介護事業所等の理念を明確にし、元気高齢者を「介護サポーター」として迎え入れよ―経産省



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 未曽有の少子高齢化が進む我が国では、▼要支援・要介護ニーズを抑え▼高齢者を介護の支え手として迎え入れる―ことが必要不可欠である。とくに後者については、元気高齢者を「介護サポーター」として迎え入れることで、専門職である介護職員等の業務負担等が図られ、人材の確保・定着にもつながる。ただし、事前に自事業所・施設の「理念」を明確にし、適切な業務切り分けを行っておくことなどが必要である―。

 経済産業省は4月9日に、「将来の介護需給に対する高齢者ケアシステムに関する研究会」報告書(以下、研究会報告書)を公表し、こういった提言を行いました(経産省のサイトはこちら(概要版)こちら(本編)別添(元気高齢者の介護助手事業))。

介護人材不足によって「負のスパイラル」に陥る可能性

 2025年には、いわゆる団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となるため、今後、医療・介護ニーズが未曽有のスピードで増加していくと予想されます。このニーズに応えるため、「病院・病床の機能分化・連携の強化」(例えば地域医療構想の実現)、「地域包括ケアシステムの構築」などが進められています。

ところで我が国では、高齢化とともに、深刻な「少子化」という問題に直面しています。これは、医療・介護の支え手の減少を意味します。とかく財政面での厳しさのみに焦点が合わせられがちですが、「人材の確保はより深刻である」と指摘する識者も少なくありません。他産業でも人材が不足する中で、医療・介護サービスの担い手をどう確保し、定着させるかが、極めて深刻な課題になるのです(例えば、特別養護老人ホームや介護医療院などの施設・ベッドはあるものの、そこで働く介護職員がいない、という事態がより深刻化する)。経産省では2035年時点で「69-79万人の人材不足が生じる」と推計しています。

経産省の試算によれば、2035年には69-79万人の介護人材不足が生じる
経産省の試算によれば、2035年には69-79万人の介護人材不足が生じる
 
研究会報告書では、「介護分野の人材不足」→「介護離職(家族の介護を理由とした離職)の増大」→「他産業の人材不足」→「人材確保競争の拡大」→「さらなる介護分野の人材不足」→・・・という負のスパイラルが生じる恐れがあると強調。早急に(1)社会参加を中心とした介護予防の推進(2)介護サービスにおける高齢者を中心とした就労促進(人材確保)—を行う必要があると提言しています。

介護ニーズの増大抑えるため、民間事業者のノウハウを活用した介護予防を

まず(1)は「介護ニーズの増大を抑える」という視点です。加齢に伴い、どうしても身体機能が低下し、要支援・要介護者の割合は増加していきます(65-69歳では要支援1以上が3%だが、75-79歳では13%、85-89歳では51%、90歳以上では77%に増加)。

高齢になるほど、要支援・要介護リスクが明らかに高まる
高齢になるほど、要支援・要介護リスクが明らかに高まる
 
要支援・要介護の原因として、後期高齢者では「高齢による衰弱」「認知症」「骨折・転倒」が多くなること、高齢者の生活機能状態をみると「まず社会的役割」から低下する傾向にあること、独居高齢者では「社会参加を含む生活機能低下」の発見・対処遅れなどが考えられること、社会参加には「健康維持」「認知症等のリスク減少」の効果があることなどを踏まえ、研究会報告書では次のような事業を総合的に展開する必要があると提言しています。
さまざまな研究により、「社会参加によって、将来の要支援・要介護リスクが軽減する」ことが明らかにされている
さまざまな研究により、「社会参加によって、将来の要支援・要介護リスクが軽減する」ことが明らかにされている
 
▽民間事業者による魅力的な社会参加の場・サービスの開発
「介護予防」「高齢者福祉」を強調せず、「楽しい」「癒し」「おしゃれ」などの感性に訴えかけ、健康などに無関心な高齢者も参加したいと思わせる取り組みが必要で、そうしたノウハウを持つ民間事業者等と行政が連携した取り組みが有効である。認知症高齢者の脳機能維持・改善に向けた療法や、大勢で楽しみながらのウォーキング(ソーシャル・ウォーキング)などが既に行われている。

▽地域版次世代ヘルスケア産業協議会をベースとした新事業創出の促進
 ▼医療・介護機関▼自治体▼大学▼民間事業者―などが集い、「健康づくりと就労マッチングをセットにしたモデル」「認知機能改善を目的とする運動教室を民間フィットネスジムで提供するモデル」「自身で化粧などの美容を行うことで、社会性・外向性・心身機能の維持・向上を図るモデル」などがすでに行われている。

▽民間事業者には、▼場の提供(「ついでの買い物」効果も期待できる)▼客数の少ない時間の活用(稼働率が向上する)▼つながりの醸成(ブランドイメージのアップが期待できる)―といった3つの工夫を行ってもらう
 例えば、「客数の少ない時間に、カラオケボックスを介護予防教室の場とする」「スーパーマーケットを早朝から開店し、高齢者の体操等に活用可能とする(終了後の買い物にもつながる)」などの取り組みがすでに行われている。

▽高齢者でも活躍できる多様な働き方の創出
 とくに高齢者自身が「介護サポーター」となり、介護現場で就労することが期待される((2)の就労促進とも関連)。

▽社会参加を促すためのシームレスな支援
 高齢者の状態変化によって、▼就労▼ボランティア活動▼趣味・稽古(生涯学習)▼友人・近所づきあい―とシームレスに移行できる支援体制の構築が必要である。

高齢者の状態に応じたシームレスな支援が求められる
高齢者の状態に応じたシームレスな支援が求められる
 
▽無関心層へのアプローチ
 財力や個性などを勘案した、潜在的要介護リスクを持つ高齢者の早期発見・早期介入のための指標を検討する必要がある。

▽地域の社会参加の場・サービスに関する情報提供ツールの構築
 「高齢者の状態」と「サービス」とを適切に結びつけるために、▼高齢者の参加・雇用を求める地域の企業・団体▼高齢者サポートを提供する企業・団体—の情報を一元化・見える化し、誰でも(高齢者自身、家族なども含めて)がマッチング可能な仕組みの構築が有効である。

民間事業者のどこに高齢者の就労ニーズがあり、またどこで高齢者支援を行っているのか、一目でわかるマップの作成が望まれる(その1)
民間事業者のどこに高齢者の就労ニーズがあり、またどこで高齢者支援を行っているのか、一目でわかるマップの作成が望まれる(その1)
民間事業者のどこに高齢者の就労ニーズがあり、またどこで高齢者支援を行っているのか、一目でわかるマップの作成が望まれる
民間事業者のどこに高齢者の就労ニーズがあり、またどこで高齢者支援を行っているのか、一目でわかるマップの作成が望まれる
 
▽介護事業者による在宅復帰時のサポートの推進

▽早期から(若年層から)の社会貢献活動の参加推奨

元気高齢者を介護サポーターとして迎え入れ、周辺業務等を担ってもらう

 一方、(2)は高齢者が「支えられる側」だけでなく、「支える側」にもなることで、介護人材を増やしていくという視点です。昨年(2017年)1月に日本老年学会・日本老年医学会は「10-20年前に比べ、高齢者は5-10歳若返っている。高齢者も社会の支え手となるべき」との提言を行っており、同じ考え方・視点に立つものと言えるでしょう。

実際、高齢者の4割は「働けるうちはいつまでも働きたい」と考えています。

また2018年度の介護報酬改定では、「生活援助中心のサービスは多様な人材が担うこととし、新たな研修制度を創設する」ことになりました。

これをさらに一歩進め、高齢者や主婦などの「潜在的労働力」を、必ずしも介護の専門性が高くない周辺業務に従事する「介護サポーター」として活躍してもらってはどうか、と研究会報告書は提言します。すでに、三重県の老健施設協会などでは「介護サポーター」を導入しており、▼介護職員の負担軽減▼介護職員の本来業務への集中▼認知症利用者への個別対応―などの効果が出ているといいます。さらに、これは「介護職員の離職防止」にもつながり、人材確保・定着にも効果があると考えられます。

元気高齢者に、介護サポーターとして活躍してもらうことで、介護専門職の負担軽減等につながる
元気高齢者に、介護サポーターとして活躍してもらうことで、介護専門職の負担軽減等につながる
 
もっとも、「介護サポーター」には、「受け入れ側の体制整備」が必要です。未整備のまま介護サポーターを受け入れ、「業務切り分けが不十分で、専門職の指導時間が増加し、介護職員の負担が増えてしまった」という失敗事例も報告されています。研究会報告書では、成功事例・失敗事例の双方に学び、▼介護事業所理念や経営理念の明確化と共有▼提供する付加価値の明確化▼業務プロセスの分解と見える化▼「介護サポーター」の役割の明確化―というプロセスを踏むことが「必須」と強調しています。さらに、「介護サポーター」の役割イメージとして、非対人業務では▼掃除▼洗濯物干し・折り畳み▼口腔ケア用のガーゼづくり▼物品の補充―などを、対人業務では▼入浴衣類の準備▼入所者の誘導▼入浴後のドライヤー▼食堂内での見守り介助▼食事の配膳・下膳―などを検討してはどうかと例示しています。この点、中小規模の介護事業所では、業務切り分けのための支援を、地域医療介護総合確保基金を活用して行うことなども考えられます。
まず自身の介護事業所・施設等の「理念」を明確化し、そこから業務プロセスの分解、介護サポーターが担うべき業務の明確化に落とし込んでいく必要がある
まず自身の介護事業所・施設等の「理念」を明確化し、そこから業務プロセスの分解、介護サポーターが担うべき業務の明確化に落とし込んでいく必要がある
介護専門職と介護サポーターとの業務切り分けの一例
介護専門職と介護サポーターとの業務切り分けの一例
 
さらに、介護サポーターでは、労働への制約(稼働日、稼働時間など)が大きく、かつ多様なため、例えば「個人に応じた業務調整を可能とする」「週1日・3時間程度からの参加を可能とする」「調理補助のみとする」といった、柔軟な働き方を可能とする環境整備が必要とも提言しています。「業務フローに合わせて人員を配置する」考え方から、「職員の就業時間・配置状況に合わせた業務フローを構築する」考え方への転換も重要でしょう。

なお、「介護サポーター」募集に当たっては、「40-60歳の中高年齢層」といった抽象的記載ではなく、「元気高齢者」とターゲットを明確にすることが効果的との報告もあります。

 
研究会報告書を参考に、「介護サポーター」の導入等に向けて、まず介護事業所・施設の「理念」を明確にすることが重要でしょう。それにより「自施設の課題」(例えば理念と実際のサービスとのミスマッチによって職員が定着しないことなど)が明らかになれば、その改善に向けた取り組みを行うことも可能です。

 

 

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