医師偏在是正の本格論議開始、自由開業制への制限を求める声も―医師需給分科会



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 医師偏在を是正するため、無床診療所を開業する場合にも「入院医療と同様に、地域の医療審議会の許可を要件とする」仕組みを導入してはどうか。ただし、一足飛びに開業制限を設けるのではなく、地域に必要な無床診療所数などの情報を提示し、医師自身で開業の是非を考える機会を設ける仕組みを導入してはどうか―。

13日に開催された医療従事者の需給に関する検討会「医師需給分科会」では、こういった議論が行われました。ほかにも▼都道府県主体の医師確保対策▼医師養成過程の見直しによる医師確保対策―などの論点が示され、年内に「偏在対策」に関する意見を取りまとめる考えです。

9月13日に開催された、「第11回 医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会」
9月13日に開催された、「第11回 医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会」

ビジョン検討会の意見踏まえて、実効性ある医師偏在対策を策定

医師需給分科会(以下、分科会)では、名称どおり「将来の医師需給」についてエビデンスに基づいて推計し、将来どの程度の医師が必要になるのかを検討しています。ただし、その過程で「医師の地域偏在・診療科偏在の是正が急務である」との認識が委員間で一致し、この点も重要検討テーマに据えられました。

昨年(2016年)9月には中間取りまとめが行われ、▼医学部における地域枠の在り方▼医師情報のデータベース化▼地域医療支援センターの機能強化▼チーム医療のさらなる推進―などのほか、「医療機関の管理者要件に医師不足地域での一定期間勤務を盛り込む」「自由開業・自由標榜の見直しを含めた、診療所の開設制限」など、いわば「強制的」な偏在対策を検討していってはどうかという考え方が示されています(14項目の偏在対策案)。

しかし、「医師の働き方」も含めた総合的な検討を行うべきとの塩崎恭久前厚生労働大臣の意向を踏まえ、分科会論議は一時中断、その間、「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」(以下、ビジョン検討会)で偏在対策を含めた働き方ビジョンの議論が行われていました。

今年(2017年)4月にビジョン検討会が意見を取りまとめたことを受け、6月に分科会が再開。「すぐに実施可能な偏在対策」をまとめるとともに、9月から「法改正も視野に入れた実効性のある偏在対策」の検討を行うこととなったのです(関連記事はこちら)。

無床診療所の新規開業、規制的に制限すべきか、自主的な調整に委ねるべきか

9月13日に開催された分科会では、厚生労働省から実効性ある偏在対策の策定に向けて(1)都道府県主体の実効的な対策(2)外来医療提供体制の在り方(3)医師養成過程と偏在対策―という大きく3つの論点が提示されました。

このうち(2)について厚労省から、「基準病床数」制度に関する資料が提示されたため、分科会では「自由開業制をどう考えるか」という議論が行われました。

都道府県の定める医療計画では、地域の事実上の病床数上限となる「基準病床数」が定められます。医療機関が基準病床数を超過するベッド整備を行おうと考えた場合には、都道府県医療審議会の意見を踏まえて、都道府県知事は開設許可を与えないことが可能です。この点を踏まえて神野正博委員(全日本病院協会副会長)は、「無床診療所も入院医療と同じではないか。『地域に無床診療所が多い』と判断された場合に、新規開業の無床診療所を保険医療機関として指定しないという仕組みもあり得るだろう」との見解を披露。無床診療所の開設に厳しい制限を設けてはどうかという、かなり踏み込んだ指摘です。

基準病床数制度、超過分のベッド整備について、都道府県知事は開設許可を与えないことなどが可能で、事実上の「病床上限」として機能している
基準病床数制度、超過分のベッド整備について、都道府県知事は開設許可を与えないことなどが可能で、事実上の「病床上限」として機能している
 
これに対し、今村聡委員(日本医師会副会長)は、「この地域には患者がどの程度おり、高齢化がこの程度進んでいるので、無床診療所はどの程度必要になるか」というデータを公表する、というステップをまず踏むべきと強調。一足飛びに開業制限をするのではなく、まず医師側の自主的な調整を進めるべきとの見解と言えます。

いわば両極の意見と見ることができますが、厚労省医政局地域医療計画課の担当者は、こうした「自由開業の制限」方策を今後の論点に据えるかどうかについて明らかにしていません。前述のとおり、自由開業の制限などは分科会の中間とりまとめにこそ盛り込まれてはいるものの、ビジョン検討会が「個々の医師の能動的・主体的な意向を重視する」「モチベーションを引き出す方策を講じる」「規制的手段に依存すべきではない」との見解をまとめているためです(関連記事はこちら)。

このほかにも、病院団体が提唱する「医療機関の管理者要件として、一定期間の医師不足地域での勤務実績を盛り込む」という手法も、ビジョン検討会では「規制的手段」に位置付けており、分科会で真正面から議論されるか否かは不透明です(関連記事はこちら)。

都道府県が「地域の医師の多寡」を判断できるような【指標】を設定

 また(1)の「都道府県主体の実効的な対策」では、厚労省から次の2つの論点が提示されています。

▼「医師の多寡を把握できる指標」を導入し、都道府県自らが地域の状況を把握し、実効性のある医師確保対策を自らとれる(例えば医師養成に積極的に関与するなど)ようにしてはどうか

▼都道府県における医師確保対策を強化するため、管内の医療機関が主体的に役割分担・協議する体制を構築するとともに、各種ある医療提供体制に関する協議会について実効性を持たせる

 前者では、「人口10万人当たり医師数」といった乱暴な指標ではなく、より精緻に「地域における医師の多寡」を把握できる指標の開発を目指すもので、現在、厚労省内で研究が進められています。この指標が策定され、全国で用いられるようになれば、「隣接地域や全国平均と比べて、自地域にどれだけの医師が足らないのか」といった定量的な把握を都道府県が自ら行えると期待されます。これを出発点に、○科の医師が何名足らないので、専門医の養成枠について学会と調整しよう、などといったアクションに結びつけることも可能になるでしょう。

ここで、例えば外科医については、患者調査などから地域の症例数を推測し、ここに外保連指数で示されている必要医師数を組み合わせることなどで、相対的な「必要医師数」を導くことができそうですが、内科系では難しそうです。委員からは「距離」を勘案すべきと言った指摘もあり、どのような指標が設定されるのか注目されます。

なお山口育子委員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)や新井一委員(全国医学部長病院長会議会長)、今村委員らは、「都道府県の担当者には力量の差が大きい」という点を指摘。厚労省による強力なサポートや、思い切った権限移譲などを検討してはどうかと提案しています。

医師が多いのか少ないのか、定量的に判断できる「指標」の開発を厚労省が進めている
医師が多いのか少ないのか、定量的に判断できる「指標」の開発を厚労省が進めている

 
一方、後者では、多くの委員から「医療提供体制に関する地域の協議会が多すぎる。一本化してはどうか」との意見が出されました。ただし、一本化しても稼働が担保される保証はないため、都道府県の状況に応じて「協議会が実効性を持つ」ような仕組みを工夫していくことになります。

都道府県に設置が求められている、各種の医療提供体制に関する協議会について、「実効性」を持たせる工夫が必要となる
都道府県に設置が求められている、各種の医療提供体制に関する協議会について、「実効性」を持たせる工夫が必要となる
 
現在、法定の「地域医療対策協議会」、専門医養成のプログラムをチェックする「都道府県協議会」、地域医療構想の実現に向けた「地域医療構想調整会議」などがありますが、法定の地域医療対策協議会ですら、7自治体では5年間に一度も開催されていないという実態があります。開催のハードルとなっている要素は都道府県によって異なると考えられ、地域ごとに「協議会が動く」ような柔軟な仕掛けが期待されます。
都道府県に設置が求められている、各種の協議会
都道府県に設置が求められている、各種の協議会
法定の地域医療対策協議会であっても、7つの県では、ここ5年間で1度も開催されていない
法定の地域医療対策協議会であっても、7つの県では、ここ5年間で1度も開催されていない

医学部地域枠の在り方や臨床研修医の募集定員なども検討テーマに

(3)では、▼医学部地域枠の工夫▼臨床研修指定病院の指定・定員設定(都道府県の関与強化と、募集定員の圧縮など)▼新専門医制度における工夫(診療科ごとの専門医需要の明確化と、自治体関与の法制化など)―という論点が示されました。

医学部地域枠については、前述した「すぐに実施可能な偏在対策」の中でも触れられており(原則として地元出身者に限定するなど)、より実効性のある工夫を検討していくことになります(関連記事はこちら)。

地域枠には、医師確保に大きな効果があり、より強力な仕組みとする必要がある
地域枠には、医師確保に大きな効果があり、より強力な仕組みとする必要がある
 
また初期臨床研修を行った地域に定着する医師が多いことから、募集定員の圧縮を更に進めて地方へ研修医を誘導するなどの方策も検討することになるでしょう(都市部の募集定員が小さくなれば、超過した希望者は地方部へ行かざるを得なくなる)。
都道府県における臨床研修医の募集定員を圧縮することで、都市部への偏在を解消できると期待される
都道府県における臨床研修医の募集定員を圧縮することで、都市部への偏在を解消できると期待される
専門医制度において、「診療科ごとの専門医の需要」を明確化することなどで、地域偏在対策が一歩進むことになる
専門医制度において、「診療科ごとの専門医の需要」を明確化することなどで、地域偏在対策が一歩進むことになる

 
厚労省医政局医事課の担当者は、9-11月にかけて上記の論点に沿った議論を行い、12月に意見とりまとめを行ってほしいと要請。例えば「協議会の設置根拠をすべて医療法に持たせる」などの意見が示されれば、年明けの通常国会に医療法改正案が提出される可能性もあります。

 

 

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