南関東では人材不足による赤字の特養が多い、「働き手の視点」に立った処遇改善を―福祉医療機構



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 南関東では特別養護老人ホームの需要が高いが、特養の稼働に必要な人員を集められないために赤字になっている施設が多い―。こういった状況が、福祉医療機構(WAM)がこのほど発表したリサーチレポートから明らかになりました。

 WAMでは、「今後も特養の整備が進められていく中、人材不足についても喫緊の課題として取り組む必要がある」「働き手の視点に立った処遇改善が必要」と訴えています。

建築費高騰などによる特養の「設備投資控え」を懸念

 WAMでは貸付先特養ホームの経営状況を年度ごとに調査しており、今般、2014年度の経営状況を分析、公表しました。2015年度に行われた介護報酬改定・介護保険制度改正前の状況をベースにした分析ですが、今後の特養ホーム経営について非常に重要な提言がなされています(関連記事はこちら)。

 まず、収支の状況を3130施設(従来型1445施設、ユニット型1307施設、一部個室ユニット型378施設)について分析したところ、▽従来型・ユニット型ともに前年度に比べて若干減収減益となったが「横ばい」圏内である▽収益性を見る指標である「サービス活動収益対経常増減差額比率」は、従来型で3.8%、ユニット型で5.7%▽人件費比率は、従来型で64.2%、ユニット型で60.5%―などの状況が分かりました。

 総じて前年度(2013年度)から大きな変化はありませんが、その後に行われた介護報酬改定(特養の基本報酬引き下げをはじめ、全体で2.27%のマイナス改定)、介護保険制度改正(特養の新規入所者は原則、要介護3以上とする)などによって、特養ホームの経営状況は厳しくなっています(関連記事はこちらこちら)。

2013年度(平成25年度)から2014年度(平成26年度)にかけて、特養ホームの収支状況に大きな変化はない
2013年度(平成25年度)から2014年度(平成26年度)にかけて、特養ホームの収支状況に大きな変化はない

 次に、財務状況を2191施設(従来型1161施設、個室ユニット型1030施設)について分析したところ、▽総資産は、従来型で11億4448万円、ユニット型で10億687万円▽純資産は、従来型で9億9537万円、ユニット型で5億5403万円▽純資産比率は、従来型で86.6%、ユニット型で51.7%▽流動比率は、従来型で475.4%、ユニット型で219.7%▽借入金比率は、従来型で16.7%、ユニット型で102.4%―などという状況です。ユニット型で借入金比率が高いのは、開設からの日が浅い施設が多いためです。

 こちらも前年度から大きな変化はありませんが、2015年度の介護報酬改定に関連して「設備投資を見送った」施設が約36%に上っています。東京オリンピックを控えた建築費の高騰、また景気回復による人材不足などで、積極的な投資が難しく、これが将来的な低迷を招きかねないとWAMは心配しています(設備投資控えは、将来的に経営の低迷を招く)。

2013年度(平成25年度)から2014年度(平成26年度)にかけて、特養ホームの財務状況に大きな変化はない
2013年度(平成25年度)から2014年度(平成26年度)にかけて、特養ホームの財務状況に大きな変化はない

赤字施設には「規模が小さい」「利用率が低い」といった特徴

 特養ホームを赤字施設と黒字施設に分けて見てみると、赤字施設には▽定員規模が小さい▽利用率が低い▽短期入所の利用率も低い―と言う特徴があることが分かりました。 WAMでは、「規模の小さい施設では、短期入所を含めて、利用率を上げることに注力せよ」と指摘しています。

 ところで「利用率が高いにもかかわらず赤字」という特養ホームもあります。こういった施設は、(1)規模が小さい(2)規模は平均以上―に区分することができます。

 (1)の規模が小さく利用率が高い施設(しかし赤字)では、人件費が収支を圧迫していると考えられることから、WAMは「利用率の更なる向上」「従事者を効率的に活用した加算の取得・短期入所の利用率向上」を目指すべきとアドバイスしています。

 また(2)の規模が大きく利用率が高い施設(しかし赤字)では、(1)と同様の取り組みを進めるほか、「ユニット型への転換」によって利用者単価を上げることも検討すべきと述べています。

南関東の特養、「人材不足に起因した赤字」という特徴

 前述のように、利用率の低さは特養ホーム経営に大きな影響を与えています。 WAMが地域別に人材の確保状況を見たところ、「規模が大きく、利用率が低い赤字施設」は南関東(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)に多いことが分かりました。

 利用率が上がらない要因の1つに「人材不足」があります。条例で定められた人員配置基準の確保や、過重労働による離職を抑制するために、利用率を上げられないという事情もあることでしょう。

 南関東では、65歳以上の高齢者人口に対する施設数は少なく、一方で入所申込者数が全国平均を上回っているため「特養のニーズ」は高いことが明らかです。これに対して人材確保が容易でないことが利用率の向上を阻み、結果として赤字になるという負のスパイラルに陥っている可能性があるのです。

 WAMでは、人材の確保を最優先に考え、その上で「地域へのアピールの仕方」「施設内部のオペレーション」を見直したり、地域のニーズの再確認などを行うようアドバイスしています。

 さらに、人材確保に当たっては「働き手の視点に立った処遇改善」(例えばベースアップは施設側の視点では難しいが、働き手の視点では重要な要素である)を検討することの重要性を強調しています。

 現在、安倍晋三首相が主催する「一億総活躍国民会議」では、アベノミクスの新たな3本の矢の1つである「介護人材の確保」などについて具体的な目標(施設整備の増加目標を6万人分上乗せするなど)や対策を詰めていきます。こうした情報にも注目する必要があります。

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