現行労基法と異なる、医師の特殊性踏まえた「医師労働法制」を制定せよ―四病協



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 「医師の働き方改革に関する検討会」においては、応召義務など医師の特殊性を明確にした上で、現行の労働法制と異なる【医師労働法制】の制定に向けた検討をすべきである。さらに、集中的に研鑽を積まなければならない「初期臨床研修医」「専門医を目指す専攻医」の期間は【医師労働法制】からも除外し、医療界が自主的に運営するシステムの管理下に置くべきである―。

 日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会で構成される四病院団体協議会(四病協)は、このような要望をまとめ、4月18日に加藤勝信厚生労働大臣に宛てて提出しました(関連記事はこちら)。

4月18日に、「医師の働き方改革」に関する四病院団体協議会の要望内容について説明する猪口雄二・全日本病院協会会長(向かって左)、岡留健一郎・日本病院会副会長(中央)、山崎學・日本精神科病院協会会長(向かって右)
4月18日に、「医師の働き方改革」に関する四病院団体協議会の要望内容について説明する猪口雄二・全日本病院協会会長(向かって左)、岡留健一郎・日本病院会副会長(中央)、山崎學・日本精神科病院協会会長(向かって右)

医療現場の実態把握を十分に行った上で、医師労働法制を検討せよと厚労相に要望

安倍晋三内閣が進める「働き方改革」においては、医師にも「罰則付きの時間外労働の上限規制」を適用(労働基準法改正)することとなっています。ただし、医師には応召義務(医師法第19条)が課されるなどの特殊性があることから、▼規制の具体的な在り方、労働時間の短縮策等について検討し、結論を得る▼法改正から5年後を目途に規制を適用する—こととなりました。

 厚生労働省は、こうした点を検討する場として「医師の働き方改革に関する検討会」を昨年(2017年)8月に設置。検討会では、これまでに▼委員から出された意見を整理した「中間的な論点整理」▼医療現場で早急に進めるべき「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」―まとめ、近く、来年(2019年)3月の意見とりまとめに向けた本格的な論議が始まります(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。

 この点、四病協では、検討会において次のような点をさらに議論する必要があると進言しています。
(1)労働衛生における十分な配慮、女性医師の勤務環境整備
(2)十分な実態調査に基づく、医療現場の現状把握
(3)医師需給・偏在対策・専門医の在り方などと「働き方改革」との関係
(4)自己研鑽

 このうち(2)について、全日本病院協会の猪口雄二会長は「24時間対応が必要な救急・産科・僻地等の医療では、現在の医師数でも維持が困難な状況である。一方的に医師の勤務時間を制限すれば、これらの医療は崩壊してしまう」と強調します。例えば、地方で「地域の救急医療の砦」の機能を果たす基幹病院で、医師の勤務時間が制限されれば、24時間対応を維持するためには「医師の大幅増員」が必要となります。人件費が急増することはもちろん、その前に「地方でそれだけの医師を確保できるか」という大きな問題にぶつかります。一方、現状と同程度の医師数で対応するためには、24時間対応を放棄しなければなりません。いずれの選択肢をとっても地域の救急医療が大幅に変容することは避けられないでしょう。検討会では、こうした点も議論の俎上に上がりますが、四病協では「真正面から議論する必要がある」と強く求めています。

 
 さらに、こうした検討を進めた上で、来年(2019年)3月の意見とりまとめに向けて、「医師の労働の特殊性(例えば応召義務)を明確にした上で、現行の労働法制とは異なる、独自の【医師労働法制】の制定」に向けた検討を行うべきと四病協は強調します。

 猪口・全日病会長は、「検討会では『医師も一般の労働者であることは明確』『裁量労働制や高度プロフェッショナル制度は医師に適用されない』との前提で議論が進んでいる」と述べ、医師の特殊性を踏まえた議論になっていない点を問題視。

また、近く「働き方改革の素案」策定論議が医療界(日本医師会・四病協等)で進められますが、これとの関連について日本病院会の岡留健一郎副会長は、「これまでの印象では、日本医師会も『医師の特殊性に鑑みれば、独自の医師労働法制が必要である』という点には同意してくれるのではないか」とコメントしており、今後の医療界内部での調整、さらにその先の検討会論議に注目が集まります。

 
四病協では、さらに次の点も検討・実現するよう要望しています。

▼医師としての研鑽を積むために重要な「初期臨床研修医」「専攻医(専門医を目指す後期臨床研修医)」の期間は、【医師労働法制】からも除外し、労働時間を総合的・横断的に検証するための「医療界が自主的に運営するシステム」の検討(優れた医療の知識・技術を身に着けるために、集中的な研鑽を積まなければならない期間である)

▼専門医の適正数・適正配置の検討(医療需要を見据え、国全体の適正数・適正配置を検討する必要がある)

▼総合的な臨床医の大幅な増員の検討(超高齢社会を迎え、疾病構造が変化する中で、質が高く、かつ効率的な医療を提供するためには、患者を全人的に診て、術後管理などを行う「総合医」の増員が不可欠である)

▼医師から他職種への業務移管(タスクシフティング)を進めるための、「医師法・医療法の見直し」「医師事務作業補助者のさらなる活用」「特定行為研修を修了した看護師の養成」「救急救命士などの医療従事者の業務拡大」「PA(Physician Assistant:医師の管理・監督下で手術や薬剤処方等の医療行為を行う専門職)制度」「NP(Nurse Practitioner:一定レベルの診断や治療などを行うことが許される看護師)制度」などの整備

 いずれも、医療界内での調整がまだまだ必要な論点であり、「中長期的な検討テーマ」という位置づけです。

 
 なお日本精神科病院協会の山崎學会長は、「医師の働き方改革を検討している最中にもかかわらず、医療現場に労働基準監督署の指導が盛んに入っており、救急医療や時間外外来を制限する病院も出てきている。『近くに24時間救急大病院があるので安心』と考えてマンションを購入した高齢者等には不幸な話であり、研修医から『研鑽・勉強できると思って入職したが、救急等の制限でそれが叶わない』との不満も出ていると聞く。このままでは我が国の医療は崩壊してしまう」とコメントしています。

 

 

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