診療報酬審査ルールの全国統一、審査支払機関の在り方などをゼロベースで検討開始―厚労省が検討会設置



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 大きな地域差が指摘される診療報酬の審査ルールについて、医師の関与の下で「全国統一的かつ明確な判断基準」を策定し、さらに、審査支払に関する体制をゼロベースで見直してはどうか―。

 こういった検討が、25日からスタートした「データヘルス時代の質の高い医療の実現に向けた有識者検討会」で始まりました。

 年内にも意見を取りまとめ、所要の法令改正などにつなげられる見込みです。

4月25日に開催された、「第1回 データヘルス時代の質の高い医療の実現に向けた有識者検討会」
4月25日に開催された、「第1回 データヘルス時代の質の高い医療の実現に向けた有識者検討会」

診療報酬審査におけるルールの統一基準めざした検討

 診療報酬については、審査支払機関で被保険者資格や請求内容のチェックと支払いが行われます。一般に被用者保険(健保組合や協会けんぽ)の被保険者については社会保険診療報酬支払基金(支払基金)が、国民健康保険の加入者については国民健康保険連合会(国保連)が審査を行っています。

審査支払機関の概要
審査支払機関の概要

 審査においては、全国一律の診療報酬点数表や施設基準、解釈通知などが拠り所になりますが、これらには「解釈の余地」や「一定の幅」があります。患者の状態は一律ではないためです。

 また、医療現場からは「地方独自ルールが存在する」との批判があります。例えば回復期リハビリ病棟の入院患者については、1日につき9単位まで疾患別リハビリ料の算定が可能です(2016年度改定でリハビリの効果に着目した算定制限が導入された)が、A県の国保連では「一律に6単位を上限として、超過分を査定する」といった取り扱いがなされていると指摘されます。

 このように、古くから「支払基金内、国保連内、支払基金と国保連の間で、審査ルールに格差がある」と批判され、これを是正するために「審査情報の共有」などが図られていますが、「未だ不十分」と指摘されています。

 こうした状況を重く見て、規制改革会議では「審査の効率化と統一性の確保」を図る必要があるとし、ゼロベースで審査の在り方を見直すゼよう提言しています。

 厚生労働省はこの提言を受け、検討会を設置。次の2つのテーマについて検討し、夏前に中間とりまとめ、年内を目途に取りまとめを行うよう要請しています。

(A)保険者機能強化と医療の質の向上

(B)審査の効率化・統一化の推進と組織体制

 25日の初会合で挨拶した塩崎恭久厚生労働大臣は、「保健医療2035では、アウトプット中心、質の向上、患者の価値向上を目指すようパラダイムシフトの転換を提言した。これを実現するためには、ICTやビッグデータを活用することが重要だが、現状では、審査支払機関は、その保有データを十分に活用しているとは言い難い。規制改革会議の提言をチャンスと捉え、審査支払機関の役割を再定義し、保険者と審査支払機関が協働して保険者機能を強化し、医療の質を高めるよう期待している。ビッグデータ化、標準化をした上で、データを活用して何をするのか、患者の価値の向上にいかにつなげるべきかを問いかけてほしい。韓国の審査支払機関であるHIRAでは、審査支払業務に止まらず、医療機関の評価や、投薬・献血データをも管理した上で、医療の質向上に資するサービスを実現させている。こうした事例なども参考にしてほしい」と要望しています。

検討会発足に関して挨拶する塩崎恭久厚生労働大臣(中央)、検討会の西村周三座長(医療経済研究機構所長)(向かって左)、厚労省保険局の唐澤剛局長(向かって右)
検討会発足に関して挨拶する塩崎恭久厚生労働大臣(中央)、検討会の西村周三座長(医療経済研究機構所長)(向かって左)、厚労省保険局の唐澤剛局長(向かって右)

韓国の審査支払機関(HIRA)の業務概要
韓国の審査支払機関(HIRA)の業務概要

保険者機能強化の前提として「審査ルールの統一化に基づくデータの蓄積」が必要

 より具体的な検討項目を見ると、(B)では次のような事項が挙げられています。

【審査の在り方】

(1)医師の関与の下で、全国統一的かつ明確な判断基準を策定する

(2)上記判断基準に基づく精度の高いコンピューターチェックの実施を可能とする(医学的判断を要する審査対象を明確化する)

(3)コンピューターチェックに適したレセプト形式の見直しを行う

(4)レセプトの請求段階における記載漏れ・記載ミスなどの防止措置を構築する

(5)審査結果の通知および審査基準の情報開示をICTの活用により効率的に行う

(6)医師による審査における医学的判断を集約し、継続的にコンピューターチェックに反映する仕組みを構築する

(7)医師による審査および合議のオンライン化や、審査結果などのデータ蓄積を自動化し、統計的な分析結果の参照や過去事例の検索や人工知能の活用などにより、医学的判断を要する審査手続きの効率化、高度化を行う

(8)医学的な判断が分かれるなどの理由から審査結果に疑義がある場合について、医療機関および保険者からの請求に基づく医師による再審査の仕組みを効率化、高度化する

【組織・体制の在り方】(診療報酬の審査の在り方をゼロベースで見直す)

(a)審査の在り方に関する検討を踏まえた上で、現行の支払基金が担っているとされる各業務(特に職員による点検事務および適正な診療・レセプト請求のための審査結果やルールの説明・指導)の要否を検討し、不要・非効率な業務を削減する

(b)(a)で必要とされる業務のうち、効率的な運営を図るため、支払基金以外の者(民間企業を含む)を保険者が活用することが適切な業務の有無を検討し、当該業務がある場合の具体的な活用の仕組みを構築する

(c)(a)で必要とされる業務のうち、(b)の検討を経て支払基金が担うことが適切な業務がある場合には、その具体的な組織・体制等の在り方(業務拠点も含めた職員およびシステムなどの体制、業務範囲、法人形態、ガバナンス体制、事務費負担の在り方など)を検討する

 ここでは支払基金が検討対象となることが明記されていますが、厚労省保険局保険課の宮本直樹課長はメディ・ウォッチに対して「国保連も当然検討対象にある」とコメントしています。ただし、国保連は診療報酬の審査支払業務以外にも「国保財政運営に係る都道府県単位の共同事業」「介護報酬の審査支払」などさまざまな業務を行っており、どのように整理していくのか慎重な検討が求められそうです。

支払基金の主な業務
支払基金の主な業務

国保連の主な業務
国保連の主な業務

 また(A)の保険者機能強化に関しては、▽データヘルスの推進(レセプトデータを地域別・業態別・世代別に分析し、保険者の健康度や疾病管理の状況を診断するなど)▽医療の質の向上(韓国のHIRAをモデルとした、医療機関の質の評価、審査・分析ソフトウェアの開発の検討など)▽事業主に対する「健康経営」の意識改革を通じたデータヘルス事業に必要な人材確保▽マイナンバー制度のインフラを活用し、支払基金・国保連が保有する社会保険・地域保険・介護保険レセプトデータの連結▽審査支払機関によるNDB(National Data Base)などの活用―などが具体的な検討項目として例示されています。

 

 膨大な量の検討項目が提示されましたが、これらをどう整理し議論を進めるべきでしょうか。この点、多くの構成員からは「(A)の保険者機能の強化などはビッグデータの集積が前提となるが、審査のルールが異なっており、これをいくら集積してもビッグデータにはならない。まず(B)の審査の効率化・統一化を議論すべきである」との意見が出されています。

 また森下雄一構成員(大阪大学大学院医学系研究科寄附講座教授)は、「どこまでを全国統一とし、どこからを地方の裁量として残しておくのか、ゼロベースで考える必要がある」と指摘。なお、森下構成員は「傷病名の統一が根本的な課題」と指摘しましたが、検討会でこのテーマが議論されるかどうかは未定です。

 さらに、山本雄士構成員(ソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャー)は、「ビッグデータがなくても保険者機能は発揮できる」「100%の全国統一ルールは非現実的である」との指摘を行いました。

 一方、森田朗座長代理(国立社会保障・人口問題研究所)は「2010年に開催された『審査支払機関の在り方に関する検討会』で座長を務め、当時は『審査基準の摺合せ』の頻度を高めていくべきとの結論にとどまった。データに基づく治療法・ガイドラインが集積されており、これに基づく審査も考えられるのかもしれない」と見通しています。

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