2020・21年度の医学部定員は現状を維持するが、将来は抑制する方針を再確認―医師需給分科会



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 最新のデータをもとに医師の需給を推計すると、医師の残業について「過労死ガイドラインに規定される月80時間まで」に制限すると2028年頃に、より厳しく「一般労働者と同様に月60時間まで」に制限しても2033年頃には需給が均衡し、以降「医師過剰」が拡大していくため、将来的には「医師養成を抑制していく」必要がある。ただし2020・21年度の医学部入学定員は「全体として現状維持」とし、以降、定期的に抑制に向けた検討を進める―。

4月12日に開催された医師需給分科会(「医療従事者の需給に関する検討会」の下部組織)で、こういった方針が概ね固まりました。また、地域の医師偏在に対処するため「地域枠を医学部の恒久定員の中に設定する」考え方でも、分科会の意見は概ね一致しています(関連記事はこちら)。

4月12日に開催された、「第19回 医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会」
4月12日に開催された、「第19回 医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会」

最新データを用いて医師需給を再推計、遅くとも2033年以降、医師供給が過剰に

 人口減少である我が国において、医師養成数を無策に拡大していけば医師過剰となり、「医療費の高騰」や「職に就けない医師の増加」という問題が引き起こします。一方、我が国では「医師の偏在」(都市部への集中)という大きな問題もあり、これを解決するために、地域によっては「医師の養成数拡大」を進める必要もあります。

両者をデータに基づいて勘案するために、医師需給分科会では2016年5月に医師の需給に関する試算を、例えば「地域医療構想に基づき、高度急性期や回復期などの機能ごとに医師の必要数を推計する」などの手法も用いて実施しました。そこでは、「2018年から33年頃に医師の需要と供給が均衡し、以降、医師の供給数が過剰になる」との結果が導かれました(医師の勤務時間改善状況に応じて、均衡時期がずれる)(関連記事はこちらこちらこちら)。

将来の医師需給の試算結果、早晩、供給量が需要量を上回ることが明確に(上位推計でも2033年以降は医師供給過剰になる見込み)
将来の医師需給の試算結果、早晩、供給量が需要量を上回ることが明確に(上位推計でも2033年以降は医師供給過剰になる見込み)
 
その後、「最新のデータに基づいて、より精緻な推計を行う必要がある」(例えば、女性医師の働き方を年齢に応じて勘案するなど)との指摘を受け、今般、厚労省は改めて医師の需給に関する推計を実施しました。推計手法は2016年時と同じですが、例えば▼「医師人口ピラミッド」を作成し、動態を見ていく(長時間労働の多い、若手医師数の変化などを勘案する)▼最新の調査研究に基づき性・年齢階級別の「仕事量」を勘案する▼医師の働き方改革について一定の仮定を置く(後述)―などの点で「精緻化」が図られています。
医師需給分科会1 180412
医師需給分科会2 180412
 
その結果、次のように「2018-33年頃に医師の需要と供給が均衡し、以降、医師の供給数が過剰になる」ことが分かりました。2016年推計とほぼ同様の結果です。

【医師の需要がもっとも大きくなるケース1】(医師にも、一般労働者と同じ時間外労働規制(月60時間まで)を行い、AI等の活用で2040年には業務が7%削減される、などと仮定)
2033年頃に医師の需給が約36万人で均衡し、以降、医師供給数が過剰となり、2040年には2万5000人程度の医師過剰となる

【医師の需要が中程度となるケース2】(医師の時間外労働規制を、過労死ガイドライン水準(月80時間まで)とし、AI等活用で2040年には業務が10%削減される、などと仮定)
2028年頃に医師の需給が約35万人で均衡し、以降、医師供給数が過剰となり、2040年には3万4000人程度の医師過剰となる

【医師の需要がもっとも少なくなるケース3】(医師の時間外労働規制を、米国の研修医並み(週80時間まで)とし、AI等活用で2040年には業務が20%削減される、などと仮定)
2018年頃に医師の需給が約32万人で均衡し、以降、医師供給数が過剰となり、2040年には5万人程度の医師過剰となる
医師需給分科会3 180412
 
例えば、【医師の需要がもっとも大きくなるケース1】では、「月60時間を超える時間外労働を行っている医師全員の産業時間を『月60時間まで』に一律に引き下げ、その分の労働を担う(補う)ための医師を新たに養成する」というロジックで需要数を推計しています。

ここから、「早晩、医師過剰になる」状況が改めて(2016年に続き)明らかとなり、分科会では「医師の養成数を将来的に抑制していく」方針が再確認されました。

2020・21年度は、日本全体での医学部定員は「現状を維持」

「医師の養成数」とは、端的に「医学部の入学定員」と言い換えることが可能です(医学部で学業を修めた後、医師にならない人はごく少数であるため)。

医学部の入学定員は、大きく「恒久定員」(下図の青色の部分)と「臨時定員」に分けられ、後者の「臨時定員」は、さらに▼医師確保が必要な地域・診療科のための暫定増(下図の黄色の部分)▼地域枠などを設定するための追加増(下図の赤色の部分)—に分けられます。

当面の医学部入学定員
当面の医学部入学定員
 
2016年の医師需給推計をもとに、2019年度までの医学部入学定員については、▼暫定増は維持する▼追加増は慎重に精査する―ことが決まっていますが(関連記事はこちらこちらこちら)、2020年度以降は「白紙」の状況です。この点、2020年度の医学部入学を目指す人は、現在「高等学校2年生」であり、遅くとも、今夏(2018年夏)には「2020年度の医学入学定員」の全容を明らかにしておく必要があります(受験直前に「医学部入学定員が昨年度より大幅に少なくなる」などと発表されては、進路変更ができなくなってしまう)。

ただし、現在検討が進められている「医師の働き方改革」や、国会に提出された「医師偏在対策案」(医療法・医師法改正案)などの効果を確認しなければ、「将来、どのように医師養成を抑制していくか」の詳細を決めることはできません(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。

そこで4月12日の医師需給分科会では、こうした状況を総合的に勘案し、次のように段階的に医学部入学定員(医師養成数)を検討する方針を固めました。

(1)2020年度・2021年度の医学部入学定員を決定するが、暫定措置(恒久的なものではない)とする

(2)2022年度以降の医学部入学定員については、「医師の働き方改革」や「医師偏在対策の効果」などを見ながら検討していく

 まず(1)は上記のように「現在の高等学校2年生などの進路決定」を考慮するもので、分科会では「2020・21年度には、現状の医学部入学定員(2018年度には9419人、19年度は未定)を維持する」方針が固められました。もっとも、各都道府県や個別大学医学部の入学定員が維持されるわけではなく、「日本全体での医学部入学定員(2018年度は9419人)」を維持したまま、今後、各都道府県や大学と文部科学省等とで調整していく(例えば、医師不足地域では、新たな『地域枠』設定が必要で増員となることも考えられる)ことになります。

医師配置状況をチェックし定期的に「医師養成数」を調整、地域枠の在り方も論点

 また(2)については、例えば▼将来の都道府県毎の医師需給を踏まえた医師確保状況▼医師偏在指標などを踏まえた偏在の改善状況▼診療科ごとの医師の必要性を踏まえた医師確保状況▼長時間勤務を行う医師の状況—などを指標に据えた上で、「医師の働き方改革」や「医師偏在対策」の効果を測定し、「定期的に医師養成数を削減する方向で検討していく」方針が概ね固められました。

2年に一度、「医師・歯科医師・薬剤師調査」(いわゆる三師調査)が行われることを勘案すれば、「2年毎に医師の配置状況(いわば医師確保や偏在対策の効果と言える)を把握し、医学部入学定員を調整していく」ことなどが考えられそうです。

なお、この点に関連して今村聡構成員(日本医師会副会長)らは、「地域枠などを、恒久定員の中に設定すべき」との考えを強調しています。医学部入学定員は、上述のように「恒久定員」と「臨時定員」があり、養成数の抑制するためには、まず「臨時定員を縮小・廃止していく」ことが考えられます。しかし、地域枠は臨時定員の中に設けられているため、現在の仕組みのままでは「臨時定員の縮小・廃止」は「地域枠の縮小・廃止」につながってしまうのです。

この点について反論は出ておらず、分科会の共通認識と考えることができそうです。今後、文部科学省などで詳細に検討していくことが求められるでしょう。

 
分科会では、今後、5月の「第3次中間とりまとめ」に向けた議論を行うこととなり、構成員からは、▼患者にきちんと説明すれば、主治医でなく、当直の内科医等が夜間の看取り等を行ってもクレームは来ない。複数主治医制のハードルは医師が考えているより低い(福井次矢構成員:聖路加国際大学学長)▼国民の受診行動変容の必要性や、薬剤師の需給(医師からのタスクシフトに期待)なども議論すべき(今村構成員)▼応召義務の緩和・チームでの在宅医療推進などにも踏み込むべき(羽鳥裕構成員:日本医師会常任理事)—といった指摘が出されています。

 

 

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