軽度の要介護者への生活援助サービス、介護保険から地域支援事業に移行すべきか―社保審・介護保険部会



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 公的介護保険において、「軽度者への生活援助サービス」はどうあるべきか、「利用者負担の水準」はどの程度にすべきか、現在40歳以上となっている「被保険者の範囲」をどう考えるか。こういったテーマについて検討して年内(2016年内)に意見をまとめてほしい―。

 厚生労働省老健局の三浦公嗣局長は、17日に開かれた社会保障審議会の介護保険部会でこのように要望しました。

 介護保険部会の意見をベースにして、来年(2017年)の国会に介護保険法などの改正案が提出される見込みです。

2月17日に開催された、「第55回 社会保障審議会 介護保険部会」
2月17日に開催された、「第55回 社会保障審議会 介護保険部会」

骨太方針2015では、介護保険の見直しについて指示

 安倍晋三内閣が昨年(2015年)6月に閣議決定した骨太方針2015(経済財政運営と改革の基本方針2015)では、わが国の経済と財政を立て直すため、社会保障改革の必要性を強調。介護分野については、「慢性期の医療・介護ニーズに対応したサービス提供体制の見直し」「市町村における『給付費の適正化』に向けた取り組みの推進」「利用者負担の在り方」「軽度者に対する生活援助サービスなどについて、地域支援事業への移行を含めた見直し」などを2016年末までに検討するよう指示しています。

 これを受け厚労省老健局総務課の日原知己課長は、次の3本を柱とする具体的具な検討項目を介護保険部会に提示しました。

【地域包括ケアシステムの推進】

【介護保険制度の持続可能性の確保】

【その他の課題】

 それぞれについて少し細かく見ていきましょう。

地域包括ケアシステム構築に向け、介護人材の確保が重要検討テーマ

 1つ目の柱である【地域包括ケアシステムの推進】は、2025年に向けた国の最重要課題の1つです。2025年には、いわゆる団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となり、慢性期医療や介護のニーズがピークを迎えます。そのため、要介護度が高くなっても住み慣れた地域で生活できるシステムの構築が急がれているのです。具体的な検討項目は次のとおりです。

1.地域の実情に応じたサービスの推進(保険者機能の強化など)

(1)保険者などによる地域分析と対応(要介護認定率や1人当たり介護給付費の差などを分析し、給付費の適正化に向けた取り組みを推進する)

(2)ケアマネジメントの在り方(自立支援に資するケアマネジメントや、保険者がどうケアマネジメントに関わるかなどを検討する)

(3)サービス供給への関与の在り方(不足するサービスの拡充とともに、一定以上整備されているサービスについて量と質をコントロールする)

2.医療と介護の連携

(1)慢性期の医療・介護ニーズに対応したサービスの在り方(介護療養や25対1医療療養の移行先などについて、『療養病床の在り方等に関する検討会』がまとめた3つの新たな選択肢案をベースに検討する)

(2)在宅医療・介護の連携などの推進(新たな地域支援事業の確実な推進)

3.地域支援事業・介護予防の推進

(1)地域支援事業の推進

(2)介護予防の推進(先行する好事例の横展開を進める)

(3)認知症施策の推進

4.サービス内容の見直しや人材の確保

(1)ニーズに応じたサービス内容の見直し(規制緩和や基準緩和など)

(2)介護人材の確保(生産性向上・業務効率化など)

 このうち「介護人材の確保」について、大西秀人委員(全国市長会介護保険対策特別委員会委員長、高松市長)は「生産性向上や業務効率化だけでは、増大する介護ニーズに対応する人材の確保はできない。抜本的な対策が必要」と指摘。また、陶山浩三委員(UAゼンセン日本介護クラフトユニオン会長)は、「介護人材の離職をゼロにすることも重要で、根本的な処遇改善が必要」と訴えました。

 また馬袋秀男委員(民間介護事業推進委員会代表委員)は、「生産性向上のために最も有効な手段は『職場への定着』である。そのため、サービスの標準化などを進めるべきである」と提案。さらに東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は、「介護の専門性と、業務内容の切り分けをしなければ人材確保はできない」とも指摘しています。

 なお人材確保に関連して栃本一三郎委員(上智大学総合人間科学部教授)は、「介護労働に対する社会的評価を高めるため、潜在介護労働力を掘り起こすために、現金給付の導入を検討してはどうか」と提案しました。現金給付とは、例えば「利用者が介護サービスを受け(購入)、その費用の一部を保険者が還付する」といった仕組みを指します。介護保険創設時には「現金給付の導入は、国によるサービス確保を阻害する」との指摘が強く導入されませんでした。

所得に応じた「段階的な利用者負担」求める意見も

 2つ目の柱である【介護保険制度の持続可能性の確保】では、次のような項目を検討します。

1.給付の在り方

(1)軽度者への支援の在り方

(2)福祉用具・住宅改修

2.負担の在り方

(1)利用者負担

(2)費用負担(総報酬割・調整交付金など)

 このうち「軽度者への支援の在り方」については、前述のように骨太方針2015で「軽度者への生活援助サービス」を見直すよう指示が出されています。ここからは「要介護1・2の人に対する生活援助を、地域支援事業などに移行させる」のではないかと考えられますが、日原総務課長は、「要介護いくつからが重度者で、いくつまでが軽度者という明確なスケールはない」「生活援助は主に家事援助を意味すると考えられるが、検討対象はこれに限定されるものではない」と説明しています。

 また、このテーマについては次のように多くの委員が「慎重な検討が必要」との姿勢を明確にしています。

▽要介護1・2で認知症の方もいるが、そうした方に適切な対応ができなければ本末転倒である。要介護者を5段階に区分し、適切な給付を行っている日本の優れた介護保険制度を維持すべきである(鈴木邦彦委員:日本医師会常任理事)

▽軽度者への給付切り捨ては重症化を招く、「制度を維持したが理念は失われた」とならないようにすべきである(齊藤秀樹委員:全国老人クラブ連合会常務理事)

 また、井上由美子委員(高齢社会をよくする女性の会理事)や花俣ふみ代委員(認知症の人と家族の会常任理事)は、「先の介護保険制度改革で、要支援1・2の訪問・通所介護を地域支援事業に移行することとなったが、まだ移行途中でその成果・実績の検証をしていない。議論は拙速である」とも指摘しています。

 この点について厚労省老健局の辺見聡振興課長は、「地域支援事業への移行について、長期的な効果を検証することは現時点では困難だが、節目節目で調査・検証を行っていく」考えを述べています。

 一方、費用負担者側である阿部泰久委員(日本経済団体連合会常務理事)らは「軽度者に対する生活援助は地域支援事業に移行してもよいのではないかと考えている」と述べ、給付見直しを積極的に進めるべきとの姿勢を見せています。

 

 また「利用者負担」については、高額介護サービス費(利用者負担が、所得に応じて定められた基準額を超えた場合、超過分が保険から給付される。利用者の負担を一定水準までに軽減する仕組み)のほか、負担割合(原則1割、一定所得以上は2割)についても検討の射程に入っています。

 この点について岡良廣委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)は、「応能負担を進めるべきであり、所得に応じた段階的な負担割合を検討すべき」と指摘。小林剛委員(全国健康保険協会理事長)も「先の介護保険制度改革で導入した『一定所得者の2割負担』の効果を見て、適正な負担割合の設定を検討すべき」と提案しています。

 この「給付」と「自己負担」が、今後の議論の中で最大の争点となりそうです。

 なお「総報酬割」とは、医療保険者(健康保険組合連合会や協会けんぽなど)が納める介護納付金を、「加入者数だけでなく、所得水準にも着目したものにする」というものです。現在は「加入者数に応じた負担(加入者割)」となっているため、所得水準の低い協会けんぽなどで相対的に負担が重くなっていますが、総報酬割を導入すると、所得水準の高い一部の健康保険組合などでは負担が増加することになり、委員間で意見が割れています。医療保険においても、高齢者医療制度への支援金を巡って同様の議論が行われ、2017年度から全面総報酬割が導入されます(現在は部分的に総報酬割が導入されている)(関連記事はこちらこちら)。

介護保険の被保険者、「40歳以上」からの引き下げも検討テーマに

 3つ目の柱である【その他の課題】では、次の2点が検討テーマにあげられました。

(1)保険者の業務簡素化(要介護認定などの業務を簡素化し、地域包括ケアシステムの構築に向けた業務により多くのマンパワーを配分できるようにする)

(2)被保険者範囲

 このうち「被保険者の範囲」については、現在「40歳以上」となっていますが、これを引き下げてはどうかという議論が行われそうです。

 介護保険創設時には「40歳頃から『親の介護』という問題を考慮することになるため、費用負担にも理解を得られるのではないか」との考えのものと、「40歳以上」に設定されました。しかし高齢化がさらに進行し、給付費が増大する中では、支え手である被保険者の拡大も重要な検討テーマとなるのです。

 この点に関連して、桝田和平委員(全国老人福祉施設協議会介護保険事業等経営委員会委員長)や鈴木隆雄委員(桜美林大学大学院自然科学系老年学研究科教授)らは、「日本の高齢者の状況は介護保険創設時とは大きく異なり、65歳以上でも元気な方が多い。元気な65歳以上の方は『受け手』から『支え手』になってもらうような、大枠の見直しも必要なのではないか」との考えを披露しています。

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