事前説明なしなら「予期しなかった死亡事故」として報告-事故調検討会



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 「医療事故調査制度」の10月施行に向けた議論が続いています。14日に開かれた「医療事故調査制度の施行に係る検討会」では、「医療事故の定義」「医療機関が行う医療事故調査」について省令などに盛り込む内容を議論しました。

 この日の検討会では、意見が割れている医療事故の定義について、管理者が予期しなかった死亡事故は医療従事者から患者への事前説明がなかったものとすることを了承しました。今後、検討会は2月中に意見をまとめ、これを受けて省令案などの策定作業が進められます。

1月14日に開催された、第4回「医療事故調査制度の施行に係る検討会」
1月14日に開催された、第4回「医療事故調査制度の施行に係る検討会」

 検討会でこれまでに最も大きく意見が分かれているのが「報告すべき医療事故の範囲・定義」についてです。この点について、医療法第6条では、次の2つの軸で医療事故の範囲を限定しています。

(1)管理者が予期しなかったもの

(2)医療に起因するか、起因すると疑われる死亡・死産

医療法第6条の10で、報告すべき医療事故を(1)医療に起因する(2)予期しなかった-の2軸で限定している
医療法第6条の10で、報告すべき医療事故を(1)医療に起因する(2)予期しなかった-の2軸で限定している

「患者に個別説明の努力を」

 (1)の「予期しなかった死亡・死産」については、次の3項目のいずれにも「該当しない」ケースを報告対象とすることが了承されました。詳細は解釈通知に記載されます。

A) 管理者が、当該医療の提供前に、医療従事者等により、当該患者等に対して、当該死亡または死産が予期されていることを「説明」していたと認めたもの

B) 管理者が、当該医療の提供前に、医療従事者等により、当該死亡または死産が予期されていることを診療録その他の文書等に「記録」していたと認めたもの

C) 管理者が、当該医療の提供に係る医療従事者等からの事情の聴取、および医療の安全管理のための委員会(開催している場合)からの意見の聴取を行った上で、当該医療の提供前に、当該医療の提供に係る医療従事者等により、当該死亡または死産が予期されていると認めたもの

 もっとも「術中に死亡する確率がどれだけある」といった一般的な説明のみでは「予期された」とは判断されません。松原謙二委員(日本医師会副会長)らは「個別患者に具体的な説明を行っていることが必要で、医療界も努力していく」と強調しています。

「医療に起因する」事故の内容、研究班で議論継続へ

 (2)の「医療に起因する死亡・死産」という軸の詳細は、通知で規定されます。

 14日の会合では、「診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究班」の座長も務める西澤寛俊委員(全日本病院協会会長)から研究内容の中間報告が行われました。それによると、「診察や治療、療養といった医療の内容」と「対象や手順、合併症などの要因」の2要素で「医療に起因する死亡・死産」を限定すること、「自殺や転倒・転落、拘束・隔離・身体抑制、誤嚥に関連する死亡・死産の中にも医療に起因すると考えられるものも含まれるため、一律に除外しない」こと、といった方向性が示されています。

西澤研究班(診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究班)から中間報告された「医療に起因する」の内容、提供内容と要因の2要素で規定する方向性が示される
西澤研究班(診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究班)から中間報告された「医療に起因する」の内容、提供内容と要因の2要素で規定する方向性が示される

 研究内容に対しては、松原委員らから、「偽装による他殺もあり、自殺は警察の捜査に委ねるべき」といった指摘がなされています。また、鈴木雄介委員(鈴木・村岡法律事務所弁護士、医師)をはじめ、多くの委員から「同じ転倒でも、ADL(日常生活動作)に問題のない患者が売店に行く間の転倒もあれば、脚部リハ中患者の転倒もある。医療の要素には濃淡があり、項目による限定は好ましくない」といった意見も出されました。

 こうした意見を踏まえ、山本和彦座長(東京大学大学院法学政治学研究科教授)は「引き続き研究班で議論していただきたい」と西澤委員に要請しています。

 なお、死産についても、死亡と同様に(1)管理者が予期しなかった(2)医療に起因する-の2軸で報告対象が限定されます。この点、岡井崇参考人(日本産婦人科医会副会長)は、「健診で異常がなかったが2週間後に胎児が死亡していたというケースは少なくない。現在の医学水準では原因究明が困難であり、健診は除外し、妊娠中または分娩中の手術、処置、投薬およびそれに準じる医療行為により発生した死産に限定すべき」と要望しました。ただし、妊婦検査でも「羊水穿刺」などの行為を伴うものは、報告対象に含まれる見込みです。

院内調査で「原因分析」「再発防止策」に踏み込むべきか

 この日は、医療事故の発生を受けて医療機関が実施する院内調査をめぐっても意見交換しました。

 院内調査は、「カルテ、画像、検査結果等の確認」「当該医療従事者・関係者のヒアリング」「解剖、Ai(死亡時画像診断)の実施」「血液、尿等の検査」の中から、管理者が適切な項目を選択して実施します。また、「個人の責任を追及するためのものではないこと」や「調査から必ずしも原因が明らかになるとは限らないこと」が通知に記載される模様です。なお、関係者へのヒアリングの結果は、院内の内部資料という位置付けで、裁判所からの証拠開示命令などがない限り、公表する必要はありません。

 院内調査の段階で「原因分析」や「再発防止策」にまで踏み込むべきかどうか、委員の意見は分かれており、この日も結論は出ませんでした。

 加藤良夫委員(南山大学大学院法務研究科教授)らは、「医療安全のための制度創設であり、必ず原因分析をすべき」と主張しましたが、小田原良治委員(日本医療法人協会常務理事)は「任意的記載事項にとどめるべき」と反論。また、大磯義一郎委員(浜松医科大学医学部教授)は「原因分析と言いながら、個人に責任を押し付け、訴追につながるケースもある。原因分析などは記載すべきではない」との見解を披露しています。

 この点について、厚生労働省医政局総務課医療安全推進室の大坪寛子室長は、「『原因分析』『再発防止』という名称が妥当か否か、記載すべきか否かなどを整理して議論していただい」と述べています。

 院内調査の結果は、第三者機関(医療事故調査・支援センター)と遺族に報告しなければなりません。報告内容は、事故を起こした医療機関名や診療科や、「医療事故調査の項目、手法および結果」などです。ここでも、「原因分析」や「再発防止策」を報告すべきかどうかで意見が分かれています。

 なお院内調査に関連して、中島和江参考人(大阪大学医学部附属病院中央クオリティマネジメント部長・病院教授)は「院内調査の負担は大きく、阪大病院でも年間1件の調査で現場がパンクする。2年に1件程度が上限で、調査対象は厳選すべき」との考えを述べました。しかし、大坪室長によると「法律上、調査対象を限定することはできない」ようです。

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