「医師不足地域での勤務経験ある医師」が働く病院に経済的インセンティブ―医師需給分科会



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 厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会」と、下部組織の「医師需給分科会」は12月18日、「早急に着手すべき医師偏在対策」の検討結果(第2次中間取りまとめ)を大筋で取りまとめました。対策は主に、(1)勤務環境の整備やインセンティブ付与による「自発的な医師不足地域での勤務の推進」(2)都道府県の権限強化などによる「医師養成過程を通じた地域定着の推進」―に分けられます(関連記事はこちら)。

12月18日に合同開催した、「第5回 医療従事者の需給に関する検討会」と「第17回 医師需給分科会」
12月18日に合同開催した、「第5回 医療従事者の需給に関する検討会」と「第17回 医師需給分科会」

早急に着手する医師偏在対策、来年の通常国会に法案提出

 (1)のインセンティブ付与に向けては、「医師不足地域にある医療機関で一定期間勤務した医師」を、厚生労働大臣が認定する制度(認定医師制度)を設けた上で、「認定医師を雇用して、質の高いプライマリ・ケアを提供させている」医療機関などに経済的インセンティブを与える方向性も盛り込まれています。

 医療法や医師法の改正が必要となり、厚生労働省は、12月22日の社会保障審議会・医療部会に報告の上、来年(2018年)の通常国会に、これらの改正案を提出したい考えです。

 12月18日には、「医師偏在は喫緊の課題なので、まず対策を実行し、必要に応じて見直すべき」との声が構成員から相次いだ一方で、「検討が不十分なまま実行すれば状況がさらに悪化する」と慎重姿勢を崩さない構成員もおり、対策の具体化に向けた医師需給分科会などでの今後の検討が注目されます。

医師不足地域で働く医師の不安を解消

 ここからは、12月18日に大筋で取りまとめられた医師偏在対策を解説していきます。

 まず(1)の「医師不足地域での勤務の推進」に向けた施策は、医師不足地域で勤務することの魅力を高めるもので、医師の自発的な勤務を促す狙いがあります。医師需給分科会では、「単に『若手医師を強制的に医師不足地域で働かせる』という対策は避けるべき」という考え方にのっとって検討してきたため、若手・ベテランを問わず、あらゆる医師に医師不足地域での勤務を促す施策が示されています。

 「勤務環境の整備」と「インセンティブ付与」の2つの対策があり、前者の勤務環境の整備では、医師不足地域で働く際の不安の払拭を目指します。例えば、「代わりに働く医師がいないので、休みが取れないかもしれない」「幅広い患者の診療が求められるが、周りに相談できる医師がおらず、専門外の患者に適切な診療ができないかもしれない」といった不安です。

 こうした不安を解消するために、医師複数人によるグループ勤務や交代勤務を推進して、医師不足地域で働く医師が「働き詰め」になることを防ぎます。また、▼専門外の症例に対応できるように、地域の中核病院が、助言や患者受け入れなどの後方支援を行う▼医師不足地域で働く前や働いている間に、プライマリ・ケアの研修・指導を受けられる体制を確保する―方策もとられます。

 さらに、「医師不足地域で一定期間働くことはよいが、その後のキャリアに不安がある」若手医師のために、▼都道府県▼大学病院・医学部▼地域医療を支援する立場の医療機関―などが協力して、中長期的なキャリアパスを作成。それに基づいて医師派遣を行います。

医師不足地域での勤務に医師がメリットを感じる仕組みに

 さらに上述のとおり、「医師不足地域にある医療機関で一定期間勤務した医師」を、厚生労働大臣が認定する制度(認定医師制度)を創設。この認定に医師がメリットを感じられるように、(a)認定医師であることを広告可能事項に追加(b)医師派遣を支える医療機関等に経済的インセンティブを付与(c)一定の医療機関の管理者として認定医師を評価―します。

 (b)の経済的インセンティブとしては、税制優遇や補助金のほか、「診療報酬による対応」も検討します。このインセンティブの対象は、例えば「医師派遣要請に応じて医師を送り出す医療機関」や「認定医師によって質の高いプライマリ・ケア等を提供する医療機関」です。

 とりわけ地域医療支援病院には、「医師派遣機能」だけでなく、上述した「環境整備機能」(医師に対するプライマリ・ケアの研修・指導体制の確保など)を果たすことを条件に、経済的インセンティブが付与されます。

 この点、医師需給分科会の神野正博構成員(全日本病院協会副会長)は、「地域医療支援病院ではないが、医師派遣・環境整備機能を持つ病院も、それなりに評価してはどうか」と指摘。経済的インセンティブの対象を、地域医療支援病院に限るべきではないと強調しています。

 一方で、(c)の管理者としての評価は、「地域医療支援病院のうち、医師派遣・環境整備機能を有する病院」に限り導入します。具体的には、「認定医師であること」や「マネジメント能力を身に付けるための研修を受講したこと」などを、管理者(院長)の要件に据えます。

 「認定医師であること」を管理者要件に据える施策には、「院長を目指す医師が、認定医師になることにメリットを感じられるようにする」ほかに、「病院が持つ医師派遣機能や環境整備機能を、適切に機能させる」狙いがあります。認定医師であれば、「医師不足地域に派遣する医師に対して、病院からどのような支援を行うべきか」が、経験的に分かると考えられるためです。

認定受けるための期間や勤務地は「医師不足の度合い」を可視化しつつ検討

 認定医師となるには、「どのような医療機関」で「どの程度の期間」勤務すればよいのでしょう。今回の「第2次中間取りまとめ」では、この認定基準についても整理されています。

 まず、対象とする医療機関は都道府県知事が指定します。その際、「地域ごとの医師不足の度合い」が適切に判断できなければいけません。このため、患者の流出入状況や医師数、将来推計人口などを織り込んだ指標を国が示し、それを踏まえて都道府県が、全国的に見て医師不足の地域を「医師少数区域」に設定します。認定医師になるための勤務経験を積める医療機関は、この「医師少数区域」にある医療機関の中から都道府県知事が指定します。

 また、認定を受けるための勤務期間は、上述した指標を設定する段階で検討します。この指標を基に、深刻な医師偏在を解消するために必要な医師の総勤務時間を算出し、「認定医師になりたい医師」が1人当たり何日間働けばよいか設定するイメージです。

 ちなみに、認定医師制度が施行された後に臨床研修を開始した医師に対しては、「医師派遣機能などを持つ地域医療支援病院」の管理者を務める場合であっても、「認定医師であること」は求められません。したがって、実際に地域医療支援病院の管理者に「認定医師」であることが求められるまでには時間がかかると考えられます。

 医師需給分科会の構成員からは、診療所などの管理者の基準にも「認定医師であること」を据えるべきだという主張が聞かれています。今回の取りまとめでは、まず「医師派遣機能等を持つ地域医療支援病院」に限って導入することになりましたが、対策を講じても医師偏在が解消されない場合、「認定医師であること」を管理者要件とする医療機関が拡大される可能性もあります。

医師養成過程を通じて、医師定着を促す仕組みに

 (2)の「医師養成過程を通じた地域定着の推進」は、次のような傾向を踏まえて対策を講じられるように、都道府県の権限を強めるものです。

【1】地域枠の入学者と、地域枠以外の地元出身者(大学と出身地が同じ都道府県)は、臨床研修修了後に出身地で勤務する割合が高い(地域枠80%、地元出身者78%)

地元出身医師の定着率は、地域枠医師と同じくらい高い
地元出身医師の定着率は、地域枠医師と同じくらい高い
【2】出身地の大学に進学し、出身地で臨床研修を行った場合、臨床研修終了後に出身地で勤務する割合が最も高い(90%)。出身地以外の大学に進学した場合であっても、臨床研修を出身地で実施した場合、臨床研修修了後に出身地の都道府県で勤務する割合が高い(79%)
大学が出身地と別でも、卒業後、出身地の病院で臨床研修を受けた医師は、8割近く定着している
大学が出身地と別でも、卒業後、出身地の病院で臨床研修を受けた医師は、8割近く定着している
 まず【1】のデータからは、地域枠や地元出身者枠を設けると、医師の定着率が高くなると考えられます。そこで都道府県が、医学部を持つ大学に対して、地元出身者を対象とする入学枠を設定するよう要請できる制度を設けます。この点、「大学側が、要請を無視する懸念がある」ことから、医療従事者の需給に関する検討会の荒井正吾構成員(奈良県知事)や山口育子構成員(認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長)は、大学側への対応の義務付けも検討すべきだと主張しています。

 また【2】からは、大学医学部を卒業した研修医が、初期研修を出身地で受けると、定着率が高くなると考えられます。そこで、研修医と臨床研修病院とのマッチングについて、地域枠などの研修医は別枠で選考することも可能にし、「研修医が出身地での研修を希望したが、選考の結果、別の地域にある臨床研修病院で研修を受ける」ことを防ぎます。

 さらに、臨床研修病院の指定・定員設定権限を、都道府県に移管します。研修の質を担保するために、指定基準は国が引き続き定めますが、都道府県が把握している「地域の病院の実情」を踏まえて、研修医にとって魅力的な研修プログラムを用意しやすくします。

 また、都道府県の医療計画の中で、3か年の「医師確保計画」を策定する仕組みを創設します。「医師確保計画」は、(I)二次医療圏ごとの医師配置状況や人口などを踏まえた「都道府県内における医師の確保方針」(II)(I)の方針に基づいて設定する、計画期間中に「都道府県内において確保すべき医師数の目標」(III)(II)の目標の達成に向けた「施策内容」―で構成され、「施策内容」は例えば、「医師少数区域」への医師派遣や、「医師養成過程を通じた地域定着策」を指します。

 都道府県では現在、「地域医療対策」としても医師確保対策を定めていますが、「医師確保計画」の中に組み込みます。また、「医師確保計画」で定めた対策の具体化に向けた協議は「地域医療対策協議会」で行うことを原則とし、「へき地医療支援機構」や「専門医協議会」などは廃止する、あるいは「地域医療対策協議会」の下部組織にすることが求められます。

 これらの対策に対して、医療従事者の需給に関する検討会の相澤孝夫構成員(日本病院会会長)からは、「議論が不十分。このままスタートすると、地域の病院が大変になる」といった慎重意見もありましたが、医療従事者の需給に関する検討会の森田朗座長(津田塾大学総合政策学部教授)と医師需給分科会の片峰茂座長(長崎大学前学長)に一任する形で、大筋で了承されています。

 

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