連記事はこちら)。

▼時間外労働の限度を「1か月当たり45時間、かつ1年当たり360時間」(時間外労働の限度の原則)とし、違反した場合には、特例の場合を除いて罰則を課す

▼労使が合意して労使協定を結ぶ場合においても、上回ることができない時間外労働時間(特例)を年720時間(=月平均60時間)とする。かつ、年720時間以内において、一時的に事務量が増加する場合について、最低限、上回ることのできない上限を設ける

▼特例の上限を▽2か月から6か月の平均でいずれも80時間以内▽単月で100時間未満―とし、特例の適用は年6回を上限とする

 ただし、医師には応召義務(医師法第19条)が課されるなどの特殊性があることから、▼質の高い新たな医療と医療現場の新たな働き方の実現を目指し、2年後を目途に規制の具体的な在り方、労働時間の短縮策等について検討し、結論を得る▼法改正から5年後を目途に規制を適用する—こととされています。

 
こうした改革内容について全自病では、会員病院を対象にアンケートを実施。そこからは次のような状況が明らかになっています。

▼1か月当たりの時間外勤務平均時間は、初期臨床研修医で29時間、非管理職医師で34.8時間だが、病床規模が大きくなるにつれ伸びていく(500床以上では、それぞれ32.5時間、47.5時間である)

月平均の時間外勤務は、初期臨床研修医では平均29.0時間、非管理職医師では平均34.8時間となっており、病床規模が大きくなるほど時間外労働も増加しているように見える。しかし、小規模病院では多くの医師を管理職に登用し(100%の病院も少なくない)、見かけ上「時間外労働」が発生しないようにしている
月平均の時間外勤務は、初期臨床研修医では平均29.0時間、非管理職医師では平均34.8時間となっており、病床規模が大きくなるほど時間外労働も増加しているように見える。しかし、小規模病院では多くの医師を管理職に登用し(100%の病院も少なくない)、見かけ上「時間外労働」が発生しないようにしている
 
▼初期臨床研修医の15.1%・非管理職医師の28.3%が「時間外勤務60時間以上」で、同じく3.1%・6.6%が「時間外勤務100時間以上」である
初期臨床研修医の15.1%、非管理職医師の28.3%が月平均60時間以上の時間外勤務を行っている
初期臨床研修医の15.1%、非管理職医師の28.3%が月平均60時間以上の時間外勤務を行っている
 
▼小規模になるほど「多くの医師を管理職に登用」しており(時間外勤務が発生しない)、「小規模病院で勤務医の労働時間が短い」わけではない

▼1か月当たりの平均当直回数は、初期臨床研修医で3.4回、非管理職医師で4.6回(非管理職医師ではこのほかに月平均5.6回のオンコールがある)

▼夜間・休日の緊急対応について、「院内当直・待機」がもっとも多く55.9%、次いで「時間外勤務」14.2%、「院外待機・オンコール」13.7%などとなっている

▼夜間における入院患者への対応は、「当直のみ」がもっとも多く61.3%で、「完全主治医制」は14.5%にとどまるが、500床以上の大病院では24.6%が「完全主治医制」を採っている。時間外臨終対応については、全体の32.4%が「原則、主治医」としており、500床以上の大病院では46.9%にのぼる

夜間の入院患者への対応や、時間外臨終対応について「主治医」が担当している病院が一定程度あるが、500床以上の大病院でその傾向が強いようだ
夜間の入院患者への対応や、時間外臨終対応について「主治医」が担当している病院が一定程度あるが、500床以上の大病院でその傾向が強いようだ
 
 さらに「罰則付き時間外労働規制」導入などに影響をどう考えるかを見ると、▼救急患者の受け入れ態勢が心配である▼病棟閉鎖・病床減、救急車受入制限などをせざるを得ない▼現状維持のためには医師の大幅増員が必要になる—などの声が寄せられています。

 
 全自病役員は、こうした状況が自院にも当てはまるとし、「診療縮小」か「医師の大幅増員」かのいずれかを選択せざるを得ないと指摘。しかし、地域医療の砦となる自治体病院では、いずれの選択肢をとることもできないとの苦悩をにじませました。

 末永裕之副会長(小牧市民病院病院事業管理者)は「救急医療体制を維持するためには2交代制を導入するしかない。これには医師が現状より1.5倍程度必要になるが、集まらない」と強調。また小熊豊副会長(砂川市病院事業管理者)は「地方では医師が集まらず、診療縮小をするしかない。救急を近隣の医療機関にお願いするにしても、患者・住民が納得してくれない。内科は崩壊寸前である」と厳しい状況を訴えました。

全自病の末永裕之副会長(小牧市民病院病院事業管理者)
全自病の末永裕之副会長(小牧市民病院病院事業管理者)
全自病の小熊豊副会長(砂川市病院事業管理者)
全自病の小熊豊副会長(砂川市病院事業管理者)
 
こうした状況を踏まえて邉見会長は、加藤勝信厚生労働大臣に宛てて、(1)応召義務と労働量規制との関係を整理する(2)言わば「見なし自己研鑽」時間として労働時間から一定時間を除斥する(3)医師の需給バランスの議論も同時進行する(4)1人主治医制の見直しなどが必要で、社会全体への浸透のために医療に関する教育項目を増やす—ことを求めています(9月22日に厚労省医政局に提出済)。近く、「医師の働き方改革に関する検討会」にも参考人として出席し、「医療機関の管理者要件に、医師不足地域での一定期間勤務を盛り込む」よう強く求めていく考えを強調しています(関連記事はこちらこちらこちら)。

【更新履歴】
小熊副会長の写真キャプションが誤っておりました。大変失礼いたしました。訂正し、お詫び申し上げます。記事は訂正済です。

 

 

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