第3期がん対策推進基本計画を閣議決定、ゲノム医療推進や希少・難治がん対策など打ち出す



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 2017年度からのがん対策においては、「がん予防」「がん医療の充実」「がんとの共生」を強力に進め、これを支える研究・人材育成・教育などの基盤整備を行うことで、がん患者を含めた国民ががんを知り、がんの克服を目指す―。

 安倍晋三内閣が10月24日、こういった内容の「第3期がん対策推進基本計画」を決定しました(厚労省のサイトはこちら(概要)こちら(本文))。なお、厚生労働省のがん対策推進協議会では「受動喫煙の機会を有する人の割合を、2020年までに職場や飲食店、家庭などのすべてでゼロにする」との目標値を盛り込むべきとの見解がまとまりましたが、閣議決定された計画では「受動喫煙対策に係る法案を踏まえて別途閣議決定する予定」とトーンダウンしています。

第3期がん対策推進基本計画の概要
第3期がん対策推進基本計画の概要

「がんの克服」に向けて、予防・治療などを充実

我が国のがん対策は概ね5年を1期とする「がん対策推進基本計画」に基づいて進められており、これまで第1期(2007-11年度)、第2期(2012-16年度)計画が稼働してきています。2017年度からの「第3期計画」については、厚労省の「がん対策推進協議会」で素案が作成され、今般、閣議決定されました。

まず第3期の全体目標を見ると、「がん患者を含めた国民が、がんを知り、がんの克服を目指す」というスローガンが掲げた上で、▼科学的根拠に基づくがん予防・がん検診の充実▼患者本位のがん医療の実現▼尊厳を持って安心して暮らせる社会の構築―という具体的な柱が立てられています。

この全体目標を実現するための分野別施策として、(1)がん予防(2)がん医療の充実(3)がんとの共生―を強力に進めることとして、この3施策を支えるために▼がん研究▼人材育成▼がん教育・普及啓発―の基盤を整備することとしています。

さらに、がん対策を計画的に進めるために、▼関係者の連携協力の強化▼患者を含めた国民の努力▼必要な財政措置と予算の効率化・重点化―などにも言及しています。

受動喫煙対策はトーンダウン

(1)のがん予防のうち「1次予防」(生活習慣の改善、感染症対策)では、協議会の総意として「受動喫煙の機会を有する人の割合を、2020年までに職場や飲食店、家庭などのすべてでゼロにする」との目標値を盛り込むべきとの見解が固まりました。しかし、閣議決定された計画には目標値は盛り込まれておらず、概要の中で「受動喫煙対策に係る法案を踏まえて別途閣議決定する予定」と記載されるにとどまっています。ただし、「禁煙マニュアルの周知や内容の充実」などを図り、喫煙率の低減に努めていく方針が素案段階よりも明確にされています。

拠点病院のベンチマーク、相談支援の充実なども打ち出す

 また(2)のがん医療に関しては、▼がんゲノム医療▼がんの手術療法、放射線療法、薬物療法、免疫療法▼チーム医療▼がんのリハビリ▼支持療法▼希少がん、難治性がん(それぞれの特性に応じた対策)▼小児がん、AYA(Adolescent and Young Adult:思春期と若年成人)世代のがん、高齢者のがん▼病理診断▼がん登録▼医薬品・医療機器の早期開発・承認等に向けた取組―といった重点推進分野を明示し、具体的な目標を掲げています。

例えば、「ゲノム医療」に関しては、▽ゲノム医療を牽引する高度な機能を有する医療機関(がんゲノム医療中核拠点病院(仮称))の整備▽患者・家族の理解を促し、心情面でのサポートや治療法選択の意思決定支援を可能とする体制の整備▽質と効率性の確保されたゲノム解析機関や、ゲノム解析結果を解釈する際の基礎情報となる「がんゲノム知識 データベース(仮称)」構築の基盤整備▽遺伝子関連検査(遺伝子パネル検査など)の制度上の位置づけなどを検討する▽遺伝カウンセリングに関わる人材育成・適切な配置などを進める—などの方針が具体的に示されています(関連記事はこちら)。

また「手術療法などの充実」に関しては、▽がん診療拠点病院などの格差解消のため「診療実績数などを用いた他医療機関との比較」「第三者による医療機関の評価」などを検討する▽拠点病院などの要件見直しに当たり、ゲノム医療、医療安全、支持療法などを追加し、「ゲノム医療」「一部の放射線療法」「小児がん」「希少がん」「難治性がん」などについては、質の向上を図るために【一定の集約化】を検討する—などの方向を示しました(関連記事はこちらこちら)。

さらに「免疫療法」については、科学的根拠を有する治療法とそうでないものとが混在している状況がある点を指摘し、▽国は、薬事承認を受けた(科学的根拠あり)免疫療法が提供される際には、安全で適切な治療・副作用対策が行われるよう、関係団体などが策定する指針等に基づいた適切な免疫療法の実施を推進する▽関係団体は、免疫療法の科学的根拠の形成に努める▽国は、免疫療法に関する適切な情報を患者や国民に届けるため、情報提供のあり方について、関係団体と連携して検討を行う—考えを明らかにしています。科学的根拠に基づかない「免疫療法」が多くのがん患者を惑わし、適切な治療の機会を奪っている状況が打開されるよう期待したいところです(関連記事はこちらこちら)。

「希少がん・難治性がん」対策については、▽希少がん患者が適切な医療を受けられる「中核的な役割を担う機関」を整備し、希少がん対策を統括する体制を2年以内に整備する▽国際的な研究ネットワークなどがん研究推進の取組を開始し、患者に有効性の高い診断法・早期発見法・治療法を速やかに提供するための体制づくりを進める—ことを掲げました。

 
このほか、▼がん診療に携わるすべての医療従事者が、精神心理的・社会的苦痛にも対応できるよう、基本的な緩和ケアを実施できる体制を構築する▼多様化・複雑化する相談支援のニーズに対応できるよう、関係学会との連携や相談支援従事者の研修のあり方などを3年以内に検討し、より効率的・効果的な相談支援体制を構築する▼ピア・サポートの普及に取り組む▼科学的根拠に基づく情報を迅速に提供するための体制を整備する▼2年以内に地域連携体制について検討し、必要に応じて拠点病院などの整備指針の見直しを行い、拠点病院等の機能を更に充実させる▼3年以内に「治療と仕事両立プラン(仮称)」を開発する—などといった目標も掲げています。

このうち「相談体制」に関連して、米国グローバルヘルス財団理事長のアキよしかわは、自身の闘病体験なども踏まえた著書「日米がん格差」の中で、我が国においてもキャンサーナビゲーターシステムの設置を提言しています。米国のキャンサーナビゲーターは、がん患者に寄り添い、医療的・精神的なサポートはもちろん、経済的な支援を行う制度のあり方などを説明・紹介する医療・福祉の専門家です。相談支援の充実の中で、こうした海外の優れた取り組みにも広く目を向けることが期待されます。

 

◆◆◆◆◆ アキ よしかわ

aki 米国グローバルヘルス財団理事長、米国グローバルヘルスコンサルティング会長。がんサバイバーの国際医療経済学者、データサイエンティスト。
10代で単身渡米し、医療経済学を学んだ後、カリフォルニア大学バークレー校とスタンフォード大学で教鞭を執り、スタンフォード大学で医療政策部を設立する。米国議会技術評価局(U.S. Office of Technology Assessment)などのアドバイザーを務め、欧米、アジア地域で数多くの病院の経営分析をした後、日本の医療界に「ベンチマーク分析」を広めたことで知られる。
著書に『日米がん格差』(講談社)、『日本人が知らない日本医療の真実』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『Health Economics of Japan』(共著、東京大学出版会)などがある。
◆◆◆◆日米がん格差 「医療の質」と「コスト」の経済学』(アキよしかわ著、講談社、2017年6月28日発行)

Cancer がんサバイバーの国際医療経済学者、病院経営コンサルタント、データサイエンティストの著者による、医療ビッグデータと実体験から浮かび上がるニッポン医療「衝撃の真実」。
がん患者としての赤裸々な体験、米国のがん患者(マイケル・カルフーン氏、スティーブ・ジョブス氏)との交友を通じて、医療経済学者、そして患者の視点から見た日米のがん医療の違い、課題に切り込み、「キャンサーナビゲーション」という制度の必要性を訴える。こちらをクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

 

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