手術室などの器械台に置かれた消毒剤を、麻酔剤などと誤認して使用する事例に留意―医療機能評価機構



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 日本医療機能評価機構が6月29日に公表した「医療事故情報収集等事業」の第49回報告書によると、今年(2017)年1-3月に報告された医療事故は852件、ヒヤリ・ハット事例は8603件に及びました。医療事故のうち63件・7.4%で患者が死亡しており、101件・11.9%は患者に障害が残る可能性が高い状況です(機構のサイトはこちら)(前四半期の記事はこちら)。

 また報告書では、手術室などにおいて清潔野(清潔な器械台など)におかれた消毒剤を、局所麻酔剤などと誤認して患者に投与してしまう医療事故などを詳細に分析。▼薬剤名を記載したラベルを容器に貼付する▼使用の都度、薬剤を確認する—などの防止策を講じるよう提案しています。

業務フローの再点検と、ルール遵守する院内風土の醸成を

 この期間に報告があった医療事故852件を事故の程度別に見ると、「死亡」が63件(事故事例の7.4%)、「障害残存の可能性が高い」が101件(同11.9%)、「障害残存の可能性が低い」が250件(同29.3%)、「障害残存の可能性なし」が212件(同24.9%)などとなっています。前の四半期(2016年10-12月)に比べて、死亡事例の割合はが0.7ポイント減少していますが、障害残存の可能性が高い事例が2.4ポイントも増加しており、安心はできません。

 医療事故の概要を見ると、最も多いのは「療養上の世話」で353件(同41.4%)、次いで「治療・処置」229件(同26.9%)、「薬剤」72件(同8.5%)、「ドレーン・チューブ」50件(同5.9%)などと続いています。

2017年1-3月に報告された医療事故のうち、63件・7.4%では患者が死亡している
2017年1-3月に報告された医療事故のうち、63件・7.4%では患者が死亡している
 
 事故の発生要因(複数回答)に目を移すと、前四半期と同様に「患者側の要因」がもっとも多く、事故全体の11.5%を占めています。次いで「当事者の確認怠り」10.6%、「当事者の判断誤り」10.5%、「当事者の観察怠り」10.3%などと続いています。より大きな区分でみると、当事者側(医療者側)に起因する項目は全体の45.0%を占めています。

 医療事故が生じやすい場面や発生要因の割合は過去の調査結果と大きな変化がないことから、依然として「同じような場面で、同じようなミスによって医療事故が生じている」ことが分かります。業務手順を見直すとともに、複数チェックを実質的にとれる体制の構築、さらに何よりも重要なのは「決められたルール(業務手順や複数チェックルール)を守る」という意識の向上を目指した研修や風土醸成などを急ぐ必要があります。

 事故に関連した診療科としては、やはり整形外科が最多で123件(重複を含めた医療事故全体1040件の11.8%を占めています。ただし外科も80件・7.7%、精神科も64件・6.2%、消化器科64件・6.2%などでも多く、全診療科での対策が求められます。

ヒヤリ・ハットの要因、「繁忙」をあげる声が急増

 ヒヤリ・ハット事例については、今年(2017)年1-3月の報告件数は8603件ありました。そのうち4172件について影響度を見ると、「軽微な処置・治療が必要、もしくは処置・治療が不要と考えられる」事例が94.7%を占めますが、「濃厚な処置・治療が必要と考えられる」ケースも3.3%(前四半期に比べて0.8ポイント減少)、「死亡・重篤な状況に至ったと考えられる」も2.0%(同0.5ポイント減少)あります。大きな影響の出る可能性がある事例は前四半期に比べて減少していますが、現場の手順見直しなどの必要性は決して小さくありません。

 ヒヤリ・ハット事例8603件の概要を見ると、「薬剤」が最も多く3492件(ヒヤリ・ハット事例全体の40.6%)、次いで「療養上の世話」1583件(同18.4%)、「ドレーン・チューブ」1273件(同14.8%)などとなっています。医療事故に比べて、ヒヤリ・ハット事例では「薬剤」に関連するケースが多い点は、従前から変わっていません。

2017年1-3月に報告されたヒヤリ・ハット事例のうち、2.0%ではあるが「一歩間違えば、死亡もしくは重篤な状況に至った」ものがある
2017年1-3月に報告されたヒヤリ・ハット事例のうち、2.0%ではあるが「一歩間違えば、死亡もしくは重篤な状況に至った」ものがある
 
 事故の発生要因(複数回答)としては、当事者(医療従事者)の「確認の怠り」(21.1%)が飛び抜けて多い点は従前と同様ですが、「勤務状況が多忙であった」が前四半期に比べて3.7ポイントも増加し、10.7%となっている点が気になります。医療現場の多忙さはここで述べるまでもありませんが、「多忙によって、どれだけ注意力が落ちてしまうのか」などをさらに詳しく見ていく必要がありそうです。このほか「判断の誤り」7.9%、「観察の怠り」7.7%、「連絡不十分」6.5%などが大きな要因となっています。

手術室での薬剤取り違えなど防止するため、薬剤名の明示を

 報告書では毎回テーマを絞り医療事故の再発防止に向けた分析も行っています。今回は、(1)清潔野において容器に入った薬剤を誤って使用した事例(2)麻酔器に関連した事例(3)薬剤誘発性リンパ球刺激試験に使用する薬剤を誤って患者に投与した事例―の3点について、詳細な分析が行われています。

 このうち(1)は、「清潔野(清潔な器械台など)において、薬剤を入れる容器の形状や大きさや色が類似しているものが多く、どうしても容器を近くに置かざるを得ない(薬剤を入れる容器を置くスペースが限られている)ことから、意図した薬剤とは別の薬剤を誤って使用してしまう」という事例で、2010年から合計10件が報告されています。

 事例の発生場所をみると、手術室が7件、手術室以外が3件(カテーテル検査室、放射線治療室)となっており、薬剤種類別では、造影剤や局所麻酔剤などを使用しなければいけないところ、誤って「外用殺菌消毒剤」を使用してしまった事例が8件に上っています。全10件のうち、濃厚治療が必要だったのが5件、軽微だが治療が必要だったケースが4件となっています。

清潔野(清潔な器械台など)において、薬剤を入れる容器の形状や大きさや色が類似しているため、造影剤や局所麻酔剤などを使用しなければいけないところ、誤って「外用殺菌消毒剤」を使用してしまった事例が2010年から8件発生している
清潔野(清潔な器械台など)において、薬剤を入れる容器の形状や大きさや色が類似しているため、造影剤や局所麻酔剤などを使用しなければいけないところ、誤って「外用殺菌消毒剤」を使用してしまった事例が2010年から8件発生している
 
 このため機構では、▼消毒剤を入れた容器は手術・処置中に使用する薬剤とは離れた場所に置く▼消毒剤使用後は器械台から下ろし、再度消毒剤を使用する際には新たに準備する▼使用しない薬剤の容器を他の薬剤を入れた容器と一緒に置かない—などの工夫をとるよう提案しています。

 なお、事故防止のために「薬剤によって容器を使い分ける」というルールを決めている医療機関もあるでしょう。しかし機構では、「ルールからの逸脱や認識不足が起こり得る」「容器の形状や外観のみで中に入っている薬剤を判別することは不確実」「手術や処置時に使用する局所麻酔剤や消毒剤などの薬剤の色は無色透明なものが多く、使用する際に容器内の薬液の色のみで判別することは難しい」ことから、誰が見ても分かるように▼薬剤名を記載したラベルを容器に貼付する▼使用の都度、薬剤を確認する—よう求めています。

  

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