老健は黒字転換に向け、在宅強化型へのシフトと利用率アップの両立目指せ―福祉医療機構



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 「従来型」や「加算型」の介護老人保健施設(老健)では、定員に対して人員配置が多い傾向が見られる。黒字転換に向けては、利用率を高めるための方策とともに、単価アップのための加算取得や在宅強化型へのシフトを検討すべきである―。

 福祉医療機構(WAM)は1月31日に公表したリサーチレポート「平成28年度 介護老人保健施設の経営状況について」で、このような提言を行いました(WAMのサイトはこちら、関連記事はこちら)。ただしリサーチレポートでは、在宅復帰率が高いと利用率が下がる傾向も改めて確認されており、在宅復帰率を高めつつ利用率を上げるためには、地域の住民や医療機関から「入所先として選ばれる施設」になる努力が求められます。

2016年度の経営状況、2015年度と大差なし

 今般のリサーチレポートでは、開設から1年以上経過し、WAMが貸し付けを行っている950老健施設の経営状況を、2016年度の財務諸表データを使って分析しています。事業収益などは、通常の施設サービスだけでなく、空きベッドを利用したショートステイ(短期入所療養介護)や、併設事業所での通所リハビリテーションの分を含めて算出しています。

 まず、2016年度の「事業収益対事業利益率」(事業の収益性を示す指標で、数字が大きくなるほど経営状況が良く、マイナスは赤字を意味する)は、前年度(2015年度)と同じ6.8%。WAMは「2016年度には介護報酬改定などがなかったことから、経営状況にも大きな変化がなかった」と見ています。

2016年度の事業収益対事業利益率は6.8%で、前年度(2015年度)と同じだった
2016年度の事業収益対事業利益率は6.8%で、前年度(2015年度)と同じだった
 

強化型は加算取得率の低さ、従来型などは厚過ぎる人員配置が赤字要因に

 老健施設は現在、「入所者を在宅復帰させる機能」に応じて、介護報酬上、次の3種類に区分されています。

▼在宅強化型:「在宅復帰率50%超」などの要件を満たし、基本報酬(733―1063単位/日)が従来型と比べて38―78単位高い
▼加算型:「在宅復帰率30%超」などの要件を満たす。基本報酬(695―985単位/日)は従来型と同じだが、1日当たり27単位の【在宅復帰・在宅療養支援機能加算】を算定できる
▼従来型:在宅復帰率などが、在宅強化型・加算型の要件を満たさない

 今般の分析対象で見ると、▼在宅強化型が137施設(赤字割合18.2%)▼加算型が282施設(同18.1%)▼従来型が496施設(同19.0%)―となっています。WAMでは、これら3区分の施設をそれぞれ黒字施設と赤字施設に分け、(1)3区分に共通した黒字施設の特徴(2)在宅強化型で黒字となった施設の特徴(3)加算型と従来型で黒字となった施設の特徴―を考察しています。
 

WAMは老健を黒字施設と赤字施設に分けて、黒字要因などを分析している
WAMは老健を黒字施設と赤字施設に分けて、黒字要因などを分析している
 
 まず、(1)の3区分すべての黒字施設に共通する特徴としては、次のとおり、「入所定員数が多いにもかかわらず、入所者や短期入所者を集め、高い利用率を確保している」ことが挙げられます。「大規模で、利用率の高い」施設で良好な経営を確保できていることが分かります。

【在宅強化型】
▼黒字施設の入所定員数は平均100.0人で、赤字施設の平均83.2人を16.8人・20.2%上回る
▼黒字施設の利用率は平均94.7%で、赤字施設の平均88.7%を6.0ポイント上回る

【加算型】
▼黒字施設の入所定員数は平均106.7人で、赤字施設の平均96.9人を9.8人・10.1%上回る
▼黒字施設の利用率は平均94.0%で、赤字施設の平均90.0%を4.0ポイント上回る

【従来型】
▼黒字施設の入所定員数は平均103.4人で、赤字施設の平均97.8人を5.6人・5.7%上回る
▼黒字施設の利用率は平均93.9%で、赤字施設の平均89.6%を4.3ポイント上回る

 上述のとおり、在宅復帰型の老健施設では在宅復帰率が50%を超えていますが、それでも黒字施設で高い利用率を維持できているのは、地域の住民や医療機関との間で信頼関係を構築し、入所先として選ばれているためと考えられます。信頼関係の構築には時間がかかりますが、どの区分の老健施設であっても取り組むべき重要な経営改善策です。

 次に、(2)の在宅強化型の老健施設に焦点を合わせた分析結果を見ると、黒字施設では「利用者1人1日当たり事業収益(入所)」(つまり単価)が特に高いことが分かりました。具体的には、黒字施設の平均は1万4182円で、赤字施設の平均である1万3782円を400円・2.9%上回っています。WAMはこの理由として、(a)単価が高い「ユニット型個室」が黒字施設に多い(b)加算の取得割合が黒字施設で高い―を挙げています。

 このうち、(b)の加算取得割合を見ると、▼夜勤職員の配置の厚さを評価する【夜勤職員配置加算】の取得:黒字施設で93.8%、赤字施設で84.0%、黒字施設が9.8ポイント高い▼介護職員の6割以上が介護福祉士であることが要件の【サービス提供体制強化加算(I)イ】の取得:黒字施設で83.9%、赤字施設で80.0%、黒字施設が3.9ポイント高い―のような状況となっています。

在宅強化型施設のうち黒字施設では、赤字施設と比べて夜勤職員配置加算などの取得割合が高かった
在宅強化型施設のうち黒字施設では、赤字施設と比べて夜勤職員配置加算などの取得割合が高かった
 
 (3)の加算型・従来型に焦点を合わせた分析では、赤字施設で「定員に対する人員配置が多い傾向が見られる」と指摘。具体的には「利用者10人当たりの従事者数」が、▼加算型の老健施設では、赤字施設が6.87人で、黒字施設の6.10人と比べて0.77人・12.6%高い▼従来型の老健施設では、赤字施設が6.46人で、黒字施設の5.81人と比べて0.65人・11.2%高い―となっています。これらの施設では人件費がかさむため、新規入居者を確保して利用率を上げることに加え、単価アップのために、厚い人員配置を生かした「加算取得」や「在宅強化型へのシフト」を検討すべきとアドバイスしています。

 これらの分析から赤字の老健施設では、▼地域の住民・医療機関との信頼構築による入所者増▼加算取得や上位区分への転換による単価アップ―の両方に取り組むことで、黒字転換を目指すべきと言えます。

在宅復帰高いと利用率が下がって利益が出にくい

 老健の報酬体系は、在宅復帰機能が高いと単価が高くなるように設計されていますが、在宅復帰を進めて利用率が下がれば、収益を伸ばすことができません。そこでWAMは、在宅復帰率と利用率、収益性(事業収益対事業利益率)の関係も分析しています。

 その結果、▼在宅復帰率が高い老健施設ほど利用率が低い▼在宅復帰率が高い老健施設ほど、収益性が概ね低い―という傾向が明らかになっています。例えば在宅強化型の老健施設のうち、在宅復帰率が最も高い「70%超の施設」では利用率が低く(81.4%、在宅復帰率60%以下の在宅強化型施設と比べて6.9ポイントも低い)、収益性も低い(4.3%、同2.6ポイント低い)という状況です。

在宅復帰率が高い施設では利用率が低く、事業収益対事業利益率も低い
在宅復帰率が高い施設では利用率が低く、事業収益対事業利益率も低い
 
 この点、2018年度の次期介護報酬改定では、「入所者を在宅復帰させる機能が在宅強化型よりもさらに高い施設」が「超強化型」と位置付けられ、単価がアップします。一方で在宅復帰機能が低い老健施設は、「その他型」として現在の従来型よりも単価が下がってしまいます(関連記事はこちら)。

 在宅復帰率を高めることは、単価の上昇だけでなく、入所者のQOLを高めるために極めて重要であり、「真摯に在宅復帰に取り組みつつ、地域の住民・医療機関との信頼関係を構築する」ことが改定後も求められます。

 ただし、今般のWAMのレポートから分かるように、在宅復帰率アップによって利用率が下がってしまう施設もあり、さらに中には収益性が低下してしまうところもあります。とはいえ、経営面のみを考えて「在宅復帰率をコントロールすること」は、入所者のQOLを考えれば好ましくありません。対策を講じても空きベッドが目立ってしまうようであれば、「現在のベッド数が適正か」の検討も必要かもしれません。

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