医師の労働時間規制、働き方を変える方向で議論深める―医師働き方改革検討会(2)



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 医師の今後の労働時間規制は、現状の長時間労働を是正する方向で議論する。具体的な上限は、医師の「診療科」や「勤務先医療機関の役割」に応じてきめ細かく設定する―。

 1月15日に開催された「医師の働き方改革に関する検討会」(以下、検討会)では、厚生労働省が、このような内容の「中間的な論点整理」の骨子案も示しました(関連記事はこちら)。骨子案には、他職種への業務移管のような「医師の労働時間短縮策」に関する論点も盛り込まれています。検討会は、次回会合で「中間的な論点整理」を取りまとめた後、「医師の労働時間規制」と「医師の労働時間短縮策」の具体案を来年(2019年)3月末までに取りまとめるため、議論を本格化させます。

1月15日に開催された、「第6回 医師の働き方改革に関する検討会」
1月15日に開催された、「第6回 医師の働き方改革に関する検討会」

医師の労働時間規制の在り方、今後の検討に向けて論点を整理

 現在の労働基準法では、労働時間を「1日8時間・1週40時間」内と規定しています。しかし、使用者(病院の管理者ら)が労働者(勤務医ら)などと協定(労働基準法36条、ゆえに36協定と呼称される)を結んで労働基準監督署に届け出れば、この基準を超える長時間労働が、「年360時間まで」のような範囲内で認められるため、実際のところ、病院勤務医の40.6%が週60時間以上勤務しています(単純計算で、時間外労働時間が月80時間以上)。

勤務時間が週60時間以上である割合が5割を超える診療科もある
勤務時間が週60時間以上である割合が5割を超える診療科もある

 政府は「働き方改革」として長時間労働の是正などを推進しており、厚労省が今年(2018年)の通常国会への提出を目指している労働基準法改正案は、▼時間外労働時間の上限を原則、月45時間・年360時間とする▼臨時的に特別な事情がある場合でも、年720時間・単月100時間未満(休日労働含む)・複数月平均80時間(休日労働含む)を限度とする▼来年(2019年)4月から施行する―といった内容になる見込みで、上限規制に違反した使用者には罰則が科されます。

 ただし、医師には応召義務(医師法第19条)が課されるなどの特殊性があることから、▼上限規制の適用を5年間猶予する▼「医師に適用する規制の具体的な在り方」や「医師の労働時間短縮策」を、検討会で議論し、来年(2019年)3月末までに結論を得る―ことが決まっています。検討会は昨年(2017年)8月に設置され、【1】今年(2018年)の「年明け」に中間整理を行う【2】来年(2019年)3月末までに結論(規制などの具体的な在り方)を得る―スケジュールで検討を進めてきました。

 【1】の中間整理に当たる「中間的な論点整理」は、これまでに委員から出た意見(論点)をまとめたもので、【2】の最終取りまとめに向けた議論の土台となります。本稿では、「中間的な論点整理」の骨子案の中から、今後の検討の注目ポイントとなる、(a)医師に適用する規制の具体的な在り方(b)医師の労働時間短縮策―に関連する論点に焦点を当ててお伝えします。

診療科別の分析進め、多様性を踏まえた上限設定

 まず(a)の「上限規制の在り方」について骨子案では、働き方改革関連法案で上限とされる「単月100時間未満・複数月平均80時間」を超えた長時間労働を医師に認めることには「慎重であるべき」だと強調。長時間労働が常態化する現状に合わせた規制を設けるのではなく、「医師の労働時間をできるだけ短くする」ことを前提として議論していくべきと指摘します。

 その上で、現状から大きくかけ離れた「画一的な上限時間」を設定すれば医療提供体制の崩壊を招く恐れがあることから、「『医療機関の役割』や『診療科』ごとの多様性を踏まえて、時間外労働の上限時間を設定する」方向性を示しています。

 この点、昨年(2017年)4月に公表された「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」(いわゆる10万人調査、2016年12月に実施)では、「救急科」(平均勤務時間が週63時間54分)や「外科系」(同59時間28分)、「産婦人科」(同59時間22分)などの診療科で病院勤務医の労働時間が長いことが分かっています。ただし、単純に救急科や外科系で上限を緩く設定するのでは、「現状の働き方に制度を合わせる」ことになってしまいます。そこで検討会では今後、救急科や外科で労働時間が長期化してしまう原因を明らかにした上で、医療提供不足を招かない「適正な上限時間」を、診療科ごと・医療機関の役割ごとに、きめ細かく検討することになります。

現状、病院常勤勤務医の平均勤務時間には診療科ごとにばらついている。医師の労働時間の上限も、診療科別に設定される可能性がある
現状、病院常勤勤務医の平均勤務時間には診療科ごとにばらついている。医師の労働時間の上限も、診療科別に設定される可能性がある

 骨子案では、「診療科ごと分析にも資する追加的な調査を行い、10万人調査の結果と併せて分析することで、議論の前提となる『医師の勤務実態の詳細』を明らかにする必要がある」とも指摘しています。厚労省は現在、勤務医のタイムスタディ調査を行い、▼診療時間(外来診療や入院診療など)▼診療外時間(教育や研究、会議など)▼待機時間(通常の勤務時間外に、応急患者に備えて院内に待機する時間)―の構成などのデータを集めています。このデータを、勤務先(大学・大学以外)や診療科ごとに分析し、長時間労働の原因究明の手がかりにすることが期待されます。

1月15日の検討会に、タイムスタディ調査の結果が一部示された。データの集積が進めば、勤務医の労働時間に関する課題を診療科ごとに解明できる可能性がある
1月15日の検討会に、タイムスタディ調査の結果が一部示された。データの集積が進めば、勤務医の労働時間に関する課題を診療科ごとに解明できる可能性がある

労働時間に当たる自己研鑽の基準も論点に

 勤務医の労働時間をめぐっては、▼診療ガイドライン改訂をキャッチアップしたり、論文を執筆したりする自己研鑽時間▼宿日直―が労働時間に該当するかどうかも重要な論点です。このうち自己研鑽時間について検討会では、「具体的にどのような内容であれば労働時間に該当するか、関係者間で共通認識がない」と指摘。今後の検討で、「労働時間に当てはまる自己研鑽時間」の考え方を示す方針です。

 一方、宿日直には、現在、「応急患者の診療または入院、患者の死亡、出産などがあり、昼間と同態様の労働に従事することが常態であるようなもの」は労働時間に当たるという基準があります。ただし、この基準ができた1949年から医療現場が変化していると想定されることなどから、見直しに向けて議論することになりそうです。

宿日直の許可基準の見直しも重要な論点となる
宿日直の許可基準の見直しも重要な論点となる

医師の業務見直し、実効性ある働き方改革に

 骨子案では、「医療機関における働き方改革の実効性を確保するためには、時間外労働規制だけでなく勤務環境改善策も重要である」と指摘し、上述した(b)の医師の労働時間短縮策として次の4点を挙げています。

(1)医師の業務の整理
(2)他職種への業務移管
(3)医師同士での業務の共同化
(4)ICT(情報通信技術)の活用

(1) の「医師の業務の整理」については、▼医師の参加が要件となる会議(介護保険制度のリハビリテーション会議など)▼医師が作成しなければならない書類(死亡診断書など)―を洗い出して医師の業務の全体像をまず明らかにし、効率化を図る必要性が指摘されています。

この点、死亡診断書については、ICTを活用して遠隔で交付する仕組み(この場合、患者宅を訪問した看護師が代筆)の整備が進んでいます(関連記事はこちら)。また、医師の業務見直しは、(2)の業務移管も密接に関係します。例えば静脈注射などは、看護職員に移管可能であることを、厚労省は2007年に発出した通知「医師及び医療関係職と事務職員等との間等での役割分担の推進について」で明示しています。なお、医師の業務負担を軽減する効果が期待できることから、検討会では、検討結果の取りまとめを待たずに業務移管を徹底するよう、医療機関に呼び掛ける方針です(関連記事はこちら)。

 一方、(3)の業務共同化の具体策としては例えば、複数主治医制やシフト制の導入が想定されます。ただし、一定程度の医師数がいなければ負担を分散できず、検討会では、「医療機関の集約化の議論をしなければならない」とも指摘しています。この点、複数の病院が統合して全体として医療の質を高める米国の「IDS」(Integrated Delivery System:統合型医療提供システム)の手法が、医師の働き方改革を進める上でも重要な手法と言えます(関連記事はこちら)。

 ほか、▼応召義務を含む患者との関係性の見直し▼勤務時間以外の勤務環境改善策(例えば健康管理の着実な実施)―なども、今後の重要な論点となります。

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