極めて高額な薬剤、医療保険を持続する中で、薬価の設定や適正使用をどう考えるべきか―財政審



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 患者の多い、いわゆる「common diseases」を対象とした高額な新薬が続々と登場する中で、薬価の設定や薬剤の使用をどのように考えていくべきか―。

 4日に開催された財政制度等審議会「財政制度分科会」では、こうしたテーマについて議論が行われました(財務省のサイトはこちら)。

 今後の診療報酬・薬価改定はもちろん、「保険給付のあり方」を巡る議論にもつながる問題です。

抗がん剤のニボルマブ製剤、対象患者全員へ1年間投与で1兆7500億円

 2014年9月に「根治切除不能な悪性黒色腫用薬」として薬価収載されたニボルマブ製剤(オプジーボ点滴静注)は、20mgでは15万200円、100mgでは72万9849円という高額な薬価が設定されました。同製剤は、2015年12月には「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」への適応が承認されるなど、対象患者が増大することが見込まれます(関連記事はこちら)。

ニボルマブ製剤(上の折れ線グラフ)は、従来から使用されている抗がん剤「ドセタキセル」に比べて20-30%ほど有効性が高いとのデータがある
ニボルマブ製剤(上の折れ線グラフ)は、従来から使用されている抗がん剤「ドセタキセル」に比べて20-30%ほど有効性が高いとのデータがある

 また、2015年8月にはC型肝炎治療薬の「レジパスビル アセトン付加物/ソホスブビル」(ハーボニー配合錠)が薬価収載され、1錠当たり8万171円30銭の高額な薬価が設定されました(関連記事はこちら)。ただし、2016年度の薬価制度改革で導入された「特例の市場拡大再算定」により薬価は大幅に引き下げられています(関連記事はこちら)。

 このような高額な新薬が次々と登場することが予想されていますが、わが国の医療保険制度の持続可能性を考えたとき、これらの薬価をどのように設定すべきか、使用に一定の制限を設けるべきかという論点が浮上します。

 4日の財政制度分科会では、國頭英夫氏(日本赤十字社医療センター化学療法科部長)から、このテーマについて問題提起が行われました。

 國頭氏は、ニボルマブ製剤について▽有効な集団を治療前に特定できない▽有効例で、いつまで使うべきかが不明である▽無効例で、偽性増悪(pseudoprogression)があるためやめ時が不明である―といった課題があることを指摘。

 さらに、わが国の肺がん患者(2015年時点で推計13万人程度)のうちニボルマブ製剤の対象には少なくとも5万人が該当すると見込んだ上で、同製剤を1年間、5万人に投与すると薬剤費だけで「1兆7500億円」(1日薬価も同じ)と算定しました(体重1kg当たり3mgを2週間に1回投与するため、体重60kgの人では1年間に3500万円程度の薬剤費が生じる)。

ニボルマブ製剤(最下段のオプジーボ)は、体重60kgの人に1年間投与すると、薬3500万円の薬剤費が発生する。旧来からある抗がん剤「イレッサ」や「アレセンサ」に比べて格段に高額である
ニボルマブ製剤(最下段のオプジーボ)は、体重60kgの人に1年間投与すると、薬3500万円の薬剤費が発生する。旧来からある抗がん剤「イレッサ」や「アレセンサ」に比べて格段に高額である

費用対効果を考慮した薬価、有効症例のみへの投与制限など、どう考えるべきか

 國頭氏は、患者が百万人単位にもなるcommon diseasesに高額な新薬が発生すると見通し、医療保険制度の持続可能性を考える上で、「薬剤問題」をどう考えるかが重要な課題になると指摘。今後、次のような論点を提示しています。

(1)適正な薬価の設定:▽「費用対効果」をどう考慮すべきか▽競合品をどのように扱うべきか▽承認に当たっての規制緩和をどう考えるべきか

(2)薬剤の適正使用:▽有効例に対して必要最小限度に抑えるべきか▽無効例に対して使用を控えたり、打ち切ったりすべきか▽支払機関による審査を厳格化していくべきか

(3)総量規制:▽高額療養費を見直していくべきか▽年齢制限を設定すべきか

 

 (1)の費用対効果評価については、2016年度から一部の既収載品を対象に試行導入されることが決まっており、データの集積と同時に、今後「新薬についてどのように費用対効果評価を行うべきか」などのテーマが中央社会保険医療協議会を中心に議論されることになります(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。

費用対効果評価に基づく再算定や、薬価算定組織・保険医療材料専門部会の値決め後に行うことになる
費用対効果評価に基づく再算定や、薬価算定組織・保険医療材料専門部会の値決め後に行うことになる
新規収載品について、価格設定に費用対効果評価は試行段階では用いないが、データ提出は求めることになる
新規収載品について、価格設定に費用対効果評価は試行段階では用いないが、データ提出は求めることになる

 (2)の薬剤使用は、そもそも「有効な治療」と「財政問題」とを天秤にかけるべきか、という根源的な問題にも関係してくる、極めて難しい問題です。医学的な知見の集積と同時に、幅広い関係者間で慎重に議論していくことが必要です(関連記事はこちらこちら)。

 さらに(3)のうち「年齢制限」については、死生観などとも関係するテーマです。國頭氏によれば、現在、ニボルマブ製剤が投与されている最高齢の患者は100歳ということですが、「若年者と高齢者で同じ治療を行うべきか」という指摘、「高齢になっても手厚い医療が保障されるのが、わが国の医療制度の良さである」という指摘など、さまざまな議論があります。こちらも極めて難しい、慎重な議論が求められるテーマと言えます(関連記事はこちら)。

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