急性肺血栓塞栓症、臨床症状に注意し早期診断・早期治療で死亡の防止—医療安全調査機構の提言(2)



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 急性肺血栓塞栓症は、「特異的な早期症状がなく突然発症し、死に至る」確率が高い疾患であり、▼早期離床▼積極的な運動▼弾性ストッキングの着用▼間欠的空気圧迫法―などによる予防を入院患者にしっかり説明するとともに、▼原因不明の呼吸困難▼胸痛▼頻脈▼頻呼吸▼血圧低下―などの臨床症状が認められた場合には急性肺血栓塞栓症の可能性を疑い、早期の検査、治療を進める必要がある―。

 日本で唯一の医療事故調査・支援センター(以下、センター)である医療安全調査機構は8月29日、2回目の「医療事故の再発防止に向けた提言」として「急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析」を公表し、このような注意喚起を行いました(機構のサイトはこちら)。

2015年10月以降、急性肺血栓塞栓症に係る死亡事例が8例報告

 予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産」のすべてをセンターに報告することを医療機関管理者に義務付けた「医療事故調査制度」が一昨年(2015年)10月にスタートしました。この制度は「医療事故の再発防止」を目的としたもので、事故事例を集積していく中で「具体的な再発防止策などを練る」ことがセンターの重要な役割の1つに位置付けられています(関連記事はこちらこちらこちら)。センターは、今般、急性肺血栓塞栓症に係る死亡事例の分析を行い、2回目の医療事故再発防止策(1回目は中心静脈穿刺合併症)として提言を行ったものです。

 急性肺血栓塞栓症は、下肢や骨盤などの深部静脈に生じた血栓が肺動脈を閉塞し、急性の肺循環障害を生じさせる病態です。「特異的な早期症状がなく突然発症し、死に至る」経過をたどる確率が高い疾患で、一般には「エコノミークラス症候群」としてよく知られています。研究によれば、我が国では、1996年から2011年にかけて患者数が4.6倍に増加し、2011年には「100万人当たり126人で発症する」との報告があります。

 こうした状況を踏まえ「ガイドラインの作成」「診療報酬での評価(B001-6【肺血栓塞栓症予防管理料】」などの対策が行われていますが、これまでにセンターに報告された330件の医療事故のうち、8事例が「急性肺血栓塞栓症に係る死亡事例」となっており、以前から同様事例が繰り返し発生していること、死亡に至る重大事例であることに鑑み、今回の提言として取り上げられたものです。
 
センターでは、▼入院患者の多くがハイリスク群に該当する▼初期症状は胸痛や頻呼吸など一般的なもので診断が困難である▼発生から死亡までの進行が急速である—ことなどから、「予防や早期診断が困難で、結果的に予期せぬ死亡につながっている」と分析。報告事例を詳細に解析し、次の6つの提言を行っています。

(1)入院患者の急性肺血栓塞栓症の発症リスクを把握し、「急性肺血栓塞栓症は『急激に発症』し、生命を左右する疾患で、特異的な早期症状に乏しく『早期診断が難しい』疾患である」ことを常に認識する【リスク把握と疾患の認識】

(2)医療従事者と患者がリスクを共有する。患者が主体的に予防法を実施できるよう、また急性肺血栓塞栓症、深部静脈血栓症を疑う症状が出現したときには医療従事者へ伝えるよう、指導する【患者参加による予防】

(3)急性肺血栓塞栓症の塞栓源の多くは下肢、骨盤内静脈の血栓である。深部静脈血栓症の臨床症状が疑われた場合、下肢静脈エコーなどを実施し、血栓を確認する【深部静脈血栓症の把握】

(4)明らかな▼原因不明の呼吸困難▼胸痛▼頻脈▼頻呼吸▼血圧低下―などを認めた場合、急性肺血栓塞栓症の可能性を疑い、造影CTなどの実施を検討し早期診断につなげる【早期発見・早期診断】

(5)急性肺血栓塞栓症が強く疑われる状況、あるいは診断が確定した場合、直ちに抗凝固療法(ヘパリン単回静脈内投与)を検討する【初期治療】

(6)急性肺血栓塞栓症の▼リスク評価▼予防▼診断▼治療―に関して、「医療安全の一環」として院内で相談できる組織(担当チーム・担当者)を整備する。必要があれば院外への相談や転院などができるような連携体制を構築する【院内体制の整備】

 
 このうち(1)では、急性肺血栓塞栓症が、▼血流停滞(長期臥床、肥満、全身麻酔、下肢麻痺、下肢ギプス包帯固定など)▼血管内皮障害(手術、外傷、骨折、中心静脈カテーテル留置などによる静脈損傷など)▼血液凝固能亢進(悪性腫瘍、妊娠、手術、外傷、経口避妊薬、エストロゲン製剤などの薬物、感染症など)―の危険因子が重なって発症することを説明。年齢や手術領域などから4つのリスクレベルを設定し、臨床現場に注意を促しています。

急性肺血栓塞栓症のリスク分類
急性肺血栓塞栓症のリスク分類
 
 また(2)では、理学的予防法として、▼早期離床▼積極的な運動(例えば足間接の底背屈運動など)▼弾性ストッキングの着用▼間欠的空気圧迫法―などを例示(ヘパリンなどの薬物的予防法も必要に応じて併用)。さらに患者に十分な説明を行い、ベッドサイドに運動を促すイラスト掲示なども推奨しています。
ベッドサイドに運動を促すイラストを掲示するだけでも、急性肺血栓塞栓症の予防につながる
ベッドサイドに運動を促すイラストを掲示するだけでも、急性肺血栓塞栓症の予防につながる
 
 また(3)では深部静脈血栓症を早期に発見するために、▼下肢全体の腫脹▼下肢周径の左右差▼下肢深部静脈に沿った大腿、膝窩、下腿の疼痛や発赤―といった臨床症状に注意するとともに、下肢静脈エコー、下肢造影CTなどの検査を行い、必要に応じて治療を開始することの重要性を強調しました。

 さらに(4)の早期診断では、造影CTによる血栓発見で確定診断となるが、▼心エコー▼Dダイマー▼心電図(陰性T波、洞性頻脈などが出現することもある)―なども適切に組み合わせることが重要とアドバイス。診断に迷った場合には「循環器内科」などの専門診療科へ相談することも促しています。

  

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