求むは「水平・垂直連携」「地域専門医」、有賀・労災機構理事長に聞く(2)



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 「労働者健康安全機構」の有賀徹理事長への連載インタビュー第2回目は、急性期医療がテーマ。救急医療の権威でもある有賀理事長は、地域の医療資源と患者の重症度を考慮して適切な医療連携を実現する「水平連携に準じた垂直連携」の必要性と、「専門は地域」と言い切れるほど地域の実情をしっかりと把握した上で適切な医療を提供できる総合診療専門医の存在が欠かせないと訴えます(聞き手はGHC代表の渡辺幸子)。

「水平連携に準じた垂直連携」が急性期医療の大テーマ

渡辺:有賀理事長は、救急医療の現場経験が長く、昭和大学においては救急医学講座の教授として教鞭をとられていました。急性期医療の根源は「救急医療」にあると感じていますが、今後の急性期医療に必要なことは何だとお考えですか。

有賀徹(あるが・とおる)氏:1976年東京大学医学部卒業。同大医学部脳神経外科学教室、日本医科大学附属病院救命救急センター、東大附属病院救急部などを経て、1984年公立昭和病院脳神経外科主任医長、1990年同院救急部長。1994年昭和大学医学部救急医学教授、昭和大学病院救命救急センター長兼副院長。2011年から昭和大学病院病院長を務め、2016年4月から労働者安全機構理事長。
有賀徹(あるが・とおる)氏:1976年東京大学医学部卒業。同大医学部脳神経外科学教室、日本医科大学附属病院救命救急センター、東大附属病院救急部などを経て、1984年公立昭和病院脳神経外科主任医長、1990年同院救急部長。1994年昭和大学医学部救急医学教授、昭和大学病院救命救急センター長兼副院長。2011年から昭和大学病院病院長を務め、2016年4月から労働者安全機構理事長。

有賀氏:現在、自治体が走らせている救急車で運ばれる患者の半数以上が65歳以上、3分の1以上が75歳以上です(2012年の東京消防庁のデータ)。救急車で運ばれる患者の中には、心筋梗塞や脳卒中、車にひかれただとか火事場のやけどだなどという、一分一秒を争う状態の患者も確かにいます。しかし、繰り返す肺炎で運ばれてくる高齢者も非常に多いわけです。これは長崎県のデータですが、救急車で運ばれる65歳以上の高齢者で最も多い疾患は肺炎、2位が脳梗塞を中心とする脳卒中、3位が大腿骨頸部骨折で、これで6割を超えます。これらは確かに急病ではあるのですが、特に肺炎や大腿骨頸部骨折については、必ずしも救急センターで対応しなければならないかというと、必ずしもそうではありません。

 先ほどお話した通り、急性期病院は今後、まずはやりたい医療から求められる医療への転換が必要です。その求められる医療を語る上で大きなテーマになっているのは、「水平連携に準じた垂直連携」であると考えています。

 地域包括ケアでケアマネジャーや訪問看護や訪問リハビリテーションなどとの連携が水平連携で、救急車で運ばれるのを垂直連携とすると、この水平連携に限りなく近い急性期医療、つまりは「水平連携に準じた垂直連携」というものがあると思っています。救急医療は、病院の中でも特に人材を集中させる部門です。ここは車にひかれたなどのクラシックなイメージの救急医療に特化するべきで、現実に救急車で多く運ばれている肺炎などの患者とは分けて考えるべきでしょう。また、肺炎や脳卒中、大腿骨近医骨折などいずれ地域に戻るニーズが増えてきたので、そのニーズに応えるためにも「水平連携に準じた垂直連携」が求められています。この大きなテーマを踏まえずに急性期医療を議論しても仕方がないでしょう。

 そこで着目している「水平連携に準じた垂直連携」の例として、東京の八王子市、町田市、葛飾区の医師会では、自分の診ている高齢者が「また肺炎かな」と思ったら、地域で決められているルールに基いて、必ずしも救急医療での対応が必須とは思われない高齢者に対しては、東京消防庁の救急車ではなく、「病院の救急車」に出動要請をして、病院の救急車が地域の病院へ運び込む仕組みを始めています。こうした取り組みは、東京だけのものではないはずです。

 これは要するに、救急車を出動させるのに、必ずしも東京消防庁でなくてもいいだろう、という発想に基づいています。消防庁は一分一秒を争う患者の搬送に特化し、その替わりに水平連携に準じた垂直連携で対応できる患者に関しては、地元で対応すべきという、患者の容態に応じて救急車の発進元をコントロールする機能を、地域に設けるという取り組みです。

自宅に戻れない「さまよえる高齢者」

 また、むやみに東京消防庁の救急車を出動させ、患者が住む二次医療圏を超えた病院に運び込まれることで、自宅に戻ってこられない「さまよえる高齢者」という問題もあります。

 さまよえる高齢者は、『高齢社会を生きる 老いる人/看取るシステム』(編者:清水哲郎、出版:東信堂)の中で用いられていた表現ですが、二次医療圏を超えて急性期病院に運び込まれた後に、その後、在宅復帰できない高齢者を指します。救急車で二次医療圏の外に運ばれてしまうと、約4割の高齢者は戻ってこられなくなるという調査もあります。ほとんどの人の生活圏域は、地域包括ケアシステムで定義されている中学校区域であることがほとんどで、ましてや二次医療圏の外に出てしまったら、知り合いもおらず、その運ばれた急性期病院やそこから転院した老人保健施設や療養病床が終の棲家になってしまったら、あんまりじゃないですか。ただ、そういうことが、実際に起きているのです。

 さまよえる高齢者となったきっかけの急病が、二次医療圏内の地域ネットワークの中にある医療機関で対応可能だったのであれば、在宅復帰の可能性も高まったかもしれません。そのためには地域の医師会がプラットフォームとなり、重症度に応じた救急車出動のコントロールをすべきです。そのことが、医療の最適化や効率化だけにとどまらず、さまよえる高齢者の抑制にもつながることになると考えています。

総合診療医「専門は○○村です」

渡辺:水平連携に準じた垂直連携などで、地域でしっかりと患者を支えることを考えると、より地域から求められる医療への対応が必要そうです。地域から求められる医療にしっかりと対応していくために重要なことは何でしょうか。

有賀氏:地域の実情をしっかりと把握し、求められる医療を提供できる総合診療専門医が必要です。

 基本的に、総合診療と内科は全く違います。例えば、総合診療のドクターが地域の医療提供体制を調べて「この村には産科医療が足りない」と判断したら、近隣の産科センターの専門医と連携して、いざ産まれるというまでの間に、例えば内診を含めて産科的な診療ができるように勉強するというのが、求められている総合診療専門医のイメージです。それが内科との大きな違いです。

 例えば、内科の専門医に専門は何かと聞くと、「消化器内科」などと答えると思いますが、総合診療を専門にやっている医師の中には、「○○村」などと回答する人もいます。つまり、総合診療専門医としての医学的な知識を身に付けることはもちろん重要なのですが、それと同じく地域のリソースや特性を十二分に把握していることも重要であるということで、「その地域の医療担うのは私だ」ということの意思表明でもあるのです。

 そのための教育をこれまでしてこなかったのですが、これから出てくる総合診療専門医には、内科のようなものという意識ではなく、地域の実情を知り、地域の求められる医療を提供する責任を担っているのだというポリシーを、しっかりと持ってもらいたい。また、今の総合診療を実践しているドクターたちは、総合診療とはそういうものであるということを、同じ総合診療を経験しているドクターたちの間だけで語り合うのではなく、もっとほかの専門医や医学生や研修医たちにも発信していってもらいたいと思っています。

連載◆有賀・労災機構理事長に聞く
(1)「一億総活躍社会」の実現こそ我々の使命
(2)求むは「水平・垂直連携」「地域専門医」
(3)国境と医療界の限界越える「病院船」

取材を担当したインタビュアー 渡辺 幸子(わたなべ・さちこ)

watanabe 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンの代表取締役社長。
慶應義塾大学経済学部卒業。米国ミシガン大学で医療経営学、応用経済学の修士号を取得。帰国後、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社コンサルティング事業部などを経て、2003年より米国グローバルヘルスコンサルティングのパートナーに就任。2004年3月、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン設立。これまで、全国800病院以上の経営指標となるデータの分析を行っている。著書に『患者思いの病院が、なぜつぶれるのか?』『日本医療クライシス「2025年問題」へのカウントダウンが始まった』(幻冬舎MC)など。
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