患者も家族も顔が分かる医療、日本一の高齢化地域を支える下仁田厚生病院



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 日本一の高齢化地域をご存知でしょうか。人口2073人(2016年6月時点)の群馬県南牧村です。高齢化率は実に60.1%(同年1月時点)。この地域の医療を担うのは、富岡、高崎・安中、前橋の医療圏から集う医師や看護師(看護助手)、理学療法士、薬剤師らが勤務する「下仁田厚生病院」です。日本一の高齢化地域において、同院はどのような役割を担っているのでしょうか――。求められているのは、患者はもちろん、家族の顔も分かる人材による「その人の人生に寄り添う」医療です。

前列右から堀越院長、神戸事務部長、後列右から猪野総務課長、佐藤医事課長、佐藤看護部長
前列右から堀越院長、神戸事務部長、後列右から猪野総務課長、佐藤医事課長、佐藤看護部長

一人ひとりの患者への丁寧な対応

 下仁田厚生病院は1978年1月から公立病院として運営を開始して以来、地域住民が安心して治療に専念できる環境づくりを目指しています。最新の医療機器・医療技術を導入、医療スタッフの確保、救急医療体制も充実。近年では、各種がん検診など地域の保健活動にも取り組んでいます。

 同院は144床(一般急性期46床、一般慢性期46床、療養型医療病棟22床、療養型介護病棟28床、人間ドック2床)の一般病院および療養型病床群。地域医療を担う病院としての機能はもちろん、地域住民のかかりつけ医としての機能も担っています。南牧村だけではなく、下仁田町や近隣の上野村の高齢化率も高く(いずれも2016年1月時点で高齢化44.1%)、開業医の数も限られているためです。人口7983人の下仁田町の開業医は3人(1人は週末不在)で、南牧村に開業医は存在せず、下仁田町の開業医が週2回、分院で診察しているという状況です。

堀越院長
堀越院長

 下仁田厚生病院へ訪れる患者の平均年齢は80歳代。同院の堀越勤院長は、こうした日本一の高齢化地域の医療で重要なことは、「一人ひとりの患者に対する丁寧な対応」と説明します。例えば、高齢であるほど医師や看護師の説明を聞き取りづらくなり、聞こえていないのに聞こえているかのように頷く高齢患者は少なくありません。また、症状の訴えもあやふやになることが多く、丁寧に、繰り返し症状の確認をすることは欠かせません。

 堀越院長は、「日本一の高齢化地域において、患者とその生活背景を深く知ることは、必要な医療を提供するために欠かせないことですし、医療スタッフの大きなやりがいにもつながっています」と説明します。

明るく広く安心できる空間

 医療サービスのソフト面で丁寧な対応を心がける一方、「高齢者に優しい療養環境」をテーマにハード面でも配慮します。2014年2月に病院本館を全面改築。今までの古く、暗い、狭い病院のイメージから、明るく広々とした病院のイメージに刷新しました。建物内に太陽の自然光を取り込みやすい構造にしたことで、待合室でも病室でも患者は明るい空間で過ごすことができます。多床室も個室に近い、ゆったりとした空間を確保し、トイレも2部屋に1つを用意。重症になった患者の家族控え室や、そうした家族が泊まれる部屋もあるため、患者家族の「安心」にも配慮しています。

新病院は「高齢者に優しい療養環境」などをテーマに増改築した
新病院は「高齢者に優しい療養環境」などをテーマに増改築した

 そのほか、新病院増改築にあたっては「安心・安全で効率的な医療の提供」「災害時にも安全に機能する施設計画」「診療機能が変更可能な施設計画」「スタッフの作業効率向上に配慮した魅力ある職場環境」など、安心・安全、効率的な医療提供という側面も考慮されています。

患者と医療スタッフの好循環

 現在、下仁田厚生病院では医師27人(常勤7人、非常勤20人)、看護師57人、准看護師22人、看護助手22人、看護学生8人、そのほかの医療・介護スタッフ63人を含めた199人が勤務します。スタッフは、下仁田町周辺からだけではなく、富岡市、高崎市、みどり市、前橋市、安中市、藤岡市からも通っています。

佐藤看護部長
佐藤看護部長

 同院に集まる医療スタッフの特徴について、佐藤看護部長は「患者としっかりとコミュニケーションを取りたいという人が多い」と推察します。高齢者と接することや、アットホームな職場雰囲気を好む学生や新卒、患者一人ひとりとしっかり向き合う時間が取りづらい急性期医療から転職した看護師などが、堀越院長が前述で指摘した医療サービスにおけるソフト面を支えています。

 2014年と2016年に実施した病院アンケートでは、若い看護師は「先輩から丁寧に指導してもらえた」などの点を同院の長所にあげており、患者一人ひとりへの丁寧な対応だけではなく、一人ひとりのスタッフの教育にも比重を置いています。また、看護師は働き始めてからほどなくすると、結婚や出産などを迎えますが、育児休暇や短時間勤務、保育園へのお迎えなどの中抜けなどにも、チームワークで対応できる仕組みが構築されています。そのため、「スタッフの定着率が非常に良い」ことから、「いつもの看護師に看てもらえる」という安心感を患者に提供できることにもつながっています。また、その患者からの期待が、医療スタッフのモチベーションにもつながるという好循環を生んでいます。

適材適所と積極的な外部研修

 また、適材適所の人員配置もスタッフの定着率の高さを支えています。医療スタッフは当初、十分に師長と話し合った上で配属先を決定します。その後、チームや患者とその家族の雰囲気、夜勤などの勤務状況を考慮した上で、定期的に配属先や勤務体制の見直しを行っています。

 外部研修の充実も大きいです。堀越院長は院長就任後、すべての医療スタッフに積極的に外部研修に参加するよう指示しました。最新の医療を取り入れるとともに、定着率の良い一人ひとりのスタッフのスキル向上はもちろん、モチベーションの向上などが目的です。研修中のスタッフがいるチームはその際、その分の業務を負担することになりますが、「順番にカバーし合う」との意識が浸透しているため、外部研修の積極参加の流れは軌道に乗っています。

 日本一の高齢化地域を支える医療について、佐藤看護部長は次のように説明します。

 「高齢化地域は、若い人が都心に流れ、独居老人や老老介護の世帯が非常に多いのが実情です。そうなると、医療という観点から患者を見ることは大前提ですが、患者の生活を把握したり、一緒に暮らす家族のことも深く知ることが必要になってきます。院内では、まだ若い看護師が、患者の家族に院内を案内したり、相談に乗っている場面をよく見かけます。私たちに求められているのは、患者はもちろん、家族の顔も分かる人材による医療なのだと思っています」

◆下仁田厚生病院(ホームページはこちら、求人情報はこちら

解説を担当したコンサルタント 澤田 優香(さわだ・ゆうか)

sawada 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのアソシエイトマネジャー。看護師、保健師。
聖路加看護大学卒業後、集中治療室の勤務を経て、入社。看護必要度分析、看護業務量調査、DPC別診療科検討、病床戦略分析、マーケット分析などを得意とする。自由分析ソフトを用いた分析では、社内で右に出るものはいない。多数の医療機関のコンサルティングを行うとともに、社内のアナリスト育成や看護関連プロジェクト(看護必要度勉強会や「看護必要度分析」開発など)でも精力的に活動する(東京医科大学病院の事例紹介はこちら)。
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