がん医療の均てん化を進めるが、粒子線治療やゲノム医療など一部は集約化も必要―がん診療提供体制検討会(1)



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 第3期がん対策推進基本計画において、これまでどおり「がん医療の均てん化」を進める方針に変更はないが、粒子線治療やゲノム医療など、一部の医療提供については集約化も検討する必要がある―。

 こういった内容を柱とする「議論の整理案」が、4日に開催された「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」に厚生労働省から提示されました。

 委員の意見を踏まえて一部修正を行い、検討会の北島政樹座長(国際医療福祉大学副理事長・名誉学長)から親組織である「がん対策推進協議会」に報告されます。

8月4日に開催された、「第8回 がん診療提供体制のあり方に関する検討会」
8月4日に開催された、「第8回 がん診療提供体制のあり方に関する検討会」

ゲノム医療、提供する医療機関は「集約化」する方向

 我が国のがん対策は「がん対策推進基本計画」に基づいて進められます。現在、2012-16年度を対象とする第2期基本計画が動いており、17年度からの第3期計画策定に向けた検討が進められています(関連記事はこちらこちらこちら)。

がん対策推進基本計画の見直し(第3期がん対策推進基本計画策定)に向けた議論の進め方
がん対策推進基本計画の見直し(第3期がん対策推進基本計画策定)に向けた議論の進め方

 本検討会では、第3期計画のうち「がん診療提供体制」に関する部分について、どのような方向に進むべきかを議論しており、4日の会合で厚労省から、これまでの委員間討議の内容に基づく「議論の整理案」が提示されました(関連記事はこちらこちら)。

 そこでは、総論として「引き続き『均てん化』を推進する」とともに、「ゲノム医療などの分野については一定の『集約化』を検討する」という方向も示されました。もっとも厚労省健康局がん・疾病対策課の丹藤昌治がん対策推進官は、「均てん化の方向から舵を切るわけではない」点を強調しています。

 具体的には、(1)ゲノム医療(2)相談支援と情報提供(3)がん診療連携拠点病院などにおける医療安全(4)放射線治療―の4本の柱を立て、現状と課題、さらに課題克服に向けた今後の方向性が示されています。

 まず(1)のゲノム医療については、すでに英国・米国に遅れをとっていることや、我が国おいては認定遺伝カウンセラーや臨床遺伝専門医の配置が進んでいないことを踏まえて、今後、▽我が国の実情に合った検査施設の基準設定▽ゲノム情報に基づく治療法選択における基準(認定遺伝カウンセラーや臨床遺伝専門医らのグループによるカウンセリング体制など)の設定▽人材の適正配置―などを行うことが必要と提言しています。

遺伝カウンセラーが国家資格になっているが、がんを専門とした遺伝カウンセラー資格は、現在はない
遺伝カウンセラーが国家資格になっているが、がんを専門とした遺伝カウンセラー資格は、現在はない

 また後に放射線治療でも出てきますが、ゲノム医療を提供できる医療機関や人材が限られていることから、ゲノム医療提供に当たっては「集約化」を考慮すべきとの指摘もなされています。がん医療は、これまで「均てん化」を重要な柱の1つに据えてきましたが、資源に限りがあることを踏まえ、一部の高度医療については「集約化」も検討する必要があるのです。

放射線治療、高精度治療できるIMRTは整備進めるが、粒子線治療は集約する方向

 (4)の放射線治療については、地域間・施設間で機器の整備、それに伴う治療精度の格差が存在していることを踏まえて、▽標準治療の中で適切な放射線治療を提供できる体制の推進▽高精度放射線治療を行えるIMRT(Intensity-modulated radiotherapy)を適切に提供できる体制の整備▽離島やへき地においても基本的な放射線治療を提供できる体制の整備▽RI(Radioisotope)内用療法を適切に受けられるような病院間のネットワークづくり―などを進めることが提案されました。

通常の放射線治療では、正常臓器にも損傷を与えてしまうが、IMRTなど高精度放射線治療機器では、より正常臓器に損傷を与えない治療が可能となる
通常の放射線治療では、正常臓器にも損傷を与えてしまうが、IMRTなど高精度放射線治療機器では、より正常臓器に損傷を与えない治療が可能となる

 拠点病院においても、必ずしも適切な放射線治療が受けられない現状に鑑み、「均てん化」を一層進める方針が示されていると言えます。

 もっとも、粒子線治療(重粒子線治療や陽子線治療)については、既存の放射線治療に比べて有効性が研究されている途中であることや、機器の整備にきわめて高額な費用が係ることを踏まえ、「均てん化」を図る方針は示されていません。特定の医療機関への集約化が現実的でしょう(関連記事はこちら)。

がん相談支援センター、認知度向上に向けた取り組みが不可欠

 (2)の相談支援などについては、拠点病院の指定要件となっている「がん相談支援センター」が重要な役割を果たしている一方で、支援センターの負担が加重になりつつある状況を踏まえて、▽拠点病院など以外の病院における情報公開の検討▽患者に分かりやすく説明する体制の構築▽相談支援センターの人材育成や専門機関との連携推進―などが必要としています(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。

 この点について、高山智子参考人(国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報提供部長)は、全国のがん相談支援センターの活動状況やアンケート結果を踏まえて、▽がん相談支援センターの認知度を高めるための取り組み▽専門性との連携▽がん罹患前の人への情報提供▽病院へのインセンティブ―などが必要と提言しています。特に、「拠点病院においても相談支援センターの存在を知らないスタッフがいる」点を憂慮し、認知度の向上が急務としています。高山参考人の発表内容は、別途詳しくお伝えします。

 また(3)の医療安全については、指定要件の見直しなどが提言されています。この点については、来年(2017年)6月の第3期計画閣議決定(予定)以後に、本検討会で改めて議論されることになっています(関連記事はこちらこちらこちら)。

 

 なお、今後の重点課題に位置づけられている「希少がん、難治がん、小児がん」対策に関連して、ゲノム情報のデータベース化や、情報提供のあり方を検討する必要があるとの指摘もなされました。

「均てん化」の方針は維持、「集約化」へ舵を切るわけではない

 この「議論の整理案」に対して特段の異論は出ておらず、基本的な方向は了承されたと言えます。

 もっとも「均てん化と集約化について、丁寧な記述とすべき」(山口建構成員:静岡県立静岡がんセンター総長、中釜斉構成員:国立がん研究センター理事長)、「例えば高難度医療技術を伴う手術件数や、医療の質など、どういった部分について均てん化を行うのかを明確にすべき」(鶴田憲一構成員:全国衛生部長会会長)といった指摘もなされています。

 丹藤がん対策推進官は、「均てん化」と「集約化」について、基本計画の中でより丁寧に記述することを明らかにするとともに、「どこまで基本計画の中に記載するのか、通知などでどこまで細かく記載するのか」を慎重に検討する考えを示しています。また前述のように、第3期計画で「均てん化」方向から舵を切ったわけではない点も強調しました。

 厚労省は構成員から寄せられた意見を踏まえ、近く「議論の整理」として確定させます。その後、親組織である「がん対策推進協議会」に北島座長から報告を行い、検討会の議論を経て第3期計画が策定されることになります。

 なお、2018年度から第7次医療計画がスタートし、そこでは5疾病・5事業の1つである「がん」について地域でどのような医療提供体制を整備するのかも記載されます。厚労省健康局がん・疾病対策課の担当者は、「がん対策推進基本計画と医療計画の方向に齟齬が出ないよう、医療計画を所管する医政局地域医療計画課と密な連携をとっている」とコメントしています。

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